見出し画像

化粧品のラスト1ミリ、「購入後から肌まで」をテクノロジーで最適化するソリューション

◆ New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

ARトライオンやAIレコメンドなど、購入に結びつけるまでのプロセスを最適化するソリューションは一般化しているが、買った商品を実際に肌につけるところまでを最適化するサービスはまだ未開拓の領域でありホワイトスペースだ。そこに、P&GのOPTEやNASAが支援したDropletteなど、新しい発想で肌までの「ラスト1ミリ」をカバーするソリューションが登場している。

購入後の肌までの「1ミリ」、使用をサポートする考え方

ARを使ったバーチャルトライオン機能やAIを使ったレコメンデーションなど、新たな技術が化粧品小売の世界で活用されるようになって久しい。こうした事例はこれまで、主に商品やサービスが購入される前の段階を最適化し、よりスムーズに購入に結びつけることに主眼が置かれていた。

だが、顧客満足をより確実にし、それ以降のリピートにつなげるのは、購入後にその商品を使用したときの体験だ。従来、いったん購入された化粧品が適切に活用されているかどうか、購入目的を果たせているかどうかのフォローアップは、ほとんど行われてこなかった。リアル店舗での接客を介した販売であれば、たとえばカラーコスメ製品の場合、使用方法の説明や、ときにはタッチアップのサービスもあるものの、店頭でのメイクアップを自宅で再現できるかどうかはユーザー頼みとなっている。流通のラストワンマイルは最適化されていても、ユーザーがそれを実際に肌にのせる、いわば「ラスト1ミリ」はほぼ未開の領域だ。

たとえばアイメイクの入れ方でも、どこにどうアイラインをひくのか、あるいはカラーをのせるべきかは、各自の好みや表現したい表情によって異なり、まさに1ミリ単位で成否が分かれてしまう。またスキンケアでも、使用している商品が本当に肌に合っているのかどうかの判断は、よほど明らかな変化がない限り難しいため、ユーザーは半信半疑で使い続けることになる。

しかし最近では、この半信半疑を確信に近づけるような技術やサービスが徐々に提案されつつある。以下にそうした事例をみていく。

ベースメイクを誰でも最適化、従来の3%量でカバーするOPTE

メイクアップにはシミやそばかすなどをカバーするベースメイクと、アイシャドウやチークなどで顔のパーツをより美しくみせるポイントメイクがある。前者の最適化を突き詰めたデバイスが、P&Gの社内スタートアップスタジオ、P&G Venturesが開発したOPTEだ。

OPTEは「Wand」と呼ばれるデバイスにカートリッジ状のセラムをはめ込んで使うパッケージ商品で、目的は肌のシミやそばかす、色ムラをカバーすることにある。肌色のセラムを皮膚に塗ってカバーするので、一見普通のファンデーションと変わらないようにも思えるが、2つの点で異なる。1つは、ファンデーションが顔全体に塗るのに対し、OPTEは色の濃い部分に塗布するだけであり、同社によると使用量が「97%少なくなる」ところ。もう1つはセラムにビタミンB3(ナイアシンアミド)が5%配合されており、長期的な観点から肌色の濃い部分の色そのものを薄くする狙いもあることだ。

OPTEのデバイスはカメラとライトを内蔵しており、肌表面にブルーライトを照射しながら細かく撮影することで肌色の濃い部分を検出、その部分にのみセラムを塗布する仕組みとなっている。ユーザーはデバイスを顔全体に動かすだけで、高度な技術がなくても自然で整った肌を作ることができるという。OPTE使用後は通常のポイントメイクも可能である。

価格はデバイスとセラムなど一式が599ドル(約6万6,000円)、リフィルが129ドル(約1万4,000円、60回分)で、一般的なファンデーションと比べるとかなり高価だ。だが単なるファンデーションの代替ではなく、最小限の塗布で最適なベースメイクと、シミに対するケアもできるソリューションだと捉えれば、そこに価値を感じる人はいるだろう。実際、2020年9月に米国で発売された際には、すでに2万人がウェイティングリストに登録していた

ポイントメイクも自動化するコンセプト、Elever

ベースメイクをターゲットとするOPTEに対し、ポイントメイクまで含めて最適なメイクアップを実現するデバイスのコンセプトもすでに提案されている。デザイン企業のSeymourpowellは2019年、Instagram上の人物のメイクアップを再現するプリンターのコンセプトとして「Elever」を発表した。

EleverはAIでInstagram上の人物のメイクアップを検知するとともに、現実のユーザーの顔も認識し、メイクアップをプリントするデバイスとされる。現在のところ、あくまでコンセプトのみで実用化は未定だが、プリンターの「インク」にあたる化粧品はカートリッジ式となっており、Dezeenによれば「新たなプロダクトを買ったり、それらの使い方を学んだりすることなく、インターネットで見つけた外見を手に入れることができる」とされる。実現可能性がどこまであるのかは不明だが、ひとつのデバイスでさまざまな色やテクスチャーを再現でき、メイクアップを自動化してくれる未来を予言している。

Seymourpowellのマリエル・ブラウン(Mariel Brown)氏は、Dezeenに対し「ますます即時性を求めるようになった消費者は、物理世界の現実にフラストレーションを感じている」と語り、既存のサプライチェーンのスピードがオンラインのビューティカルチャーについていけていない現状を指摘している。消費者が求めているのは個々のプロダクトではなく、自分が良いと思える外見を適時に手に入れることであり、既存の商品の枠組みではその要望を完全には満たせていないというのだ。EleverはSeymourpowellのレポート「Understanding Beauty Consumers of 2020」の一環として打ち出されたコンセプトで、商品化はされていなくとも、その示唆するところは注目に値する。

