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AIにヒューマンタッチを加えたLVMHイノベーションアワード最優秀賞のCrobox

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2020年はオンラインでのライブ配信となった「LVMHイノベーションアワード」。最優秀賞に輝いたのは、同じ商品でも消費者ごとに訴求メッセージを変えられるCroboxだ。あわせてサボテン由来のヴィーガンレザーを開発したDessertoと、一括管理のオムニチャネル在庫統合サービスOneStockが審査員賞を受賞した。

2020年7月2日、LVMHは、革新的で有望なスタートアップを選出する「LVMHイノベーションアワード」の授賞式の模様をライブ配信した。同アワードは、毎年パリで開催される欧州最大のテクノロジーの国際展示会「Viva Technology」(以下VivaTech)の枠組みで開催されており、ファイナリストに選ばれたスタートアップ30社をLVMHの展示ブース内で展示し、会期中に最優秀者を表彰していたが、新型コロナウイルスの影響で、今年はVivaTechの開催が中止となったため、独自のオンライン開催となった。

今回、1,275社の応募のなかから選出されたファイナリスト30社は10カ国に及び、そのうち30%が女性の創業者、25%以上が「地球をより良い場所にすること」を目指したビジネスで、顧客体験、AR/VR 、AI、Eコマース、マーケティング、サプライチェーン、支払いシステム 、サステナブルな原料など分野は多岐にわたった。

6月22日にLVMHのWebサイト上で30社がそれぞれ1分間のピッチを行い、7月2日に最優秀賞1社、審査員賞として2社が表彰された。LVMHに高く評価され、ビジネスのコラボレーションを約束された3社について、レポートする。

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7月2日にライブ配信された
「LVMHイノベーションアワード」
授賞式録画 

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選出された30のスタートアップの
ピッチセッション動画はこちら

AI×消費者心理でパーソナライズ購買体験を提供

最優秀賞に選ばれたのは、革新的な消費者行動分析とソリューションを提案するオランダのスタートアップCroboxだ。Croboxは、消費者が商品のどこに興味を持って評価しているかを把握するために、消費者心理とAIを組み合わせて消費者行動やインサイトを分析し、消費者ごとに商品の訴求メッセージを最適化して、オムニチャネルでの効果的な販促を可能にする。

図1

出典:Crobox公式サイト

同社のソリューションは、すべての消費者が同じ理由で製品を購入するわけではないという観察から生まれている。たとえば、1枚のコートの購入動機は「暖かさ」であったり、「デザインの美しさ」あるいは「サステナビリティ」など個人によって異なる。広告のキャッチコピーなど商品の訴求メッセージをユーザー各自の傾向や好み、購入の決め手となるポイントとなるようパーソナライズすることによって、消費者は求める商品を見つけやすくなり、購買意欲も促進される。

つまり同型のスマートウォッチでも、価格を重視する人には「バリューフォーマネー」、新技術に興味のある人には「イノベーティブ」と、アピールするキーワードを変えることで喚起力を高めるのである。

このような小さなきっかけで集団的な行動を変容させる「ナッジ(nudge・行動経済学用語のひとつで人々の行動を予測可能な範囲で変える選択肢の提示手法)」を活用したCroboxの技術は、すでにIKEA、アシックス、ダイソンなど複数の企業で採用され、CVR(コンバージョン率)が14%増、実店舗での販売が8%増加した商品もあるという。

ヒューマンタッチなAIで特別な顧客体験

Croboxは、消費者心理とAIを組み合わせているとするが、どのようにAIにヒューマンタッチを加えているのか。マーケティングマネージャーのジャネル・ドゥ・ウィアトゥ(Janelle de Weerd)氏は、同社の技術は心理学者とコラボレーションしながら開発しており、単なるデータ分析にかたよらず、人間的なデータドリブンとなるように、心理学者がクライアントとともに取り組むこともあると説明する。

機械的、あるいは非顧客中心的なパーソナライズは、特別な顧客体験や購入体験を必要とするラグジュアリービジネスでは通用しない。人間の行動や意思決定には必ず感情が動いており、高額な商品を購入してもらう際にはエモーショナルな部分を刺激し、ある種の高揚感を顧客に与えることが求められる。情緒的な部分を汲み取ったAIソリューションをもつ同社は、今後一年間LVMHグループと協働し、ブランドが直面する課題への具体的な解決方法を提供していく。

持続可能なヴィーガンレザーで
ファッション業界の変革を狙う

審査員賞を受賞した1つ目の企業は、メキシコで栽培されたサボテンを原料とするヴィーガンレザーを生産するDessertoだ。

ファッション業界は温室効果ガスの排出量が全業界の8〜10%を占め、また、大量の水資源を消費する世界で2番目の環境汚染産業とされる。特に牛革は、牛の成長段階で大量の水を必要とし、革のなめしの工程でさらに多量の水と、有毒な化学薬品が使用され、生物由来でありながら生分解不可能な素材になってしまう。また、大量の廃棄も発生している背景から、Dessertoはこの業界に変革を起こすべく、水分が不足した土地でも育ち、二酸化炭素を吸収するサボテンに着目した。サボテンから生分解性のサステナブルなヴィーガンレザーを作り上げたのだ。

