経産省と資生堂IBが語るDXの最重要課題、社内のリスキルとブリッジ人材の育成
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経産省と資生堂IBが語るDXの最重要課題、社内のリスキルとブリッジ人材の育成

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2022年3月に@cosme for BUSINESSが開催したウェビナーでは、美容業界においても今後のビジネスの鍵となるDXと、その推進を担う人材にフォーカスしたセッションが行われた。登壇した経済産業省 松本理恵氏、資生堂インタラクティブビューティー株式会社 笹間靖彦氏、そして、アクセンチュア株式会社 枩崎由美氏が語ったDX人材育成の現在地を通して、BXの成否につながる組織と人材のあり方について考える。

日本のDXの現場の課題をどう解決すべきか

世界情勢や経済情勢が極めて不安定かつ不確実な現在、ビジネスの将来を考えたときに欠かせないのがDXであり、既存の仕組みをデジタルシフトするのみならず、テクノロジーを介して、時代の変化に対応していけるビジネスへの変革が求められている。その変革が実行可能な組織とはどういうものなのか、そして、どのような人材を揃え、どのような体制を構築すべきかを真剣に考えることが必要とされる。こうした認識を背景に、2022年3月25日、「美容業界DXにおけるブリッジ人材の重要性 〜2030年からの逆算〜」ウェビナーは開催された。

同ウェビナーは二部構成で行われ、第一部では、経済産業省 情報技術利用促進課 課長補佐 松本理恵氏が、日本におけるDX推進にあたっての課題やDX人材を取り巻く状況とともに、日本企業のDXを支援する経済産業省の取り組みを紹介した。

第二部には、資生堂とアクセンチュアの合弁会社、資生堂インタラクティブビューティー株式会社(以下資生堂IB)DX本部 デジタル戦略部長 笹間靖彦氏とアクセンチュア株式会社 インタラクティブ本部 マネジング・ディレクター 枩崎(まつざき)由美氏がパネリストとして登場。同社が組織・人材領域においてどんなプロジェクトを進行中なのか、その過程で明らかになった課題感も含め、実際の事例を交えて率直に語られた。

経産省からの提言、DX推進に欠かせない「ブリッジ人材」の重要性

昨今、グローバル企業を中心に、DX推進の旗振り役を担うCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)の役職を設ける企業が増えている。しかし、松本氏が資料として示した「DX白書2021」(情報処理推進機構)によると、米国と日本のCDOの有無を比較すると、7割近い企業がCDOをおく米国に対し、日本は2割強で、日本において最もCDO率の高い産業である「金融業・保険業」でも39.5%にとどまり、米国で率の最も低い「サービス業」の43.2%を下回る。


経済産業省情報技術利用促進課 課長補佐 松本理恵氏
プロフィール/2009年、東京大学院情報理工学系研究科修士課程修了。同年に経済産業省に入省し、産業技術政策、グローバル産業政策等を担当した。2015年〜2018年、日本大使館の経済担当アタッシェとしてイスラエル(テルアビブ)に駐在し、日・イスラエル経済関係の深化に尽力。現在は経済産業省情報技術利用促進課(ITイノベーション課)で、企業のDX支援やIT人材育成を手がける

松本氏は、日本においてDXが進まない現状の裏には、「DXの目的が分からない」「どうすればDXになるのかが分からない」「DXの進め方が分からない」という3つの「分からない」があると分析する。

つまり、経営者が自社のDXのビジョンを持てていなかったり、DXの狙いを理解していないために、必要な体制づくりが進まず、せっかく任命したCDOが十分な権限を与えられず孤立するといった事態も起こる。また社内の部門レベルにおいても、部門ごとにDXでやりたいことがバラバラで組織としての方向性がなく、IT部門が使いたい技術ありきで進めたり、システムの刷新自体が目的となってしまった結果、ビジネス変革にまではつながらないとの状況にもなりうる。

こうした課題を解決する糸口として松本氏が提案するのが、「DXとビジネスの両方を理解しており、社内においてデジタルと事業の橋渡しができる“ブリッジ人材”を育成」することだ。デジタル知識を備え、事業やマーケティングを含めた企画立案ができる人材は、ビジネスのことがよくわかっているからこそ、どうデジタル技術を活用し、より良いビジネスを築いていくかという道筋が示せる。企業ニーズの高いプロダクトマネージャーやビジネスデザイナーとして、ブリッジ人材が活躍していくことが望まれる。

経営層のマインドセット変革と一人ひとりの「リスキル」の重要性

あわせて松本氏は、日本ではデジタル人材そのものが不足しており、それが国際的なデジタル競争力低下の一因になっていると明かす。企業側にもデジタル人材が足りていないとの認識はあるものの、手を打てていないのが実情だ。