もうひとつメイクアップに関連した興味深い存在は、既存の化粧品や成分などのデータベースとAI技術に強みを持つMira Beautyだ。同社のCEO ジェイ・ハック(Jay Hack)氏は、友人のアジア人女性の「(メイクの参考にできる)自分と同じ目の形をしたビューティインフルエンサーがみつからない」という悩みをヒントに、ユーザーの顔や目の形、肌色から商品を検索できるプラットフォームを作りだしたことを、2020年1月、CEW(Cosmetic Exective Women)公式サイトに掲載された記事で明らかにしている。

Mira Beautyによれば、一見、同じように見えるアイメイク(たとえば「スモーキーアイ」)でも、実際に使用されているプロダクトや技術は非常に多様で、理想のメイクを再現するには目の形や肌色が近い人の手法を真似ることが重要だからだ。彼らが開発した目の形の分類モデルについても解説しており、実際に人間がみても似ていると思える形の目が自動的に識別されていることがわかる。この技術をARミラーと組み合わせれば、難易度の高いメイクアップでもぬり絵をするように容易にトレースできるのではないかと期待される。

Mira Beautyはその後サービス形態を大きく変え、2021年6月時点ではユーザーのQ&Aに応じてパーソナライズした化粧品サンプルを提供するサービスになっている。彼らが元々持っていた技術やコンセプトが今後どう活用されていくのか、見定める必要がありそうだ。

ブランドを超え美容皮膚科医からのトータルサービスGetHarley

スキンケアに関しても、従来の基礎化粧品のブランドごとの枠組みを超えるサービスが生まれている。「GetHarley」は、皮膚科医など肌の専門家によるオンラインコンサルティングを通じ、スキンケア商品や美容医療をレコメンドし、フォローアップするサービスだ。取り扱うスキンケア商品は主に、医師経由でのみ販売可能な医療グレードのものが中心だという。

コンサルティングにあたる専門家は約400人がネットワーク化されており、ユーザーが申し込み時に入力する条件をもとにマッチングされ、ビデオ通話で肌状態を確認する。ユーザーが希望すれば、ボトックスやレーザーといった美容医療の手法やそれを提供する医師の紹介を受けることができる。またマッチングされた専門家には随時WhatsAppやメール、電話などでコンタクトでき、肌トラブルの際などにすぐ相談できる。担当の専門家が自分に合わないと感じたときは、ほかの専門家に変更も可能だ。

コンサルティング費用は初回が30分30ポンド(約4,500円)だが、単価数万円の基礎化粧品が珍しくない今、それらを購入する層にとっては正当化できる価格だろう。

NASAが出資、基礎化粧品の肌への浸透を高めるデバイスDroplette

基礎化粧品の肌への付け方を革新するという意味でユニークなのが「Droplette」だ。Dropletteはセラムをミスト化することで肌への浸透を促進するデバイスと、レチノールやコラーゲンのカプセル状セラムがセットになっている。

Dropletteによれば、従来の基礎化粧品はほとんどの成分が肌表面に付着するのみで、内部には浸透していないという。そこでDropletteは、幅4ミクロンの細かなメッシュを振動させることで非常に微細なミストを作りだし、ただの水でも従来より最大80%多く皮膚に浸透させることに成功した。そしてセラムを使った実験でも良好な結果が得られているという。

Dropletteは開発段階ではスキンケアは念頭になく、鎮痛剤や抗生物質を注射なしで皮膚に浸透させるための医療機器として開発を目指しており、最初に資金提供したのも一般の投資会社ではなくNASAだった。現在はスキンケアの提供と並行して、米国立衛生研究所や国防総省の研究機関と共同で医療応用も進めている。このようにしっかりとサイエンスに裏付けられたデバイスで、スキンケアの効果を高めていく動きは今後活発になりそうだ。

さらにDropletteのセラムが入ったカプセルにはチップが付属しており、使用するとそれがスマートフォンアプリに記録される仕組みだ。これによって使い忘れを防ぎ、正しく使い続けることができるとする。

なお基礎化粧品の使用状況をトラッキングするアプリにはCloeTroveSkinなど複数あるが、記録するにはユーザーが入力する必要がある。Neutrogenaや、日本ではキュレルなども、毎日のルーティーンを支援するアプリを提供しており、今後はスキンケア商品の使用状況を自動的に記録できる仕組みが求められるかもしれない。それは企業にとってはアプリを介することで顧客とのタッチポイントを確保できるだけでなく、長期的には顧客のブランドスイッチ抑止やアップセル・クロスセルの機会創出につながるメリットがあるだろう。

肌までのラスト1ミリ、まだ未定義の新領域を制するのは

このように、美容商品の「買った後」を支える技術は登場し始めてはいるものの、まだカテゴリーとして定まっておらず、決定的なプロダクトやサービスはできていない。だからこそいち早く「買った後」を最適化する方法を定義する企業やブランドが現れれば、顧客や市場全体から高い評価が期待できる。顧客が購入した商品やサービスをより良く活用でき、自分への自信を深められるとき、美容企業はその本来の役割をより確実に果たし、顧客とともに成長していけるはずだ。

Text: 福田ミホ(Miho Fukuda)
Top image: Seasontime via Shutterstock

ありがとうございます!メルマガで隔週で更新情報配信中。ぜひご登録を!
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディア。2021年7月19日より月・水・金の週3回配信となり、9月1日にリニューアルを予定しております。詳しくは → https://goo.gl/7cDpmf