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ロレアル、ユニリーバ、エスティ ローダー。グローバルトップ3社の2023年上半期の動き

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グローバル化粧品企業の上位3社、ロレアル、ユニリーバ、エスティ ローダーの2023年上半期の総括をレポートする。ロレアルは盤石のポートフォリオと先手を打つ経営でますます好調、ユニリーバは復活への変革が奏功しており、エスティ ローダーは減収減益だった。2023年上半期、それぞれの施策を紹介しながらその背景をひも解く。
※ランキングは、BeautyPackaging のTOP20 GLOBAL BEAUTY COMPANIESより

2023年上半期、グローバル・マーケットでトップのロレアルは、2023年7月28日に2023年上半期の大幅な増収増益を発表し株価は上昇している。S&P500指数の2023年上半期の平均上昇率が16.05%で、ナスダック総合指数が32.01%、ダウ平均株価が3.84%だったのに対し、ロレアルは28.03%と非常に好調だった。

ユニリーバも、ポートフォリオの再編などをすすめた結果、2022年上半期は増収増益、2023年7月1日付で就任した新CEOハイン・シューマッハ氏の元、さらなる変革を進めるとしており、株価も回復基調にある。株価平均上昇率は、3.83%だった。

エスティ ローダーは、COVID-19によるアジア・トラベルリテールや中国本土での不振、米国での百貨店依存からの脱却ができず、引き続き減収減益となった。株価平均上昇率は、-20.20%だった。中国市場依存の高さと北米でのシェア回復が課題だったが、これらの宿題はクリアできていない形だ。

ロレアル、ユニリーバ、エスティ ローダーの株価の動き
出典:Yahoo! Finance

ロレアル 
オンラインとリアル、バリューとボリュームをバランスよく成長させ増収増益

ロレアルが2023年7月28日に発表した2023年上半期の決算は、売上高が前年同期比12.0%増の205億7,410万ユーロ(約3兆2,437億円)、営業利益は、同13.7%増の42億5,880万ユーロ(約6,714億円)で営業利益率20.7%を達成、純利益は、同11.1%増、36億1,660万ユーロ(約5,701億円)で、インフレ下でも大幅な増収増益を達成。S&Pグローバルは、ロレアルグループのESG評価を100点満点中85点と評価した。

CEOニコラ・イエロニムス氏は、「かつてないほどダイナミックな美容市場において、ロレアルは目覚ましい業績を上げ、上期はグローバルでのリーダーシップをさらに強化した。すべての事業部、地域、カテゴリー、チャネルにおいて幅広い成長を遂げ、バランスの取れた多極化モデルが改めて実証された。(中略)依然として不透明な経済状況の中、私たちは将来への意欲を持ち続け、美容市場の見通しを楽観視し、市場を凌駕し続け、2023年に再び増収増益を達成することを確信している」と述べている。

部門別でみると、サロンやヘアスタイリスト向けのプロフェッショナル製品が、対前年同期比6.9%の23億1,370万ユーロ(約3,647億円)の売上高となり、中国本土、インド、英国で顕著な成長を遂げた。成長を牽引したのは、2023年1月にケラスターゼ ブランドから出ているフケ防止製品「Symbiose」シリーズ、ロレアルプロフェッショナルのメタルデトックスができるケアラインを提供する「セリエ エクスパート」。ヘアカラー部門は、Redkenの「Shades EQ」とロレアルプロフェッショナルの「iNOA」で好調に推移した。業界リーダーとして、ビジネスパートナーであるサロンのGX(グリーントランスフォーメーション)を推進する「Hairstylists for the Future(未来のためのヘアスタイリスト)」プログラムの展開を引き続き推進している。

コンシューマー製品の売上は、半期としては過去最高で、対前年同期比13.1%増、76億8,720万ユーロ(約1兆2,119億円)を達成した。その要因は、欧州だけでなく、メキシコ、ブラジル、インドなどの将来性の高い新興市場において、卓越した業績を上げたことだ。大型ブランドはいずれも2桁成長を達成。メイクアップでは、メイベリン ニューヨークの新アイテム「Falsies Surreal Mascara」、ロレアル パリの「Telescopic Lift Mascara」、NYX Professional Makeupの「Fat Oil Gloss」が最も勢いをもち、売上を牽引した。スキンケアは、ロレアル パリの新製品「Revitalift Clinical Vitamin C SPF50+」とガルニエの新しい AHA BHA アクネケアラインの売上が好調だったことから、2桁成長を記録した。

