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AIの不得意分野が浮かび上がるファッション業界の活用事例

◆English version: How AI is making its way into Japan’s fashion industry
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AI(人工知能)の不得意分野と言われる「意味づけ」や「複雑な感情」。その意味で、ファッションやビューティにおける「ずっと好きだったが飽きた」とか「あまり好きじゃなかったけど、なんかこれいい」という購入やアクションへの最終判断につながる感情やプロセスを分析するのは遠い道のりと言えるかもしれない。AI技術を活用した2つのファッション関連サービスの事例から、その不得意分野をどうカバーして運営しているのかを探る。

継続率91.6%を誇るブランドバッグ使い放題サービス

2018年2月3日、都内で開催されたファッション×スタートアップのイベント「pilot boat day #001 startup × FashionTech」。最後のセッションに登壇したのは、月額6,800円で、ブランドバッグを無制限にレンタルできるサービス「ラクサス」を展開するラクサス・テクノロジーズ(本社広島市)と、ファッションスナップを解析して類似アイテムを検索・紹介するAIの開発や提供を行うニューロープ(本社東京都)の2社。両社のCEOによるトークセッションでは興味深い知見が数多く披露された。

出典:ラクサス

ラクサスはサービス開始から3年目を迎えたところで、現在、会員の継続率は91.6%で推移している。9ヶ月以上利用しているユーザーに絞ると継続率は95%以上で、利用歴が長くなればなるほどユーザーが退会しなくなるという特徴を持つ。

「最初の2年間でブランドバッグのレンタルサービスが事業として成り立つかを検証し、今年に入りようやく単月黒字化した」(児玉昇司代表取締役社長)という。ラクサスで取り扱うのは、ルイ・ヴィトン、シャネル、エルメスをはじめとする高級ブランドバッグで、総数約2万3,000個。ユーザーはこれらを月額6,800円で何度でも借りられ、無期限で使用できる。年会費や送料は一切かからない。バッグは交換制で、新しいバッグを借りたいときには手元にある商品をラクサスに返却する必要がある。

(ラクサスのシェア累計金額推移)

またブランドバッグを所有している人が自分のバッグをラクサスに委託し、借り手がつくと報酬を支払われるシステムもおこなっている。なかには5個のブランドバッグを預け、8ヶ月で6万円稼いだユーザーがいるほか、ラクサスに送るとメンテナンスもしてくれるため、何十個ものバッグを預けているユーザーもいる。海外でも展開予定で、ニューヨーク・マンハッタンでの事前登録は「日本の3倍以上ある」(児玉CEO)という。ラクサスはもともとテクノロジー会社で、自社開発のAIを、利用率や継続率のアップや商品構成の向上など、サービスのさまざまな局面に活かしている。

人力で貯めたビッグデータを活かしAIを開発

一方のニューロープは2014年から、モデルやインスタグラマー300人と提携し、彼女たちのファッションコーディネートを閲覧できるウェブサイトやスマホアプリ「#CBK(カブキ)」を開発、運営してきた。モデルらのスナップショットのなかから気になるコーディネートがあれば詳細ページに行き、紹介されている類似アイテムを提携先のECサイトで購入できるサービスである。これまでは、似ているアイテムとのひもづけは人力で行っていたが、「大量のデータが貯まったのでこれをもとにAIを作った」(酒井聡代表取締役CEO)。

そうして開発されたのが、ファッションコーディネートを解析する「ファッションおじさん」や、コーディネートの提案をしてくれるAIショップ店員「Mika」などだ。どちらも専用のLINEアカウント宛に写真を添付して利用する。ファッションおじさんは、スナップに含まれるファッションアイテムを解析し、類似商品や着こなし術を紹介する。Mikaは「手持ちのアイテムとコーデすると合うアイテム」を提案。ガーリー、カジュアル、モードなど、テイストを指定すると提案するスタイリングが変わり、まさにショップ店員のようなきめ細やかな応対が特徴だ。

Mikaのイメージ画面(著者撮影)

ニューロープでは現在、自社開発のソリューションを他社にも提供している。たとえばファッションECのマガシーク(本社東京都)の場合は、自社のECサイト内にメディア「MagaCafe」を立ち上げ、提携先メディアの記事を転載し、記事内で使用されているファッションスナップのすぐ下にマガシークで取り扱う類似アイテムを掲載することで、読者に購入を促すという取り組みだ。「(記事に)類似アイテムをひもづけることで、そこから商品が売れたらメディアにフィーを還元するというモデル」(酒井CEO)である。

