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オンライン完結で美容皮膚科の薬処方やドクターズコスメ販売を行う美容診療サービスの現在地

BeautyTech.jp

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従来対面が主体だった美容皮膚科の薬の処方やドクターズコスメの販売をオンラインで行うサービスの動きが活発化している。医療と美容両方の領域にまたがる新サービスの現況を紹介する。

withコロナの業態へシフトした美容医療市場

コロナ禍において美容医療市場では、「マスクをしている今だから美容医療を」という需要が高まるとともに、それまで主体だった対面治療から、非接触で受診可能なオンラインなどへと、withコロナを意識した業態へサービスのシフトが生じた。矢野経済研究所の調査によると、日本の美容医療市場は、2020年は前年比96.3%の3,920億円と前年割れとなったが、2021年は同101.8%の3,990億円に回復。今後も拡大基調で推移する見通しで、とくに美容皮膚科領域の非外科的施術比率が高まっていくとみられる。今回は、美容皮膚科領域の非外科的施術からとくにオンライン診療プラットフォームにスポットをあて、オンラインで美容皮膚科の医師による診察から薬の処方までを行い、ユーザーの自宅まで配送するサービスや、医療機関専売のいわゆるドクターズコスメをオンライン販売するサービスなどの現況を紹介する。

自宅ポストに薬を届ける美容皮膚科のオンライン診療サービス

医師が動画や画像と文字チャットによりオーダーメイド処方を提案 
株式会社Neautech 「ANS.」

株式会社Neautech(ニューテック)は、2022年4月にβ版をローンチした美肌処方薬のサブスクリプション配送サービス「HADA LOUNGE ONLINE」を、2023年1月に「ANS.(アンス)」として正式ローンチした。

ANS.メインビジュアル
画像提供:株式会社Neautech

遠隔医療総論を発表するなど、医学学会で「オンライン診療」という言葉を提唱する医師であり、Neautech 取締役でもある竹村昌敏氏の監修によるANS.は、LINE公式アカウントをタッチポイントにサービスを展開する。

ANS.のLINE公式アカウントを友だち追加したあと、アカウント登録、問診票への記入、顔写真の撮影や本人確認書類の提出、医師の診察、決済・配送手続きまでを実際に体験してみた。ユーザーとしては、一連の流れはLINE内で完結しているように感じられる。しかし実際は、各過程はLINEに表示されるリンクから別ブラウザに遷移してANS.独自開発のシステム上で行われる仕組みとしている。厚生労働省、経済産業省、総務省が定めたオンライン診療を行うシステムの要件、いわゆる3省2ガイドラインに準拠するための措置だという。

ANS.のLINE公式アカウントから外部リンクで診察用のチャットルームに遷移する仕組み
画像提供:株式会社Neautech

医師の診察は文字チャットとビデオチャットにより行われる。文字チャットは24時間受付(対応は9時〜22時)で、ユーザーが現在の肌悩みや既往歴などを問診票に記入して提出すると、担当医師の準備ができしだい医師からメッセージが届き、それにユーザーが返信するかたちで診察がスタートする。医師のメッセージが届くのを待つ間に、肌の写真の撮影や、本人確認書類の提出を促すポップアップが表示される。肌の写真はスマホのインカメを使用して顔の左右から、正面からなどスマホ画面に表示されるガイド線内に顔の輪郭を収めて受診直前の状態を撮影する仕様で、受診するユーザーも診察にあたる医師も隙間時間を活用できる設計だ。

ビデオチャットによる診察は2023年4月現在、ユーザーからの要望があった場合に医師の判断のもと個別で対応している。ビデオチャットの場合は両者の都合の合う時間を細かく調整する必要があるため予約制で、現時点では9割以上のユーザーがより手軽な文字チャットを選択するという。

医師の診察では問診票で選択した一番気になる肌悩み(ニキビ、肝斑、ハリキメ、たるみ、シミ、くすみ、しわ、その他から選択可能)に加えて、そのほかの悩みの聞き取りも行われる。医師の診察を待つ間に提出している診察直前の肌写真とこのチャット問診にもとづき薬の処方が4パターンほど提案されるので、そこから選んで決済手続きを行うと、数日後に薬がポストに届く。

