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「空気を読むAI」が化粧品販売の現場を変える可能性、AI.acceleratorの知見から

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ディップ株式会社が運営する日本初の人工知能(AI)スタートアップ特化型アクセラレータープログラム「AI.accelerator」。その責任者を務める同社次世代事業準備室 室長の進藤圭氏は、年間300社以上のスタートアップとの面談をこなす。進藤氏にAIサービスや関連スタートアップの現状、そして美容業界におけるAI活用、とくに販売現場における可能性について話を聞いた。

「AI.acceleratorには年間で200件ほどの応募があり、日本では約700社のAIスタートアップが存在する」と進藤氏はいう。その700社の大きなトレンドとしてはまず、大規模なAIエンジンの開発競争はひとまずめどがつき、個別かつ具体的なサービスにAIを落とし込むなど、各現場に最適化したサービスにおいて競争がはじまっている。

AI.acceleratorの公式サイト

「AIエンジンは車でいうところの動力のような部分で、この領域での競争は一段落した状況だ。今後、どんなデータをAIに学習させるか、またどんな業務にそれらを応用するか、サービスとしていかに実用化していくかという勝負になるだろう。世界的にみるとエンジン開発の領域においては、欧米勢が圧倒的優位をみせている。一方、日本勢はそれらをカスタマイズしたり、現場に落とし込むなど、SIer(システムインテグレータ)的なサービス展開が得意で、その部分で競争力を持っているというのが個人的な印象だ」(進藤氏)。

日本のAI企業は、SIer的な個別最適化や法人向けサービスなど、外国人が好まない領域を攻めることが勝ち筋ではないかと進藤氏は分析する。日本語は、言語圏が閉じているうえに2バイトという特徴上、コンシューマー向けAIサービスでのグローバル化によるスケールは難しいかもしれないが、各現場に根差した特化型のAIサービスは海外企業には参入障壁が高く、グーグルなどの大手も簡単にリプレイスできないはずだとする。

出典: to B向け 人工知能業界マップ2017年夏 版

「空気を読むAIサービス」が続々登場

AIスタートアップが手がける領域として、新たな動きは感性領域のAIサービスだという。なかでも特筆すべきは、音声認識系、また文脈を読むなどコミュニケーションをサポートするAIなどの登場だ。これまでは、データを使って作業を自動化する、もしくは何かを予測させるというような使い方が主だったが、人に対してより柔軟に対応できるAIサービスが実現してきていると言い換えることもできそうだ。進藤氏は「AIが空気を読めるようになった」と、状況を表現する。

「これまで何となく人間が感じ取っていた“雰囲気”や“感覚”もAIによって定量化されはじめている。人間の会話の内容や文脈を分析し、スタッフにインサイトを与えてくれるようなサービスだ。背景に、スマートフォンやスマートスピーカーなど端末の普及がある。人間の音声データをより取りやすくなったため、関連サービスも充実してくる流れだ」

ディップ次世代事業準備室
室長の進藤圭氏

音声認識系のサービスの開発には、大きく2つのアプローチがあるという。まず1つは、文脈を理解するために人間が会話を聞き学習用データを作成し、AIモデルを強化していくというものだ。たとえば、やり手の営業スタッフや美容部員がいたとしよう。その会話ややり取りから、人間が「正解データ」を抽出。AIに学習させていく方法である。

たとえば、コグニティ株式会社が提供するUpSighter(アップ・サイター)というサービスは、セールストークやプレゼンテーションなどの会話の内容を分析して数値化することにより、具体的にどこを改善すればいいのかが一目瞭然になる。たとえば、同じような経験、スキルの美容部員のうち、ずば抜けて成果・売上をあげるスタッフのトークと、他の美容部員のトークを比較分析することで、どこにどんな違いがあるのかを見極めて、その部分を全員が習得していけば、同じような結果を出せるようになるというものだ。結果、美容部員ひとりあたりの売上高を改善するきっかけになる。

出典:ドコモ・イノベーションビレッジ
でのコグニティ株式会社 代表取締役
河野理愛氏スピーチ

もう1つは、会話の中に登場する言葉をAIで分析するアプローチだ。一例では、会話のなかに「見積もり」という言葉が出てきたほうがコンバージョン率が高いなど、キーワードの種類、それが出てくるタイミングなどをAI自身が分析するというものだ。

