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「盛る」はテクノロジーが支えてきた、女子のモノづくりカルチャー【久保友香氏インタビュー】

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日本の美人像の歴史的変遷過程や、女性が元の姿を変化させ新しいアイデンティティを確立するための技術「シンデレラテクノロジー」を研究し続けるメディア環境学研究者の久保友香氏。なかでも、「盛り(もり)」というカルチャーをテーマにした研究や考察は興味深い。日本発祥のカウンターカルチャーである「盛る文化」とテクノロジーの関係性を理解することから、それはスタートする。

美容の世界において「盛る」という言葉は、通常「髪を盛る」、「メイクを盛る」というような文脈で使われ、「多め(もしくは過剰)にオシャレする」「普段以上に派手に着飾る」というようなニュアンスで理解されている。

女の子の盛る行為を支援するシンデレラテクノロジー

しかし、その解釈のままでは、その言葉を使う女子たちのインサイトを見失う。久保氏は「盛る」を、いつも以上におしゃれをするといった美の基準を指すのではなく「所属するコミュニティの変化する基準に従って、(美容整形とは異なり)可逆的に身なりを作り込むこと」と定義する。また、日本の女の子たちの盛る行為を支援する技術を総称して、「シンデレラテクノロジー」と呼んでいる。

「盛る文化」とシンデレラテクノロジー
研究者として知られる久保友香氏

「シンデレラというと王子様を求めているという印象があるが、『盛り』のモチベーションは異性から美しく見られたいとか、モテたいという生物的な欲求には根差していない。社会性や精神性を表現した美意識であると同時に、コミュニティや関係性を維持・発展させるためのヴィジュアル・コミュニケーションの手法のひとつと理解した方が正しい。さらに言うならば、日本の女の子たちから生まれたモノづくりカルチャーのひとつでもある」(久保氏)。

「盛り」がモノづくりカルチャーであるというのは重要な示唆だ。そこを理解するために、その「盛り」がコミュニティ維持のためにどのように行われ、各時代のテクノロジーがそれをどう支えてきたかの歴史を振り返りたい。

ポケベルが境界線を崩して広げた女子高生コミュニティ

盛るという言葉が巷で使われ始めたのは2002年頃だが、久保氏は1993~1994年頃から盛る文化を育てる技術的状況が日本に生まれていたと指摘する。例えば、本来ビジネスユース向けに発売されたポケベルは、90年代には若者層が好む画期的な通信手段のひとつになった。そこで新しい技術であるポケベルが、女子高生たちの人間関係の境界線を崩し始める。

「ポケベルの普及で、学外の友達とコミュニケーションできる機会や手段が増え、その結果、おもに放課後に、渋谷などの街を中心として、関心や気が合う仲間同士が集まる新しいコミュニティが形成されていった」(久保氏)。

ポケベル (Photo by AFS via shutterstock)

また、1995年に登場したプリクラも新しいコミュニティの強化に一役買うことになる。プリクラは、アトラスとセガが開発した「プリント倶楽部」、及び類似機能を持つアーケードゲーム機の総称で、ブースで撮影した写真をその場で加工し、複数のシールに出力する機械だ。

当時の女子高生たちは、プリクラで撮った写真を貼って保存するための「プリクラ帳」を携帯し、自分や友達の写真はもとより、異なるコミュニティに属する他人のものまでコレクションしていた。つまり、インターネットやSNSが生まれる以前の時代から、ポケベルやプリクラは新しいコミュニティを強化し、インフルエンサーの存在を拡散させる技術だったといえる。こうしたコミュニティ間の差異、またメンバー同士が仲間を識別するサインとして発展したのが「盛る文化」だと、久保氏は説明する。

近年のプリクラ(プリントシール機)
(Photo by Ned Snowman via shutterstock)

渋谷に日毎に集う女子高生たちは、『イケている格好』をしているかどうかで仲間を見分けていたため、そのコミュニティに入りたい学生は、毎日その場にいって同じ格好をする必要がある。日焼けやルーズソックス、ミサンガといった、お金もかからず自作が可能で、校則にも抵触しないというアイテムをとりいれ、それが仲間かどうかを見分ける基準となった。その際、女の子たちは、全国展開しているようなブランドにもないし、発行部数の多い雑誌にも載っていないアイテムを、渋谷にしかない小さな店で見つけたり、さらに自分でカスタマイズしていった。そこには、その後の盛り文化に値するものがある。