ポストに届くANS.の処方薬
筆者は主にシミについて相談、トラネキサム酸など飲み薬のほか、塗り薬のトレチノインやハイドロキノンが処方された(著者撮影)

株式会社Neautech PR責任者 金城華乃子氏は「β版では、たとえば、主要な悩みがニキビならニキビケアだけにしか対応しない画一的なプラン展開や料金設定だった。しかし、肌悩みには『ニキビもだが乾燥も気になる』といった複合要因も多い。その点に着目し、肌悩みに寄り添える完全オーダーメイドの処方をANS.では可能にした」とする。また処方する薬は、独自の仕入れネットワークでコストを圧縮し、自由診療領域における価格破壊をめざす。

カスタマーサクセスも人員を増やして強化し、医師の指導を受けた美容カウンセラーによる「HADA 相談室」を新設。医師の診療とは別に、文字チャットのやりとりでユーザーからの相談や問い合わせを受け付ける。例えば、ニキビ肌の洗顔について、詳しく教えてほしいなど、ユーザーが肌悩みを気軽に聞けるようにしている。薬の服用を開始したのちは、定期的に肌写真の提出を促し、ユーザーが正しく薬を使えているかを確認しながら、疑問がある場合はすぐに担当医師につなげる役割も果たしている。

美容カウンセラーが相談や問い合わせを受け付けるHADA相談室(著者撮影)

アプリダウンロードなしのビデオチャットで診療。ドクターズコスメのオンラインショップも展開 
クリニックフォアグループ 「CLINIC FOR」

クリニックフォアグループによる「CLINIC FOR(クリニックフォア)」はオンラインによる診療で、低用量ピル、AGA、メディカルダイエット、禁煙治療、花粉症、ドライアイ、漢方、トラベル診療などの幅広いメニューを用意、自由診療の美容皮膚科と保険適用の皮膚科の双方もカバーする。

CLINIC FOR公式サイトトップページ
出典:CLINIC FOR公式サイト

受診にあたりアプリ等のダウンロードは不要で、スマホやカメラ・マイク付きのパソコン、あるいは電話で、事前に予約した日時に医師の診察が受けられる。自由診療の美容皮膚科の場合は、診察料と薬代の決済後、薬が配送される。治療プランは、2023年4月現在、シミ・ソバカス、くすみ、肝斑などに対応する「透明感・シミ改善プラン」、毛穴の目立ち、肌荒れ・キメ、乾燥などに対応する「美肌改善プラン」、シワ、たるみ、ニキビ跡などに対応する「肌悩み改善プラン」といったメニューのほか、「イボ治療プラン」「まつ毛治療プラン」もある。また、ハイドロキノンやトレチノインなど外用薬単剤の処方も行う。いずれも定期購入により割引がある。

保険診療の場合は、診察料・システム使用料の決済後、処方箋薬宅配サービス「とどくすり」により、薬剤師による電話などでの服薬指導が行われ、薬が届く。薬代はとどくすり内での決済となる。とどくすりは医療機関での処方薬を送料・手数料無料で自宅に配送するサービスだ。凸版印刷株式会社の子会社であるおかぴファーマシーシステム株式会社が運営する。患者は医療機関で処方せんを受け取るのではなく、医療機関側が処方せんをFAX等でとどくすり提携薬局に送付する方式だ。患者は薬剤師の電話による服薬指導の際に保険証番号をとどくすり提携薬局に共有し、薬代に健康保険の適用を受け、事前に登録した決済方法で後払いする。配送料やサービス利用料などの費用は、医療機関側にも患者側にも発生しない。とどくすりが患者から診療費と薬代をまとめて収納代行するサービスも医療機関向けに有料で提供しており、患者側にとっては医療機関での会計や薬局での待ち時間が削減され、医療機関側は会計事務の負担が軽減される仕組みだとする。

