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ロレアル、資生堂などグローバル大手から国内大手まで、韓国美容スタートアップ発掘・支援がさらに活発に

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2023年6月、ロレアルが韓国政府機関と提携を発表。国内のビューティスタートアップの支援に本格的に乗り出すというニュースが報じられ、韓国でも大きな話題となった。2018年からアクセラレータープログラムを展開しているバイヤスドルフ、資生堂もオープンイノベーションプログラムを2021年から韓国国内で募集を開始し、国内外の大手による韓国の有望なスタートアップ発掘や協業がさらに盛んになっている。


関係を深めるグローバルブランドと韓国ビューティスタートアップ

近年、大手ビューティブランドは、トレンドの発信地のひとつとして、また、テストマーケティングを実施するエリアとして、韓国市場に多大な関心を寄せている。同時に有力な新興ブランドやビューティテックスタートアップを発掘し、開発やマーケティングを支援するケースも徐々に増えている。そこには、外部からの新しいビジネスモデルや技術を取り入れることで、さらなる成長戦略につなげたい企業側の思惑があるといえるだろう。

韓国のビューティスタートアップにいち早く着目し、具体的な施策を講じてきたグローバルブランドとしては、独バイヤスドルフニベアが挙げられる。

ニベアは2018年頃から韓国のビューティスタートアップ発掘を開始し、2019年から韓国においてアクセラレータープログラム「NIVEA Accelerator(ニベア アクセラレーター)」を展開してきた。2021年まで3期にわたって15のスタートアップを選定し、活動拠点としてのオフィスやメンタリングをはじめ、各社の状況に即した支援を提供している。

ニベア アクセラレーター第三期に選定された企業
出典:韓国日報

選定対象となった企業および事業概要は以下の通りで、クリーンビューティ系やパーソナライズを提案するブランドのほか、ファンコミュニティの形成と活用に関わる企業が選ばれている印象だ。なかでも、注目なのは第三期に選出されたrom&ndとLILLYCOVERだ。

rom&ndを運営するiFamilySCの2023年第1四半期の売上は、前年同期比で47%増加して歴代最高を記録している。背景には日本市場での好調や欧米各国への輸出多角化がある。一方、LILLYCOVERのその場で化粧品を製造するスマートファクトリーは国の認可も取得し、複数の大手百貨店に入店。売上や販路を着実に拡大している状況だ。

【第一期】2019年
⚫︎ UNPA Cosmetics
自社プラットフォーム「オンニのポーチ」の運営およびビッグデータ関連製品開発
⚫︎ Reziena
パーソナルアンチエイジングビューティデバイス開発
⚫︎ Limese
K-ビューティ製品および自社ブランド製品をインド市場に販売するEC運営
⚫︎ Glowhill
スキンケアインディーズブランド
⚫︎ Panda
韓国産米を使用した穀物性フェイスパック開発

【第二期】2020年
⚫︎ FEMMUE
フラワーセラピーにインスピレーションを受けたプレミアムフェイスケアブランド
⚫︎ BEIGIC
グリーンコーヒーを活用したビーガンスキンケアブランド
⚫︎ ICE Creative
D2Cビューティブランドを保有するビューティインフルエンサーマネジメント会社
⚫︎ Woohwaman
消費者のアイデアおよび製品開発を支援するビューティコミュニティプラットフォーム
⚫︎ AIO&CO
国内化粧品メーカーと海外バイヤーのマッチングを支援するB2Bプラットフォーム

【第三期】2021年
⚫︎ rom&nd
Z世代から支持を集めるメイクアップブランド
⚫︎ PowderRoom
約370万人の会員数を誇るビューティコミュニティプラットフォーム運営
⚫︎ Kuoca
製造30日以内の製品を提供するスキンケアブランド
⚫︎ Picky
グローバルビューティブランドと消費者をつなぐビューティプラットフォームを運営
⚫︎ LILLYCOVER
スマート製造システムベースのカスタマイズスキンケアソリューションの提供

日中韓が対象のロレアルのアクセラ「ビッグバンプログラム」

コロナ禍が収束し市場の活気が戻ってきたタイミングで、ニベア以外の大手グローバルブランドも韓国ビューティスタートアップの発掘を活発化させている。直近で報じられた大きなニュースとしては、世界最大の化粧品会社ロレアルの取組みだ。

