【Cosmetic 360 2024②】美容におけるウェルエイジングと持続可能性の技術イノベーション
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「Cosmetic 360 2024」の現地レポートの2回目は、ウエルネス観点での長寿(ロンジェビティ)と持続可能性を大テーマに、健やかで穏やかなエイジングの実現に向けた新開発の原料やユニークな処方、顧客体験を拡張する製品など、来場者の注目を浴びたソリューションの数々を紹介する。
注目を集める美容分野におけるLONGEVITY-SUSTAINABILITY(長寿-持続可能性)
2024年10月、フランス・パリで開催された化粧品関連の国際展示会「Cosmetic 360」では「長寿(ロンジェビティ)と持続可能性」をメインテーマに、世界各国からの企業やスタートアップによる新技術や新開発の原料、製品などを展示するブースが数多く設けられた。
ここでいう“長寿と持続可能性”とは、単に肌の老化を遅らせたり、あるいはリバースさせる(若返らせる)ことに貢献するテクノロジーだけではなく、製品、機器、包装のライフサイクルを延長するなどの技術革新を包含する。グローバルにおいては、なかでも“長寿”が化粧品企業にとって不可欠なキーワードのひとつになっており、資源保護、製品のエコデザイン、包装資材の耐久性、設備の予知保全など、環境に配慮したサステナビリティ(持続可能性)と統合され、あらゆる次元でイノベーションを刺激している。
また、今日の長寿をうたう化粧品は、細胞再生、抗老化、ゲノミクス(遺伝情報の研究)、プロテオーム(生体内に存在するタンパク質)、エピジェネティクス(後成遺伝学)などをもとに、原料・成分が生体に作用するメカニズムをより深く理解することで、肌の美しさはもとより、心身の健康の最適化も目指しており、自然な方法、あるいはオーセンティックな方法で老化を予防したりケアして健康に年を重ねる「ウェルエイジング(well-aging)」という発想も浸透しつつある。
中国漢方ベースのウェルエイジング化粧品原材
その一例として、30年以上の歴史を持つ仏バイオテクノロジー企業Greentechが開発した漢方にもとづく原材料「TIMELYS®」が挙げられる。TIMELYS®は中国における適正農業規範に従って栽培され、中国薬局方に認定されたシサンドラ・チネンシス(チョウセンゴミシ)の果実から抽出したもので、細胞レベルで遺伝子や複数のメカニズム(オートファジー、ミトコンドリア活性、炎症など)に作用するとされ、表面レベルでは健康な肌の臨床的徴候(微小循環、輝きなど)を改善し、潤い、ブライトニング、なめらかさ、しわの減少などの効果が臨床試験により認められており、肌の健康寿命を延ばすとする。
シサンドラ・チネンシスは、9月から10月にかけて中国で伝統的な手摘みで収穫され自然天日干しされる。化粧品原料への応用により、生産者の収入向上にも役立つという。日本では化粧品分野でも漢方が使われており、資生堂や日本メナード化粧品が「霊芝(レイシ)」を製品に使用しているが、近年、欧州企業も中国漢方原料に注目しており、TIMELYS®は今までにない長寿の効果が期待されるとしてアワードで特別賞を受賞した。
ベルギー発、メラニン合成をコントロールできる成分
また、ベルギーのバイオテクノロジースタートアップ Kokumaは、肌のメラニン合成をコントロールしてスキントーンを調節する2種の特許成分(原料)を発表した。1つはメラニン色素の量を減らすTonasulike-Dで、肌の凹凸を減らし、シミの消失や加齢による色素沈着を目立たなくして、より明るく、なめらかで均一な肌トーンを実現するとうたう。
同社によると「ブライトニング・シミ対策(depigmentation)市場では、従来、いくつかのチロシナーゼ阻害剤に依存してきたが、最適な効果を発揮できないことも多く、阻害剤の種類や濃度によっては安全性の点で懸念もあった。これに対し、Tonasulike-Dは独自の作用メカニズムを備えた自然由来の代替品で、安全で効果的な結果をもたらす」とされる。同社テストでは、紫外線下で、Tonasulike-Dで処理された皮膚組織片と処理されていないものを比較すると、未処理のものは83%多くメラニンを生成したとする。肌のブライトニング製品の需要が高いアジア市場への導入を狙う。