EC内にメディアを自動生成する(著者撮影)

また監視カメラの運営会社と提携し、店内に設置された監視カメラの映像を解析。来店客がどういう服装かを分析し、来店客と商品のマーチャンダイジングがマッチしているのかを判断、最適化するためのサポートを行う。その他、ソーシャルメディア上のスナップを解析し、世の中で今何が流行っているのか、これから何が売れるのかを予測し、メーカーにフィードバックするサービスなどもしている。

ここ1〜2年では、ファッション×AIの活かしどころは難しい

両社ともAIを実際に使っているとあって、トークセッションではAIの活かし方に関する話題で盛り上がった。ラクサスの場合は、あるバッグがビュースルーされたら0点、クリックされたら10点、クリックされてなおかつ借りられたら20点というように、点数化してAIに学習させる。こうして24時間365日データを収集し続けると、「このユーザーにはこのバッグをオススメすると借りてくれるだろう」という具合にAIが学習しユーザーの動きを予測するなど、どんどん賢くなっていくのだ。

こうしてAIが集めた情報から、「バレンシアガとミュウミュウを借りている人はプラダを借りる傾向にあるので、バレンシアガ、ミュウミュウをすでに借りているが、プラダの利用がまだない人には集中的にオススメすると借りてくれやすい」といった好みのブランドのグループ化や、すべてのバッグにICチップを入れ、個人情報を特定しない範囲でGPSを使った行動データの収集を行っているため、「ルイ・ヴィトンユーザーはパリに行くことが多く、シャネルユーザーはニューヨークのマンハッタンに行くことが多い」など旅行先の選択の違いなどがわかってきたという。

ラクサス・テクノロジーズの児玉昇司代表取締役社長(著者撮影)

このようにAIが活躍する場面がある反面、両社とも「AIにも不得意がある」と説明する。

ニューロープの酒井CEOは、AIは「こういう行動をした人に〇〇を提案したら買ってくれたというように、CVR(コンバージョンレート)がゴール(正解)としてあって、そこに向けて何かアクションを起こしたらそこに結びついた、何かをやってみたら結果が出るといった、(計画、実行、評価、改善という)PDCAを回すところはすごく向いている」として、AIが機械学習により、人よりも高い精度でやっていける部分は評価する。だが、「デザインに関する好みを把握するのは難しいようにみえる」とも指摘する。つまり、Aというアイテムをすごく好きな人もいれば、あまり好きじゃない人もいる状態は、AIにとっては、好きが“ゴール”かと思ったら好きと嫌いの間のグラデーションの部分もあることを意味し、混乱するのである。そこから「ゴールが明確なところに対してAIを適用していく使い方は、正確な結果を導いてくれるんじゃないかと思う」と酒井CEOは話す。

ニューロープの酒井聡代表取締役CEO(著者撮影)

ラクサス・テクノロジーズの児玉CEOも、酒井CEOの意見に同意する。「3年間事業をやってきてわかったことは、借りるというアクションを起こしたお客さまが、そのバッグが一番欲しかったから借りてくれたのか、それとも妥協して選んだのかが、“よくわからない”“ということ」と語り、「AIが選んだから欲しくなるわけじゃない」とも理解している。

確かに、多くの人は、体にピッタリとフィットすると言われたから、その服が欲しくなるわけではなく、街を歩いていたとき、ふと目に留まったものを可愛いと思って買うほうがよくあるように思われる。「そのあたりのエモーショナルな部分をAIは再現できていない」とAIの不得意な部分を挙げ、「10年後はわからないが、直近の1、2年の話だと、ファッションとAIの組み合わせは極めて難しいと思っている」とした。

両社ともに、ここ1〜2年では、今以上のAIの使いみちをみつけるのが難しいと考えるのは、ファッションを愛するユーザーにとって、AIによる正解の提示が必ずしも嬉しいものばかりではないからだ。

酒井CEOは、「あなたにはこれが似合うんですよ、とAIによるアンサーとして提示されても嬉しい人はそんなにいなかったりする」と証言し、児玉CEOも、「やっぱり人という後ろ盾がないとイヤなのだと思う」と答えた。つまり、インフルエンサーが勧めるものには心ひかれて飛びつくけれど、AIによるオススメと書かれても、何やらカチャカチャ計算して弾きだされた、無味乾燥な結果のように感じられ、人の気持ちには響きにくいのだ。「ファッションにはもっと情熱的なところがあるはずだ」と児玉CEOは強調する。