2023年6月15日、韓国政府機関・中小ベンチャー企業部とロレアルグループは、仏パリで開催されたテクノロジー企業見本市「Viva Tech 2023」の会場で、オープンイノベーション業務協約を締結した。

調印式の様子
出典:中小ベンチャー企業部公式サイト

ロレアルグループのブースで行われた調印式には、ロレアル側からバーバラ・ラヴェルノ(Barbara Lavernos)副CEO(ロレアル チーフリサーチ・イノベーション&テクノロジーオフィサー)、ブランカ・ジュテイ(Blanca Juti)対外協力総括(チーフコーポレートアフェアズ&エンゲージメントオフィサー)、ファブリス・メガルバン(Fabrice Megarbane)北アジアプレジデント(プレジデント・ノースアジアゾーン&ロレアルチャイナCEO)が参加。一方、韓国中小ベンチャー企業部からはイ・ヨン(李永)長官が参加し、協約文書の調印後には、韓国国内の有望な中小企業およびスタートアップの発掘・育成を支援する「ビッグバンプログラム」のスタートが宣言された。

ビッグバンプログラムは、ロレアルが北アジア地域で初めて展開するオープンイノベーションの取り組みだ。2020年から3年間にわたり中国でパイロットプロジェクトが運営されてきたが、その成功をベースに、今年から韓国と日本でもプログラムが実施される。

「中小ベンチャー企業部との今回の協約は、ロレアルが北アジアでオープンイノベーションを牽引していくための非常に重要な機会になるだろう。(中略)今後、ビッグバンプログラムを通じて韓国、中国、日本のスタートアップと協力し、北アジアの創意性と革新を全世界に拡張できると期待している」(ラヴェルノ氏

日本におけるビックバンプログラムの取り組みについては、日本ロレアルによる公式サイトに次のような記載があった。

「日本では、J-Startup(経済産業省、JETRO、NEDOが推進するスタートアップ企業の育成支援プログラム)や、日本と世界のディープテックをつなぐHello Tomorrow Japanなどの支援を得ながら、革新的な原料や素材を有する企業を発見・支援する」

Big Bang Japan 2023 サステナブル・ビューティー・イノベーション公式サイト
出典:Big Bang Japan 2023 サステナブル・ビューティー・イノベーション公式サイト

ロレアルは、日本においても政府省庁や政府系機関とタッグを組みプログラムを展開する予定としているが、韓国では同様の試みがいち早くスタートした。同プログラムが発表された同じ月に、ラヴェルノ副CEOを含む総勢20名以上のスタッフが韓国を訪問し、約1週間滞在して、イ・ヨン長官らとビックバンプログラムの細部を調整を終了した。

具体的な選定企業や支援の中身の詳細はこれから発表される段階にあるが、大枠としては、韓国では、デジタルや人工知能を活用したビューティテック、ビューティデバイス、肌診断、成分を皮膚に浸透させる伝達システム分野において、有望なスタートアップを発掘・育成するという方針が明かされている。

日本のビックバンプロジェクトに関しては、2023年10月12日にテクノロジー・スカウティングイベントの開催が予告されている。同イベントでは、革新的なバイオテクノロジー、環境に配慮したプロセス技術、グリーンケミストリーによる合成技術などの先進技術を保有する企業の募集が同8月28日まで行われた。

ビックバンプログラム初年度は、日本ではサステナビリティ、韓国ではデジタルという領域で、それぞれ発掘・支援が進められていくとみられる。

資生堂は韓国ビューティスタートアップとの連携を強化

海外スタートアップ企業とのオープンイノベーションに注力する資生堂も、近年、韓国企業の発掘や関係強化に積極的だ。資生堂研究所が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona」の第三弾(2021年下半期に募集)では、韓国貿易協会のオープンイノベーションプラットフォームInnobranchと連携し、最終的にヘルスケアプロダクツの研究開発を行う韓国バイオメディカル企業のLABnPEOPLEとの協業を決定している。

出典:LABnPEOPLE公式サイト

LABnPEOPLEは、生体吸収性(その素材が生体内で分解、吸収される性質をもつこと)のある薄膜金属素材の開発や、マグネシウムを活用したマイクロニードル技術に定評があるベンチャー企業だ。スキンケアパッチ専門ブランド「Snow2+(スノーツープラス)」を運営し、皮膚に付着できる微細な美容針を用いたマグネシウムパッチの開発・製造・販売などを手掛けている。同社のパッチは国内外で26の特許を取得しており、ニキビの原因となる菌を死滅させる鎮静効果などが、韓国の医療機関によって確認されている。

