Takramがサポートするオルビス、KINSなど美容のブランディングと体験デザイン
見出し画像

Takramがサポートするオルビス、KINSなど美容のブランディングと体験デザイン

◆ 9/1よりリニューアルしました。詳細はこちら
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

「デザイン」は決して表面的・部分的なものではなく、経営やブランドの理念、エンジニアリングまで含め、あるべき姿をユーザーにどう伝えるかという連続的なものである。その考え方で企業をサポートをするのがデザイン・イノベーション・ファーム Takramだ。 代表 田川欣哉氏、Takramで美容業界の事例を手がけたデザインエンジニア 緒方壽人氏、アートディレクター 山口幸太郎氏に、その重要性やデザインプロセスについて話を聞いた。

ユーザーは企業やブランドの「よさ」を総体で感じとる

デザイン・イノベーション・ファームTakramは、デザインとエンジニアリング(技術)の架け橋となってプロジェクトを統括する仕事を数多く手がけている。企業の組織分化によって、デザインと技術は相対する関係性に陥りがちで、それがブランディングを妨げる側面もある。が、ユーザーは、その企業やブランドの独自性や優位性を、総体として感じるものであり、技術だけ、デザインだけと部分的にとらえているわけではない。また、デザインと技術との関係性にとどまらず、経営またはプロジェクト理念からユーザー体験までをブランディングととらえてこそ、伝えたいことがぶれずに伝わる。

そういったそれぞれの点をつなげ、かつデザインとして具現化し、企業やブランドの価値を伝えるのがTakramの仕事だ。美容分野では、表参道にあるオルビス初の体験特化型施設「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」と菌ケアブランドとしてサプリや化粧品を提供する「KINS」を手がけている。美容業界の2つの事例を通して、コンセプトからユーザー体験まで、一気通貫したデザインワークがブランディングにとって有用な存在であるかことに触れたい。

「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」における“ここちよさ”をデザイン

東京・表参道の一角に、開放感があるガラス貼りの建物がある。明るい佇まいに、植栽のグリーンがナチュラルな印象を与える。これはオルビス株式会社が2020年7月17日にオープンした「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS(以下、スキンケアラウンジ)」だ。1987年創業の同社がオルビスをリブランディングし、新たに掲げたブランドメッセージが「ここちを美しく。」。このメッセージを体現する体験特化型のスペースである。

自分の肌を知った上で最適な商品を選ぶ「PICK&FEEL」という体験をはじめ、オリジナルデザインのボトルを作ることができる「CREATE BOTTLE」、肌本来の美しさを引き出すトリートメントが受けられる「SKINCARE SALON」や「WORK SHOP」、スキンケアやメイク用品を試せる「POWDER ROOM」、その日の状態や生活リズムに合わせてメニューを選べる「JUICE BAR」など、多彩な体験ができる。

建築家の工藤桃子氏とともにTakramが手がけたのは、このラウンジでの体験ひとつひとつの内容をふくめた設計、内外装を含めた空間、ロゴやサイン計画を含めたグラフィック関連、デジタルサイネージやアプリ、Webサイト、BGMにいたるまで、まさに全体にわたっている。また、2階は約270万のダウンロード数があるORBIS公式アプリ会員のためのフロアで、前述の「SKINCARE SALON」や「WORK SHOP」などがアプリから予約可能で、チェックインも顧客がスマートフォンのアプリをかざすことで完了する。

画像1

SKINCARE LOUNGE BY ORBIS

こういったリアルとネットの世界をシームレスにつなぐことも、ブランドのテーマである美しい“ここち”を深く実感し体験してもらう大きな要素になっている。「ブランドメッセージを表現すべく、“ここちよくある状態が美しさにつながる”を体験できる場ということで、オルビスのチームの方々と場所も決まっていない時期から3年くらいかけて取り組んだ」とプロジェクトを総括したTakram デザインエンジニア 緒方壽人氏は語る。

「 “ここちよい場”とユーザーに感じてもらうには、そしてそれを体験につなげるには、どういうところに配慮すればいいかをまずは考えた」(緒方氏)。店舗設計において行き着いたのは、外界と内側の境界をあまり感じさせないことだった。