現在は「個数を絞る」ことにAIの使いみちがある

ではファッション業界にとっての、最適なAIの使い方とはなんだろうか? 酒井CEOは、「膨大な数のアイテムが候補としてあるなかで、たとえば100点まで絞って提示する、20点まで絞って提示する、までがAIの役割」と説明する。

児玉CEOも、退会するユーザーの8割が「好きなバッグがないから」を理由にしていることを挙げ、「常に在庫が3,000〜4,000くらいあるので、好きなバッグが無いわけはない。絶対あるはずだ。ただ、3,000個全部閲覧できたわけではないと思うので、そこが自社の課題だと思っている」と酒井CEOのAIの使い方に共感した。

トークセッションの様子(著者撮影)

コーディネートごと見せるとCVRは2.7倍

現在のところニューロープのサービスは、ファッション業界のみを対象にしているが、今後化粧品業界への拡大を検討しているかをたずねてみた。

「ネイルやヘアスタイルのデータ収集にも力を入れている。今のところはファッションに特化しているが、ユーザーサイドからすれば、ファッションでカテゴリーが分断されてしまうのは不便で、情報として不十分だと思うので、ネイルやヘアスタイルも含めたコーディネート全体での提案を目指していきたい。もちろんメイクについても取り組んではいきたいと思うが、タイミングについては開発リソースと事業進捗次第」(酒井CEO)だという。

コーディネートという点では、児玉CEOは、バッグ単体よりもコーディネート全体でみせたほうがCVRが2.7倍にアップすると、総合的にみせることの強みを説明する。ただコーディネートでまるごと掲載していると、よくユーザーから「一緒に掲載されている服ごと売ってほしい」という問い合わせがあるのだが、多くの場合、販売店に問い合わせてもすでに売り切れており、「ニューロープの類似商品紹介サービスを使ってみたい」と関心を示した。

結論として、ファッション業界の場合はここ数年ではAIの使いどころは難しく、商品点数の絞り込みやPDCAを回すあたりに使いみちがあるということだという話が出たが、AIを活用して「似合うファッション」を提案する取り組みは他でも始まっており、今後の発展が期待できる分野ではある。

2006年創設の一般社団法人 日本ファッションスタイリスト協会(所在地:東京都渋谷区)は、Styling Mapと呼ばれる独自理論の研究や普及を行っている。Styling Mapとは、スタイリングを構成する人の「色・形・素材・内面」と、物の「色・形・素材」を論理的に分析し、「コンサバ」「ガーリー」「シャープ」「セクシー」など、人のイメージを4つのテイストに分類。それらを組み合わせることで、一人ひとりに似合うスタイリングを提案するというもの。

これまではそれらの理論を店員が接客時に活かし、その場で顧客に「似合うスタイリング」を提案するというアナログな手法で展開してきたが、AIによる顔分析を取り入れることで、「人の主観に頼らない、より均一的なウェブサービス」(あいざわあゆみ代表理事)へと進化させた。

ユーザーが自分の顔写真をオンライン上にアップロードすると、AIが顔の形や眉毛の形、輪郭などを含め、その人の顔のタイプを割り出し、前述した4つのタイプのどこに該当するか判断。そのタイプに適したスタイリングを提案する。その際、この人はタイプA、タイプBと一つだけ答えを出すのではなく、タイプAの要素が何%、タイプBの要素が何%と割合を出し、どのタイプがより近いかを示していく。サービスはAPIで提供するため、クライアントごとにECサイトで活用したり店頭のデジタルサイネージに組み込んだりと、いろいろな使い方ができる。

「似合う」という提案は洋服だけでなく、インテリアや髪型、化粧品、ネイルの柄にも応用できるほか、オンライン上でアンケートを取りその人のなりたいイメージを把握し、Styling Mapが導き出した「似合う」と組み合わせることで、より最適解に近づけることも可能だという。

化粧品業界では、すでにAIとAR技術を同時に活用し、顔やヘアの分析をしてバーチャルメイクを施すなどのアプリもたくさんある。その一例がパーフェクトが手掛けるYouCamだ。ファッションよりも、「あなたにはこれがふさわしい、似合う」がより受け入れられやすいスキンケアやメイクの世界でも、AIの不得意分野をどう改善していくかは同様の課題がある。

Text:公文紫都(Shidu Kumon)


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