CLINIC FORではドクターズコスメやエステ専売化粧品のオンラインショップと提携しており、必要に応じてオンライン診療で肌のカウンセリングを実施している。専門のカウンセラーが行う無料の電話によるカウンセリングで、利用者が事前に送った顔写真を確認しながら肌の状態をヒアリングし、商品を販売する流れだ(一部商品は医師の診察が必須)。

こうしたドクターズコスメをオンライン診療やオンラインカウンセリング後に販売するECは最近増加している。株式会社CrownStrategy東京秘密クリニックと提携したドクターズコスメが購入できるオンラインショップ「チルベースメイク」を2023年2月にオープンした。

オンラインショップ「チルベースメイク」
出典:株式会社CrownStrategyプレスリリース

海外からの購買にも対応するよう英語、中国語などの翻訳機能と外貨レート換算システムが導入されている。

「CLINICS」はじめ、オンライン診療プラットフォーム

医療機関向けにオンライン診療に必要な機能をワンパッケージで提供するプラットフォームサービスもここ数年でプレイヤーが増加している。個人クリニックでの保険適用の診療を想定したものが多いが、美容皮膚科領域の自由診療でも活用が可能なものもある。

株式会社メドレーの「CLINICS(クリニクス)オンライン診療」は、予約受付、問診、診察、決済などの機能を揃えたオンライン診療システムだ。患者のスマートフォンにメドレーとNTTドコモと共同運営による患者向けアプリ「CLINICS」をインストールしてオンライン診療を実施する。院内処方薬の配送用の宛名ラベル印刷といった機能もある。

LINEヘルスケア株式会社の「LINEドクター」は、LINEを通じビデオ通話でオンライン診療を行う。Basic Planは、基本機能であるオンライン診療の予約、ビデオ通話、決済機能等を初期費用・月額固定費ともに無料で利用可能で、サービス利用料(決済金額の3.5%)が別途負担となる。

株式会社サイバーエージェントの連結子会社、株式会社MG-DXによる「薬急便 for オンライン診療」は、ブラウザで利用でき、医療機関の公式サイトやSNS、Googleマップなどの地図サービス、アプリやLINEミニアプリへの組み込みも可能とする。

名古屋大学発ベンチャーのAquaAge株式会社は、2022年10月、ドクターズコスメ販売のためのオンライン診療プラットフォームの提供を始めた。従来、ドクターズコスメは対面診療の問診が必要だったが、AI画像解析を用いて、肌測定にもとづくオンライン診療を実施することで、EC上での販売を可能にしたとする。同社の画像診断サービス「HADABON」アプリに、画像診断、オンライン診療予約受付・確認、問診票の記入、オンライン診療に関する注意事項の確認などを実装する。

AquaAgeの画像診断サービスを利用したオンライン診療イメージ
出典:AquaAgeプレスリリース

高まる利便性、しかし消費者側にも選択する知識が不可欠に

これまで、リアルに受診しなければ治療が難しいと思われていた美容皮膚科領域が、コロナ禍を経て、オンラインも併用できるようになったことで、消費者にとって選択肢が一気に広がった。しかし、消費者側にも安全なクリニックを選択する知識がなければ、重大な事故につながりかねない。たとえば、厚労省からは「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が出ている。これは、患者の利便性だけでなく、安全性・必要性・有効性のある適切な医療を提供するために定められた指針だ。この中で、オンライン診療は「リアルタイムの視覚及び聴覚の情報を含む情報通信手段」を含むものとしている。これは、対面と同等の情報を取得する必要があるからだ。なぜここまで厳格なルールが求められているかというと、医療用医薬品を使用するため、効果が高い反面、副作用にも注意が必要だからだ。

利便性は大事だが、利便性を追求するあまり、患者にリスクのある行為を行うクリニックは、消費者側も選択しないように啓発活動が必要となるだろう。

Text:大塚愛(Megumi Otsuka) 監修:秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
Top image:Yuriy2012 via Shutterstock

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