ラグジュアリーブランドであるロレアルリュクス事業は、売上高は同6.1%増の72億8,840万ユーロ(約1兆1,490億円)だった。とくに、欧州、北米、新興市場が好調でイヴ・サンローラン、プラダ、ヴァレンティノを含むクチュールブランドの顕著な業績が後押しして、全地域で2桁成長を達成した。スキンケアでは、ヘレナ ルビンスタインの伸びと北米におけるランコムの回復、日本におけるタカミの成功、さらに最近では中国本土も好調で、引き続き躍進を遂げた。メイクアップ部門も、イヴ・サンローランの成功や、スペシャリスト・ブランドのアーバンディケイとシュウ ウエムラの好調に支えられて成長した。ナチュラ・アンド・コーから買収したブランド、イソップは規制当局の承認が得られ次第、下半期にポートフォリオに統合される予定である。

皮膚科美容部門(旧アクティブ・コスメティクス、臨床皮膚医学の知見に基づいて作られたスキンケア製品ブランド群)は、同29.5%増32億8,480万ユーロ(約5,178億円)で、特に新興市場と欧州で目覚ましく成長し、すべてのグローバルブランドが2桁成長を実現。ラ ロッシュ ポゼは、「エファクラ」、「シカプラスト」、「アンテリオス UVmune 400」が牽引し、好調を維持した。CeraVeは、北米を中心に活動し、そのほかの地域での展開も加速。Vichyは、「Dercos」の成功とサンケアの堅調な勢いが原動力となった。SkinCeuticalsや新たに買収したskinbetter scienceは堅調に推移している。

地域別にみると、ラテンアメリカが対前年同期比28.9%増、SAPMENA-SSA(南アジア太平洋、中東、北アフリカ、サハラ以南のアフリカ地域)が17.4%増、欧州が16.6%増、北米が14.7%増、北アジアが0.6%増の結果だった。

ラテンアメリカはメキシコとブラジルが大きく伸び、メイベリン ニューヨークの新商品のおかげで、全カテゴリーで2桁成長を先導した。ヘアケアは、Elviveのフランチャイズが引き続き好調で、売上を伸ばした。

SAPMENA-SSAについては、太平洋地域では特にドラッグストアチャネルでの成長が顕著、インドでは、コンシューマー向けおよびプロ向けのヘアカラーとヘアケアが成長を牽引した。サハラ以南のアフリカでは、すべての国が2桁成長を記録し、特に南アフリカとケニアが好調であった。

欧州は、対前年同期比16.6%増で顕著な成長で、支えたのは、バリュー(価格、つまり値上げ)とボリューム(量)の両方の増加だ。ECは第2四半期に大幅に増加した。ドイツ・オーストリア・スイス(この3カ国はロレアルではクラスターとしてまとめてみている)、フランス、英国などの主要国だけでなく、ポーランド、トルコ、北欧などの国々でも業績をあげている。ロレアル リュクス事業のプラダの「パラドックス」とイヴ・サンローランの「リブレ」の継続的な成功に牽引され、欧州のセレクティブ ビューティ市場最大のセグメントであるフレグランスにおけるリーダーシップを強化した。

北米は、同14.7%増で、メイクアップではイヴ・サンローランとアルマーニの最新の製品の売れ行きが好調で2桁成長を記録。eコマース部門は、アマゾンでの販売が好調を維持した。

北アジアは、同0.6%増だった。中国本土の美容市場は、オフラインとオンラインの両チャネルにおける力強い回復に牽引され、第2四半期に回復を遂げた。ロレアルは、市場の伸びよりも大幅に成長し、618商戦では、4部門すべてにおいてグループの8ブランドがトップ20入りし、ロレアルパリとランコムは、すべてのプラットフォームとカテゴリーで累計1位と2位にそれぞれランクインした。香港特別行政区は、中国本土からの旅行者の回復の恩恵を受け、引き続き好調な伸びを示した。しかし、トラベルリテール事業では、売り切れなどの悪影響も出た。

