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「ハピプラ」プラットフォーム構想、Project8が仕掛ける女性誌デジタル戦略

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美容ブランドにとって大事な顧客接点のひとつである美容誌。なかでも、集英社『MAQUIA(マキア)』『SPUR(シュプール)』は早くからデジタル化に取り組んだ媒体として知られる。現在、同社はほかの女性誌8誌を束ねるメディア「HAPPY PLUS(通称ハピプラ)」を運営、その傘下に各媒体のオンラインメディアや集英社の公式ECサイト「HAPPY PLUS STORE(ハピプラストア)」を収める。これらを運用する株式会社Project8 代表取締役 小林桂氏に、集英社が早くからDXを仕掛けてきた経緯、これからのユーザーとの接点などの話を聞いた。

集英社発のテクノロジー集団「Project8」

2020年ほど、美容業界全体でDXが叫ばれた年はないだろう。人々が自由に外出できず、購買の場が急激にオンラインに移るなかで、店頭を主戦場にしてきた多くのブランドが道を模索している。これまでデジタルはサブ的な位置づけだったが、今後は本腰を入れていきたいと考えるときに、非常に早くからDXに取り組んできた、美容誌『MAQUIA』の変遷と集英社がとってきたデジタル戦略が考え方のヒントになりそうだ。

集英社は2008年、雑誌誌面とは異なるオリジナルの記事を提供していくことを前提に、『MAQUIA ONLINE』をオープンした。この事業を扱っていたのは、集英社の新設部署であった「ブランド事業部」だ。同部門では『MAQUIA』以外の媒体のオンライン化も手掛け、集英社の女性誌ネットワーク「HAPPY PLUS(ハピプラ)」を構築。同時に集英社公式ファッション通販サイトの旧FLAG SHOPを運営しながら、2020年2月に同サイト自体をハピプラに統合し「HAPPY PLUS STORE(ハピプラストア)」とした。

目下、ハピプラはファッションとコスメに関して、情報だけでなく「買える場所」も兼ね備えた、一大プラットフォームに成長しつつある。

ブランド事業部の動きに並走してきたのは、2015年に集英社からスピンアウトしたテクノロジー集団のProject8だ。同社設立時から代表取締役を務め、2020年まで集英社 常務取締役としてブランド事業部を率いてきた小林桂氏が、いわば社内外の視点をもって集英社のDXを推進してきた。

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株式会社 Project8
代表取締役 小林 桂氏

現在、Project8は集英社のデジタル関連事業を包括的に支援する傍ら、たとえば星野リゾートの動画制作をサポートするなど、外部企業の支援の事例も増えている。2018年には映像制作会社のZona Inc.と資本提携し協業している。とくに期待されているのは、やはり出版社のコンテンツを長く扱ってきたからこその制作物のクオリティや、紙媒体の制作ノウハウと知見を有している点だという。

「デジタル化」よりも新しい業態と収益、結果としてオンライン主体に

そもそもなぜ、集英社は他社に先駆けてDXに取り組めたのか。そう問うと、小林氏は「自分としては早かったとは思わないし、実は『デジタル化』に向き合ったことが発端でもなかった」と答える。

「自分自身は広告営業の担当が長く、実際の紙媒体の編集には携わったことがない。一連の事業の起点になったのは、20年以上前から始まった出版不況であり、いまから15年ほど前の時点でも、それはさらに顕著になるとわかっていたなかで、新しい業態や収益を打ち立てることが急務だった。結果的に、それがオンラインだった」(小林氏)

「ハピプラストア(当時はFLAG SHOP)」も、「はじめはECというより“通販”だった」と小林氏はいう。新しい収益の柱を模索するなかで、各媒体で紹介する商品の販売も手掛けるという発想から生まれている。そのコミュニケーションの方法として、時流に沿っていたのがネットだった。

