
資生堂インタラクティブビューティーの“オムニPBP”が広げる美容部員のキャリアと顧客満足度
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページ|メルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o
資生堂インタラクティブビューティー株式会社に出向するオムニPBPは、リアルの接客のプロであることはもちろん、同時にSNSなどのコンテンツ作成、顧客とのダイレクトなコミュニケーションなど、オンライン接客にも長けた存在として日々アップデートを重ねている。2年後には資生堂ジャパンに戻り、そのノウハウを実践し社内に広めていくミッションも持つ。国内トップ企業として美容部員にここまでの自由度を高めた背景を資生堂インタラクティブビューティー オムニエクスペリエンス部 オムニPBP企画グループ グループマネージャー 河原由香理氏に聞いた。
チームで機能する仕組みをつくりあげたオムニBPB育成戦略
主に百貨店、ドラッグストアなどの実店舗で、お客さま一人ひとりに寄り添ったカウンセリングを行う、資生堂パーソナルビューティーパートナー(以下、PBP)。なかでもSNSやWebカウンセリングなどオムニチャネルで活躍するのが、資生堂インタラクティブビューティーに所属する「デジタル特化のPBP(=略称、オムニPBP)」だ。Instagram、Twitter、TikTok、YouTubeといったSNSで「資生堂ビューティージャーニー」というアカウントを設けて情報発信しているほか、オムニPBP個人のアカウントを使った活動なども行なっている。このオムニPBP育成における戦略と実行を担っているのが資生堂インタラクティブビューティー株式会社 オムニエクスペリエンス部 オムニPBP企画グループ グループマネージャー 河原由香理氏だ。
全国のPBPの中から社内公募によって選出されたオムニPBPは、2023年9月現在39名存在する。オムニPBPが在籍しているのは、2021年7月に設立された資生堂インタラクティブビューティー株式会社だ。オムニPBPに選ばれたメンバーは、基本は、資生堂ジャパンから資生堂インタラクティブビューティーのDX本部へ、2年間の期間限定で出向することになる。
配属後は、約1カ月間の研修を受ける。各SNSの特徴やコンテンツを作るプロセスを座学で学ぶほか、写真や動画を撮影しながら実践してみるという。また、毎月、美容の知識や各SNSのアップデート情報を共有する教育プログラムも行われている。
オムニPBPの主な活動は、次の4つだ。
① Instagram・Twitterの個人アカウントの運営
② Instagram・Twitter・TikTok・YouTubeのグループアカウント「資生堂ビューティージャーニー」の運営
③ 資生堂のWebサービス「ワタシプラス」で行う月6回のライブ配信
④ Beauty DNA Programのパーソナルセッションを含むオンラインカウンセリング
ちなみに資生堂にはYouTubeの公式アカウント「資生堂 Shiseido Co., Ltd. (@SHISEIDOofficial)」が存在していたが、2023年4月に新たにオムニPBP専用のYouTubeアカウント「資生堂ビューティージャーニー(@shiseido.beauty.journey)」を開設している。

出典:YouTube
なぜ資生堂 Shiseido Co., Ltd.アカウントとは別に、新たにアカウントを作成したのか。河原氏によれば、より身近に、より積極的に、お客さまと双方向のコミュニケーションを取りたいのがその理由だという。

