
SHIROのコスメロスを減らすアーカイブ販売、サステナビリティと成長性は両軸の企業哲学
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページ|メルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o
サステナブルであることとユーザーにとって憧れの対象となるブランディングのどちらも両立しているという意味で、かつ、そのサステナビリティについても、声高には語らず、それが当たり前のこととして社内に浸透しているという点で、SHIROは希有な存在といえる。1989年に株式会社ローレルとして誕生以来、その方針にぶれはない。同社が取り組むさまざまな施策を、株式会社シロで経営企画を担当する野木村美里氏に聞いた。
アウトレットではなく「アーカイブ」発想
SHIROは2020年からストックの販売方法のひとつとして、アーカイブ販売を行ってきた。アーカイブ販売では、限定製品として発売した製品のうち交換対応などに備えて本来の販売期間終了まで保管してきた在庫や、リニューアルによって残った旧製品の在庫を販売している。旧製品などについては、化粧品業界でもアウトレットとして滞留在庫などを販売する動きがあるが、SHIROでは値引きはせず正規価格での販売だ。
自社ECサイトと、表参道本店をはじめ全国3店舗限定で行うアーカイブ販売の経緯について、株式会社シロ 経営企画部門 経営企画グループ マネジャー 野木村美里氏は「SHIROは頻繁に新製品を発売しており、かつその多くが数量限定での販売という特徴がある。とくに2020年頃は限定のフレグランスが即日完売になることが続いたタイミングで、予備として保管し続けた在庫が少しずつ溜まり始めていた」と語る。

プロフィール/2019年、株式会社シロ入社。人事採用担当として入社後、コロナ禍での社内外の変化に対応するべく、お客様対応やEC運営など複数職種を経験。2021年より経営企画グループとして、全社の計画策定や施策の提案、部署横断的な取り組みの全体ファシリテーションなどを手掛ける
製品完売後であっても交換対応などのため一定期間販売せずに保管している製品を、再度販売チャネルに復活させることは難しい。店頭面積が限られていることから想定の販売期間を終了しても残る在庫製品もある。サステナブルであることが「当たり前」の判断基準として根づいている同社では、どのような理由であれ廃棄は避けたいという思いがあり、同時に消費者の気持ちに寄り添った形で在庫販売を行う必要もあった。2020年時点で、ブランド全体としてはこういった少量ずつではあるが多くのSKUを在庫として抱えることとなり、その結果として生まれたのがアーカイブ販売だった。

出典:SHIRO公式オンラインショップ
「製品の中身には誇りを持ってつくっており、使用期限が迫っているのでもないので、価値が下がっているわけではないという意味でアウトレット販売はしない。欲しいと思っていただけるお客様に、そのままの価値でお渡ししたいとアーカイブ販売を考えた」(野木村氏)
ユーザーには、販売期間に買い損ねた製品や、リニューアル前の旧品など思い入れのある製品を購入できる機会として好意的に受け入れられているという。製品をより良くするための香料変更や容器のリニューアルであっても、前の仕様の製品が好きだったという顧客も一定数おり、なかでも、SHIROの前身であり北海道発のブランドとして展開していたローレル時代からの顧客は、それぞれの「好きなSHIROやローレルの姿」があり、リニューアル以前のものを求める声も寄せられていた。好評を裏付ける数字として、自社ECの2023年7月から11月現在までの購入数のうち、約6%がアーカイブ販売によるものだという。
「ビジネスの視点で考えれば、コスト効率は決して良いわけではない」と野木村氏は話す。予備在庫や旧品という性質上、在庫数が1桁台の製品もめずらしくはないが、「是が非でも廃棄しない」というブランド方針のもと1,000円台の手頃な製品であっても出品登録を行い、販売のための工数をかける。しかし、社内には売上以上の好影響があるという。野木村氏は「コスメロスを減らすと同時に、SHIROを以前からご愛用くださっている方だからこそ選ばれるような製品や、過去の限定カラーを購入していただくなど、求められている製品を提供できることにやりがいを感じている」と話す。
コスメロスを徹底して減らす外部との取組みも
コスメロスを防ぐために、そもそも作りすぎないという考えもある。「自分たちで製造から販売までを行うので、製品を一度に多くつくって、在庫を抱えることをなるべくしないようにしている。これまでの経験で、継続して売れていた製品の売れ行きが急にペースダウンすることもあり、定番製品であっても2カ月分程度の在庫量であまり先々の分までつくり過ぎないように調整している」(野木村氏)
またアーカイブ販売では取り扱えない製品に関しては、外部との取組みも行っている。廃棄化粧品ゼロを目指す学生団体・RCAPとの活動では、店舗で販売会を実施した。中身は販売製品と同様でありながら、製造工程で容器やパッケージに微細な傷がついて通常販売できなくなった製品を、学生が説明しながら販売するという活動だ。「ものを大切にすることがSDGsの目標達成につながると再認識できた」など、多くの顧客から反響が得られたという。
さらに一部の製品は、一般社団法人バンクフォースマイルズが運営する「コスメバンクプロジェクト」に寄付する。このプロジェクトは、品質には問題がないものの再販売が難しくなった良品を、経済的な理由で化粧品を買うことが困難な女性たちに届けるという活動だ。
「コスメバンクプロジェクトでは、こちらから事前にお渡し可能な製品リストをコスメバンクへ渡し、受け取り側の女性たちのニーズにそったものを選んでいただいている。それらをシングルマザーを中心とした人々のもとへギフトとしてお渡しできる。ブランド理念として掲げる“世の中をしあわせにする”ことにも合致するので参加している」(野木村氏)
廃棄を減らすという点では、2020年から「エシカル割」も実施している。それまで紙箱をつけていた製品から紙箱をなくすかわりに、包装資材のコストを製品通常価格から値引きするという取り組みだ。これはユーザーからも好評で、2022年3月時点ではパッケージレス製品の販売割合が8割を越えるまでになった。そこで2022年4月には「エシカル割」を終了し、従来価格から3%値引きしたパッケージレス製品を自社ECと全国の直営店舗で販売開始。希望する顧客にのみ、各製品のサイズに応じた封筒タイプのペーパーバッグを別売りで提供する形に移行した。

