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化粧品容器の画期的なSXとなるか。ロケット工学応用の超高真空技術がもたらす恩恵

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世界唯一の特許技術である超高真空逆止弁(真空率99.5%を維持する逆止弁)技術を持つインターホールディングスは、食品や化粧品など内容物の酸化を長期間防ぐ真空容器を開発。フードロスなど世界的な社会課題解決によるインパクト創出を追求するとともに、化粧品産業における容器のイノベーションを目指す。同社代表取締役社長 成井五久実氏に、美容業界向けプロダクトの詳細や今後のマーケティング戦略と、中長期的な事業展望について聞いた。


NASAのロケット開発に活用された技術を応用した超高真空逆止弁

2019年に設立されたスタートアップのインターホールディングスは、「環境価値と経済価値が両立する社会を創る」というミッションを掲げ、さまざまな産業のSX(サステナビリティトランスフォーメーション)/GX(グリーントランスフォーメンション)を推進するため「SXパートナー事業」と「shin-ku(真空)事業」を2つの柱として展開している。

SXパートナー事業は、食品業界、ビューティ業界など各分野の専門家をアサインし、クライアント企業のサステナビリティ事業を戦略立案から実行まで支援するコンサルティング事業だ。一方、同社が中核と位置づけるshin-ku事業は、同社が特許を保有する「真空率99.5%(超高真空)を維持する逆止弁」をそなえた真空容器(以下、超高真空容器)を開発・販売する。

出典:インターホールディングス公式サイト

株式会社インターホールディングス 代表取締役社長 成井五久実氏はシリアルアントレプレナーであり、同社は2社目の起業となる。前回はメディア関連企業を運営していたが、他社が真似できない技術競争力を保有するソーシャルインパクト企業の創出を志し、インターホールディングスを新たに立ち上げたという。

「shin-ku事業はインターホールディングスの第一弾プロジェクトであり、そのビジネスコンセプトは技術者である萩原忠先生との出会いから生まれた。萩原先生は高い真空状態を維持することで、食品など内容物の酸化を防ぎ消費期限を大幅に伸ばす容器の要となる逆止弁の特許を保有していた。インターホールディングスは2022年11月に特許の継承を完了し、超高真空容器の製造・販売事業を本格的に展開することになった」(成井氏)

萩原忠氏は日本を代表する研究者・発明家であり、これまで600以上の特許を取得している人物だ。過去には米NASAのアポロ計画に参画し、ロケットの油圧バルブ開発に携わっていた。日本に帰国後も、原子力発電所の周辺油圧制御装置の開発や、日米仏合同プロジェクトにおける下水前処理自動高速除塵機の研究に関わるなど、技術開発の最前線で数々の功績を残している。

より多くの産業において、逆止弁を使用した同社の超高真空容器の普及を目指すインターホールディングスが、最初に着目したのが食品業界だった。

「長期的なソーシャルインパクトを狙うためには、しっかりと資金をまかなえる事業を生み出す必要がある。そこでファーストステップとして、日本酒とワインの業界にご提案を進めている。日本酒やワインは一般的な品質の商品の売価が2,000~3,000円以上であり、商品によっては数万円以上となる。新容器の採用に伴うコストを吸収でき、商品の酸化を長期間防止することによる付加価値が高いからだ。事業性をひとつひとつしっかりと検証しながら、ほかの食品や産業、とくに化粧品領域にも技術や製品を広めていきたいと考えている」(成井氏)

インターホールディングスは現在、公式ECを通じた消費者向け容器の販売や、業務用容器および真空サーバーの製造・販売、特許ライセンス提供など、さまざまな形でビジネスを展開している。最終的に目指すのは、超真空技術をサプライチェーン全体に実装させることによるビジネスの成功と、コストやフードロス、GHG(二酸化炭素やメタンなど温室効果を引き起こすガス)の削減を通じた社会的インパクトの創出だ。

株式会社インターホールディングス 代表取締役社長 成井五久実氏
プロフィール/東京女子大学卒業後、DeNAに新卒入社。その後トレンダーズにてPR・マーケティングを担当したのち、28歳でJIONを設立。設立1年でベクトルに事業売却しベクトルグループ傘下のスマートメディア社長を務めるかたわら、2022年6月よりインターホールディングスの代表取締役に就任。女性起業家を支援する活動にも従事している

同社ECサイトですでに販売が開始されているのが、消費者向け食品用容器の「shin-ku BOTTLE」だ。開封したワインなど液状の飲料・食品をshin-ku BOTTLEに移し替えるだけで、開けたての新鮮な状態を長期間保つことができる。

出典:インターホールディングス公式サイト

並行して、業務用製品の開発や実証実験、販促活動にも乗り出している。たとえば、2023年末には、コロナ後の需要回復と一部瓶メーカーの製造中止により、一升瓶が不足している日本酒メーカー向けの超高真空パウチの開発を開始。2024年4月には、秋田県の日本酒卸事業者と共同で、酒流通に真空技術やIoTを活用する実証実験を実施している。