DX本部 オムニエクスペリエンス推進部 オムニPBP企画グループ 河原由香理氏
プロフィール/1999年 東京大学工学系研究科(修士)卒業。1999年サントリー株式会社に研究職として入社、その後ブランドマネジメントに従事。2008年株式会社資生堂に入社、中国事業、経営戦略、インバウンド、越境EC、ECと一貫して戦略立案に従事。2021年1月資生堂インタラクティブビューティー株式会社に出向し、立ち上げ時からオムニPBPプロジェクトに携わる
実際、資生堂 Shiseido Co., Ltd. のアカウントではコメント機能はオフになっているが、資生堂ビューティージャーニーのアカウントでは、ユーザーがコメントを残せて、それに対して、オムニPBPが個別に返信する様子も見受けられる。この方針は個人アカウントでも同様で、「お客さまと直接会話することで、PBPとお客さまの絆が深まる」と河原氏はいう。
アカウント開設以来、顧客とPBPの絆は着実に深まっており、PBPの個人アカウントをフォローしているユーザーから、グループアカウントである資生堂ビューティージャーニーのYouTube Liveにも「これ、○○さんがInstagramでオススメされてたので、買いました!」といったコメントが寄せられることもあるという。チャネル間を回遊して、ユーザーとの接点が増えれば増えるほど、その絆は強くなっているようだ。
社員とユーザー個人とのオンラインコミュニケーションについては、チーム体制をつくることで、そのリスクを最低限にする仕組み化を行っているという。オムニPBPは約10人4チーム体制で動いており、互いに学びあい、確認をしあう環境にしている。チームが動き始めた当初は、「それは少し問題になるのでは」と思われる投稿も少し見られたというが、そんなときは他のメンバーから「ちょっとそれはやめた方がいいんじゃない?」と指摘が入る。河原氏のようなオムニPBPの管理・育成を担うグループマネージャーから注意をするよりも、チームでお互いに確認しあっていくほうがよほど効果的だという。
また、チームで動くことには、他にもさまざまなメリットがある。1つ目に、チーム内で役割分担ができる。この分担もチームで決めてもらっているそうだ。動画に出演する人、台本を書く人、撮影する人など、それぞれのPBPの得意分野で分担して、グループアカウントの運用している。そのなかで、例えば加工が得意な人が、加工にオススメのアプリの機能や使い方を他のメンバーにも自然と共有することで、全PBPの個人コンテンツのクオリティを高めることにもつながる。
2つ目に、月に1度、全オムニPBPとスタッフで行うレビュー会の際に、チーム単位で分析、レビューを行い、共有する文化が醸成される。これはチームで目標を達成していくのだという結束力を高めることにつながっている。
3つ目に、個人アカウントで投稿する前のチェック体制を整えられる。グループアカウントのコンテンツはスタッフも一緒になってダブルチェックを行っているが、個人が投稿するすべてのコンテンツまで管理することはしていない。個人が投稿するコンテンツについては、チーム内で2人ペアを組み、商品名の間違いや薬機法に引っ掛かる表現がないかなどを互いにチェックし合うことで、資生堂のPBPが発信するコンテンツとして水準を保っているのだ。
最適なトーン&マナーはお客さまが教えてくれる
オムニPBPが投稿するコンテンツは、一部、YouTubeの撮影と編集などは外注しているものの、ほとんどの企画の立案や台本の作成など、ほぼ全ては社内で内製しているという。
コンテンツ作成において気をつけているのは、第一に「お客さまのニーズに応えること」で、様々な情報源がある中で、オムニPBPに何を求められているのかを徹底的に考え、それに応える努力をする。反響が大きかったコンテンツには、顧客ニーズのヒントが隠されていることから、しっかりと分析して次に活かす。
第二に「オムニPBP個々人の個性を活かしたコンテンツを作り、この活動にやりがいを感じてもらうこと」だ。そのため河原氏は戦略立案に特化し、細かい指示出しはしていない。「日々、お客さまとコミュニケーションを取っている彼女たちの方が、私たちよりよっぽどお客さまのことを知っている。お客さまの反応を見ながら、より良いトーン&マナーへと自分たちで調整してもらっている」と河原氏は語る。
顧客ニーズに合わせてトーン&マナーを調整するとは、具体的にどういうことか。その一例として河原氏が挙げたのが、オムニPBPとして活動する「まいやん」こと資生堂インタラクティブビューティー株式会社 資生堂パーソナルビューティーパートナー 津嶌真衣氏のエピソードだ。

