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「CALIVERSE」メタバースコマースの可能性、ロッテグループが仕掛けるハイパーリアルな空間

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ロッテイノベート(旧ロッテ情報通信)は、子会社のテック企業カリバースと共同開発したメタバースプラットフォーム「CALIVERSE」(以下社名をカリバース、サービス名をCALIVERSEと表記)をCES2024で公開。従来のメタバースのイメージを刷新する完成度や想定サービスの数々は、来場者から多大な注目と関心を集めた。今後は、コマースのみならず、エンタメ、教育など多様な用途での活用が見込まれている。今、最も注目されているメタバースプラットフォームといってもよいCALIVERSEの詳細についてレポートする。



メタバース空間実現のための技術を多数保有するカリバース社

ロッテイノベートは、韓国国内外で多角的に事業を展開する財閥系企業ロッテグループ傘下のIT企業だ。もともと同社は、グループ内のシステム保守、POS供給などを担当していたが、各子会社の統合や外部企業の買収・合併を経て、総合IT企業に成長。2024年3月21日にロッテ情報通信から社名変更を実施し現在にいたっている。

CES2024のCALIVERSE展示ブース
出典:ロッテイノベート公式サイト

ロッテイノベートの事業ポートフォリオは、DX支援、AI&ビッグデータ、セキュリティ、デジタルヘルスケア、スマートシティ、クラウドなど多岐にわたる。なかでも同社が他社との差別化を図るため積極的に投資しているのがメタバース分野だ。ロッテグループは韓国で小売大手の一角を占める。ロッテイノベートを中心にデジタルコマース領域を意欲的に開拓し、グループ全体のシナジーを図ることを目指しており、メタバース領域で技術的な優位性を確保するために買収したのがカリバースだった。

カリバースの前身は2017年に設立されたTWOTOKKIという企業だ。同社は2018年に長編VRインタラクティブドラマ「HANABI」を日本で発表したことで有名となった。元AKB48メンバーの永尾まりや氏らが出演した同作品は当時、VRの技術的な課題を克服した作品として国内外メディアから広く関心を集めた。

VRインタラクティブドラマ「HANABI」
出典:合同会社DMM.comプレスリリース

TWOTOKKIは、独自開発したイメージエンハンスメント技術(白黒の境目をなめらかにして疑似的に解像度を高める機能)や、視聴者のタッチや視線、声に対してVRデバイス内の人物や事象をリアルに反応させるディープインタラクティブ技術、実写とグラフィックを違和感なく統合するVR合成技術、超高画質映像品質の容量を抑える圧縮運用技術など、メタバースプラットフォームを構築するうえで欠かせない技術を多数保持していた。

ロッテイノベート(当時はロッテ情報通信)はその源泉技術に着目し、2021年7月にTWOTOKKIの買収を実施。社名をカリバースに変更し傘下子会社とした。2024年3月現在、ロッテイノベートはカリバースの株式を100%保有するにいたっている。

ハイパーリアルなデジタル世界を構築するCALIVERSE

ロッテイノベート CEO コ・ドゥヨン(Ko Doo-young)氏は、CALIVERSEの開発を進める理由について「仮想世界で、(ユーザーが)アバターを使って製品を購買できる新しいコマースプラットフォームをつくるため」とし、将来的には、「ロッテグループがオフラインで提供しているすべてのサービスを、仮想世界につなげることが目標だ」と意欲を語っている。

CALIVERSEのティザー動画

CALIVERSEの特徴は、まず何よりもそのビジュアルの精巧さだ。世界やキャラクターがリアルかつ写実的に再現されており、近未来を旅するかのような没入感をデジタル世界で体験することができる。

ユーザーは身長、体型、目の大きさ、眉間、表情など細部までカスタマイズしたアバターをつくり、デジタル空間を自由に歩き回ることができる。リアルタイムレンダリング技術によって、光源や色の変化など、現実世界を実際に動き回っているような動作環境がCALIVERSE内で再現される。空間についても、単にロッテショッピングのデジタル店舗にとどまらず街全体が再現され、アバターはショッピングに出かける道中もさまざまなエンタテインメントを楽しめる、あるいは、自分もいつでも発信者になれるという設計だ。

CALIVERSEのアバター作成画面
出典:CALIVERSE公式サイト

カリバース CEO キム・ドンギュ(Kim Dong-Kyu)氏は、韓国メディアの取材に対し、精巧な世界を構築したそのこだわりについて次のように語っている。

「ほとんどのメタバースサービスやゲームにおいて、ユーザーがキャラクターを作成する段階では(顔やボディのパーツなど)ディテールが表現されている。しかし、実際にログインした際、粗雑に見えるケースが多い。CALIVERSEは妥協せずに精巧に(世界やキャラクターを)再現できるよう努力した。(たとえば)より多様な衣類製品を購買できるようにするため、服もダブルレイヤーで開発した。Tシャツの上にコートを羽織ることができる」

