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Liberta PerfumeやCHRONO CHARME、カルト的ファンを醸成する「価値観」の伝え方

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コロナ禍を経て、D2Cブランドのコミュニケーションは大きく変化してきている。SNSやライブ配信を通じたオンラインでの双方向コミュニケーションが急速に成熟するなか、ブランドのクリエイターが積極的にユーザーとの繋がりを深め、理解と共感を広げている。今回は、オンラインで伝えることの難しいフレグランスやヘアケアといった商材で「価値観」を丁寧に伝えることで、ファンやコラボレーションの幅を広げている2つのブランドの事例を、美容コーディネーター/ビューティビジネスコンサルタントの弓気田みずほ氏がひも解く。

クリエイター自らが顧客との関係性を積み上げ、カルト的なファンを増やす

今回取り上げる2つのブランド、「リベルタパフューム(Liberta Perfume)」と「クロノシャルム(CHRONO CHARME)」の共通点は、ある特定分野の専門家として活動するプロフェッショナルのクリエイターが、顧客とマンツーマンで向き合ってきた経験から生まれたブランドであり、一人ひとりの顧客との関係性を積み上げながらファンを増やしているという、そのアプローチにある。

クリエイターやインフルエンサーがファンを集める際に指標とすることの多い「フォロワー数の拡大」や「バズを起こす」といった手法ではなく、クリエイターが自らの言葉でコンセプトや開発背景を丁寧に伝えることで、いずれのブランドも時間をかけて感度と熱量の高いカルト的なファンを増やしている。

そうした真摯な姿勢が、企業や自治体からも注目されてコラボレーションにつながり、自社ブランドのファンの裾野が広がるというよいスパイラルが生まれているのも特徴だ。つまり、製品の品質とブランド哲学を理解し共感するロイヤリティの高い層の顧客をもつブランドだからこそ、ターゲットを同じくする他企業とのユニークなコラボレーションが可能となる。同時に、伝えたいこだわりの多いブランドゆえに、顧客やビジネスパートナーとより深度のある関係性を築くことができる。ブランド誕生直後からコロナ禍を迎え、厳しい時期が続いたなかで、じっくり腰を据えて築いたものが強固な基盤となっている点も共通する。

■香りにパーソナライズを持ち込んだリベルタパフューム(Liberta Perfume)

リベルタパフュームは2019年、「香りの民主化」をコンセプトに掲げ、日本初の「D2Cパフューマリー」として誕生した。オンラインの「香り診断」を通じて、一人ひとりの好みやシチュエーションに合わせた香りを導き出す「パーソナルコレクション」、調香師がオンラインでのマンツーマンカウンセリングを行い、パーソナライズを深化させた香りをつくる「フルオーダー」、毎年異なるテーマで調香される完成品「プレタポルテ」の3ラインを展開する。

画像提供:Scentopia株式会社

2022年秋、伊勢丹新宿店で年に一度開催される香水の祭典「サロン ド パルファン」にて、初の本館・メンズ館に同時出展を果たしたほか、うめだ阪急・阪急メンズ館東京など、リアル店舗でのポップアップにも力を入れている。サロン ド パルファンでは、独立系パフューマリーとして存在感を発揮し、本館では「プレタポルテ」の新作の先行販売を行ったほか、メンズ館にはマンツーマンでのセッションを希望するファンが集まり活況を呈した。

「サロン ド パルファン」での調香の様子
画像提供:Scentopia株式会社

また同社は、2022年10月より、オルビスとの業務提携による新ブランド「ヘレナス(HELENUS)」をスタート。デオドラントやフレグランスとも異なる「肌の匂い」の可能性を引き出す製品コンセプトで、オンラインで生活習慣や肌質などの質問に答えることで、ひとりひとりの肌がもつ「スキンセント」を選定し、製油や植物エキスを配合したボディオイルを提案する仕組みだ。

リベルタパフュームを手掛けるScentopia株式会社 代表取締役 山根大輝氏は、コンサルティングファーム勤務を経て、独立系調香師として実績を持つ大沢さとり氏が主宰する「パルファンサトリ」にて調香を学び、起業した。美容系ユーチューバーのオリジナルフレグランスや、顧客の好きなアニメキャラクターをイメージした”推しの香り”など、ユニークな依頼も引き受ける。

リベルタパフュームのWebサイトから購入するユーザーは20代前半〜40代前後が中心で、リアルイベントには10代〜50代と幅広い層が参加する。イベントでは平均して2〜4本購入する人が多く、リピート率は20%前後だという。毎週インスタライブをする、メルマガを配信する、ユーザーの投稿にリアクションするなど、ブランド側のアクションにKPIを設定し、運用ルールを徹底しながらファンとの絆を深めている。

「パーソナルコレクション」のためのオンライン診断は、好みの香りや苦手な香り、どんな時に使いたいかなど、多岐にわたる20の質問に答えていく。香りについてどの程度知識があるかを問うものもあり、初心者からフレグランス選びに慣れた人まで間口の広い設問になっている。トライアルに手頃な8mlサイズからオーダーできるので、毎回診断を受けなおして違う香りを試すこともでき、さらにギフトとして贈る相手をイメージしたオーダーも可能だ。

