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肌質も遺伝情報も。AIパーソナライゼーションの深化を急ぐNY美容スタートアップ

◆English version: How NY does BeautyTech
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美容とファッション、テクノロジーが融合した新分野の起業家と投資家が集まる「BeautyTech MeetUp」。初のニューヨーク開催での大きなトピックは、消費者からも期待の大きい「パーソナライゼーション」だ。

2018年9月17日、ニューヨーク市で初開催されたBeautyTech MeetUp NYは、定員を超える80人強が参加した。美容業界の「新トレンド」「顧客体験の再発明」をテーマとしたパネル討論に現地を拠点とするスタートアップの創業者が登壇。顧客一人ひとりのニーズや目的に、人工知能(AI)を駆使した製品開発や体験の提供で応える「パーソナライゼーション」への取り組みを披露した。

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会場となったJLABS@NYCの受付。
JLABS はJohnson & Johnson Innovationが設立したライフサイエンス分野のスタートアップを支援するインキュベーター

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18時開始を前に参加者が続々と集まった

価値観を共有するブランドが生き残る

「消費者が何を考え、何を語っているかを把握することに時間をかけている。というのも、消費者は価値観を共有できるブランドを求めているからだ」。

Prelude Growth Partners の共同創業者兼パートナー、ネダ・ダニッシュザデー(Neda Daneshzadeh)氏は、BeautyTech MeetUp主催者で投資家のオディール・ルジョル(Odile Roujol)氏から投資先の選定にあたり重視することを問われ、こう答えた。

Prelude Growth Partnersは、消費者向け製品分野のスタートアップを対象に300万~2500万ドルを投資するプライベートエクイティ(PE)ファンド運用会社だ。ダニッシュザデー氏も共同創業者のアリシア・ソンタグ氏も、消費者向け製品業界で長年の経験がある。

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イベントはルジョル氏(左)と
ダニッシュザデー氏のパネル討論で開幕した

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パネル討論を熱心に聞く参加者たち

製品やサービス購入にあたり、消費者がブランドの価値観にこだわる傾向はますます顕著になっている。ある意味、消費者にとってブランドを選ぶということは、そのブランドの企業理念を支持することであり社会への意思表明の一つともいえる。

ダニッシュザデー氏によると、価値観を共有するブランドとは、消費者の意見を代弁するブランドかもしれないし、パーソナライゼーション、透明性、クリーンビューティーに対する考え方に共感できるブランドかもしれない。なかでもパーソナライゼーションへの取り組みと、それによる顧客体験向上への消費者の期待は大きい。

オーダーメイド型、かつ自然成分のヘアケア製品

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左から、2件目のパネル討論でモデレーターを務めたアクセラレーター、XRC Labsのディレクターであるカーリー=アン・ファーガス(Carly-Ann Fergus)氏、Proseのプラス氏、Swivel Beautyのトンプスン氏、Cherry Pick AIのスチュワート氏

Prose は、消費者一人ひとりに適したヘアケアアイテムを作る企業だ。オンラインで髪質や頭皮の状態、ライフスタイル、環境(自宅の郵便番号を入力すると、その地域の紫外線量、湿度などの気象情報が自動的に抽出される)などに関する質問に答えると、独自のAIアルゴリズムがそれを解析し、オーガニックの76の自然派成分から最適な成分の組み合わせを選ぶ。製品はすべてオーダーメイドで提供され、工場から消費者の自宅に郵送される。

ヘアケア製品のパーソナライゼーションではFunction of Beauty が先行したが、Proseの特徴は自然派成分へのこだわりと、消費者が希望すれば同社が提携する美容師のコンサルテーションを受けられることだ。美容師経由で商品を購入すると、売上高の20%(初回は50%)がコミッションとして美容師に支払われる。

共同創業者でCEOのアルノー・プラス(Arnaud Plas)氏は、ロレアルでヘアケア製品開発と米国のデジタル戦略を率いた美容業界のベテランで、電子商取引企業を創業し売却した起業家でもある。同氏によると、現在Proseの製品はシャンプー、コンディショナー、ヘアマスクの3種類だが、近く新製品を追加する計画だという。