根本的課題としてあげられるのは、日本企業の多くが企業ミッションとして「既存ビジネスの効率化」を掲げ、IT技術をそのための単なるツールとみなしているところにあると、松本氏は説明。「効率化してコストを下げることをデジタル導入の目的としてしまうと、コスト削減幅のなかにデジタルへの投資分を収めなければならない。それがデジタル人材の報酬を安くさせ、デジタル人材教育にお金をかけないことにつながってしまっている」とする。

しかしそれでは、パンデミックも経てさらなる急務となっているDXの加速にブレーキがかかる。松本氏は「これからは、デジタルでいかにビジネスを革新していくか。すなわち、新しい事業やビジネスのあり方を生み出していけるかという経営層も含めた意識改革が重要だ」と、DXをバネにしたBXの実現を説き、効率化ではなく「ビジネス創造・革新」を目的と定め「IT自体がその武器となる」という認識に加え、DXはそのための投資であるというマインドセットに切り替える必要性を訴える。

その意味からも、デジタル人材の育成とは、社内の全員がデジタルを理解し、1つの目的に向け一緒に走っていけることを目指しているといえる。そして、ここで重要となるのが「リスキル=学び直す」ことだと松本氏はいう。

学校教育のカリキュラムが変わり、高等学校では2022年度から「情報I」が共通必履修科目となっている。今後、現役社会人のデジタルリテラシーを高めて、社内にギャップが発生しないようにする必要がある。データ、AI、ITを学ぶうえで参考となる入門レベルの試験や検定として「ITパスポート試験」「G検定」「データサイエンティスト検定」などが紹介された。

同時に同じく不足しているITエンジニアを増やすため、「クラウド」「IoT」「データサイエンス」など9つの分野で、民間企業が行う各種講座のなかから良質なものを厳選して「Reスキル講座」として認定している。認定講座には、個人での受講や企業研修で使える助成金の支給もある。

また、民間における人材投資の促進を目的に、企業や地方自治体の職員の研修が行える教育コンテンツやスキル標準を定めた「デジタル人材育成プラットフォーム」を立ち上げ。2022年3月にポータルサイト「マナビDX(デラックス)」をオープンした。

企業は自社社員の研修に活用できるほか、社員数が少なく長期の研修にスタッフの時間を割くことが難しい中小企業などは、現場研修のチームを受け入れるオプションもある。これは、ポータルサイトを通じて専門スキルを学んだデジタル人材が他企業に行って、現場で求められるデジタル技術を実際に導入する研修をするもので、研修員はスキルの向上が図れ、受け入れ側は自分たちだけではできなかったDXにチャレンジできるメリットがある。

同プラットフォームの活用により、産業や企業規模をまたいだ交流が促進され、さまざまなレベルでDXが実現されることが期待される。

資生堂IBが全員で取り組むDX推進を実現できる組織づくりと人材

2021年7月1日、資生堂とアクセンチュアが、グループ全体のBXの加速をサポートするデジタル専門家集団としてのJV(ジョイントベンチャー)である資生堂IBの設立を発表。業界内外で大きな話題を呼んだ。

同社が果たす役割について、DX本部 デジタル戦略部長を務める笹間氏は、「革新的なビューティ体験を共創しつづけ、資生堂が目指すGlobal No.1 Date Driven Skin Beauty Companyへの変革を牽引する」ものと位置づける。具体的には「オンリーワンの顧客体験の創造」や「グループ全体の基幹システムの標準化・効率化」があげられるが、「既存領域のサポート、新技術の開発、データ分析、インフラ整備など、さまざまな領域で同時多発的にDXを進めていくなかで、人材育成は急務だ」と語る。

資生堂インタラクティブビューティー株式会社 DX本部 デジタル戦略部長 笹間靖彦氏
プロフィール/1988年資生堂に入社。営業、営業企画、マーケティング、事業企画などを経験後、2012年のワタシプラス導入計画を主導。2017年から資生堂ジャパン プレステージブランド事業本部事業戦略推進部でデパートや化粧品専門店をサポート。2021年1月、資生堂ジャパン デジタル部長に就任。同年7月、資生堂インタラクティブビューティー設立とともに同社に出向。資生堂ジャパンのデジタル戦略の企画推進、主要プロジェクトのリード、アナリティックス、人材育成等を担う

「人材」「体験」「企業文化」DX推進のキーワード

笹間氏は、資生堂グループにおける「DX推進重点方針」としていくつかのポイントをあげる。その1つめは「組織強化と人材育成」だ。「(IT部門ではなく)営業だから、店頭だから、デジタルに明るくなくてもいいわけではない。全社員がデジタルを知っているべきだ」とする笹間氏は、全社が一丸となってDXを推進するうえで、組織全体としてデジタルリタラシーを強化することが必要だと考えている。

たとえば、肌のDNA分析にもとづくカウンセリング「Beauty DNA Program」や、デジタルに特化した1対1、1対多のコンサルティングやライブストリーミングなど、デジタルを活用したサービスやプログラムがすでに数多く始まっていると話す笹間氏は、その現場でも、デジタルスキルに加えて、事業のことをよく理解しているいわゆるブリッジ人材が求められるとする。