たとえば植栽を内外に配する、床材を外と内で大きな乖離がないものにする、自然な木漏れ日を感じさせる照明に配慮するなど、細部にまでこだわった。戸外の開放感と室内の落ち着き、外ののびやかさと中のきちんと感、それらが混ざり合ったここちよさが生まれている。

画像2

SKINCARE LOUNGE BY ORBIS

また、オルビスのスペースであることを知らずに通りかかった人に興味を持ってもらい、立ち寄ってもらうことも課題だった。そのブランドとのタッチポイントをどこに置くかについては「歩いている人にも目につくようJUICE BARを外に向かって開かれているように設け、そこがある意味入口になるよう意図した。ラウンジ内でも奥に商品を配置するレイアウトにし、興味を持ってくれた方に丁寧に接客する動線とした」(緖方氏)。

手前にはオルビスのアイテムも並んではいるが、それぞれの製品のとなりに、3Dプリンタでつくったミニサイズのアクリルパーツが並び、それを透明で有機的なかたちにこだわったトレイにはめこむようにのせて奥で購入する流れになっているなど、各所に“ここちよさ”にもとづいたデザインが細部に行き渡っている。

デザインというと、色や形ととらえる向きもあるがそうではない。リブランディングの意図するところを、空間からグラフィック、プロダクト、サービスまで、コンセプトを具現化してするのにデザインはかかわっている。

D2Cサービスとしてのブランディング全体を行なった「KINS」

一方、「KINS(キンズ)」は、D2Cサービスとしてのブランディングに一気通貫で携わった。コンセプトからネーミング、ロゴやパッケージのデザイン、サイトやECサイトのデザインなど、ブランドとユーザーの接点としてのデザインを包括的に行ったのだ。

画像3

KINSのサプリメント

KINSの特徴は、人間の体に1,000兆いると言われる菌について、「菌ケア」という独自のアプローチによって、美しい肌を導くところにある。「菌と生きれば、身体も生きる。そうして、美しい素肌で毎日を美しく生きていく」というコンセプトのもと、腸内や肌の菌が適切なバランスを保てるよう働きかけることで、本来持っている健やかな肌や体を得られことを提案している。

この独特のコンセプトやブランドを立ち上げるところからかかわったのが、Takram アートディレクター 山口幸太郎氏だ。まずは、ミッション・バリュー・パーソナリティの定義を行って骨子を固めた。その上で「イノベーティブなコンセプトだけに、ブランドに触れてもらう、興味を持ってもらう、使ってもらうといった体験へ導くための道程をどう構築するかを、議論を重ねながら進めていった」と山口氏は語る。

「菌に関する膨大な知見やデータをどう整理し届ければ、ユーザーに関心をもってもらえるのかを考え、ブランド体験に導くためのデザインを行った。機能訴求だけでなく、美しさというエモーショナルなものにつながるコミュニケーションを、ユーザーとの間でどうはかるかにも注力した」(山口氏)。

スクリーンショット 2021-08-18 12.09.11

出典: KINS公式サイト

たとえば「キンズ」というネーミングは、菌を連想させ短くてわかりやすく、しかも品性があることを意図したという。すっきりした骨太のロゴデザインは「S」にひとひねりあることで印象を残す。

パッケージについても、直線と曲線を組み合わせて、定番のかたちを微妙に変化させたことがチャーミングな雰囲気を醸し出した。手に取ったときの収まり具合や質感も含め、美しさや上質さにこだわった。シンプルでありながら簡素過ぎず、美容という、いい意味での色気がある。

コミュニケーション設計については、最初はWebサイトとInstagramで、シンプルなメッセージから始め、少しずつ深さや情報量を広げていくことでKINSの世界観に触れてもらえるよう工夫したという

ブランドの世界観を、デザインの力で可視化することによって、一貫性を生み出すというプロセスは、ブランドとユーザーの間の乖離をなくすことができる。それだけでなく、かかわっているブランド側のスタッフにもぶれがなくなる。これは、ブランディングにデザインがかかわる大きな意義のひとつでもある。