1995年以降、渋谷を中心とした若者たちのゲリラ的な「盛るコミュニティ」とそのカルチャーは、ストリート系雑誌など既存のメディアを通じて吸い上げられ、固定化、拡散されていく。その一方で、盛るには「校則に抵触しないレベルで、本来の自分を見失わない程度に身を変化させる」(久保氏)という特徴もあるのだが、ゲリラ的に盛りを楽しんでいた層はまた異なるシーンで自分たちのカルチャーを発展させていった。

「かつて盛りを担ってきたような子たちは、サークルを作って仲間内でDTPやデジタル技術を駆使し、プリクラ写真を素材にしたパンフレットなどを自作するようになった。校則があるからリアルでは制限があるが、写真の上では思いっきり派手になろうと、例えばストロボをたかれるとちょうどいい具合に派手に映るメイクをするような盛り文化が渋谷というリアルな街を拠点に発展していく」と久保氏。

これらの現象が見られたのは2003~2008年頃。リアルを中心とした盛り文化の遷移だが、並行してバーチャル世界でも変化が起きていたという。

Photo by LoboStudioHamburg via pixabay

バーチャル世界で加速する、モノづくりとしての「盛り」

90年代にはガラケーが普及し、1999年にはiモードが登場。その後、「前略プロフィール」、「デコログ」など、若い女の子たちから人気を集める携帯ブログサービスが登場する。特にデコログの特徴だったのが、趣味や嗜好というカテゴライズを排除した点で、純粋にアクセス数に準じた女子たちのヒエラルキーが生まれることとなった。

「デコログ」の画面
出典:デコログ

久保氏は、リアルな世界においては東京、渋谷などの都市部などで盛る文化が発展してきたが、デジタル領域では地方在住者からの影響が大きかったと分析する。

「デコログなどでは当初、ストリート系雑誌に出ているような渋谷で目立っているランキング上位にきていたが、やがて地方の普通の子が人気を集め始め、その子たちをリーダーとする新たなカルチャーが生まれていった。実際に当時からデコログの投稿を観察していたのだが、そこで盛んだった話題はメイクやファッション関連。なかでも、すごく大きな『でか目』にしたり、ツケまつげを自作したりするアイメイクのコミュニケーションが盛んだった」

久保氏が「盛るにはモノづくりの要素がある」と確信したのはこの時だ。自作まつげや独自のメイク法、遡ればプリクラの映り方や自身を表現するための自作ファッションなどは、女の子たちが互いを認め合うために自分自身を素材として加工したものだ。

「化粧には、メイクのように男性を意識した生物学的な要素と、スキンケアなどヘルスケア的な要素があるが、盛るという文脈では、それらがモノづくりであるという従来の解釈とはまた異なる意味合いもある」と久保氏が語るように、各コミュニティでは努力によって自身を加工した成果を、互いに評価しあうという「女の子たちの力学」が働いていることになる。いまでは動画で盛る過程(例えば、すっぴんから完成まで)が公開されることもしばしばだが、男性を意識したものであればありえないだろう。それらも、一般的な美の解釈とは異なる力学が盛る文化に内包されている証拠となる。

海外市場における「盛り」の可能性

盛りは日本独自の文化であり匠の世界に近い、と久保氏はいう。一方、海外で日本の「かわいい文化」を好きな女の子たちには、このモノづくりの精神に共感している人々が多いとも分析する。

「自然美の話ではなく、想像美の話だ。つくったものが評価されるというところが、海外でも魅力になっているように思える。盛りは努力で評価し合える世界で、国境を越えていく様相も見せている」(久保氏)。

例えば、(韓国で「美少女」を意味する語から派生した)オルチャンメイクは韓国であまり流行していないが、日本の女の子たちが盛りのものさしで評価し、字幕つきで解説・拡散するなどコミュニティ形成のために尽力するといった、いわば久保氏の言葉を借りると「インターネットがもたらした、盛りの日韓連合」のような新しい状況さえ生まれている。

美容業界が「盛る文化」に注目すべきインサイト

なお、この盛りの文化の特徴は、モノづくりであると同時に、メインストリームに対抗する「カウンターカルチャー」でもあることだ。「大人には儲けさせない」という独特の精神世界がそこにある。盛りの担い手たちは、メディアが大きく取り上げるなどの市場ができるやいなや飽きてしまい、また他の盛る文化を発生させる。