出典:SHIRO公式オンラインショップ
そのほかにも無料の手提げ袋や雨よけ袋の廃止、フレグランスディフューザーの詰め替え用リキッドとスティックの販売など、さまざまな方法で資源を守る活動を展開する。
自然素材ありきの開発や企画が、人をひきつける
こうしたアーカイブ販売だけでなく、SHIROでは、ブランド運営全般において、サステナブルな軸をぶらさない。製品の原料となる素材選びにおいては、生産者のもとや製造工程で生まれ、本来捨てられてしまう酒かすなどの副産物や、見た目などから規格外とされてしまうがごめ昆布などを優先的に使用する。
こういった素材を活用して製品を開発するため、製造できる数は自然と限られ、新製品の販売タイミングも収穫時期に合わせるなど、素材の都合に合わせたものづくりの方針をとっている。その姿勢はものづくりにとどまらず、2024年春に開業予定の一棟貸し宿泊施設「MAISON SHIRO(メゾンシロ)」についても、森林整備の過程で生まれる間伐材の材質や量など“森の都合”に合わせて設計するなど、自然に寄り添った設計がされている。
MAISON SHIROができていく過程を紹介するInstagramアカウント
さらに2021年に始動した、SHIRO創業の地である北海道砂川市の地域住民参加型のまちづくりプロジェクト「みんなのすながわプロジェクト」では、事業成長による生産量拡大を目的に敷地面積約2万平方メートルの新工場を、砂川市内の江陽小学校跡地に移転・新設、工場は2022年12月に稼働を開始した。ものづくりや教育、観光をテーマとし、カフェやキッズスペース、ものづくり体験ができるブレンダーラボを備える付帯施設「みんなの工場」も2023年4月にオープン。世界中から人が集まり、オープンから半年で来場者数は約20万名、そのうち18%強は北海道外から訪れた。あわせて、水、森、食の循環を考えた施設を目指しているという。

SHIROでは、こうした取り組みをSDGsやサステナブルという言葉が使われだす以前から“当たり前のもの”として取り組んでおり、「ブランドは50年、100年先の地球環境や社会をしあわせにし、関わるすべての人を笑顔にするという意志で取り組んでいる」(野木村氏)という。そのためであれば、アーカイブ販売や素材ありきの開発で限定品やSKUが増えるといった、一見手間のかかる取組みも社内での否定的な意見はなく、自然な流れで実行できている。通常であれば「コスト増」とみられてしまう取組みが、結果として人を惹きつけているといえる。
このような妥協のないサステナブルな運営を行いながらも、ブランドとして成長できたのは、代表取締役会長でファウンダー・ブランドプロデューサーの今井浩恵氏のものづくりへの姿勢と、代表取締役 福永敬弘氏のバランス感覚に優れた経営手腕にあると野木村氏はいう。
「お客様の目や肌に触れるもの、クリエイティブの判断は必ず今井が行う。自分たちの都合ではなく、素材となる原料、それをつくる生産者さんを知ったうえでプロダクトにつなげること。また、お客様にご満足いただけるか、自分たちがお客様として使いたいと思えるかという判断軸をぶらさず持っており、それが社内に浸透している。この姿勢が自己満足に終わってしまってはいけないが、代表である福永の『売上や利益の追求はしない、とはいえブランドの取り組みが世の中に受け入れられたかどうかは当然定量的な結果に表れる』という考え方もまた社内に当たり前に浸透しているからこそ、会社・ブランドの成長が築かれてきている」(野木村氏)
自分たちが使いたいものとして、有効成分を最大限入れた納得できるものをつくりたい、いい素材が廃棄されるのであればそれをできる限り生かしたい、そういった思いがSHIROの根底にはあるという。サステナブルであることが「トレンド」として注目される昨今だが、創業当時から当たり前のこととして取り組んできたことをプロモーションとして訴求するのではなく、ものづくりへの思いや素材選びの過程などを、顧客と同じ目線で伝えるという姿勢は今後も変えることはないという。
SHIROのエシカルな動きは多岐にわたるが、そのどれもがブランドの理念に添いながら、自然発生的に行われている。事業そのものにサステナブルな意識、活動が組み込まれており、それがブランドの成長につながっている。
Text: 臼井杏奈(Anna Usui)
Top image & photo: 株式会社シロ