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富士通が提唱する事業モデルとAIサービス「Fujitsu Kozuchi」が解決する企業と社会の課題
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これまで特定の業種・業務ごとに個別のシステムを受託開発していたSIビジネス大手が、AIプラットフォームを構築し「企業が持つ課題」そのものを解決するためのコンサルティングビジネスに移行している。なかでも、製造・流通・小売領域に強く、定性データ処理にも強みをもつAI活用で美容業界にも親和性が高いといえるのが、富士通の事業モデルで社会課題を起点とする「Fujitsu Uvance」と、それを支えるAIサービス「Fujitsu Kozuchi」だ。サプライチェーンから販売の現場まで、企業の課題と社会課題の双方の解決をめざしている。
企業課題だけでなく社会課題の解決も目指す事業モデル「Fujitsu Uvance」
富士通は社会課題の解決にフォーカスした事業モデルとして、2021年10月に「Fujitsu Uvance(富士通ユーバンス)」を立ち上げた。
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Uvanceは、「あらゆる(Universal)ものをサステナブルな方向に前進(Advance)させる」という意味合いを持つ造語で、「多様な価値を信頼でつなぎ、変化に適応するしなやかさをもたらすことで、誰もが夢に向かって前進できるサステナブルな世界をつくる」ことを目標として掲げる。
ここ数年、日本の大手電機メーカーや総合ITベンダーは、顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するための新事業モデルやブランドを相次いで発表している。2016年に日立製作所が立ち上げた「Lumada(ルマーダ)」、2024年に発表されたNEC「BluStellar(ブルーステラ)」、三菱電機「Serendie(セレンディ)」、KDDI「WAKONX(ワコンクロス)」などがその一例だ。
なかでもFujitsu Uvanceの特徴は、クライアントのDXのみならず、SX(サステイナビリティトランスフォーメーション)の実現を同時に掲げている点であり、「Sustainable Manufacturing(ものづくりの未来)」「Consumer Experience(顧客体験の未来)」「Healthy Living(健康な生活の未来)」「Trusted Society(都市と社会の未来)」「Digital Shifts」「Business Applications」「Hybrid IT」などの重点分野にフォーカスするとしている。
ビジネスインパクトとソーシャルインパクトの両立を目指すFujitsu Uvanceは、富士通全体のビジネスモデルを変革する事業モデルとしても位置づけられている。富士通株式会社 CEO室 AI戦略プロジェクト長の土井悠哉氏は以下のように説明する。
「富士通はこれまで、大企業のIT部門が発注したシステムやプロダクトを開発・納品する事業を中心に売上を伸ばしてきた。いわゆる“御用聞き”のようなビジネスモデルだ。現在も約2兆1,000億円あるITサービス関連の売上のうち、Fujitsu Uvance以外の売上は約1兆8,000億円となっている。ただゆくゆくは、開発の前段であるコンサルティングの段階からクライアントに伴走し、企業の課題解決を通じてバリューを提供する事業の割合を高めていく方針だ。その際にはさまざまなデータや仕組みが用いられるが、それらを活用して同時に社会課題の解決も図ろうとしているのがFujitsu Uvanceだ」(土井氏)
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プロフィール/2006年に富士通株式会社入社。中堅市場向けERP、地図ソリューション、AIビジネスの開発・拡販に携わる。NEDOなどが主催するハッカソンで多数の受賞歴を持ち、2024年8月より全社AI戦略立案を担当
Fujitsu Uvanceの仕組みは、企業や社会課題の解決に適した汎用的なソリューション(オファリング)を、コンサルティング主導により最適な組み合わせで提供する。あらかじめ検証済みのベストプラクティスや標準化されたサービスを使い、たとえば、顧客企業がまだ把握できていなかったサステナビリティ課題に対しても解決策を提示できるのが特徴だ。
富士通にとっても、一度構築したソリューションを複数顧客に展開が可能で少人数のエンジニアでも開発可能になったほか、コンサルティングの付加価値部分にリソースを割けるようになったという。では、具体的にどのようなケースでクライアントの価値創出と社会課題解決を同時に実現しているのだろうか。
