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Z世代の支持で急成長の米国e.l.f. Beautyにみるソーシャルメディア戦略とM&A

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e.l.f. Beautyは、クリーンビューティのぶれない理念とデジタルマーケティング戦略を駆使し、急成長を遂げた米国発のビューティブランドだ。Z世代やα世代からの強い支持を得て、2019年の業績不振を乗り越え、世界的な注目を集めるブランドとなった。近年の成長を支える要因がデジタル戦略の強化と、スキンケア市場でのシェア拡大を目的としたM&Aだ。


e.l.f. Beautyの進化とデジタル戦略

e.l.f. Beautyは、2019年の業績不振をきっかけにブランドを再構築し、わずか数年で劇的な成長を遂げた。

出典: e.l.f. Beauty Annual Report 著者分析

成長のカギとなったのは、「クリーンビューティ」哲学の追求とデジタルマーケティングに対する強いコミットメントである。そのブランド理念は、「ポジティブで包括的、かつアクセスしやすい美しさを提供する」ことで、とくにZ世代やα世代の消費者層の共感を呼んだ。これらの世代は、環境保全や倫理に対する意識が高く、環境へのダメージを極力減らしサステナブルな製品づくりをうたうクリーンビューティやクルエルティフリー、ヴィーガン製品に対する需要が大きい。

Z世代が信頼を寄せるクリーンビューティ、透明性、手頃な価格

クリーンビューティとは一般的に、自然環境や人体の健康に影響を及ぼす可能性のある有害な成分を含まないことに加え、エシカルに調達された原料やサステナブルな容器を使った美容製品を指す。e.l.f. Beautyは、早くからこの領域に注力し、製品ライン全体でクルエルティフリーとヴィーガン認証を取得している。これがZ世代やα世代に強く訴求し、ブランドの急成長を支えた一因となっている。クリーンビューティを志向する消費者層の拡大に伴い、同社はより幅広いマーケットへの浸透に成功した。

また、e.l.f. Beautyのデジタルマーケティングにおける特徴的な要素としては、TikTokやInstagramなどのSNSを積極的に活用し、Z世代やα世代にアプローチしたことが挙げられる。なかでも2019年にTikTokで展開した「Eyes. Lips. Face.」キャンペーンはバイラルヒットとなり、短期間で数百万回の再生回数を記録した。このクリエイティブは米クリエイティブエージェンシーのMovers+Shakersによるもので、#eyslipsfaceのハッシュタグチャレンジとして制作され、約15秒で簡単に表現できるフォーマットで設定されている。

ビートのきいたオリジナル楽曲にあわせて、顔のパーツ、たとえば、唇ならリップカラーをのせて口をすぼめる動作だけでユーザーがショート動画を作成・投稿でき、ハードルも低かったことから多くのユーザーが参加することとなった。美容インフルエンサーのジェームズ・チャールズ氏や、俳優のリース・ウィザースプーン氏、著名司会者のエレン・デジェネレス氏などが自発的に参加し、そのフォロワーたちが追随したことで一気に広まった。

下記は、Movers+Shakersがこのハッシュタグチャレンジをケーススタディとしてまとめたものだ。

あわせて、e.l.f. Beauty CFOのマンディ・フィールズ(Mandy Fields)氏とCMOのコリー・マーチソット(Kory Marchisotto)氏はともにTikTokライブに登場し、フォロワーからの質問に自ら答えている。マーケティングの最高責任者に加え、財務戦略の最高責任者がユーザーと直接対話し、彼らが求めているものを知り、消費者の定量定性データを集めてフィードバックループを構築することで、マーケティングをコストではなく、透明性の提示やブランドとの距離感を縮める施策に昇華させている。このようなマーケティング施策により、消費者はe.l.f. Beautyを単なる化粧品ブランドではなく、価値観に共感できる企業と認識し、長期的なロイヤルティを形成するようになった。

さらにe.l.f. Beautyは、ゲームのライブ配信を中心とするプラットフォームTwitchで「Game-Up」プログラムを立ち上げ、ゲームとメイクアップを組み合わせた独自のマーケティング活動も展開している。おもに女性ゲーマーに焦点を当てたこの施策は、ゲームコミュニティ内でのエンゲージメントを高め、メイクアップ製品の新たな訴求ポイントを創出した

こうした双方向のコミュニケーションが、消費者のエンゲージメントを強化し、ブランドへのロイヤルティをさらに高めることにつながっている。デジタルマーケティングのうまさで知られるe.l.f Cosmeticsだが、その背景には、クリーンビューティや透明性といったポリシーをぶらさないブランドとして信頼関係があるからこそキャンペーンへの共感も高くユーザーが参加しやすいといった背景もあるだろう。