Beauty DNA Programイメージ図
出典:資生堂プレスリリース

こうした「顧客にオンリーワンの体験」を提供することは、DX推進重点ポイントの2つめにも重なる。笹間氏は「店頭と店頭の間の接点として、デジタルコミュニケーションを挟むことで、一人ひとりのお客様をより深く理解してつながることができる」とし、来店した顧客にサンプルを渡したのち、次の来店までの間に、ARによるシミュレーションを案内したり、チャットで声がけをするといった、店頭以外の場所での体験の重要性を示す。

データを「美容部員の言葉」に置き換えていくことの重要性

アクセンチュアから資生堂IBに出向した枩崎氏も「デジタル化とは、たとえばMA(マーケティング・オートメーション)のように、機械的にデジタルメッセージを出し分けることではない」とし、「データを使い、個々のお客様をきちんと分析し、カウンセリングをするBC(美容部員)の言葉に置き換えていくことが大切だ」と話す。つまり、デジタルを活用して顧客との接点の数と中身を増幅させるとともに、それを人と人とのコミュニケーションの体験に置き換えることで、関係性が深化するというのだ。BCが再度来店する前の顧客の動きを把握していれば、より適切な応対やレコメンドができ、顧客側も“自分をわかってくれている”と感じて満足度もあがるだろう。

アクセンチュア株式会社 インタラクティブ本部 マネジング・ディレクター
枩崎(まつざき)由美氏

プロフィール/Pratt Instituteにてコミュニケーションデザインを専攻し修士課程修了。米ニューヨークにて、MoMA、WWD等、ファッション・美容領域でのコミュニケーションデザインに従事。帰国後はAegis Media Network、Isobarにて、外資系消費財企業を対象にしたデジタルコミュニケーションを支援。2016年よりアクセンチュアに参画し、現在は消費財企業を中心に、顧客体験を基点としたビジネスへのトランスフォーメーションを支援する。2021年7月より資生堂インタラクティブビューティーに出向

こうした進行中の一連のDXソリューションをもとに、笹間氏は「モノを売るということはもちろん大切なのだが、どう体験を積み重ねるかを考えることの重要性を再認識してその方向に軸足を移している」と明言する。

化粧品メーカーとして「モノづくり」を重視する姿勢に変わりはないが、「一人ひとりの顧客と向き合い、いかに深く長くお付き合いいただけるかが、重要なテーマとなりつつある。(顧客との関係も)モノがベースではなく、人がベースになっていくのではないか」との考え方を示す。

あわせて笹間氏は、資生堂が創業以来、美容法の提案やカウンセリングを重視する企業文化的アセットを持っており、人と人との接点を大事にしてきたことを例示し、3つめのDX推進重点ポイントとして、「組織(社内・企業)文化との融合」をあげる。

グループ内で人材を連動させることも念頭に、枩崎氏は「資生堂IB内にとどまらず、資生堂全体の交流を広げる」ことで、領域をまたいで活動できる、マルチタスク、マルチスキルを持つ人材を増やしたいとする。そのために「研修での共通言語の構築や、目標をシンプルにして、同じ1つの方向へ走りやすくする」のが大切であるとした。

アイスタイルは美容業界に特化したDX推進プログラムを提供

同ウェビナーの最後には、アイスタイルが進める、美容業界特有の課題やデジタルシフトに特化した「美容業界DX推進プログラム」が紹介された。同プログラムでは、アイスタイルが培ってきた知見をもとに、第一弾として、美容業界に関わるさまざまな人材に向けた導入研修ワークショップと、美容部員を対象にした座学とロールプレイをセットにした研修プログラムをリリースしている。

● 美容業界イノベーションワークショップ
社会の変化と美容業界のトレンドを俯瞰して、5〜10年後のビジネスについて、インプット&アウトプットセッションを行う導入研修。前半セッションで「美容業界のDXの現状など何が起きているのか」や「2030年以降、社会がどう変わっていくのか」をインプットし、自社の方向性やビジョンを改めて考察することで理解を深める。後半、その理解にもとづいた自身のアイディアをアウトプットしてシェアする。これにより、意識や業務の品質の向上やブラッシュアップが期待できる。

● 明日からできるライブコマース・ライブ配信
ライブコマースやライブ配信の基本と特徴を前半の座学で理解したのち、ロールプレイングセッションで、出演者、サービスディレクター、オペレーターのワンチームでロールプレイをすることで、それぞれの役割のスキルを身につける。

● 明日からできるオンラインカウンセリング
オンラインカウンセリングの基本と特徴を理解したのち、ロールプレイングセッションで、出演者、サービスディレクター、オペレーターのワンチームでロールプレイをすることで、それぞれの役割のスキルを身につける。

■今回のウェビナーの動画全編は下記より視聴可能
【録画配信】
美容業界DXにおけるブリッジ人材の重要性 ~2030年からの逆算~

Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image & photo: @cosme for BUSINESS

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