大量の製品から顧客に最適のものを提案

HelloAva は、AIと肌の専門家が消費者の肌状態に合わせてスキンケア製品を推奨する「パーソナルスキンケアコンサルタント」だ。利用者は、同社のウェブサイトで年齢、人種、肌の悩みなどの基本情報を入力後、肌状態に関する12の質問に回答する。その結果をAIが解析し、個々に適した製品を紹介する。製品は同社のアフィリエイトプログラム参加ブランドのものに限られ、消費者は気に入った製品をそのまま購入できる。

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左から、3件目のパネル討論でモデレーターを務めたThe Beauty Marketplace創業者兼CEOのメアリー・J・パルミエーリ(Mary J. Palmieri)氏、HelloAvaのモウ氏、GlossGeniusのコーエン—ショエット氏、EpigenCareのリー氏、Bleu Capitalのサルトル氏

創業者兼CEOのシキ・モウ(Siqi Mou)氏は、学生時代に肌の問題で悩んでいた。知人が勧めるスキンケアアイテムを試したが、肌質の違いと思われる理由で効果はなかったという。何千種類とあるスキンケア製品の中から、自分の肌に適したものを見つけることに苦労した体験が、起業のきっかけになった。

「消費者が製品を購入して2週間後、消費者に連絡して肌状態を確かめている」とモウ氏。必要があれば改善策をアドバイスする。こうしたきめ細かなフォローアップによってデータがたまれば、その人の肌により合った製品を推奨できる。同社サービスの利用者は、9月末時点で3万4000人を超えているという。

家庭用の遺伝子キットで肌状態を解析

「肌診断版の23andMe」。EpigenCare の共同創業者でCEOのウイリアム・リー(William Lee)氏は、ふたつの自社サービスをこう表現した。23andMe が病気のリスクや祖先を判定する家庭用遺伝子サービスを提供するのに対し、EpigenCareは肌状態を遺伝子レベルで解析し、機械学習技術によって最適なスキンケア製品を見つけるマッチングプラットフォームで、いまそれを開発している最中だ。

利用者はウェブサイトで家庭用検査キットを申し込み、専用の接着テープで皮膚細胞を採取して送り返す。それをもとにEpigenCareは、肌のエイジング、はり、うるおいといった、肌質と関係が深い遺伝子の「オンとオフ状態」(リー氏)を解析するのだという。解析結果を受け取った消費者はEpigenCareのマッチングプラットフォームにアクセスし、何千種類という既存のスキンケア製品の中から、自分の肌状態に適した成分を含む製品を見つけることができる。

EpigenCareは2018年末までに家庭用検査キットを数量限定発売する計画で、現在ウェブサイトで予約を受付けている。

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登壇者に質問する当日の参加者

自分に自信を持つという体験

Swivel Beauty は、黒人女性と、黒人女性のヘアケアを得意とする美容師をマッチングさせるモバイルアプリを開発した。消費者がアプリに自分の髪質や、コーンロー、ヘアエクステンションといった希望するサービスを入力すると、条件に合った最寄りの美容室または美容師の一覧が表示される。

共同創業者でCEOのジハン・トンプスン(Jihan Thompson)氏によると、黒人女性は他人種の女性に比べて9倍もの大金をヘアケアに投資しているが、美容業界からこれまで「完全に無視されてきた」。自身も新しい土地で美容室探しに苦労し、慣れない美容師がスタイリングに失敗して悔しい思いをした経験がある。

「私たちが目指すのは、単なる美容師の紹介ではない」とトンプスン氏。

「外見を美しく整えることから生まれる自信であったり、信頼できる美容師に任せられる安心感、高品質のサービスを受けられるという“本物の体験”を提供したい」と話す。現在はニューヨーク市のみでサービスを提供するが、今後は他の都市にも展開したいと考えている。

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GlossGeniusのダニエル・コーエン=ショエット氏(左)と
Swivel Beautyのジハン・トンプスン氏

同じヘアケア関連サービスでも、GlossGenius は美容室と美容師向けに売り上げや顧客管理、決済処理機能を一体化したSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型オールインワン・ソリューションを提供する。月額24ドル(標準サービス)の利用料とアドオンサービスの販売が収益源だ。

共同創業者でCEOのダニエル・コーエン=ショエット(Danielle Cohen-Shohet)氏によると、同社のサービスの特徴は大きく3つある。まず、月額料金が競合サービスに比べ「格段に安いこと」(コーエン=ショエット氏)。美容業界向けの機能豊富なソフトウェアソリューションは非常に高額なため、小規模の美容室や個人は利用が難しいという問題を解決した。