いまの時代のブランディングにデザイン視点は不可欠

Takramを率いる代表であり、デザインエンジニアの田川欣哉氏は「時代が大きく転換しようとしているなかで、企業やブランドのあり方が問われるようになり、経営、技術、マーケティングとデザインの関係が近づいている」と指摘する。

パンデミックによって、企業の本質的な価値があらわになり、それに賛同できるかどうかが消費者がブランドを選ぶときの物差しのひとつになっていく。その企業やブランドが、社会に向けてどのようなミッションやビジョンを掲げているか、そしてそれを文言で謳うだけでなく自身のビジネスの中でどう体現していくかが問われているのだ。

つまり、表層的なものだけでなく、本質的な意味でのブランディングが企業活動にとって欠かせない領域になっていき、経営方針からのミッションやビジョンを具体的なプロダクトやコミュニケーションとしてカタチ化して指し示すデザインの役割はますます大きくなっている。

「現状、経営にデザインが不可欠という考えを持っている経営者は、恐らく1%に満たないのではないか。ユーザーとブランドとのタッチポイントは、何らかのかたちでのデザインであり、それを経営に取り入れる視点は欠かせないものととらえている」(田川氏)。

さらに田川氏はブランドとユーザーの関係性も変化しているという。「ブランドとユーザーの関係は、買って使ってもらうにとどまらず、サブスクのように継続的に使い続けてもらう方向にシフトしてきている」。LTVをあげていくという意味でもユーザーとのコミュニケーションの重要性はさらに増していく。だからこそ、ユーザーが企業やブランドと接するポイント――プロダクト、サービス、ショップ、SNS、Web、広告など、すべてにデザインはかかわるものであり、そこで企業やブランドの目ざしていることを、一貫性をもってカタチ化するのがデザインの役割となる。

こういった、経営の根幹からエンドユーザーの体験まで一気通貫したデザインの考え方はまた、社外への発信だけでなく、社員が「自分の会社は何を目ざし、どういう方向に向かっているかのを確認する指標でもある。「視覚化・体験化することによって、触れた人が共通認識を持てるところがデザインの強み」と田川氏がいうように、社員が向かうべき方向を確認するにあたり、デザインが果たせる役割は広く深い。

「高齢化社会が進むなかで、美容とヘルスケアといった領域の境界線がぼやけ、そこにテクノロジーも関わり、心身ともに健やかであるためのビジネスはますます活性化していくのではないか。その意味で、高齢化社会の先陣を切っている日本は、世界のリーダー的存在になれる可能性を秘めている」(田川氏)。ビューティビジネスそのものが化粧品だけでなくヘルスケアやウエルネス領域にもに変容しようとしているなかで、そういったメッセージをいかにユーザーに届けるのか、デザインは包括的なブランディングを支える大きな要素といえそうだ。

その具体例のひとつとしては、ラグジュアリーブランドがある。パンデミックであっても、LVMHなどのラグジュアリーブランドは好調な業績を上げている。要因のひとつとして富裕層の購買力があるのは確かだが、それだけではない。ラグジュアリーブランドは、豊かで上質な世界観を描くため、ユーザーとのあらゆるタッチポイントにおいて、そのポリシーやクオリティを伝えるためにデザインを活用してきた。テクノロジーの積極的な活用がブランドに違和感なく溶け込んでいるのもデザインの力が大きいだろう。

サステナビリティやトレーサビリティという社会の潮流に対しても、自ブランドの世界観の中でいかに組み込み、体現していくかということにエネルギーを注いでいる。そこに磐石の基盤を築いてきたからこそ、今にいたる道程があり未来に続いてもいく。ブランディングとデザインを考える上で、Takramの事例とともにこういった動きを見逃してはならない。

Text: 川島蓉子(Yoko Kawashima)
Top image & Photo: Takram

ありがとうございます!LINE@で更新情報配信中です。ぜひご登録を!
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディア。【お詫びとお知らせ】「バックナンバー読み放題プラン」の不具合が解消されました。また「記事の個別購入」を中止しております。詳しくはこちらをご覧ください → https://goo.gl/7cDpmf