もう1つはメラニン色素を増やす原料Tonasulike-Pだ。メラニン色素はシミの原因として敬遠されがちだが、肌はメラノサイトでメラニン色素を生成することにより、紫外線を吸収して肌内部の細胞の損傷を防ぐ働きをもつ。Tonasulike-Pは、太陽が当たらない環境でもメラニンを増やせるため、紫外線による細胞の老化を防ぎつつ健康的な肌トーンを得られ、かつ日常的に肌内部を守ることができる仕組みだ。同社テストでは、Tonasulike-Pで処理した皮膚は、紫外線下の皮膚と比べてメラニン含量が2倍増加することが証明された。欧州の一部にみられる日焼けをしたような肌トーンを好む需要を見込む。
Kokumaは、ロレアル、エスティ ローダー、ピエール ファーブル、サノフィといった大手美容・製薬企業で長年の経験を持つ科学者やバイオテックのエキスパートが集まり2022年に創業された。AIベースの研究、皮膚細胞生物学、メラニン合成に関する深い理解をもとに、同社の特許成分で新たなビューティスタンダードの確立を目指す。
香りで感情を整える神経科学ベースのフレグランス
また、ウェルビーイングの観点から、化粧品と脳や感情との相互作用を探求する「ニューロコスメティクス」にも焦点があてられた。ニューロコスメティクスとは、美容製品に含まれる香りなど特定の成分がユーザーの感情や幸福感などに影響を与える設計の化粧品をさす。仏スタートアップAMOIは、感情に作用することが神経科学的に証明されたユニセックスの香水を提案。同社のフレグランスは、天然成分85%で、100人以上のモニターでテストして感情の変化が確認された香りだ。
心を落ち着けたい時は青色の「リラックス」、集中したい時はライトグリーンの「フォーカス」、元気を出したい時はオレンジ色の「エネルギー」、笑顔で幸福な気持ちに満ちたい時はイエローの「ジョイ」という4種類をラインナップし、ユーザーそれぞれが各自の目的にあった香りをまとうことで、自分自身で感情を整えることに主軸を置く。
調香師が独自の嗅覚と感覚で香りをクリエーションする伝統的なフレグランスの製法とは異なり、脳波の変化の測定に裏付けられた感情を動かす香りを開発し、人々のウェルビーイングをサポートするとして、AMOIはリテール・ブランド部門でアワードを受賞した。手首など体の一部につけるほか、紐状ブレスレットや布に塗布して、一時的に香りを嗅ぐことでも効果を得られるとする。
スポンジ不要の新感覚のファンデーション
処方部門で注目を集めたのは、仏企業Global Beauty Consultingが開発したフォーミュラそのものがスポンジになるファンデーションだ。通常、ファンデーションは専用スポンジで肌を押さえながらつけたり、筆や指で伸ばして使用するが、この新処方はファンデーションそのものがふわふわした感触で、それ自体がスポンジの役割を果たし、肌にそのまま均一につけられる。実際に試してみると、ファンデーションのスポンジに限りなく近い感触で、柔らかいが適度な弾力を備え、必要な分量だけ肌にのせられる自然な使用感だ。現在、スティックタイプのような形状での製品化を検討しており、適した容器を模索中とする。加えて、コールドプロセス製法で低いエネルギー使用量での製造が可能で、天然資源の利用や廃棄を削減するとして、新しいメイクの習慣を提案する。
水を使用せず、二酸化炭素で容器を洗浄する技術
持続可能な開発においては、カーボンフットプリントはもちろん、水不足に対するウォーターフットプリントも重視されており、とくに工場では処方に必要な水のみならず、タンクや床の洗浄、温冷却などで大量の水が使用されるため、製造工程でいかに水の使用量を減らすかが焦点となっている。
充填、ラベリングなどを行う仏企業BR Conditionnementはこれらの課題を解決すべく、二酸化炭素(メタン化によるbio-CO₂)を用いて容器のラベルをはがし、かつ、ガラス容器を洗浄・殺菌する技術「Niugreen」を発表した。クリーム状のものを除き、フレグランスや化粧品など水を使用する製品に対応可能で、容器の回収後、洗浄から充填までの一連のサービスを担う。あわせて、リサイクル時のボトルの洗浄だけでなく、余剰在庫品の処理、ラベルの貼り間違いや充填ミスの製品の洗浄にも活用できる。このサービスはセキュリティとトレーサビリティのソリューションを提供するProoftagと提携しており、容器にQRコードを印刷することで製品の生産からリサイクルまでの履歴の追跡や真偽性を証明できる。水資源の大幅な削減に貢献しうるとして、パッケージ部門でアワードを受賞した。
Text: 谷 素子(Motoko Tani)
Top image: Cosmetic360 2024 ©︎Sylvain Bachelot, Olivier Bonnet