戦略的な動きとして、2020年春、ロレアルは「NEXT」と呼ぶコロナ後の世界を視野にいれた、組織簡素化のイニシアチブを立ち上げ、組織間のシナジーを実現する構造改革として、世界7か所のエリアに5つのシェアード・サービス(グループ企業ごとに分かれていたコーポレート業務を平準化して集約させる仕組み)を作り、各事業部のポートフォリオの見直しや、各ブランドの商品数の絞り込み、製造と研究における複雑なプロセスの削減などを行っていた。この継続的な構造改革(アンビション・フランス・プロジェクト)の一環として、2023年7月1日、ロレアル・グループは、2023年4月21日の年次株主総会で決議された通り、ロレアル・フランスを自律的な事業体として設立し、コマーシャル・オペレーションとシェアードサービスを統合した。

Viva Tech 2023では、最新のビューティテック・イノベーションを発表している。手指の運動障害がある人でも化粧ができるように設計されたインクルージョン・ソリューション「HAPTA」、診断ツール「SPOTSCAN」「META PROFILER™」「K-SCAN」、カスタマイズした眉を数秒でプリントメイクできるアイブロウアプリケーター「3D shu:brow」などが含まれている。

そのほか、ロレアルはいくつかの主要なバイオテクノロジーイニシアチブを立ち上げた。ロレアルのベンチャーキャピタルファンドBOLDは、米国のバイオテクノロジー企業Debutに投資し、高機能で持続可能な7,000種以上の原料開発ができるプラットフォームを共同開発する。また、カリフォルニア大学バークレー校の先駆的なバイオロジーインキュベーターであるBakar Labsとの提携も発表した。この提携により、Bakar Labsがインキュベーションする新興企業は、動物を使わない安全性と有効性試験のための革新的なツールである、ロレアルの3D再構築皮膚モデルに無料でアクセスできるようになる。

このほか、ロレアルは、アルファベット(Googleの親会社)のプレシジョン・ヘルス(研究、臨床・非臨床データ、コンピューティングパワーを組み合わせ、その人特有のニーズに合わせた医療)企業であるVerilyと戦略的パートナーシップを発表し、世界最大かつ最も多様な複数年にわたる肌と髪の健康調査「マイ・スキン&ヘア・ジャーニー」の開始も発表した。米国の数千人の女性を対象としたこの研究は、研究者が肌と髪の健康に寄与する生物学的、臨床的、環境的要因をより深く理解するのに役立つと発表している。

これまでのESGの活動のみならず、ビューティ×ヘルスの領域を見据えた動きや、新しいテクノロジーを自社製品に入れることでさらなる差別化をはかる動きをしていることが垣間見える。

ロレアルのデジタル関連での主な動き

■ 2023年1月4日 CES2023イノベーション賞を受賞した2つの新しいビューティ・テクノロジーを発表。1つは、HAPTAで、手や腕が不自由な方のために設計された、世界初のハンドヘルド・コンピューター化されたメイクアップ・アプリケーター。もう1つのロレアル ブロウ マジックは、世界初のスマート眉アプリケーター。「美のインクルーシブ」を掲げるロレアルは、体が不自由な人を含む全ての人に向けて美へのアクセスを提供している

■ 2023年3月1日 メイベリンニューヨークが新作商品「Falsies Surreal Extensions Mascara」の広告にアバター「May」を起用。アバターをモデルとして起用する初の試みで、リアルと仮想空間を融合するキャンペーンを今後展開するとしている。その後5月に、デジタル屋外広告会社のKineticとDOOH.com、およびメディアエージェンシー EssenceMediacomXは、同マスカラを対象とした大規模な全国 3D 外出キャンペーンを開始

ロレアルの事業開発での主な動き

■ 2023年1月9日 ロレアルのベンチャーキャピタルファンド「BOLD(Business Opportunities for L'Oreal Development)」を通じて、マイクロプリンティングのリーダーであるPrinker Koreaにマイノリティー投資を発表。Prinker Koreaのテンポラリータトゥー製品は、複数のCESベスト・オブ・イノベーション賞と権威ある世界的なiFデザイン賞を受賞している。ロレアルとプリンカーコリアは数年にわたり協働し、ロレアル・ブロウ・マジックを開発

