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シャネルが初のOMO型ストアをNYでオープン。スマホで完結する顧客体験のすべて

◆ English version: Smart shopping at Chanel’s first OMO store @ NY
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シャネルが2019年1月下旬、NYのSOHO地区に、初となるコスメトライアルショップ「Atelier Beauté CHANEL(アトリエ ボーテ シャネル)」をオープンした。荷物はすべて店内のロッカーに預け、満足いくまで商品を試す。手にするのは、店内の体験でカギとなるスマホのみだ。

2018年から、インスタグラム活用やラグジュアリーECサイト、ファーフェッチへの出資などデジタル施策をつぎつぎと打ち出しつつ「顧客とシャネル製品の接点をつくる最善の方法を提供できるのは店舗」という姿勢を貫く同社が、そのポリシー通りに最先端のストアをNYにオープンさせた。

SOHO地区は高級ブティックが軒を連ね、近年ではD2C関連の注目ショップが次々に実店舗を構える人気ショッピングエリアだ。アトリエ ボーテ シャネルはそのエリア内にある。小さな看板が出ているだけの玄関口でインターフォンを鳴らすと、扉が開き、階段で2階にあるショップへと進む。

上がった先の入り口には、購入商品を受け取る窓口がある。後述するが、店内にいる間にスマホサイトから注文した商品はここで帰り際に受け取ることができる。その先を進むとカウンターがあり、受付担当の女性に迎えられる。店内では荷物はすべてロッカーに入れることが推奨されており、コートも預かってくれる。

ロッカーには「No.5」などそれぞれ
シャネルをイメージする名称
がついている

荷物をロッカーに入れたら、スマホだけを持ちカウンターに腰掛ける。ここではスマホから専用サイトに行き、マイページへの登録作業を行う。スマホを持っていない人には紙のカルテが渡され、店内を回って気になった商品があればそこに記入していくことになる。

登録が終われば、あとは自由に店内を見て回る。ルールは、次の写真の通りだ。希望があれば店内のスタッフが製品を案内するが、基本的にはすべて「セルフ」で試し、心ゆくまで店内でのトライアルを楽しむことができる。

スキンケア、アイメイク、リップなどカテゴリ別に分かれたゾーン

トライアルスペースはいくつかのゾーンに分かれている。入ってすぐに目にするのが、クレンジング&スキンケアゾーンだ。ここには洗面台やタオルも備え付けてあり、実際にクレンジングアイテムを使い、メイクを落とした後にスキンケアアイテムを試せる。そのすぐそばにはファンデーションなどが置かれたコーナーもあり、すぐにベースメイクにも取りかかれる。

ベースメイクコーナーの右隣には、チークやハイライトなどを陳列。

その後マスカラやアイライナーなどが置かれたアイメイクアップコーナーを通り奥までいくと、圧巻のリップコーナーにたどり着く。

店内にはいろいろ目を引くポイントがあるが、特に注目したいのが徹底した衛生面への配慮だ。同じくニューヨークにある人気コスメブランド「Glossier」の旗艦店でも、試し塗りに使用するアプリケーターは使い捨てを用意しているが、シャネルのリップコーナーでは、1回分の使用量をプラスチックケースに入れた状態で提供するなど、より強いこだわりを見せる。

店内にはメイクアップアーティストが常駐しており、75〜100ドル(約8,400〜1万1,190円)で、プロの手によるその場でのメイクアップサービスが受けられる。また、70〜95ドル(約7,835〜1万6,300円)で、スキンケアを含む1対1のフルビューティレッスンも受講できる。アーティストによる電話での15分のフォローアップサービスも含むという。ともに事前予約が必要だ。

また、同店では肌タイプに応じて最適な商品を提案するため、2つの有料スキンケアサービスを提供している。こちらは予約不要でその場で受けられる。一つは「Complete Your Routine」と呼ばれるサービスで、自身に最適なスキンケア法はわかっているが、使っている商品を変えたいなどの悩みを持っている顧客に対してアドバイスを送る。その際、手持ちアイテムに加えたり入れ替えたりするとよいと思われるサンプル品が3つ付く。価格は12ドル(約1,340円)。

もう一つは、まったく新しいスキンケアを探している顧客向けの「Create Your Routine」。こちらはサンプル品が5つ付いてきて、18ドル(約2,015円)だ。どちらのサービスも対話を通じて、顧客のライフスタイルや肌悩みを聞き出した上で、一人ひとりにパーソナライズした適切なアドバイスを提供する。サービスを受けた後にオンラインでフルサイズ商品を購入すれば、そのトータル価格に支払ったコンサル料を充当してくれる仕組みだ。フルサイズアイテムを購入するモチベーションを高める。

「気に入った」も「買いたい」も店内からスマホで操作

このアトリエ ボーテ シャネルのユニークな点は、スマホ一つですべてが完結するところにある。店内ではトライアルした商品を随時スマホサイトでチェックしながら、「気に入った」「気に入らなかった」などを登録していける。

その場で購入を希望する場合には、スマホサイト上でショッピングカートに入れておき、帰り際に受け取ることもできる。もちろん、自宅配送も可能だ。店内で決めきれなければ、あとからサイトを見返しゆっくり検討してもよい。店内にいる間中は、最後まで手ぶらでただひたすら「お試し」だけに集中すればよく、買い物体験を大きく変える仕組みになっている。