「ECは意図してデジタル事業を行うブランド事業部で手掛けたが、先んじて展開していた集英社の女性誌ポータルサイトも我々の部門で預かることになった」と小林氏。そこから各媒体に特化したオンラインの編集部隊を持つにあたり、媒体特性が明確な『MAQUIA』と『SPUR』から着手したという。

デジタル展開でも、常に読者との結びつきを考えてきた

では、立ち上げから現在までどのようにオンラインの事業を伸ばしてきたのだろうか。先駆けて取り組んだ2誌を含む既存の編集部との連携もスムーズで、Webオリジナルの記事も徐々にユーザーの人気を集めた。ここでひとつのポイントとなっているのは、SEO(検索エンジン最適化)というWebならではの手法を重視しながらも、SEOに偏りすぎなかったことだ。「極端にSEOを回すのは、いいとは思えなかった」と小林氏は振り返る。

その理由は、媒体と読者との結びつきを度外視した施策にもなりかねないからだ。PVなどが伸びたとしても、それはあくまで指標のひとつであり、本質的に目指すものは「媒体と読者との結びつきを強めること」そして「読者への貢献」。つまり読者とのエンゲージメントがずっと意識されていたことになる。オンライン化を追随する他社のさまざまな媒体が、SEOで急激に数字を上げていくなかでも、その考えはぶれなかった。

「もちろん広告出稿の観点からは、SEOを使って媒体を伸ばしていくことも重要だと認識していた。だが、極端なSEOの場合、自分がどこにランディングして何の媒体の記事を読んでいるのかさえ、ユーザーが自覚していないケースがある。それが目指すべき姿かというと、違うなと。コンテンツの質で読者をつかむことを大前提に、そういった手法に頼りすぎないように留意しながら運用していた」(小林氏)

一方で初期から強化してきたのは、ソーシャルアカウントの活用だ。TwitterやInstagramの公式アカウントのフォロワーを増やし、それらを介したエンゲージメントを強めていった。自社Webメディアと、「外部オーディエンス」と称したSNS経由で接触するユーザーを分けて把握し、両方とも重視してきた。

美容業界でも、SEOや獲得系の手法で新規顧客を得るというCV(コンバージョン)至上主義の考え方から、「リピーター化を促してファンを増やし、そのファンがユーザーを連れてくる」という構図を模索する流れがある。販売自体はダイレクトではないが、思想としてはD2Cブランド育成に近い。集英社では、この構図を初期から目指していたといえる。

だが、事業変革や業態転換の際には、必ず守るべきところと捨てるところ、そのうえで攻め込むところのバランスが求められる。また、メディアだけでなく、EC事業も展開していたとなると、社内的には売上などのよりシビアなKPIが求められたのではないだろうか。さらに、大企業ならではの縦割り組織の問題もあったはずだ。

その点を乗り越えられた理由を聞くと、全社的に収益源を拡大するというコンセンサスがあったことと、「軋轢があったときには、自分が嫌われても仕方がないと思っていたからかもしれない」と小林氏は語る。

「いままでデジタルがそれほど得意でなかった組織でDXを進めるには、もしかしたら、嫌われてもいいという人間がいないと難しいかもしれない。だが、どのみち漕ぎ出すなら、追い詰められて仕方なくやるよりもおもしろがってやりたい。それがProject8のキャッチフレーズ『プロジェクトを楽しく』にもつながっている」(小林氏)

初期から見据えていたプラットフォーム構想

現在、ハピプラは集英社の女性誌8誌のオンラインメディアと、それらのコンテンツが集まるキュレーションサイト「ハピプラワン」、公式ECサイト「ハピプラストア」も束ねる。さらにリアルショップを全国7都市に展開中だ。小林氏は「初期からプラットフォーム構想があった」と話す。それにもとづき、メディアとECの連動やソーシャルマーケティングを進め、また『MAQUIA』ではインフルエンサー組織の構築にも取り組んできた。メディアサイドとECサイドのID統合も、裏側でのデータ共有はすでに済み、共通IDも2021年に整備できる見込みだ。