サボテンは棘のある葉の部分をカットしても、切断面から新しい葉が生えてくるため、自然を破壊せずに原料を調達できる。このヴィーガンレザーの製造方法は、成長したサボテンをカットして、洗浄、粉砕し、3日間乾燥させてから毒性のない化学薬品を加えてレザーのような風合いの生地にする。色合いや表面の仕上がりは自由自在な加工が可能だ。このトレーサビリティも備えたヴィーガンレザーは、洋服、バッグ、靴、家具、乗用車のシートなどに幅広く使用でき、約10年の耐久性を持つ。しかも価格は牛革と同レベルだ。

Dessertoにとって、この受賞はLVMH傘下ブランドとの協業のスタートを意味する。厳選された原料と磨き抜かれた "サヴォアフェール(savoir-faire)" つまりノウハウで付加価値の高い製品を生み出すLVMHが、環境へのダメージの少ない持続可能なサボテンレザーを採用することによって、どのように社会、産業、消費者行動にインパクトを与えられるかが注目される。

ファッションビジネスにおいては、早期からステラ・マッカートニーが独自の「ベジタリアンレザー」を使用し、地球環境の保護を強く訴えてきたが、イノベーションとサイエンスの発展とともに素材開発も進化し続けており、ラグジュアリー業界でのサステナブルな素材への関心がますます加速するのは間違いない。

在庫の統合システムで収益性を改善

審査員賞を受賞したもう1つのスタートアップは、リアルやオンラインを含むすべての販売チャンネルの製品を一括管理できる在庫統合サービスを開発したOneStockだ。同社のサービスは、店舗やオンラインでの在庫切れによる販売の機会損失を防ぎ、オムニチャネルでの注文を増加させ、収益性を改善する。

OneStockは、LVMHのStation Fにおけるスタートアップ支援「La Maison des startups LVMH」の第3期生であり、2019年にすでに米国のジバンシイで技術が導入され、その有用性を証明している。同社のサービスは、パンデミックでサプライチェーンが滞り、在庫問題に直面している企業への解決策にもなりうるだろう。

今年のLVMHイノベーションアワードはやむを得ずオンライン開催となったものの、ファイナリスト30社のピッチが世界中にライブ配信されたことで、スタートアップのビジビリティが飛躍的に上がった。受賞を逃したスタートアップも、今後LVMHのビジネスに採用される可能性は大いにあり、また、世界の多分野の企業からのコンタクトも期待できる。

授賞式はLVMHのCDOイアン・ロジャース(Ian Rogers)氏の司会のもと、VivaTechのマネージング・ディレクターであるジュリー・ランティ(Julie Ranty)氏、仏政府主導で推進するスタートアップ支援「フレンチテック」のディレクターのカット・ボルロンガン(Kat Borlongan)氏、起業家で作家でもあるフィリップ・ブロック(Philippe Bloch)氏をゲストに招き、現在の危機的な状況における起業家のエコシステムについて、世論調査の結果を紹介しながら、専門的知見に基づいた意見が交わされた。

同調査はLVMHが経済紙レ・ゼコーと調査会社オピニオンウェイと共同でおこなったもので、新型コロナウイルス感染拡大がもたらした危機的な経済状況における、フランス国内の一般市民とスタートアップのマインドセットが報告されている。

それによれば、「新型コロナウイルスの感染拡大は起業家精神をより強いものにしたか」という質問に、スタートアップの管理職の61%が肯定的な回答をするなど、危機が新たなビジネスチャンスを創出していると考えているのが明らかになった。また、管理職の88%はロックダウンとその後の緩和によって、そういったスタートアップの認知度が上がりビジネス拡大につながっているとみているほか、全回答者の74%がロックダウンは一般市民の間でサービスのデジタル化を加速させ、それが一部のスタートアップの急成長につながったとの見方を示している。

一方でパンデミックの余波で投資家の確保が難しくなると考える人が半数近くにのぼるなど、不安材料はあるものの、起業家や20代、30代の市民層はおおむね前向きで楽観的な観測をしていると明らかになった。

図1

©Martin Colombet
出典:LVMH公式Webサイト

新型ウイルスの影響で世界経済が大きく傾いた状況下で、こうしたイノベーションアワードなどの施策を通し、LVMHが積極的に仏国のスタートアップ・エコシステムを活気づけ、成長加速に貢献しようとする強い姿勢をとることは、パンデミックを克服しよりサステナブルにビジネスを成長させようとするファッション&ビューティ業界への追い風になるに違いない。

Text: 谷 素子(Motoko Tani)
Top image: ImageFlow via Shutterstock

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