■ 2023年1月12日 BOLD が、メタバースと NFT マーケットプレイスに特化した米国の新興企業 Digital Villageにマイノリティー投資を発表。ロレアルがメタバースとWeb3の分野で初めてVC投資になる。また、この投資は、2022年に開始されたBOLD女性創業者イニシアチブによる最初の投資でもある

■ 2023年3月22日 サステナブルな美のために植物由来成分を大規模に開発するバイオテクノロジーベンチャーにBOLDを通じて投資。バイオテクノロジー企業であるGeno社が主導するベンチャーに、ロレアルは、ユニリーバ、花王とともに、参画

■ 2023年4月3日 オーストラリアの高級美容ブランド イソップ買収でナチュラ・アンド・コーと合意2023年9月1日に買収完了を発表

■ 2023年6月1日 BOLDがバイオテクノロジー企業 Debutに投資、有効成分の共同研究へ。カリフォルニア州サンディエゴに本社を置くDebutは、新規成分や製品の発見、製剤化、臨床試験、製造をエンドツーエンドで行うことを専門としている。同社の無細胞高度生物製造プラットフォームは、従来の発酵の制約を回避し、生物学的プロセスを直接制御することで、ポリフェノール、バイオポリマー、天然色素など、高機能、抗老化、抗酸化作用で珍重される複雑な天然産物を生産する。この種の合成生物学は、複雑さを大幅に軽減し、達成できる製品の量を増やす。このプラットフォームを使えば、新しい成分を発見から生産前までわずか6週間で提供でき、モイスチャライザーから美容液、ヘアケアまで、より高性能で持続可能な美容製品の数々に使用できる

■ 2023年6月29日 カリフォルニア大学バークレー校のバイオテクノロジーインキュベーターである Bakar Labs との提携を発表、Bakar Labs傘下の新興企業(治療薬、診断薬、農業技術、食品技術に携わる企業が含まれる)にロレアル独自の 3D 再構築皮膚モデルへのアクセスを提供し、動物を用いない安全性と有効性の試験方法に革新的なツールを提供

ロレアルその他の動き

■ 2023年1月31日 ブルームバーグ・インデックス2023で6年連続で男女平等を評価される

■ 2023年3月2日 equileapの「世界で最も男女平等な企業」にランクイン

■ 2023年4月20日 ロレアル自然再生基金(L'Oréal Fund for Nature Regeneration)が3件の新規投資で生物多様性保全活動を加速

■ 2023年5月11日 20億ユーロ(約3,153億円)のデュアル・トランシェ債の発行に成功。社債の純収入は、イソップ社の買収を含む一般企業目的に使用される

■ 2023年6月12日 Viva Tech 2023において、環境と社会に貢献するイノベーションを発表

■ 2023年6月16日 30歳未満の若者を対象としたロレアルのグローバルな没入型学習コンペティション「Brandstorm 2023」の優勝者としてフランスの「Caring 4 Beauty」チームを発表した。Caring 4 Beautyは、「Crack The New Codes of Beauty」というテーマにインスパイアされたコンセプト「URMODEL」で優勝した

■ 2023年6月23日 第25回ロレアル-ユネスコ女性科学賞(L’Oréal-UNESCO For Women in Science International Awards)で、自国を離れざるを得なかった3名の研究者にも名誉メダルと賞金を授与。非常に困難な職業的・個人的状況にもかかわらず、勇気と決意をもって科学者としてのキャリアを追求した3人、Mursal Dawodi博士(アフガニスタン)、Ann Al Sawoor博士(イラク)、Marycelin Baba博士(ナイジェリア)を表彰した

ユニリーバ 
ポートフォリオの絞り込みで増収増益 新CEO体制へ

ユニリーバが2023年7月25日に発表した2023年上半期の売上高は、対前年同期比2.7%増の304億2,800万ユーロ(約4兆7,972億円)、営業利益は同22.6%増の55億1,600万ユーロ(約8,696億円)、営業利益率は18.1%で、対前年同期比290ポイント増だった。ビューティ&ウェルビーイングの売上高は、同8.6%増、62億2,500万ユーロ(約9,814億円)。