引用:DealSite

CES2024の会場にてロクシタンとコラボレーションしたデモンストレーション

CALIVERSEがリアルな世界やキャラクターの構築に力を注いだ理由は、コマースプラットフォームとしてショッピング体験をできるだけリアルなものに近づけ、買い物をしやすくするためだという。たとえば、CALIVERSE内で、現実世界で着る服を購入する場合、ユーザーは本人の体型にフィットするかを知る必要がある。そのためには、商品そのものや、仮想現実世界における自分、すなわちアバターも精巧に“コピー”しなければならないというのが両社の考えだ。とはいえ、前述したように、ユーザーは精巧に「なりたいアバター」をつくることが可能だ。自分自身のそっくりなアバターを実現するだけでなく、将来なりたい自分、友人やパートナーなど家族に似たアバターをつくり代わりに買い物をするといった使い方も想定していると思われる。

CALIVERSEにつくられたMCMのブランドショップ
出典:AI타임스

CALIVERSEにはライブメタバースストリーミングという機能も実装されており、実在する人物の姿を仮想空間に取り込み、ユーザーとのリアルタイムコミュニケーションを実現する。用途としては、仮想空間におけるショッピングの際の店舗スタッフ、コンサートやファンミーティングに登場する実在のミュージシャンやアイドル、学校での講義、就活や転職の面談などさまざまな用途が見込まれている。

グリーンバックでライブをすることで(下)、臨場感ある配信が可能(上)。CES2024のCALIVERSEブースで編集部撮影

ロッテイノベートはCALIVERSEの先行体験ユーザー5,000人を集め、NFT(CALIVERSEで使用できる暗号資産)の配布を完了。テストや試用を経て、2024年夏以降に世界同時ローンチを予告している。まだ確定情報はないものの、日本でもローンチ後に自由に使えるようになる可能性が高い。また、ヘッドマウントディスプレイ、3Dモニター、PC、モバイルのいずれからでも接続が可能となる見通しである。

ロッテイノベートとカリバースは、より多くのユーザーを集めるためにいくつかの戦略を用意しているという。大別すると、ゲーム感覚で楽しめるクエストや多様なイベントのほか、ユーザー同士のコミュニケーションを促進する機能、アバターや住居などUGC(ユーザー生成コンテンツ)が作れる機能、そして生成AIの活用だ。生成AIはNPC(ノンプレイヤーキャラクター)や、AI接客員、AI同時通訳などに使用され、ユーザーは24時間いつでも会話やショッピングが楽しめるようになるという。たとえば、ユーザーの趣味・嗜好や購買履歴を把握したうえで人間と限りなく同じようにふるまうNPCによる接客など、既存のECサイトでは実現できなかったショッピング体験の変化も予想できる。

CALIVERSEはすでにコリアセブン、ロッテハイマート、ロッテ免税店など、ロッテグループ系列各社と連動の動きが始まっており、ビューティブランドとしては「ジバンシィ」「MAKE UP FOR EVER」「MCM」「ロクシタン」などが参加している。

CES2024のCALIVERSE展示でコラボしたブランド(編集部撮影)

2024年1月以降には、世界最大規模のEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)イベント「Tomorrowland」の開催や、日本のXR・メタバース領域のプレイヤーであるコロプラとのパートナーシップ提携を発表している。モノを売るメーカーやブランドだけでなく、エンタメやイベントなど“コト”を扱う企業、またWeb3領域のプレイヤーなど、多様な企業との提携が今後も増えていくと予想される。

本格的なメタバースコマースで、既存チャネルとは異なる新しい購買体験も

現在、メタバース関連のサービスが世界で続々と登場しているが、その多くはゲームやライブ配信、ウェビナー、ネット不動産などデジタルコンテンツの消費・売買、あるいはユーザー同士のコミュニケーションとショッピングなど、それぞれの領域にある程度特化することに主眼が置かれている。CALIVERSEの登場は、現実世界でできることを、仮想世界でリアルに実現しつつ、そこが生活空間であるかのようにひとつの街や文化を形作ることに等しいといえる。

とはいえ、現在のところ、メタバース空間は視覚や聴覚はリアルと遜色なく満たせても、嗅覚や触覚についてはまだ技術的に難しいこともあり、その意味ではリアル店舗が有力な販売チャネルであり続けることは確実だ。しかし、CALIVERSEの登場によって、オンライン体験が限りなくオフラインに近づくのか、あるいは既存のオンライン/オフラインのどちらとも異なる、もしくは重なる、第三の新しいショッピング体験が確立するのかは、注視していく必要があるだろう。

Text: 河鐘基(Jonggi HA)、BeautyTech.jp編集部
Top image: BeautyTech.jp編集部撮影

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