次に、インターフェースが直感的で使いやすいこと。そして最後に、「モバイルファースト」(コーエン=ショエット氏)であることだ。

「美容業界でも専門職のモバイル化が進んでおり、(顧客の自宅などに出向く)出張サービスを手掛ける若い美容師が増えている。モバイル環境ですべての機能にアクセスできることが重要だ」とコーエン=ショエット氏は強調した。

“ソーシャルファースト世界”の課題に挑戦

イベントでは、バーソナライゼーションを支援する技術開発企業も登壇した。

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左から、Proseのプラス氏、Swivel Beautyのトンプスン氏、
XRC Labsのファーガス氏、Cherry Pick AIのスチュワート氏

Cherry Pick AI は、自然言語処理、画像認識、予測解析などの技術を採用し、化粧品などの美容アイテムに対するソーシャルメディア上の消費者のコメントや行動を解析する販促用機械学習システムを開発した。ブランドや小売店はこのシステムを使うことにより、消費者ごとに最適なメッセージやコンテンツ、特典などを迅速に提供し、販売につなげることが可能になる。

共同創業者兼CEOのジャスティン・スチュワート(Justin Stewart)氏は開発に至った背景を、「この場に集まった人全員が、ソーシャルメディアが事業に与える影響を認識している」「にもかかわらず、ほとんどのブランドは自社製品について、どのような消費者が、どのような会話をしているのか、まったくといっていいほど理解していないことに気づいた」と説明した。

スチュワート氏は美容アイテムに注目した理由の一つとして、ソーシャルオーディエンスのエンゲージメントが高いことを挙げた。分野別にみると、美容アイテムはゲームに次いでエンゲージメントが2番目に高いという調査結果もあり、これには同氏も驚いたと振り返る。

同社は、第1号クライアントへの技術導入を間もなく開始する。これまで主に販促分野への応用に注力してきたが、このクライアントはソーシャルメディアの消費者の動向を把握し、製品開発に迅速に生かすことを狙っているのだという。

「人間的なふれあい」を求める消費者

初期段階のオムニチャネル系ツールや製品に投資するBleu Capital のパートナー、ジョセフ・サルトル(Joseph Sartre)氏はベンチャーキャピタルの視点から、顧客体験分野のトレンドの一つとして「店舗のカムバック(再起)」を挙げた。オムニチャネル化が進むなか、消費者は「人間的なふれあい」を求めて店舗を利用していると指摘し、消費者の期待に応える顧客体験の提供が重要と述べた。

パネル討論では、投資や資金調達に関する話題も目立った。Prelude Growth Partnersのダニッシュザデー氏は、投資先を選ぶにあたり「人(創業者)と技術のどちらを重視するか」という問いに、「いつでも最後は人だ」と言い切った。

市場はつねに変化しており、創業初期段階のビジネスモデルや技術がそのままの形で実現することはまずない。重要なことは変化に柔軟に対応することであり、それができる人材かどうかを見極めることだと述べた。

登壇した創業者たちからは資金調達のアドバイスとして、「あらゆる人脈を活用して投資家と会う機会を増やすこと」「投資家探しは結婚相手を見つけるようなもの。最高の相手に出会うまで何度でもデートを繰り返し、熱意を示すこと」「投資家との間で信頼関係を築くこと」などの意見が聞かれた。

美容分野は、かつてない勢いでブランドが誕生している。ダニッシュザデー氏によると、消費者製品分野のスタートアップの場合、1億ドル規模に成長するまでに従来は10~15年かかっていたが、いまは数年で達成する企業もあるという。美容製品を含む消費者製品分野には投資家の資金が集まり、企業の成長に必要なエコシステム(生態系)が機能している。ソーシャルメディアによって世界的な需要開拓の道が開かれたことも一因だ。

AIやその他技術を使ったパーソナライゼーションへの取り組みから、多種多様なニーズに対応する技術やノウハウの蓄積も進んでいる。消費者の期待は高い。それだけにブランドは、消費者に真摯に向き合い、その声を吸い上げるための一層の努力が求められる。

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パネル討論終了後は参加者交流の時間が設けられ、
会場は夜遅くまで盛り上がった

Text: 鶏内 智子(Tomoko Kaichi)

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