「盛りの担い手たちは、権力が嫌いで大人に興味を持たれると次に行ってしまう。企業がバックについているかどうかを見分ける嗅覚も鋭い。そもそも、彼女たちは個性やコミュニケーションの差異を求めており、そこに大人が介入してくれるのを常に回避するように立ち回る」(久保氏)。

テクノロジーが支えてきた盛る文化の変遷

メディアや美容業界が彼女たちのインサイトをつかまえ、分析をしはじめてしまうと、また彼女たちは新しいトレンドにうつる。その変遷を支えてきたのがテクノロジーだ。

ガラケーからスマートフォンへとハードウェア技術が進化することで、盛る対象も目、顔、全身、そしてシーン全体へと変化している、と久保氏はいう。背景にあるのは「カメラの解像度の向上」という技術的要因だ。より広範囲を高精細に撮影できるようになったため、女の子たちのヴィジュアル・コミュニケーションの対象が広がったというのがその理由だ。

一方で、フェイスブックやインスタグラムなどSNSの発展により、同じコミュニティに属したり、もしくは同じ指向性を持つであろう仲間を探せるデジタル空間が広がったことも見逃せない。

ARを使ったメイクシミュレーションアプリ
「You Cam メイク」
出典:PERFECT 


その意味で、ARを使ったメイクシミュレーションが「盛り」を求めて試行錯誤するツールとして愛用されていくのではないか、と久保氏は予想する。

「女の子たちは好奇心が強く、自分たちにとって良い新しい技術があれば、積極的に取り入れ使いこなしていく。その結果、そこに新しいトレンドが生まれる。例えば、カメラの解像度が低かった時代には顔を気にしていたが、高まるとシーン全体を気にし始める。つまり、細部から調和へと関心が変化している」(久保氏)

女の子たちの未来のインサイトを読み解くのは難しいが、テクノロジーならある程度使われ方などの予想はつく。技術的動向を読み解き先手を打つのは、美容業界にしろ、ファッション業界にしろ、メーカーの商品開発やマーケティングの担当者にとって非常に大事なことであり続ける。しかも女の子たちは取り込まれまいと反発するだろうが、トレンドを生み出す技術や仕組みをつくるのは大人であり、企業側がその構造や力学へ着目することも必須である、と久保氏は言及する。

そのときどきの盛り文化というトレンドを生む源泉が、そもそもヴィジュアル・コミュニケーションであるという解釈も、美容業界にとっては理解を深めるべきインサイトとなる。久保氏が指摘するように「女の子たちは今後も、面倒いらずで、スピーディーにコミュニケーションを取ることができるヴィジュアル・コミュニケーションの方法を採用し続ける」はずで、企業がその新しい方法が何かを予測できれば、マーケティング活動の効率も広がるだろう。過去にデコログやSNOW、Instagramがそうであったように、盛りを誘発させるデジタルツール・サービスとは何かを悩むべきということになるだろうか。

最近では、TikTokが若者へのマーケティングツールとして威力を発揮しているが、これも盛りの文脈で考えれば合点がいく。ヴィジュアル・コミュニケーション、モノづくり(短い動画やダンスなどのスタイル)、コミュニティという、若者を刺激する盛る文化と同じ要素がすべて盛り込まれているのだ。

「興味深い現象としては、モノづくりとしてのコミュニティとしての盛る文化に参加する男性も増えている。直近で代表的なのは、Matt君こと桑田真樹氏(元巨人軍・桑田真澄氏の次男でモデル。つくり込んだ顔をSNSに投稿することで話題)。今後、盛る文化のリーダーになるのは男性である可能性もある」

盛る文化は今後も日本、もしくは世界のどこかであるトレンドが発生しては盛り上がり、消え、また次のトレンドが発生することが繰り返されるが、少なくとも「盛る先進国・日本」では脈々と発展を遂げていくことは間違いない。今後はますますテクノロジーが先行し、美容業界でトレンドを生み出す源泉となりうる「盛る文化」をせめて同時進行で解明していくことはできるかもしれない。

「盛り」の全貌は、久保友香氏の著書
『「盛り」の誕生 - 女の子と
テクノロジーが生んだ日本の美意識 -』
(太田出版)
に詳しい。

Interview&Text: 河 鐘基(Jonggi HA)
Top image: Club4traveler via shutterstock

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