「商材によっては、声の高さやトーン、話すペース、もしくは顧客とのシンクロの強度によって売り上げが変わってくるものもある。その解析をリアルタイムで行い、ダッシュボードの画面で音声の波長を確認できたり、特定の言葉を“早めに出した方がよい”などアドバイスをするAIサービスが登場してきている」(進藤氏)。

それら音声解析系の法人営業支援サービスとしては、AI搭載型クラウドIP電話サービスを提供している「MiiTel(ミーテル)」などがあるとする。一方、いわゆる「コンプレックス」を理解するAIサービスも普及していくのではないかと進藤氏は予想する。というのも、たとえプライベートな付き合いのない他人であっても、人間を相手に自分の悩みを打ち明けるには心理的ハードルがある。その点、機械相手であれば気持ちの負担が少ないからだ。

出典:MiiTel公式サイト

「美容にしろ、ファッションにしろ、対面でスタッフに相談することに負担を感じている顧客は少なくないと思う。もしくは時間がないため、人間のスタッフと話す時間がないなどの事情も販売現場では散見されるはずだ。オフラインで買い物をしたいという需要がなくなることはないだろうが、買い手はコミュニケーションのわずらわしさを減らしたい、売り手側もまた、働き手不足などそれぞれ問題意識を抱えている。それらを埋めてくれる音声系のAIサービスが登場してくることはまず間違いない。もしかすると、デジタルからオフラインに顧客を取り戻すための呼び水となるかもしれない」(進藤氏)。

美容業界への提言「AIは現場からつくるべき」

音声系など感性にひもづいたAIサービスは、美容業界においても大いに活用していけるだろう。まず、分析という面では、POSなど数字データを補完する重要なツールとなる。デジタル環境など外部要因により顧客の購買行動が早いスピードで変化してくなかで、「なぜ買われたのか」「なぜ買われなかったのか」を判断するためには、年齢や性別など旧来のマスを想定したようなデータだけでは不十分だ。より個々人を深く理解するために多角的なデータを取得する必要がある。なかでも、音声や言葉遣い、またコミュニケーション履歴は重要なデータとなる。

次いで、販売や営業という意味合いでは、高度な販売スキルを自動化できる可能性がある。たとえば、これまでは成績優秀な美容部員の接客手法を定量化するのは困難だった。そのため、他のスタッフに能力を“横展開”するのに教育コストがかかっていた。しかし、音声やコミュニケーションを定量化できるAIが登場してくれば、話は変わってくる。そのノウハウや経験を抽出し“コピー”することができるのだ。

「(接客において)日本の現場はどこも難しい高度なことをやっている。化粧品やファッションの小売現場でも美容部員や販売スタッフが売るための接客ノウハウを持っていることが多い。仮にAIを開発・導入するとしたら、売場をじっと観察することが一番の近道ではないか。現場で生まれたAIであれば、現場に落とし込むのも楽であり、効率的だ」と進藤氏は指摘する。

そこで、進藤氏にもう1つ質問をぶつけてみた。それは、「美容関連企業が顧客対応やデータ解析などでAIを導入するとして、技術導入をどのようにするのが最も効率的か」というものだ。内製化、AIベンダーに委託等々、さまざまな選択肢があるが、進藤氏はSaaS(Software as a Service)を導入するか、ユーザーの業務・課題を理解したうえでシステム構築をサポートしてくれるSierをパートナー企業にするかのどちらかだという。

「百貨店などオフライン店舗では業務フローも各社異なるためSaaSに合わせるのは困難なケースが多い。その場合は、Sierに委託して独自に開発した方がうまくいくだろう。逆にECはSaaSの業務フローに沿うことができる可能性が高い。その場合、SaaSを利用した方が開発スピードも早まり、かつ廉価だ。自社の特徴に合わせて見極めていくのが望ましい」(進藤氏)。

また、AI領域ではマシンに学習させるための、いわば教師データを必要とする開発の場合、そのデータの質が重要となる。その「学習用データ」を専門に抽出しチューニングしてくれるグローバルウォーカーズのような企業も出てきている。

忘れてはならないのは、AIが感性領域にふみこんでおりさまざまなB2Bサービスがすでに登場していることだ。顧客体験を豊かにして売上をあげるための活用領域はこの1〜2年でさらにひろまっていくのではないだろうか。

Text: 河 鐘基(Jonggi HA)
Top image: NicoElNino via shutterstock

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