また、資生堂コリアは、2022年10月にソウル市の機関であるソウル産業振興院と基本合意を締結しており、ソウル市と提携してスタートアップの発掘・育成を推進する方針を明らかにしている。同年12月には、ソウル産業振興院が運営するソウル創業ハブを通じて、オープンイノベーションに参画したいビューティスタートアップ企業向けに募集要項も開示された。

募集テーマとして掲げられているのは、深層学習などを活用したビューティテック、肌解析やイオン導入などのためのビューティデバイス、肌への浸透性やマイクロニードルなどの技術を持つビューティメディカル、ヴィーガン、ハラール対応、アップサイクルやサステナブルパッケージなどのエコ、次世代コスメとしての革新的なビューティ製品の5領域だ。参加企業の発表はまだだが、幅広い領域での募集や選定作業が重ねられていくとみられる。

韓国大手もビューティスタートアップ支援を継続・強化

海外大手グローバルブランドが韓国ビューティスタートアップの支援に乗り出すなか、国内大手企業も続々と施策を講じている。

化粧品小売最大手のオリーブヤングは、2023年7月に理事会を開き、系列会社であるCJインベストメントなどと共同で「新韓-CJ技術革新ファンド第一号」を立ち上げることを議決した。組成予算は200億ウォン(約22億円)規模で、2031年7月まで8年間運用される見通しだ。オリーブヤングは、同予算の35%にあたる70億ウォン(約7億7,000万円)を拠出する。

このファンドはビューティ、ヘルスケアのみならず、物流やモビリティ分野のスタートアップにも投資を行う計画とされている。オリーブヤングは2022年12月にも、「CJイノベーションファンド」を通じて約80億ウォン(約8億8,000万円)をスタートアップ投資に拠出している。現在、韓国化粧品小売として、海外展開を含めて最も勢いのあるプレイヤーだけに、今後、どのような企業に投資を行ったのかの続報が待たれるところだ。

韓国メーカー最大手アモーレパシフィックも、持株会社アモーレパシフィックグループを通じて、国内ビューティスタートアップに対する投資を継続している。2023年1月には新たにORNPに4億ウォン(約4,400万円)、ASCCに10億ウォン(約1億1,000万円)をそれぞれ投資している。

ORNPは2023年6月にウエルネス・スキンケアブランド「kared(ケアード)」をローンチした企業だ。同ブランドは食習慣、栄養、睡眠、ストレスなど生活習慣をベースに、皮膚老化原因を「糖化(Glycation)」「酸化(Oxidative stress)」「炎症(Inflammaging)」に分類し、それぞれに対応する細分化されたエイジングケア商品を提供している。

出典:kared公式サイト

一方、ASCCは2021年9月にローンチしたビューティ&ライフスタイルブランド「Alternative Stereo(オルタナティブステレオ)」を運営する企業だ。同ブランドは韓国セフォラが主宰した、次世代を牽引する新興ブランドを選出する「2022 Next K-beauty」で、メイクアップ部門ファイナリストに選ばれている。2022年当時、Alternative Stereoはローンチから1年足らずのブランドであったが、従来のビューティ市場にはなかった独創的なヴィンテージ感覚のブランドカラーや製品で大きな注目を集めていた。加えて、優秀な品質、独創的なコンセプトと斬新なアイデア、誠実につくり込まれたストーリーなどが評価され、ファイナリストに選出された。

出典:Alternative Stereo公式サイト

アモーレパシフィックグループでは、こうした新興ブランドへの投資のほかに、2023年5月にはゼロプラスチックの実現をテーマにしたプログラム「A MORE Beautiful Challenge」を通じて、プラスチック削減・代替・再活用技術を保有するスタートアップ5社の募集を開始するとしている。今後、選定企業にはアクセラレータープログラムが提供される予定だ。

ビューティスタートアップに対する大手ブランドやメーカーのさまざまな動きがあるなかで、ロレアルの取り組みには高い注目が集まっている。そこから刺激を受けて、韓国国内における大手企業とスタートアップの協力関係はより深化していくと予想される。

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image: Postmodern Studio via Shutterstock

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