「美ONE」など、中国トップKOLや所属MCNが自社ブランドやセレクトショップを立ち上げる事情
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページ|メルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o
中国ではクリエイターのチャネルの成長を支援しコンテンツ制作などをサポートするマルチチャンネルネットワーク(MCN)やキー・オピニオン・リーダー(KOL)が、自身の化粧品ブランドを立ち上げる動きが活発になっている。李佳琦氏などトップKOLの事例などから、その理由を探る。
李佳琦氏が所属する大手MCN「美ONE」はEC出店
中国の景気の減速傾向が続くなかで化粧品市場も低迷しているが、美容ブランドのマーケティングに欠かせないマルチチャンネルネットワーク(MCN)業界は堅調だ。中国の調査会社の智研瞻産業研究院のレポートによると、2023年のMCN市場規模は前年比20.1%増の500億5,000万元(約9,939億円)だった。2024年も好調で、上半期の市場規模は前年同期比22.4%増の306億2,000万元(約6,081億円)だった。
一方で、KOLマーケティングには異変が起きている。その影響力と桁違いの売上により「口紅王」とも称されたオースティン・リー(李佳琦)氏など、トップKOLにかつての勢いがない。
KOL自体の中国でのマーケティングにおける重要性や需要は変わらないものの、KOLの数は増え続けており、KOLに次ぐ立ち位置のキー・オピニオン・コンシューマー(KOC)も重視されてきている。そうした背景に加え、長引く不況で商品の低価格化が進み、かつ販売チャネルも多様化してきた。Douyin(抖音)をはじめとする短編動画プラットフォームの多くがEコマースに参入し、ライブコマースの場の提供をはじめたことにより、トップKOLの競争も激化し価格支配力が徐々に低下しているのだ。
中国版Instagram「RED(小紅書)」のレポートによると、消費者が化粧品に関する情報を得る際に好む手段は、短編動画が86.5%の1位で、以下、画像とテキストの組み合わせ70.1%、ライブ配信55.8%、テレビCM19.4%と続く。アリババグループのプラットフォームを主戦場とするトップKOLにとって、逆風が吹いている状況だ。
そうしたなかで、MCNや著名KOLが注力するのが自身のプラベートブランドの創設だ。オースティン氏が所属する「美ONE(美腕)」は、アリババグループのECプラットフォーム「Tmall(天猫)」に2024年6月、自社ショップ「美腕優選旗艦店」を開設、洗濯用洗剤の販売を開始した。P&Gなどの製品を手掛けるOEMメーカーGARCIA(加茜亜)が生産し、商品ラベルには「美ONE優選(MEIONE SELECT)」とGARCIAが持つブランドのロゴが印刷されている。
こうしたOEMと共創したPB製品を開発した経緯について、オースティン氏はライブ配信で次のように述べた。
たとえば、109.9元(約2,200円)のジェルボール型洗剤「美ONE優選×小巣 護色香氛洗衣凝珠(色を保護するフレグランスランドリービーズ)」は、2024年9月10日時点で2,000個以上売り上げた。
美ONEは過去にIP(知的財産)の開発も行っている。2020年、オースティン氏のライブ配信にも登場する彼の愛犬をモデルにした5匹のキャラクター「NEVER’S FAMILY(奈娃家族)」を発表。中国ブランド「パーフェクトダイアリー(完美日記)」など美容ブランドとのコラボ商品を展開している。前出の中国メディアの報道によると、パーフェクトダイアリーとのコラボで2020年に販売したアイシャドウパレットは、16万個の在庫が10秒で完売したという。また、2024年にはこの犬のキャラクターをフィーチャーしメンソレータムとコラボしたリップクリームを発売している。
程十安an氏はセレクトショップをプロデュース
美容ブランドを立ち上げたMCNもある。「上海縉嘉」だ。同社はもともと、海外ブランドの輸入代理をしていたが、2017年にMCN「上海縉添文化伝媒」を設立。同社には、Douyinのフォロワー数が2,500万を超える程十安an氏が所属する。
同社は、2017年にブラシなどメイク用品ブランド「everbab(艾蓓拉)」をローンチし、現在ではカラーメイクアイテムも展開している。また、2019年にヘアケアブランド「KIMTRUE(且初)」をローンチ。KIMTRUEのヘアケアオイルは、程十安anが2021年1月にDouyinに投稿した動画がバズり、翌月にはTmallのヘアケアカテゴリーで1位を獲得したという。同じカテゴリーの海外ブランドの製品は200〜400元(約4,000〜8,000円)ほどだが、KIMTRUEの製品は100元(約2,000円)以内という価格の手頃さも消費者に受けている一因のようだ。
程十安an氏は、アリババのECプラットフォーム「タオバオ(淘宝)」に自身のセレクトショップ「程十安的店」を出店し、自らキュレーションし、everbabやKIMTRUEをはじめとするさまざまなブランドの商品を販売している。
ファン・ビンビンの「Fan Beauty Diary」は東南アジア進出も
近年話題となったのはファン・ビンビン(范冰冰)氏だ。人気俳優であった彼女だが、映画の出演料を過少申告する巨額の脱税事件で2018年に告発されてからは、中国国内のテレビや映画に出演することはほとんどなく、インターネット上で化粧品などを紹介するKOLとして活動している。現地報道によると、脱税事件のあった2018年に自身のブランド「Fan Beauty Diary」をローンチしたという。
最初に売り出したのは美容家電だったが、これは失敗に終わった。しかし、2019年にフェイスマスク「海葡萄凝水面膜(海ぶどうウォータージェルマスク)」を発売し、これがヒットとなる。香港の化粧品小売チェーン「SASA(莎莎)」が取り扱ったところ、初月に5万アイテムを販売したという。同マスクはまた、Tmallの旗艦店でこれまで累計100万個以上が販売されている。ユーザーからは「海ぶどうは乾燥肌の救世主。肌が潤う」「もう何回もリピートしている」などのコメントが寄せられている。
Fan Beauty Diaryは、2020年の「ダブルイレブン(双11)」では、成約額が1億元(約19億9,000万円)を突破。2023年の流通取引総額(GMV)は11億元(約218億円)を超えたという。
2024年5月には、Fan Beauty DiaryはASEAN最大級のECモール「ラザダ(Lazada)」に出店。さらに同年7月には、Douyinのアカウントを開設したことでも話題になっている。
KOLがブランドを立ち上げるのは美容分野だけではない。Douyinで1億弱のフォロワーを抱える男性クリエイターで、お笑い系のコンテンツで人気を博す瘋狂小楊哥氏は2023年、Douyin上に自身のブランド「小楊臻選」を立ち上げた。いずれも小楊臻選のロゴが入った自社ブランドの食品やトイレタリー用品などを販売。2023年9月末時点で2,000万個以上の商品が売れたという。
美容ブランドに限らず、消費者の要望をうけて商品の低価格化が進むなかで、アフィリエイトで商品を紹介するKOLが得られる報酬も減少傾向にある。自身の知名度やフォロワー数を活かせるPBはこれからも増えるだろう。欧米や韓国、日本では、セレブやクリエイターがプロデュースするブランドが大手傘下のブランドに負けない規模になる例は珍しくない。また、中国では中国製コスメの需要も強く、この一連のトレンドは海外ブランドにとって脅威でもあり、あるいは現地の著名KOLとブランド開発を行うなどのチャンスともなりそうだ。
Text: チーム・ロボティア(Team Roboteer)
Top image: Chay_Tee via Shutterstock