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東大発アルガルバイオ、100種の藻類からサステナブルかつ高生産効率、多様な化粧品成分を提案

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代替燃料や食品、そして化粧品原料としても注目を集める藻類。日本では微細藻類のミドリムシを活用した株式会社ユーグレナがその第一人者だ。一方で、世界で約30万種存在するといわれる藻類のなかで、商用利用されているのはまだ30種程度とされ、今後の研究が期待されている。株式会社アルガルバイオは、独自の藻類ライブラリーを持ち、多様な藻類の活用をマーケットイン型で提案する。事業開発グループ レッド・グリーンバイオチーム(健康・食糧)チームリーダー 小田康太郎氏に、美容業界での藻類活用の可能性について話を聞いた。


国内外で広がる需要、ヴィーガンコスメの原料にも

東京大学における20年以上の研究成果をもとに創業された藻類バイオテックベンチャーの株式会社アルガルバイオは、藻類から、健康・美容領域に活用できる素材の開発、およびそれらを用いた商品開発を行っている。中長期的には、バイオ素材やエネルギー分野にも展開し、石油・ガスに代わる資源として藻類の生産・回収・抽出・加工・流通・販売というサプライチェーンを構築することで、石油に頼らない、太陽光をエネルギーとする社会の実現を目指している。そのミッションは「藻類の研究開発で、人々と地球の未来に貢献する」だ。

アルガルバイオは現在、化学品メーカーからの依頼で、化粧品に使われることを想定したある目的成分を現状の300%の生産効率で生成するための藻類株の選抜・育種と独自の培養製法開発を行っている。株式会社アルガルバイオ 事業開発グループ レッド・グリーンバイオチーム(健康・食糧)チームリーダー 小田康太郎氏は、近年、海外の化粧品では、藻類由来成分が配合される事例が増えてきていると話す。

グローバルの潮流として、ロレアルが2030年に向けたサステナビリティ・コミットメント「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」のなかで、2030年までにロレアルの処方に使用する成分の95%を、バイオ由来、枯渇のおそれのないミネラル、または循環型プロセスから得られるものに切り替えると宣言。このような動きが契機となり、化粧品業界全体として、使用成分の脱石油化と植物由来化、アップサイクル原料の利用が急速に広がっている背景がある。

「藻類からは、実は多様な化粧品原料を作り出すことができる。同じ藻類でも、光の当て方やストレスの与え方など環境を変えることで、さまざまな種類の機能性成分の抽出が可能だ。たとえば、同じクロレラでも、株や培養条件により色の違いを出すことができる(下の画像)。これは、クロレラ類がカロテノイドなどの色素成分を生産して体内にため込むためで、抽出工程を経ることなく植物由来の天然着色成分やカラーコスメの原材料として使用することができる。香気成分を含む藻類もあり、石油由来の香料の置き換えとして利用する可能性も考えられる」(小田氏)

培養条件により多様な色彩を放つクロレラ

化粧品成分のベースとなる油性成分、水性成分、界面活性剤、また有効成分など、さまざまな原料を藻類由来に置き換えることができると考えられている。しかし、「コスト、生産性、安全性の面ではまだ黎明期にあるため、まずは有効成分からスタートするのがよいと考えている」と小田氏。海外では、藻類からレチノール代替原料を生成する研究なども進められており、培養技術の進化とともに、今後、藻類から数多くの機能性成分を高い生産性をもって生み出すことが可能になると予想される。

ラストフロンティアの藻類市場、マーケットイン型でソリューションを提供

藻類の可能性について、小田氏は次のように話す。「自然界には約30万種の藻類が存在するといわれているが、実際に産業利用されているのは30種程度。藻類市場は、ラストフロンティアというべき開拓の可能性を秘めた領域だ。アルガルバイオは、藻類の無限の可能性に着目し、さまざまな産業に最適化したパッケージを提供する藻類プラットフォームを構築して藻類の産業化を進めている」(小田氏)

藻類を扱う多くの企業が、クロレラやスピルリナといった単一特定の藻類株を用いて用途開発を進めるプロダクトアウト型が主流となっている一方、アルガルバイオは、自社や共同研究をベースに100種1,260株の藻類ライブラリーを活用し、クライアントのニーズに対応した最適な藻類を選んで製品開発ができるというマーケットイン型(企業やユーザーニーズからの開発)でソリューションを提供する。

