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「成長するハーバル化粧品市場と注目ブランド」【海外トレンド 2024年9月-10月】

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毎月1回、ビューティ業界にインパクトを与える海外ニュースを俯瞰し、注目すべきポイントと報道の裏側にある背景を解説。グローバルな視点からビジネスの潮流をひも解く。今回は、漢方やアーユルヴェーダにインスパイアされた製品や植物由来原料にこだわる製品を指す「ハーバル化粧品」に着目。6.79%のCAGRで成長し2028年には366億ドルに達すると予測される世界のハーバル化粧品市場で注目のブランドを紹介する。


漢方やアーユルヴェーダ、ヴィーガン、伝統的な自然由来の原料・成分に集まる消費者の期待

出典:nuence公式サイト

★注目ポイント
より健康的で自然由来のパーソナルケアを求める世界の消費者意識によって、数千年受け継がれてきた伝統医学や民間に伝わる植物の持つパワーに再びスポットが当てられている。FDAの規制が緩かった米国、よりウエルネス、サステナビリティの意識の高い欧州で顕著だ。人体に触れる化粧品は最大限安全であるべきだとの考え方は着実に浸透しており、化粧品の製造に大きな影響を与える法改正にもつながっている。

歴史的に米国の化粧品成分規制は、FDAによる禁止成分リストが存在はするものの、その数は非常に少なく、また、化粧品成分に対する事前の審査制度もなく、製品の安全性については企業の責任に委ねられていた。

ところが、2023年から段階的に施行されているFDAの化粧品現代化規制法(MoCRA)や、そのほか、米ワシントン州、カリフォルニア州では、特定の有毒化学物質を含む化粧品の製造、流通、販売を厳しく制限する法律が定められ、無毒(toxic-free)化粧品や持続可能なパッケージに関する規制が強まっている。それは、サステナブルな方法で調達された成分や、廃棄物ゼロのパッケージ、無毒な処方、倫理的なサプライチェーンを求める消費者意識と相まって、いわゆる「クリーンビューティ」を指向する世界的な動きをさらに加速させている。

なかでも注目なのは、人体に有害な影響が懸念される合成化学物質を含まない、漢方やアーユルヴェーダなど伝統医学的な処方や民間伝承の薬として使われるハーブなどの自然素材を採用したハーバル化粧品の伸びだ。市場調査会社Technavioのレポートによれば、ハーバル化粧品の市場規模は2023年で742億ドル(約11兆2,992億円)とされ、2023年から2028年の間に6.79%のCAGRで366億ドル(約5兆5,738億円)が増加すると予測されている。

Global Herbal Cosmetic Market 2024-2028
出典:Technavio公式サイト

その背景には、ここ数年の人々のウエルネスを希求する意識の高まりから、合成化学物質による健康リスクに対して消費者の危惧が強まっていることがあげられる。実際、ベンゼンが微量ながら検出されたり、ホルムアルデヒド放出体、トルエン、タルク(アスベストを含むタルクが完全に禁止されてはいなかった)などの石油由来の化学成分がこれまで使用できていたことなどから、消費者はより安全な成分のナチュラルな化粧品を求めているのだ。

ハーバル化粧品は、一般的に高価な原材料と労働集約的なプロセスが必要なため、通常マス向けに作られた製品よりも小売価格が高くなる傾向にある。だが、プレミアム価格にもかかわらず、健康リスクを重視する消費者にけん引され、ハーバル化粧品の需要は増加し続けている。こうしたことから、グローバルのハーバル化粧品市場には、早い段階から自然の植物素材にこだわってきたナチュラル化粧品の先駆者的ブランドから、ホリスティックな発想のスタートアップまで多彩なプレイヤーが増加。多くのビューティ企業が、効果的で高品質なハーバル化粧品を提案するために、伝統医療などを研究して理解を進め、最先端のバイオテクノロジーやグリーンテクノロジー原料と掛け合わせるといったR&Dに投資しており、市場の成長をさらに推進している。

グローバルで広がる漢方、アーユルヴェーダ、100%植物性スキンケア

漢方系

漢方とも呼ばれる伝統的な中国医学(Traditional Chinese Medicine:TCM)を、ヘルスケアの延長として美容分野で応用することは中華圏では広く行われてきた。近年、中国の化粧品市場が大きく成長しグローバルでの存在感を増すに伴い、TCMへの認知がほかのアジアの国や欧米にも広がり、使用される薬草などの素材のR&Dも進んで、中国以外の国でもTCMを取り入れたコンセプトのブランドが立ち上がっている。

⚫︎Chinamed Cosmetics(ドイツ)

中国で漢方薬を学び、中国医学皮膚科を専攻したドイツ人女性TCM開業医(プラクティショナー)として20年以上の経験を持つTCM専門家によるスキンケアブランドChinamed Cosmetics。ドイツの薬局の取り扱い基準に則る品質で、かつ、管理された生態学的条件で栽培された漢方ハーブを用い、抗老化をコンセプトに、乾燥肌、敏感肌、ノーマル肌などすべての肌質に対応する処方としてドイツで製造されている。