ビューティ&ウェルビーイングの基礎的売上高(※)は9.1%増で、そのうち5.1%は価格によるもの、3.8%は数量によるものだ。米国ではヘアケアの数量が増量し1桁の強い成長に、また、ヘアケアブランドのSunsilkTRESemmeのリローンチによって、2桁成長を達成した。

※ "Underlying Sales Growth"(基礎的売上高)とは、売上の成長を、通常の業務や営業活動に関連する要因を除いて計算するための指標で、これには価格変動、為替変動、特別な一時的要因の影響を取り除いて、企業の売上の本質的な成長を示す

コア・スキンケア領域は、Vaselin(ヴァセリン)のほか、ポーラチョイス、ダーマロジカ、Hourglassなどの最先端の科学技術に裏打ちされた新製品の発売に支えられて成長。ヘルス&ウェルビーイング事業では、電解質ドリンクミックスの「Liquid I.V.」が引き続き好調で、風味や機能に妥協することなく、水分補給に優れた砂糖不使用の3種類の製品を発売した。

アラン・ジョープ氏がCEOをつとめていた時代に低迷していた株価も、特に第2四半期以降は回復基調にある。

出典:Yahoo! Finance

2019年にジョープ氏がCEOに就任後、パンデミックやインフレ、ウクライナ危機等のネガティブな外的要因が多数あったが、競合である大手一般消費財企業と比較すると業績も株価も見劣りがしていたのは事実だ。医薬品大手のグラクソ・スミスクラインの一般医薬品事業の買収に失敗後は、ジョープ氏のリーダーシップに疑問を持つ声も一部の投資家から出ていた。最終的には、2022年9月26日にジョープCEOの退任の発表があり、2023年1月30日に当時オランダの酪農協同組合フリースランド・カンピーナのCEOを務めていたハイン・シューマッハ氏の2023年7月1日付での新CEO就任が発表された。

新体制の元、全ステークホルダーへ向けた業績改善が期待されているなかで、2023年6月5日に、ジョープ氏は在籍期間を振り返るインタビューを発表した。

その中で、ポートフォリオ・マネジメントや、ブランドがパーパスを持つ重要性を語ったが、パーパスやESGに偏り過ぎていた感は否めない。仏ダノンのパーパス経営で有名だったエマニュエル・ファベール会長兼CEOの解任騒動を彷彿させる。サステナビリティの大前提に株主価値向上が問われていることを改めて気づかされる出来事だったともいえよう。

とはいえ、ジョープ氏の元で大規模なブランド・ポートフォリオの見直しを行ったことは、新CEOのシューマッハ氏にとってはプラスであろう。新進気鋭のブランドとのボルトオン買収に注力することで、さらに盤石なポートフォリオを組める可能性が高い。このボルトオン買収はユニリーバが得意とする領域である。

また、ユニリーバでは、売上の約60%が新興国市場にあり、第2四半期だけでみると、ポートフォリオ内での新興国市場は10.6%も増加している。新興国は、先進国市場よりも急速に拡大すると予想されており、ユニリーバは長期的に確実な成長を遂げるためにこの領域を重要視している。

また、食の領域でもヘルシーな製品を打ち出し、Z世代からの支持を得ている。中でも、ザ・ベジタリアン・ブッチャーの新しい植物ベースのラッシャーは、ベーコンを含まずにベーコン味を提供し、見た目も調理方法もベーコンと同じで代替肉分野でのゲームチェンジャーとなると見られている。

ビューティ&ウェルビーイング事業として、ビューティだけでなく、ヘルス、ウェルスの領域を取り込んでいく中で、こういった食領域への注力も注目したい。

ユニリーバのデジタルでの主な動き

■ 2023年3月10日 SXSW2023で、チーフ・デジタル&コマーシャル・オフィサーのコニー・ブラームス(Conny Braams)氏が、急速に変化する消費者や顧客の状況について議論し、5つの洞察、クリエイティブコマース革命、広告付きストリーミング、小売メディア、サステナビリティとソーシャルメディア、Web3を提示