「某電材メーカー様に提供している、在庫周辺のサプライチェーンを効率化するオファリングがその一例だ。調達・生産・販売のデータをつなげて、過剰在庫や販売の機会損失の削減を実現しつつ、仮に震災などでサプライチェーン上に問題が生じた場合に、AIエージェントが事象に応じて自動で影響をシュミレーションし、どの工場、サプライヤーが被害を受け、どこから代替品を調達できるのかといったリカバリー対策をアドバイスしてくれる。従来、災害時には数日間かけてアナログで被害状況の情報を収集していたため時間のロスがあったが、同オファリングでは瞬時に最適な判断ができるようになった。つまり、災害時に企業、自治体、個人が活用可能な、災害による被害状況の確認や対策案などを検討できる災害ダッシュボードを構築することもできる。実際に富士通では、この技術を応用して3日程度で災害ダッシュボードの開発に成功している」(土井氏)
また、Fujitsu Uvanceでは、社会課題の多くは複数の業界にまたがっているという観点から、クロスインダストリー(業種横断)を重要視している。たとえば「温室効果ガス排出削減」の課題では、製造業から流通業、小売業までサプライチェーン全体を通じて取り組む必要があるが、Fujitsu Uvanceでは垣根を越えたデータ連携や企業間協力を促すプラットフォームとして機能し、異業種間のコラボレーションにも対応することで新たな付加価値を創造しようとしている。
事業モデルを支えるAIサービス「Fujitsu Kozuchi」とコア技術
富士通はこのFujitsu Uvance推進を図るために多様なテクノロジーを用いているが、なかでも重要視しているのが、長年にわたり培ってきた人工知能(AI)技術だ。
富士通のAIは人間の思考を模して、「ナレッジグラフ」という知識のつながりを図で表す構造化データベースとして構築されているのが大きな特徴だ。ChatGPTのように文章の流れや単語の出現確率で予測する大規模言語モデルとは異なり、知識同士が明確にリンクされており、意味の関係を「考慮」できる。たとえば、リンゴという言葉にひもづく「果物」「赤いことが多い」「ニュートンが重力を発見するきっかけとなった」といった知識を関連付けてネットワーク状の知識として整理する。AIがそれらの関係性を理解するので、リンゴが赤い、トマトが赤いといった事実から「赤い食べ物にはビタミンが多い」という新たな関係性を見つけることもでき、クチコミなどの定性的データをデータベース化しやすく、またハルシネーション(誤情報の生成)も大規模言語モデルより起きにくくなっている。
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また、自然言語処理技術やチャットボット関連の生成AI領域では、業務に精通した自社の強みを生かし「Beyond Chat」という活用方針を掲げている。つまり、質問に一般的な回答を示すだけのチャットボットではなく、ビジネス現場の膨大なデータを学習し、業務上の的確な判断・アドバイスまでこなすエージェントAIを通じて、クライアントにとって具体的な価値を実現することが目標だ。
2024年2月には、先端AI技術を試せるAIサービス「Fujitsu Kozuchi」をリリースし、Fujitsu Uvanceのオファリングに組み込んでいく方針を発表した。Fujitsu Kozuchiは、生成AIである「Fujitsu Kozuchi Generative AI」、データサイエンティストでなくてもAIモデルの設計・構築・調整を自動で行える「Fujitsu Kozuchi AutoML」、データを活用しより正確な将来予測を行う「Fujitsu Kozuchi Predictive Analytics」、画像認識関連技術を総合した「Fujitsu Kozuchi for Vision」や、自然言語処理技術にあたる「Fujitsu Kozuchi for Text」、AIの学習データや判断の公平性を検証する「Fujitsu Kozuchi AI Trust」、そして、AIが出力した結果の因果関係を説明する「Fujitsu Kozuchi XAI」という7領域の技術からなる。これらのコア技術を組み合わせて顧客の課題解決をはかる。
「ある大手化学メーカーの導入事例では、それまで月間5,000時間を要していた機械故障の原因分析および修理方法確定を、AIによる提案を人が承認する方法に切り替えた結果、10分の1である500時間にまで短縮することに成功した。また、部品交換業務の際に社内ルールとの突き合わせに月間9,000時間を要していたが、AIで自動化することで1,000時間まで短縮することに成功している」(土井氏)
「目標設定」が決まらなければAIは真価を発揮できない