資生堂パーソナルビューティーパートナー 津嶌真衣氏
プロフィール/大学1年次在学中に美容室でヘアモデルをした際に初めてメイクを経験し、メイクでできる表現の多様さに驚き、それをきっかけに化粧品に興味を持つ。2018年資生堂入社、ドラッグストアチャネルで活動。2021年7月からオムニPBPとしての活動を開始。アイドルのような可愛いメイクや、つや肌メイク、奥二重をナチュラルに大きく見せるメイクを得意とする
画像出典:資生堂ビューティージャーニー公式ページ
津嶌氏は、オムニPBPになった2022年1月当初、個人のInstagramアカウントには自身の好きなファッションやメイクアイテムの物撮りやメイクアップ後の顔写真を主に投稿していた。「インフルエンサーといえば物撮り、仕上がりの写真というイメージ」があったからだ。しかし、なかなか「おすすめ」で目立つこともできず、フォロワーや「いいね」の獲得が思うようにできていなかったという。
そこで、投稿するコンテンツの色味を揃えるなどで世界観を統一したり、伝えたいことが明確につたわるクリエイティブを研究したりしながら、フォロワーの声をもとに、自身のメイクハウツーへと投稿内容を方向転換していった。すると徐々にフォロワー数や「いいね」が増え始め、2022年4月、オムニPBPで初めての「10万インプレッション&保存1,400」を達成。2022年12月には、「最近の毎日メイク」と「オフィスメイク」のコンテンツが立て続けにバズリ、投稿から3カ月で一気に2万フォロワーを獲得。2023年9月現在はフォロワー3万人を超えるアカウントとなっている。


出典:まいやん Instagramアカウント

出典:まいやん Instagramアカウント
「このように、お客さまが求めるものに応えていくと、自然に自分だけのトーン&マナーができあがっていく」と河原氏は語る。「お客さまを不快にしてはいけない」とか「差別的な表現をしてはいけない」といった最低限のガイドラインはあるものの、想像以上にオムニPBPの裁量は大きい。
「『この絵文字は資生堂にふさわしくないんじゃないか』といった細かいところが気になることもあったが、彼女たちを型にはめるような細かいディレクションをするのはやめようと思っている。立ち上げ当初は、社内の理解を得るのが大変だったが、彼女たちを信頼して任せた方が良い結果が残せると信じている」(河原氏)
全国に広がるPBPのコミュニケーションをDX化への起爆剤に
「将来的には、オムニPBPだけがデジタルを活用するのではなく、リアルとデジタルを駆使してハイブリッドでお客さまに寄り添えるPBPが全国に広がってほしい」と河原氏は語る。資生堂インタラクティブビューティーでオムニPBPとして数年間活動した後は、彼女たちは店頭に戻る。その後もオムニPBPの活動で培った経験を活かしながら、デジタルでの発信も続けてもらうことで、徐々にその世界観へ近づいていくだろう。
また、「オムニPBPの属性の幅も広げていきたい」という。現在のオムニPBPは20代の女性が中心だ。男性は1人しかおらず、40代以降のオムニPBPも数名である。「多様性のあるオムニPBPに間違いなくニーズはある」と河原氏は見ており、今後は更に幅が広がるように、募集をかけていく予定だ。様々な属性のPBPがそれぞれの強みや個性を活かしながら、リアルとデジタルの両方で活躍できるようになれば、PBPという仕事の可能性は大きく広がっていくだろう。
この自由度の高い仕組みの中では、オムニPBPの中からインフルエンサー級の人が生まれ、退社して活躍の場を広げたいと思う人が出てくるかもしれない。河原氏は、それでもまったくかまわないという。
「我々にとって一番大切なのは、それぞれ個性のあるオムニPBPの個人アカウントだ。まだそういった例は出ていないが、今後もしインフルエンサーになって資生堂を離れる人が出てきても、それはかまわないと思っている。資生堂という企業の枠を超えて活躍しながら、資生堂のことも愛し続けてくれるインフルエンサーが次々と生まれていくような仕組みを作っていきたい。その結果、美容業界全体が活性化してくれたらと願っている」(河原氏)
Text:野本纏花(Madoka Nomoto)
Top image & photo: 資生堂インタラクティブビューティー株式会社