出版社では一般的に雑誌の独立性が高く、それぞれの読者と強い関係を築きながら、同じ出版社であってもまったく異なる文化を構築している。そのため、小林氏がプラットフォーム構想を掲げた際には「複数媒体に大きなひとつの傘をかけるのは余計だ」という反発も社内にはあったという。

だが、いうまでもなく初期のビジョンがあったからこそ、集英社ではECとオンラインメディアを統合し、ハピプラという場を成立させることができた。裏を返せば、これは集英社の女性向け事業全体にとっての、盤石なオンライン顧客基盤である。技術的な面を踏まえて、複数の変革を経て今の形に至っている。スクラッチで作っていたタイアップ記事も現在ではオリジナルCMS(コンテンツ管理システム)を整備し、デザインは柔軟に、かつ記事更新は簡単に行えるようになっている。

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出典:ハピプラワン

また、プラットフォーム構想をベースにした展開は、現在Project8が運用に参加している『少年ジャンプ+』を中心としたマンガアプリの充実にもつながっている。別部門で業態を開発して広げた経験が、Project8が支援できる業態の幅になっているのだ。

冒頭で触れたように、現在は外部からの引き合いも多い。とくに、長く出版業界で第一線を走る集英社をバックボーンに持ち、コンテンツクオリティを理解しつつデジタル上での展開が可能なことが、指名の理由になっている。ユーザーが満足するものを提供するにとどまらず、今この企業が世の中に提示するものとして正しいのか、あるべき内容や水準に達しているのか――。クオリティのみならず、発信者としての倫理観やジャーナリズムが重視されていることもあるだろう。

「逆に、テクノロジーに強いソリューション企業と比較されてしまうと、その部分は薄くなってしまう。我々の強みを打ち出して、それを求めるクライアントに積極的に応えたい」(小林氏)

リアルがデジタルに内包される時代のメディアビジネス

今後もProject8は『MAQUIA ONLINE』をはじめ、各誌が扱う女性向けデジタルコンテンツに携わる。美容業界に関しては、ブランドとの連携も見据えているという。ハピプラのプラットフォーム構想にもとづき、美容ブランドにもこのプラットフォームを開放し、ハピプラを経由した販売も可能になるのではないだろうか。

かつて、オンラインの施策は当時の主力事業の“おまけ”と捉えられていた。だが、生活者が常時オンラインに接続している今、もはや「デジタルのなかにリアルも内包される」という表現のほうが現状をよく言い当てている。ユーザーはもはや、どこで接触しているかも意識しないほど、シームレスにその境界を超えている。

そんななか、プラットフォーマーとしてGAFAが4強とされているが、「出版社としてはそこに乗るだけが道ではない。ニッチなプラットフォームとして一定の規模でユーザーとの直接の接点を持つこともできる」と小林氏は提案する。そもそも、雑誌は規模を追求するというより、ある価値観のもとに形成される編集部と読者の絆を深めることのほうが大事だともいえる。

「ユーザー基盤と技術基盤を自分たちで持てるかどうかが、プラットフォームの肝だと考えている。そして、深いつながりを築くには、やはり“直接の接点”は重要。美容業界のプレーヤーも、もちろん売り場として大規模なプラットフォーマーと組むことは無視できないと思うが、それだけではリアルなユーザーの姿をつかめない。規模は小さくても自社でユーザー組織を育成したり、ブランドの思想や意向を汲んでファンを増やせるパートナーと組むなど、顧客接点を柔軟に考えられるとよいのではと思う」(小林氏)

ハピプラの思想は、女性誌というクオリティコンテンツを核に、ある意味「スモールマス」的なプラットフォーマーとなっていく独自のスタイルといえる。クリエイティブやテクノロジーだけでなく、プラットフォーム発想とノウハウをもったProject8は、極めてユニークな存在として今後も業界を牽引していくだろう。

Text: 高島知子(Tomoko Takashima)
画像提供: 株式会社Project8

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