その後、新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより消費行動がデジタルに移行するなかで、e.l.f. BeautyはEコマースとSNSを連携させた戦略を強化し、オンラインでの消費者との接点を深めた。この取り組みにより、パンデミック期間中も成長を維持し、デジタルマーケティングを活用した顧客ロイヤルティの強化に成功した。

「スピード・オブ・カルチャー」のアプローチ

e.l.f. Beautyは、「スピード・オブ・カルチャー」と称されるアプローチを採用しており、常に市場の変化やトレンドに迅速に対応することで、Z世代の支持を獲得している。

その一例として、2023年の俳優ジェニファー・クーリッジ氏を起用したスーパーボウル広告ではわずか3週間で制作・放映し、その時期のトレンドや話題のトピックスをタイミングよく取り入れた迅速なマーケティングを実現した。また、TikTokだけではなく、PinterestBeRealといった特徴やユーザー像が異なるソーシャルメディアプラットフォームを積極的に活用している。BeRealでは製品開発のプロセスや社内の様子といった舞台裏コンテンツを共有し、ユーザーはe.l.f Cosmetics製品の使用シーンを共有することで参加するなど、双方向のコミュニケーションが好評だった。

2024年度にはマーケティング予算を売上高の25%に引き上げ、デジタルチャネルへの投資を大幅に増やした。このような取り組みで、e.l.f. Beautyはオンライン上でのブランドプレゼンスを高め、変化する市場環境に素早く対応しながら、消費者の信頼と共感を深める戦略を進めている。

とはいえ2024年の夏以降は、e.l.f. Beautyの今後の成長に陰りがみえるとして、マーケティング投資の効率性が問われ、2023年以降右肩上がりだった株価は、2024年7月から10月の3カ月で、39.2%の急落を記録。業界全体の下落率が13.9%であることや、S&P500の5.6%の上昇や消費者必需品セクター全体の4.7%の成長を考えると大きく見劣りしている。

e.l.f. Beautyの株価推移
出典:Yahoo! Finance

今回の下落のおもな要因は、企業の成長ペースが市場の期待に届かなかったこと、とくに9月に発表した決算報告の今後の見通しが、市場の予測よりも弱いパフォーマンスであったことによる。これまで50%を超える収益成長を記録してきたものの、2025年会計年度について25〜27%の収益成長と予測したことや、マーケティング費用を収益よりも速いペースで増やしており、利益率が低下していることなどから、広告費の支出が非効率であるのも要因のひとつとされている

25〜27%の収益成長は美容業界ではトップクラスといえるが、それゆえ、投資家の期待も高い。e.l.f. Beautyはそれに応えるように、これまでのカラーメイク製品が中心だったポートフォリオを拡大するためのM&Aも進めていた。それが2023年のNaturium(ナチュリウム)の買収といえる。

Naturium買収によるスキンケア市場でのプレゼンス拡大

e.l.f. Beautyは、スキンケア市場への本格的な進出を目的として、2023年にスキンケアブランドNaturiumを3億5,500万ドル(約540億円)で買収した。

Naturiumは、2019年にブランドインキュベーターのThe Centerによって設立され、高機能かつ低価格帯のスキンケアブランドとして、おもにミレニアル世代に支持を得ていた。このブランドポジションは、e.l.f. Beautyの「高品質を手軽に」というコンセプトと合致し、かつ、Naturiumはe.l.f. Beautyと同様にクルエルティフリーおよびヴィーガン製品を展開しており、この買収によって両ブランドの補完効果が最大限に発揮されるとみられる。Naturiumの買収で、e.l.f Beautyの売上高に対するスキンケア事業の割合は18%に達し、若い世代に支持されるクリーンビューティ企業としてのポテンシャルをますます高めたM&Aとなった

一時的な株価の下落はあるものの、一貫したブランドポリシーが、卓越したデジタルマーケティングによって若い世代に浸透しているe.l.f Cosmeticsは、顧客ロイヤルティプログラムでもパーソナライズ体験を提供し、顧客との信頼関係の面では盤石のようにみえる。Naturiumを傘下に迎え、よりユーザーとの信頼感を強固にしつつも、同社の掲げる「スピード・オブ・カルチャー」で移ろいゆくトレンドに柔軟に対応する手腕が、2025年以降も問われている。

Text: 秋山ゆかり(Yukari Akiyama)、BeautyTech.jp編集部
Top image: Chie Inoue via Shutterstock