■ 2023年6月12日 米シアトルに拠点をもつバイオテクノロジー企業ArzedaとAI を使用して安定性、性能、持続可能性の利点が向上した新しい酵素を開発

ユニリーバの事業開発での主な動き

■ 2023年2月14日 ヘアケアブランドSuaveの北米事業の売却を発表、2023年5月1日売却完了

■ 2023年6月14日 米国のフローズンギリシャヨーグルトブランド Yassoの買収を発表、8月1日買収完了

ユニリーバその他の動き

■ 2023年1月13日 中国天津とブラジルのインダイアツーバの2つの工場が、世界経済フォーラムの4IRライトハウスに認定

■ 2023年2月15日 動物実験の代替策を推進する、化粧品の安全性に関する国際協力(ICCS)に参加

■ 2023年3月3日 Sunsilk、エチオピアのヘアケア分野でエチオピア人の髪特有の課題を解決するための特注品を開発し、それを製造するための工場を建設

■ 2023年3月7日 国際女性デーにあたり、ダヴ、SheaMoisture、ダーマロジカが、次世代の女性に力を与えるための自尊心、公平性を促進するためのプログラムを推進

■ 2023年3月17日 人々に持続可能な選択をすることを奨励する上でソーシャルメディアコンテンツが果たす役割について、行動科学機関との提携により行なった研究を発表

■ 2023年3月20日 アイスクリームブランドWall'sが、幸福の専門家であるリチャード・レイヤード氏と非営利のクリエイティブコミュニケーションエージェンシーProject Everyoneと協力して、The Happiness Projectを立ち上げ、2025年までに300万人の子どもたちに幸せな習慣を教えることを発表

エスティローダー 
北米市場でのシェア回復も中国依存路線を変更できず減益減収

エスティ ローダーが2023年8月18日に発表した2023年度(2022年7月1日~2023年6月30日)の売上高は対前年比10%減の159億1,000万ドル(約2兆3,336億円)、営業利益は同52%減 15億900万ドル(約2,213億円)、純利益は同58%減の10億1,000万ドル(約1,481億円)で、大幅な減収減益だった。

セグメント別でみると、スキンケアの売上は対前年比17.1%減の82億200万ドル(約1兆2,030億円)、メイクアップは同3.3%減の45億1,600万ドル(約6,624億円)、フレグランスが同1.5%増の25億1,200万ドル(約3,684億円)、ヘアケアが同3.4%増の6億5,300万ドル(約957億円)だった。

地域別では、北米の売上高は同2.3%減の45億1,800万ドル(約6,627億円)、欧州・中東・アフリカが同19%減の62億2,500万ドル(約9,130億円)、アジア太平洋地域が同4.5%減の51億9,400万ドル(約7,618億円)だった。

減収減益の最大の要因は、アジア・トラベルリテールと中国本土でのCOVID-19パンデミックの影響による苦戦としている。海南島で長期にわたる店舗閉鎖が逆風となったことや、一部の小売業者による在庫の引き締めなどが要因となり、売上を作れなかった。また、お膝元の米国では、インフレ圧力と景気後退のため、小売店での改善ペースが予想より遅く、売上につなげられなかったとしている。競合が売上を伸ばすなかで、世界的なドル高、インフレ、景気後退がビジネス悪化の理由とされていることについては、残念な印象が残るアニュアルレポートといわざるを得ないだろう。

米国では、パンデミック以前のビジネスモデルである、百貨店における販売の依存が大きく減らせていないのが課題だ。同社もそれを明確に認識しており、米国百貨店への依存を減らし百貨店以外のリアルの商流及びオンラインの両方を強化するとともに、アジアのサプライチェーンの変革を組織することで広大な中国市場での足場を強化するとしている。また、百貨店で購買する層とは違うセグメントへの訴求をするべく、自社ブランドイメージを進化させるために、米国のTikTokトレンドに対応し製品流通を変えていくことを目指している。2021年にInstagramの伸び悩みから、各ブランドにTikTokの使用を義務付けていたが、これをさらにブラッシュアップさせる動きだ。また、M・A・Cなどの中価格帯のブランドで新製品投入などでテコ入れをはかるとしているが、競合他社がとくに先進国マーケットにおいてはラグジュアリービューティへシフトしていくなかで、中価格帯も攻める戦略が奏功するのかにも注目が集まる。