写真左のハートマークは気に入ったとき
に、気に入らなかった場合は真ん中の亀
裂が入ったハートを押す。購入を希望
する場合は右のカートマークを選ぶ

入り口/出口にある受け取りコーナー。
店を出るまでに準備され、名前を伝え決済を
すれば持ち帰れるようになっている

先入観を捨て、好みの香りを見つけ出す

数ある体験のなかでも一番印象的だったのが、シャネルが取り扱う香水のなかから、好みの香りを見つけ出す「ATELIER PARFUM CHANEL」。照明が落とされた空間には、1回のセッションで数人だけが入れる。そこにあるのはズラリと壁に並んだボトルと、1〜47まで番号が振られた花形のオブジェだ。どれも名前はない。

ここでは「商品名」という先入観抜きに本当に好きな香りを探し当てるために、47種類ある香りから好みだと思うものを3種類まで絞り込んでいく。47種類の香りは、「AROMATIC」「WOODY」などカテゴリごとに分類され、並べられている。花柱にあたる部分がスティックになっており、それらを引っ張りスティックの先端に染み付いた香りを嗅ぎ、好みか、そうでないかを判断していく。

そして、ここでもスマホが必要だ。部屋に入るとスタッフから、アトリエ ボーテのサイトから香りのページにいくよう指示される。そこで好きな香りの番号を入力していくのだ。

ページ上にある花の絵柄と付随する番号は、実際の並び順と一致しており、気になった香りの番号をタップすると、使用されている香りの原材料や、何にインスパイアされて作られたものかといった情報が簡潔に表示される。顧客はそれらの情報もヒントにしながら、自分の好みの香りを探し当てていく。

このページを訪れるには、スタッフが口頭で伝えるパスコードを入力する必要がある。ほのかな光のみで照らされた部屋のなかで、そこに居合わせている数人だけに与えられた特別な体験という一連の仕掛けは、まるで“秘密を共有しあった同士”といるような、不思議な一体感を生む。全員の気持ちが徐々に高揚していくのがわかる。

47種類あるうちから3つに絞る。
番号は何度でも入力し直せる

すべてを嗅ぎ終わり、3つまで絞ったらスタッフに番号を伝える。するとそれぞれの番号が振られたボトルを取り出し、香りの原材料や産地など商品にまつわるより詳細な情報を教えてくれるとともに、それぞれの匂いを染み込ませた紙を用意してくれる。

最後にその中から一つを選ぶとしたら? と聞かれるので番号を伝える。その香りを、スタッフが陶器で作られたコインサイズの小片に染み込ませ、両端から出ている紐を手首に巻き付けリストバンドにしてくれる。

香りは5〜7日程度持続するといい、着け続けて自身の体臭と混じり合った状態を体験してから、買うか買わないかの判断をしてほしいと伝えられる。選んだ3つの香りはスマホから自動登録されるので、5〜7日経って購入を希望する場合にはオンラインで注文できる。同店の大きな目的が「トライアル」と「体験」であり、じっくり時間をかけて購入の判断をしてほしいという姿勢が、ここでも感じられる。

インスタ映えスポットも用意

店内には、ほかにシャネルがインスタグラム上でのオンラインコミュニティWE LOVE COCO内で特に人気がある商品や、おすすめ品を紹介するインスタ映えスポット「COCO LAB」がある。セルフィーに適したライティングが特徴だ。ここではワークショップも行われるという。

顧客への「より深い理解」を得たその先に

その場にいた顧客の多くが、この店内で1時間近く滞在していた。荷物をロッカーにしまい、コートも脱いだ状態で店内にいる時間はとてもリラックスできる。スタッフの目を気にすることなく自分のペースで心ゆくまで試せるので、これまでとは違うユーザー体験が得られるからだろう。滞在時間が長くなればなるほど、結果として購入率も上がるはずだ。

スマホの活用は、顧客、ブランドともに体験を変える。美容部員と対面で商品を試し、気に入らなかった場合にそれを明確に伝えるにはためらいがあった顧客でも、スマホからであれば誰にも見られることなく正直に好き嫌いを入力できる。ブランド側は、店舗での体験を通してスマホに集約された顧客データを得ることになり、購買履歴や肌タイプなどのデータと、こうした嗜好データを組み合わせれば、次の商品開発や販促に役立つはずだ。

また従来は、店頭で気に入ったものがあっても、その場ではなくオンラインでの購入希望の場合、自身のスマホで撮影したり、商品名を控えたり、スタッフが手渡してくれたメモを保管するなどのひと手間がかかった。そこで最終購買に至らず欠落する顧客も多かったはずだ。スマホで一元管理できれば、その機会損失を防げる。

ここで作られたプロファイルは同店に限らず、シャネルの他店舗で購入する際も顧客データとして参考にされるという。このアトリエ ボーテ シャネルは、シャネルのリアルからデジタルワールドへの入り口でもある。店舗に来た顧客は、素晴らしい体験のために登録をいとわない。一度登録すれば、シームレスな買い物体験を重ねられるようになる。シャネルがこれほどまでにシームレスな購入を追求したOMO施策をいち早く実現させたことは、競合の高級ブランドにも大きな影響を与えるはずだ。

Photo&Text:公文紫都 (Shidu Kumon)

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