富士通は、クライアントがAIの価値を享受するためのプロセスを「目的設定」「データ準備」「導入」「活用」の4段階に分けている。まず、目的設定の段階では「Uvance Wayfinder」のコンサルタントがAIの活用戦略策定を支援している。次いで、知識処理技術およびデータプラットフォームである「ナレッジグラフ」を通じてデータの準備と導入を支援する。そして活用段階ではAIエージェントを提供し、AIによる適切な選択で運用をサポートする。
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このプロセスが設定された理由や利点について土井氏は以下のように述べる。
「目的設定が曖昧だとAIの真価を発揮しにくい。そのため、当社ではAIを事業に導入するロードマップや、得られる成果を精密に描くコンサルティングサービスの拡充に力を注いでいる。現場や開発を知る立場から、地に足のついたご提案ができると考えている。目的の設定や効果予測完了後には、前述のナレッジグラフという当社が先行している技術を用いてAIが扱いやすい形式にデータを落とし込む。最終的に具体的なAIの選定やセキュリティまで、当社のAIエージェントがサポートしていく。AIを選定する際には、富士通のプロダクトを選ぶこともあれば、外部企業のプロダクトを選ぶこともある。無数にあるAIツールからクライアントに最適な組み合わせを提示し、導入コストを下げながら価値創出を支援していくのが当社の戦略だ」(土井氏)
美容業界におけるAI活用のポイントは「業務の意思が込められたデータ」
Fujitsu Kozuchiはすでに多くの企業に導入されている。土井氏は「今後は中小規模の企業が富士通のAI技術を活用できるようにサービスを拡充していきたい」とし、「美容業界各社の課題にも当社AIが応えることができるだろう」と話す。
「当社が開発しているAIのひとつに、モノゴトの因果関係を分析し、特定の結果を導き出すプロセスを理解するXAI(説明可能なAI)がある。つまり、データから得られる回答はこれまでブラックボックスといわれていたが、その因果関係が理解可能なものになることでより信頼性の高い結論を導き出すことができる。同技術は、現状は顧客満足度向上を目的とした施策立案などの業務に用いられている。美容業界のプレイヤーは、すでに膨大な定性・定量データを保有していると思うが、目的さえ上手く設定できれば、こうした施策立案や製品開発にも応用できるはずだ」(土井氏)
さらに、今後、美容業界がAIを上手く活用するためにはどのようなポイントを意識すべきかという問いに、土井氏は「業務の意思が込められたデータの整備が重要」とする。
「近い将来、人が行ってきた基本的な業務の大半はAIで代替できるようになるというのが、私の考えであり実感だ。その際、企業がAIを上手く使いこなすためのポイントは、目的設定とデータをしっかり整備できているか否かに尽きると思う。基本的なことではあるが、改めてその点を強調したい。さらにいえば、意味の希薄なデータカタログだけを揃えても、AIはその力を発揮することができない。現場の検証を重ねたデータセット、あるいは業務の知見が反映されたデータこそ貴重であり価値がある。いわば“業務の意思が込められたデータ”をいかに整備していくか。その課題を乗り越えていくことが、美容業界を含む日本企業に求められるだろうと考えている」(土井氏)
社内では、誰もが積極的に生成AIを使えるよう整備
富士通は自社内でも生成AIをはじめAIツールの活用を積極的に進めている。同社 CEO室 AI戦略プロジェクトチームの伊藤百花氏は現在の状況について以下のように説明する。
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プロフィール/2019年に富士通入社。大手・中堅化学メーカー営業部門、情報システム、経営企画などコーポレート部門、生産やR&DなどのLOB部門、AIビジネスの立上げ・拡販を経て現任
「富士通では、社内外のAIツールを広く活用する施策を進めている。月に1度以上生成AIを利用した社内のユーザー数は3万5,000人、1日当たりの総利用回数は約17万回(1年前の約10倍)に達し、AIによって年間92万時間相当の作業効率化効果を得られたという因果分析の結果を得ている。時田隆仁社長の思考やロジックを再現したAIチャットボットなども自社開発し、社員がいつでも事業案などについて社長と疑似的にディスカッションできる環境も整えている」(伊藤氏)
まずは生成AIなどのツールを自分で触ってみないことには、業務にどのように生かしていくかを理解したり、想像したりすることは難しい。これは富士通のようなITカンパニーだけでなく、どんな企業にもいえることだろう。土井氏の指摘する、AIによる社内効率化や意志決定のためには目標設定と業務の意志あるデータ整備が必須だが、その前提としてさまざまなツールをまずは全スタッフが使ってみるという意志決定も求められているように思う。
Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image: Fujitsu Kozuchi公式サイト
画像提供: 富士通株式会社