エスティ ローダーのデジタル関連での主な動き

■ 2023年1月11日 視覚障害者向けの AI を活用した美容アプリを発表

■ 2023年4月12日 ルーマニアのブカレストに新しいテクノロジーセンターを開設。ラグジュアリービューティの消費者向けに、技術的に先進的でハイタッチな消費者体験を構築することに重点を置く。ブカレストは、ELCがグローバル・テクノロジー・センター戦略を立ち上げて以来、3番目に開設したグローバル・テクノロジー・センター。ブカレストは、IT人材の世界的リーダーとしての地位を確立しており、世界第1位にランクされている

エスティ ローダーの事業開発での主な動き

■ 2023年4月28日 トム フォードブランドの買収を完了。同日、エグゼクティブリーダーシップを発表し、ギヨーム・ジョセル(Guillaume Jesel)氏がトム フォードの社長兼CEOに就任、トム・フォード氏とTom Ford International会長のドメニコ・デ・ソーレ(Domenico De Sole)氏は2023年末までブランドアドバイザーを務める

■ 2023年5月22日 ファーミングデール州立大学と美容における次世代のSTEM人材の育成でコラボレーションを発表

■ 2023年6月7日 ELCのNew Incubation Ventures(NIV)によって設立され、インドで人気の美容およびライフスタイル小売業者であるNykaaと提携して立ち上げられた新興ブランド向けのインキュベーションプログラムBEAUTY&YOUで、次世代のインドの美容ブランドを発掘するために、 BEAUTY&YOU 2023を開催することを発表。応募は2023年6月7日から2023年8月5日まで。発表は、2023年11月2日

■ 2023年6月29日 グリーンビルディング基準を決定し、責任ある店舗設計プログラムを開始

エスティ ローダーのそのほかの動き

■ 2023年1月12日 サプライ チェーンの教育と雇用の機会を促進するためにバックス カウンティ コミュニティ カレッジに20万ドル(約2,900万円)を寄付

■ 2023年2月10日 トルコとシリアで起きた地震の影響を受けたELC従業員と地域社会への支援(ユニセフに総額40万ドル(約5,800万円)の寄付の約束を含む)を発表

■ 2023年2月15日 ELCの黒人リーダーと幹部のネットワーク(NOBLE)がアフロフューチャリズムとブラック ビューティの未来をディスカッション

■ 2023年3月3日 2023 年 2 月 1 日付でボビイ ブラウンの上級副社長兼グローバル ジェネラル マネージャーにラーニー ・ストレンジ(Lahnie Strange)氏を任命したことを発表

■ 2023年3月6日 boom!とパートナーを組み、サプライチェーンにおける女性のエンパワメントを目指すと発表

■ 2023年3月6日 ブルームバーグの男女平等指数に6年連続で選出

■ 2023年3月22日 アクセス、アドボカシー、芸術的表現で読み書き能力を向上させる“WRITING CHANGE”の一環として、LAを拠点とするメンタリング組織WriteGirlと提携してクリエイティブライティングワークショップを主催した。詩人のアマンダ・ゴーマン氏も参加している。書くことを通して女の子の創造性とエンパワーメントを促進する

■ 2023年3月24日 ガーナのシアバターのサプライチェーンにおける女性の地位向上に向け、金融リテラシー研修を実施

■ 2023年4月28日 初代最高サステナビリティ責任者(Chief Sustainability Officer, CSO)にナンシー・マホン(Nancy Mahon)氏が就任

■ 2023年5月31日 米ロサンゼルスとニューヨークで1,000人の女性が集まり、ラティーナの歴史的功績を認め、祝うHispanas Organizationized for Political Equality(HOPE)のラティーナ・ヒストリー・デー・カンファレンスで、HOPE との15年のパートナーシップを祝った

グローバルビューティを牽引する3社のこれから

Web3をはじめ、さまざまなトライアルを先手をうって継続していかなければデジタルの時代の覇者にはなれない。強固な財務基盤を持ち、先手先手を打てるロレアルは他の追随を許さないほどの力をもっているといえよう。ユニリーバの復活の兆しは、業界にとって良いニュースだ。新興市場への参入戦略など同社の強みを生かしながら、新CEO下でさらに成長路線が描かれることに期待がかかる。低迷するエスティローダーは、大幅な組織変革をはじめ、サプライチェーンなどの見直しをスタートしているが動きが遅い感は否めず、復活にはあと数年ほどの時間がかかるのではないかとみている。

Text: 秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
Top image: metamorworks via Shutterstock

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