化粧品容器にも応用し、真空率99.5%を実現

インターホールディングスは食品業界に加え、化粧品業界にも超高真空技術および関連製品を展開する予定だ。

「日本酒やワインと同じように、化粧品もその鮮度維持が問われる商品だ。またヒアリングを重ねて、レチノールやビタミンCなどの人気成分は空気に触れると一気に酸化が進む特徴があることもわかった。弊社の逆止弁は美容産業にも革新的なイノベーションをもたらすはずだと思い、化粧品用の超高真空容器の開発を開始した」(成井氏)

インターホールディングスが開発した化粧品容器の逆止弁には、スリット(切れ目)が入った哺乳瓶の乳首のようなドーム型のシリコン弁が内蔵されている。他社のエアレス容器やバックレスチューブ以上に空気を逆流させにくい機構に加え、大気圧で即座にドームが閉じるため、容器内を常に真空率99.5%の状態に保つ仕組みとなっている。

インターホールディングスが開発した逆止弁

「エアレスなど機密性の高さをうたう商品は少なくないが、既存製品のキャップの弁は内容物が通過する際に付着を避けられず、いずれ完全に閉まらなくなり機密性が減少していく。言い換えれば、空気が入る隙間を決してゼロにできない形状となっている。一方、当社の逆止弁を使った容器は、容器内外の大気の力を作用させることで、内容物の化粧品が出入りする隙間をなくし、最後の一滴まで機密性と超高真空状態を保つことができる。たとえば、当社製の真空パックの場合、常に10のマイナス6乗という宇宙空間と同じ圧力のなかで食品を保存できるというエビデンスが取得できている。他社の“空気が入りにくい容器”と当社の“空気が入らない容器”はまったく別物という認識であり、真空という観点では世界的にも競合がほぼないと自負している」(成井氏)

美容業界への参入に際しては「まずチューブ型容器用の製品を開発した」と成井氏は説明する。その最も大きな理由は、容器メーカーやブランドが保有している既存の充填ラインを変える必要がないためだ。

「チューブ型容器は、化粧品を充填後、キャップとは反対側の部分を熱圧着することが一般的だ。当社製品はキャップを変えるだけなので、クライアントの既存の充填ラインに組み込みやすいと考えている。今後、逆止弁を内蔵したポンプ型容器や、真空状態にできるパウチタイプの容器も構想している。真空状態が必要な商材、採算性などを見極めながら開発を進めていきたい」(成井氏)

化粧品用の超高真空容器のイメージ

なお、超高真空逆止弁の真空率99.5%という数値・性能は、萩原忠氏が代表を務めるハジー技研株式会社で測定・立証されたものだ。また、特許は素材に加え、技術の核心要素である形状でも取得している。似たような形状の製品を他社が模倣することはできず、技術的な優位性は保たれるとする。

技術の唯一無二性を武器にグローバル市場にも積極的に進出

インターホールディングスは、技術的な優位性を武器に国内外の市場を積極的に開拓していく意向だ。まずグローバル戦略としては、各国の主要クライアントに独占ライセンスの提供を持ちかける形で話を進めている。現在、実際に商談が進んでいるのは米国と韓国だ。一方、日本では1社に絞らず、容器メーカー、容器商社、ブランド、製薬会社など幅広いクライアントを対象に導入を進めていくとしている。

「技術的な唯一無二性には自信があり、美容業界への参入初期からグローバル市場を視野に入れていた。そのため、最初の製品公開は2024年5月に米ラスベガスで開催されたコスモプロフとした。日本企業の場合、導入実績の検討や製品のエビデンス検討に比較的時間がかかるのではと考えており、海外で導入事例を先につくることも意識して、ファーストドミノを探っている状況だ」(成井氏)

インターホールディングスでは製品開発と並行して、エビデンスの収集も継続的に続けている。2024年末までには、ビタミンA、ビタミンCなどの成分の劣化に関するデータや、香りの持続性に関するエビデンスが出揃う予定とする。

「百均ショップでは“エアレス”をうたう容器が数多く販売されているなど、高級化粧品の酸化・劣化を防ぎたいという消費者のニーズは顕在化している。エビデンスにもとづいた弊社の技術で最後まで鮮度が保たれるということを知ってもらえれば、消費期限が切れてしまった製品を使いかけで捨てざるを得ないという行為を減らせると考えている。また、メイクアップコスメを含め、美容業界の大手トップ5社だけで年間2万トンの製品廃棄が出ているとのデータもある。現在の製品廃棄基準は平均3年だ。仮に当社の容器でその基準を5~6年に延ばせるのであれば、廃棄を減らしブランド側の原価コスト減にも貢献できる。中長期的な視野に立ち、美容業界の廃棄削減を実現できる環境の確立を目指していきたい」(成井氏)

成井氏は「超高真空技術は日本生まれの技術。日本の技術力を世界に広げるビジネスデザイン集団として今後も事業を展開していく」と、インターホールディングスの展望を説明する。

「美容業界や食品業界で創出したベネフィットを、長期的にはグローバルサウスの農家など世界中に還元できる企業でありたい。世界で人口爆発や温暖化が進むなか、食料問題や水不足はより深刻になるはずだ。日本生まれの技術を社会実装し、世界の飢餓を少しでも抑え、富の再分配ならぬ、食品や化粧品など生活必需品の再分配に寄与できたらうれしく思う」(成井氏)

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image & photo: 株式会社インターホールディングス