株式会社アルガルバイオ 事業開発グループ
レッド・グリーンバイオチーム(健康・食糧)チームリーダー
小田康太郎氏

プロフィール/東京医科歯科大学大学院 修士課程修了後、株式会社資生堂に入社。基礎研究、R&D戦略、研究企画に携わる。横浜みなとみらいの新研究所の立ち上げを経て、スタートアップとのオープンイノベーションや外部技術導入を推進し、研究シーズ発のクラウドファンディングにも取り組む。2024年よりアルガルバイオに参画し、健康・食糧領域の事業開発をリードする

2024年11月現在、51名いる社員の約70%が微細藻類に精通した専門人材で、なかには目視で藻類の分類ができるほどの人材もいるという。これまでの累計プロジェクト数は55で、2023年は28のプロジェクトを遂行しており、その約70%がCO₂の回収・貯留・有効利用のCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)や排水浄化などの環境領域だったが、食品やサプリ、化粧品原料としての活用について興味をもつ企業が増えてきているとする。

創業以来、プロジェクト数は右肩上がりで増加している

Moneruなど藻類の可能性を伝えるための自社ブランド開発

こうした藻類のさまざまな可能性を伝えるために、アルガルバイオでは自社商品の開発も行っている。

1つめが、多種多様な藻類のなかから「良質な休息」に特化したクロレラ株「AL-0015株」を選抜して配合した藻類サプリメント「Moneru(モネル)」だ。2023年1月に米国ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES」 では、優れたデザインとエンジニアリングを表彰するInnovation Awards(革新賞)をFood & Ag Tech(食品&アグリテック)部門で受賞した。

良質な休息に着目した藻類サプリメント「Moneru(タブレットタイプ)」

クロレラAL-0015株が含む成分の研究も進んでおり、スッキリした朝の時間を求める女性の愛用者が増えていることから、フェムテック文脈での活用も検討されているという。現在は、自社ECサイトとクリニックを中心に販売されており、より飲みやすくしたタブレットタイプも販売されている。

また、CES 2024では、藻類が持つうま味を活用した健康的な調味料「algaly(アルガリー)」を発表。海藻由来のうま味成分は、昆布から発見されたグルタミン酸と呼ばれるアミノ酸がよく知られているが、藻類からもうま味に関わるアミノ酸を作りだすことができる。アルガルバイオでは、藻類の粉末原料を混ぜて発酵させるプロセスをとっており、味にコクが出ることから塩分を減らしても、減らす前と同等の塩味が感じられるといい、減塩調味料としての活用が検討されている。

algalyを使ったドレッシング

「クロレラやスピルリナ以外にも機能性の高い藻類があることを知っていただくためにも、クライアントのニーズに合わせた研究開発と、自社商品の開発・販売を両輪で回しながら、藻類の可能性を多くの方に理解し感じてもらいたい」(小田氏)

藻類に特化した外部研究機関としてライセンス販売を強化

藻類は、これまでは屋外で培養されることが多く、広大な土地が必要だったが、近年は技術革新により、屋内工場での生産方法が確立されてきた。前述の小田氏のコメントのように、同じ藻類株であっても培養条件を変えることで異なる機能性成分を生産することが可能なので、アルガルバイオのもつ藻類ライブラリーと各株に適した培養方法のノウハウで、効率的に機能性成分の生産ができるとする。

工場内に設置されたチューブ式フォトバイオリアクター

同社は神奈川県横浜市に大規模培養施設をもち、5,000リットルの大きなバイオリアクターを設置し培養しているほか、広島県にも培養拠点を設け、火力発電所から排出されるCO₂を引き込んで藻類を培養し、有用化学品成分を生産する実証実験も進めている。

アルガルバイオの今後の成長戦略について小田氏は、「農業でいう種苗メーカーのような形をとりたい」と話す。独自の藻類株を使った特定の機能性成分の生産プロセスをライセンス方式でメーカーやブランドに直接販売するほか、要望があった場合には、OEM企業やサプライヤーと連携して、原料として納品することも可能だ。また、藻類にはその土地ごとの種や株があり、地産地消で藻類を活用し、ブランドコンセプトにマッチするストーリーをつくることも可能だ。

「我々のビジネスは、クライアント企業の課題やニーズが起点になる。たとえば、藻類でこんな成分を作れないか?というアイディアの段階でも構わないので、気軽に相談してほしい。藻類産業はまだこれからの産業であり、産業のすそ野をパートナー企業とともに広げたい。企業にとって頼りになる、”藻類に特化した外部研究機関“という位置づけになっていきたいと考えている」(小田氏)

Text:小野梨奈(Lina Ono)
Top image & photo: 株式会社アルガルバイオ