また、環境と肌を保護するために、製品にはマイクロプラスチック、鉱物油、パラベン、シリコーンは含まず、環境や気候変動に悪影響を及ぼさない素材のみを使用。容器はリサイクル可能なオパールガラスの瓶で、蓋もリサイクル可能な素材とし、包装もプラスチックではなく紙としている。あわせて動物由来の成分や動物実験は一切使用していない。

⚫︎nuence(フランス)

2021年フランスで創業のnuenceは、TCMの原則にもとづいて開発された3種類のクリームとフロイドからなるジェンダーニュートラルなスキンケアシリーズを提供。自社の薬草学者と協力して300以上の薬用植物から皮膚のニーズに適したものを選択し、さらに、現代の科学的に有効性が確認された成分を組み合わせることで独創的な処方を実現したとする。3人の共同創業者の1人は品質管理の分野でキャリアを築くかたわら中国医学修了認定書を取得、もう1人は薬学の博士号を持ち、残りの1人はグローバル大手ブランドに勤務し、化粧品とラグジュアリー部門での経験を持つ。

漢方の顔のツボ押しマッサージを取り入れた肌タイプ別のルーティーンや、かっさで血液やリンパの流れを整える美容法などを定期的に紹介するブログを発信したり、TCM施術者のコミュニティを主宰するなど、啓発活動も積極的に行なっている。

⚫︎OMAD Beauty(米国)

TCMに導かれてスキンケアブランドOMAD Beautyを創設したというファウンダーは、スキンケアはヘルスケアと同義であるとして、皮膚の問題の根本的原因を見つけて対処するTCMの考え方の実践としてOMAD製品を設計したとする。たとえば「OMAD Miracle Balm」は、水分を保持し潤いを与える天然のヒアルロン酸のような機能を持つスノーマッシュルーム(白キクラゲ)をはじめ、炎症を軽減する8つのハーブを配合し、湿疹が出やすい乾燥敏感肌に最適とされる。また「OMAD Bio Cellulose Restore & Repair Serum Mask」は、米の発酵水をベースにしたバイオセルロース(生分解性繊維)マスクで、皮膚上の細菌や真菌に触れると発酵が起きる3つの成分(ECTOIN、SCHIZOPHYLLAN、BIOSACCHARIDE GUM-1)を追加することで、より迅速な皮膚の鎮静と水分補給につなげているとしている。

アーユルヴェーダ系

インドの伝統医学体系であるアーユルヴェーダにもとづく化粧品は、インド国内では主流の製品コンセプトで大手メーカーも数多く存在する。近年では、そのホリスティックな考え方に対し、おもに欧米での注目が高まっており、インド企業が海外進出に拍車をかけると同時に、サフラン、ウコン、ニームなどアーユルヴェーダの伝統的な原料を使用しつつ、科学的に検証された効果や高機能をうたう製品が登場している。

⚫︎Vaadi Herbals(インド)

150年にわたりアーユルヴェーダ医薬品の製造と供給事業に携わる親会社から受け継いできた、ハーブとその用途に関する深い知識を持つVaadi Herbals
は、アーユルヴェーダの処方と現代科学の処方を組み合わせ、ヘア、スキン、ボディ、フェイシャル、フットと多様なカテゴリーにおいてハーバル化粧品とパーソナルケア製品を提供する。2006年からインドのデリーに拠点をおき、現在では、米国、ニュージーランド、中国、ノルウェー、フランス、英国など15カ国以上に輸出しており、グローバル市場で広く受け入れられている。

合成化学物質は一切含まない100%オーガニックの自然由来成分をうたい、製品に使用しているハーブの大部分はインドの熱帯・亜熱帯地域の有機農場を中心に、一部、ニュージーランドや米国から調達されている。

果実のアムラを配合したヘアオイル「Amla Cool Oil」
出典:Vaadi Herbals公式サイト

⚫︎Urban Veda(英国)

2013年にインド系英国人ビジネスマンによって創設されたUrban Vedaは、アーユルヴェーダのハーブ、根、花、果実を使用し、マルチビタミンと臨床的に効果が証明された活性物質、フリーラジカルと戦う抗酸化物質や活力を高める必須脂肪酸を組み合わせた処方により、肌の自然なバランスを維持することをうたう。また、あらゆる身体の現象の基礎には3つの生命エネルギー(ドーシャ)がはたらいているとするアーユルヴェーダの考え方にもとづき、いわば体質のように、各自がどのドーシャに分類されるのかがわかるオンライン診断を公式サイトに設置。それをもとに適した製品を導き出す。

ヴィーガン認証を取得しているほか、製品の多くはコスモス認証を受けている。また、収益の1%を自然保護団体に寄付する「1% for the Planet」に加盟。配送と輸送で生じるCO₂を相殺するために、オンライン注文の数に応じて木を植える活動でカーボンオフセットを目指している。

⚫︎NAO AYURVEDA(米国)