170年以上の歴史をもつ英国ブランド
「Aquascutum(アクアスキュータム)」とのコラボレーション

フルオーダーの場合は59種類(2023年5月現在)の香料から最大6種を選ぶことができる。事前にベースとなる香料のムエット(試香紙)とワークブックが届き、調香師とのオンラインカウンセリングを通じて香りが完成する。オプションで完成前のサンプルを試すこともでき、香りの微調整も可能。フレグランス上級者にも満足度の高い仕組みになっている。

一般ユーザーにとっては、オンラインで香りのイメージを伝えることは難しく、心理的にもハードルが高いものだが、公式サイトではフルオーダーを依頼した顧客の体験談が掲載されており、オーダーのプロセスを具体的に知ることができる。

一方、フレグランス上級者は香りについての知識が豊富であると同時に、自分がよいと思った香りについての表現力も豊かで、ユーザー同士の情報交換も活発に行われている。サロン ド パルファンなどのリアルイベントの場は、リベルタパフュームのクリエイターとファンのタッチポイントであるだけでなく、ファン同士の交流の場にもなっており、このような現象はメイクアップブランドのイベントではあまりみられないものだ。ニッチフレグランスという、ややマニアックなカテゴリーのファンが自らの体験を共有することで、ブランドのコミュニティが広がり、さらに濃密になってロイヤリティという絆を生み出している。

■地方創生にもコミットするクロノシャルム(CHRONO CHARME)

2019年誕生のライフスタイルブランドであるクロノシャルムは、ストレスフルなライフスタイルを送る現代人に向けたヘアケア・ボディケア製品を揃える。自社ECのほか、セレクトショップを中心に展開している。

クロノシャルムの主なユーザーは25〜44歳で、男性が35%と多いのが特徴だ。伊勢丹新宿店やエストネーションなどで定期的にポップアップを実施。イベントではヘアケアカウンセリングを行ったり、クロノシャルムLINE公式アカウントでヘアケアに関する悩み相談を随時受け付けるなど、ファンとの距離感が近いコミュニケーションでつながりを深めている。

出典:クロノシャルム公式サイト

ブランド創業者のReno Beauty株式会社 代表取締役 田中誠太朗氏は、都内有名サロンを経て2015年に独立。芸能人のヘアメイクやイベントへの登壇など精力的に活動を行うかたわら、2017年に会員制サロン「Reno 801」をオープン。年会費制の完全プライベート形態で運営している。

また田中氏は、美容領域から自身の出身地である北海道の地方創生にも積極的に取り組んでいる。余市町はそのプロジェクトの第一弾で、余市産の白ブドウの果皮から抽出される成分で生体機能の24時間周期の変動(リズム)を制御する時計遺伝子の働きにアプローチする「クロノシャルディ」を、シャンプー、ボディウォッシュ、ボディミルク、ハンドウォッシュに配合している。

スタープロダクトのシャンプー、トリートメントには、植物エンドルフィンを含む「ハッピーベル」や皮膚でのGABA産生酵素の発現を促す「キュアベリー」など、抗ストレス作用をもつ植物由来成分を配合。頭皮環境を整えながらツヤとまとまりのある髪に仕上げるとうたう。そのほかのプロダクトも、それぞれ、保水・保湿、エイジングケアに配慮した処方となっており、すべての製品で天然由来成分95%以上を実現している。

余市ではワイン用のぶどう生産量が年々増加
画像提供:Reno Beauty株式会社

クロノシャルムの製品は余市町のふるさと納税品となっているほか、宿泊施設とのコラボレーションとして、2022年にはニセコ積丹小樽海岸国定公園にオープンしたプライベートヴィラ「SHIGUCHI」や、日本ハムファイターズの新本拠地「北海道ボールパークFビレッジ」内のヴィラ「VILLA BRAMARE」にオリジナルのアメニティ製品を提供。直近では鹿児島県徳之島にあるプライベートヴィラ「YUUNA」のアメニティも手掛け、道外の施設とも取り組みを広げている。

SHIGUCHI COLLECTIONとBRAMARE COLLECTIONはそれぞれの施設のコンセプトに沿って精油をブレンドし、オリジナルの香りに仕上げている。SHIGUCHI COLLECTION発売の際は、田中氏が現地からインスタライブを実施。SHIGUCHIのクリエイティブディレクターを務めるショウヤ・グリッグ氏とともに、築150年の古民家を活かした施設を案内しながら商品紹介を行った。

田中氏のビジネスは、ヘアメイクアーティストとしての活動、サロン運営、クロノシャルムの開発と多岐にわたる。個人がプロデュースするブランドの場合、ヘアメイクを担当した芸能人にPR投稿を依頼したり、クリエイター本人がSNS上で商品紹介を行うケースが多い。しかし、田中氏は自らのビジネスをクロスさせず、あえて個別に成り立たせている。田中氏個人のSNSでは技術者・ビジネスパーソンとしての発信を行っており、クロノシャルムの製品そのものには直接触れず、ブランドのコンセプトを語るにとどめている。

このような、製品にあえて創業者などの特定の「人」のイメージをつけない戦略が、他業種との融和性と確信性を兼ね備えたコラボレーションを可能にしているとも考えられる。

Text:弓気田みずほ(Mizuho Yugeta)
Top images:Scentopia株式会社、Reno Beauty株式会社

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