NAO AYURVEDAの創設者兼クリエイターのキエラ・ケント(Kiera Kent)氏は、アーユルヴェーダの施術者であり、Reikiヒーラーであり、3人の子どもの母親で、ナチュラルスキンケア、ハーブ、ホリスティック栄養、エネルギー医学、アーユルヴェーダの出生前および産後のケアを専門としている。ブランドの誕生は、2014年、米ニューヨークの自宅キッチンでケント氏がクライアントのためにカスタマイズしたアーユルヴェーダ処方の薬を作っているときに、自分の内側にある何か神聖なものの存在を感じたという神秘的な体験がきっかけだ。ニュージャージー州の田園地帯にプライベートスタジオを設立した現在も、処方は社内で行い、彼女は全ての製品を手作業で製造し、一つひとつに癒しのReikiエネルギーと古代のマントラを注入しているとする。

スキンケアは肌のための食べ物であり、体のなかに入れないものを肌に塗るべきではないとの信念から、化学物質、パラベン、合成物質を使用しない無毒な設計で、オーガニック認証を取得し、肌の皮脂腺に適合する天然植物ベースのオイルをベースとしている。

出典:NAO AYURVEDA公式サイト

植物由来ナチュラル系

若い世代の消費者が、健康によりよく、環境に負荷が少なく、動物愛護に配慮した企業やブランドを支持する傾向にあり、ミレニアム世代の22%がベジタリアンとする指標もあるなか、合成化学物質を含まないという観点に加え、自然由来の植物原料のみの使用にこだわるヴィーガンブランドも増えている。

⚫︎Yves Rocher(フランス)

ボタニカルビューティ(植物性のナチュラル化粧品)の先駆者とされるYves Rocherの歴史は、1930年、父を亡くしたイヴ・ロシェ少年が悲しみから逃れるために過ごした森のなかで自然の癒しを実感し、人々を幸せにする植物の恵みを活かしたハンドクリームを作り始めたことからスタート。やがて、自身の実験室を構えたロシェ氏は、1959年に仲介業者を挟まない通信販売で自然派スキンケア化粧品を何百万人ものフランス女性に届けることに成功した。70年代の後半には、植物の研究から有機農法による原料の栽培・収穫、商品を製造し販売するまでのバリューチェーンを全て自分たちで担う体制を整え、環境への影響を制限できるこのやり方は現在でも続いている。Yves Rocherはまた、動物実験の廃止や生物の多様性への配慮、店舗でのビニール袋の廃止なども他社に先駆けて実行してきた。

最近の製品コレクションには、アイスプラント、植物コラーゲン、天然由来のヒアルロン酸、レチノールの植物代替え品バクチオールなどを配合した、シワ対策のための「Lift Pro-Collagen」シリーズなどがある。昔ながらの植物療法にとどまらず、R&Dとテクノロジーにより科学的に植物の力を最大限引き出す姿勢がこのブランドの特徴だ。

⚫︎100%PURE(米国)

「100%純粋」を意味するブランド名は、厳格な純度基準に準拠し有毒成分を一切含まない同社の成分リストを意味しているとする100%PURE。発酵、蒸留、冷間加工(cold processing)などの生物学的プロセスにより化学的変化を加えた植物、鉱物、および、藻などの海洋植生で構成される成分または処方による製品づくりをうたう。一般的に使用されるFD&C着色剤(米FDA認可の色素)や重金属染料を避け、果物、野菜、お茶、ココアから顔料を調達し、スキンケア製品のほか、カラーコスメ製品にも天然色素のみを使用することにこだわる。

共同創設者の1人でチーフクリエイティブのスージー・ウォン(Susie Wang)氏は、米カリフォルニア大の学生だった当時に発明した、酸化を防ぐためにビタミンを安定させる特許技術により、大手化粧品メーカーから協業オファーを受けて化粧品の製品開発に携わった。だが、こうした企業の製品に大量の化学物質が含まれていることに失望し、職を辞して「化粧品中の有毒化学物質に対する革命を起こす」意志で、2005年100%PUREの設立に加わった。同社のカラーコスメに使用されている「Fruit Pigmented®(フルーツ顔料)」も彼女の発明のひとつだ。

⚫︎MyCHELLE(米国)

クリーンスキンケアを推進するムーブメントの創始者を自称するMyCHELLE は2000年に米コロラド州で創業。「正直・透明性・真正性」をブランドアイデンティティに掲げ、当初から、自然にインスパイアされた確かな効果が得られる製品を作ることで、世界の変化にポジティブな影響を与えられる企業になるために活動してきたとする。顧客が内面と外面で最高の自分になるために必要な知識とエビデンスにもとづく研究成果を提供することを使命とし、皮膚科学とグリーンケミストリーによる製品づくりを進め、公式サイトでは包括的な成分リストを公開して、製品に含まれるものと、それが肌の健康と美しさの達成にどのように役立つかを伝えている。

パーソナルケア製品による化学物質への日常的な曝露から消費者を保護するため、科学にもとづき健康に適した製品を認証する「EWG Verified®」を取得しているほか、サンゴ礁の保護に早くから取り組み、サンゴ礁に有害であることが証明されているオキシベンゾンやオクチノキサートなどの化学物質を含まないサンケア製品を10年以上前から提供している。

Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image: Igor Normann via Shutterstock