美容業界外

Glossierとそれに続くディスラプターたちは、美容業界の外からやってくる

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2010年代、美容業界ではECを活かした新たなタイプのブランドが数多く立ち上がっている。主にミレニアル世代をターゲットとしたもので、もはやいち人気ブランドというより、カルト的な熱狂を集めるものもある。どういった点がこれまでのブランドと異なるのか、それぞれの成功例を見ていきたい。

人気ブログから生まれた「Glossier」

まずミレニアル世代をターゲットとしたコスメブランドの代表格といえるのが、2014年に登場したGlossierだ。人気ブログInto the Glossのエディターであるエミリー・ワイスが、「専門家がユーザーに、何を使うべきで、何を使うべきでないかを指示する」従来の美容業界への疑問をもとに立ち上げた。「skin first. makeup second.(スキン・ファースト、メイクアップ・セカンド)」を標榜し、まずは肌ありきで、肌そのものの美しさを重視している。ナチュラルを志向し、ヘビーなメイクに疑問をもつ若い世代を中心に圧倒的な支持を得ており、Instagramのフォロワー数は100万人に及んでいる。

商品構成もシンプルで、色のバリエーションやセットを除き、商品点数は20数種類(2018年2月現在)しかない。一番の人気アイテムは「boy brow」というまゆ用マスカラ(16ドル/約1,800円)で、これとコンシーラー、口紅をセットした「Phase 2」(40ドル/約4,400円)が定番。なお「Phase 1」はスキンケアのセットで、商品の名付け方からも、あくまで素肌づくりが第一で、毎日の化粧は3点で十分という考え方が明らかだ。色展開もリップカラーが6色、チークが4色と非常にミニマルな構成となっている。

ECサイトからの直接販売を旨としており、注文した商品は淡いピンクのバブルラップでできたポーチに入って届く。シンプルながら可愛らしいパッケージ、同梱されたGlossierのステッカーなど、ミレニアルの世代のハートをつかむポイントも満載だ。

画像:Glossierで購入した商品(著者撮影)

Glossier唯一のショールームをニューヨークにオープン

2016年末にはニューヨークのソーホーにショールームを開店した。筆者が訪問したのは平日の日中にもかかわらず、小ぢんまりした空間は20〜30代の女性を中心ににぎわっていた。ソーホーのはずれのビルの上階にあり、通りがかりにふらりと入れる場所ではないが、高校生や50〜60代と思われる人たちも足を運んでいて、Glossierブランドの広がりが感じられた。来店客のメイクはやはり比較的ナチュラル派が多いが、コスメ好きでさまざまなスタイルに挑戦しているタイプの層も見受けられた。

シグネチャーカラーのミレニアルピンクを基調とした店内では“エディター”と呼ばれる店員が、同じくミレニアルピンクのゆったりしたオールインワンのユニフォームで客の相談にのっており、接客態度は非常にカジュアルでフレンドリー。1平米あたりの売上は平均的なApple Storeのそれを超えているという

Glossierの勢いは同社の数字にも表れており、2017年の売上高は前年2016年の3倍となった。さらに2018年2月、シリーズC で5,200万ドル(約56億円)の資金調達を果たし、累積の調達額は8,600万ドル(約92億円)に到達した。今後もさらに業績が拡大していくことは間違いない。

クリエイティブ集団が立ち上げた「Milk Makeup」

「ポストGlossier」と呼ばれ、よく比較されているブランドがMilk Makeupだ。ニューヨークとロサンゼルスを拠点とするクリエイティブ・エージェンシーのMilkを母体としており、型にはまらない実験的なメイクアップを推奨して、Instagramでは約40万人のフォロワーをもつ。

ターゲットには「活動的な(on-the-go)ライフスタイル」の人物像を設定、マルチユースで「タクシーの中で簡単にメイクができる」ような商品を基本としている。たとえばハイライターにもアイカラーにも使える「Holographic Stick」(28ドル/約3,100円)や、ポアプライマーの「Blur Stick」(36ドル/約4,000円)など、スティック型でサッと塗れるタイプがベストセラーとなっている。

Glossierと異なる点は、商品の種類も色展開もずっと幅広く、たとえばファンデーションは16色(Glossierのスキンティントは5色)となっている。また販路は自社ECサイトのほかに、セフォラやアパレルのアーバンアウトフィッターのでも取り扱う。セフォラのサイトでは「おすすめ商品セット」のなかに組み込まれており、店舗でも中央の目立つ位置にディスプレイされるなど注目度の高さをうかがわせる。

ネイルポリッシュに新たなチョイスを提供「Live Love Polish」

ユーザーの立場から新ブランドを立ち上げる動きは、ネイルにも及ぶ。Live Love Polishはこれまであまり市場に出回っていないコンセプトのマニキュアを開発、キュレーションしている。同ブランドの身上は、ホルムアルデヒドやトルエンといった有害物質を含まず、ヴィーガンかつクルエルティーフリーな製品であること、そして、ほかにないユニークな色であることだ。ビューティブランドとしては珍しくInstagramをほとんど使っていないが、Facebookで110万人以上のフォロワーがいる。販売はECサイト経由のみだ。

創業者のミッシェル・リンとウェイン・リンは兄妹で、この新しいネイルポリッシュブランドのアイデアを持ってニュージーランドから米国に移住した。Live Love Polishの成功により、2017年のフォーブス30アンダー30に選ばれている。

Youtuberが自分の髪のために立ち上げたヘアケアブランド「NaturAll Club」

縮毛ヘア向けヘアケアブランドのNaturAll Clubの創業者、ムーガ・エルティガニも2017年のフォーブス30アンダー30のひとり。ペンシルバニア大学の学生だった2012年、市販のシャンプーやコンディショナーを使用せず、アボカドなどを原料に自分で手作りしたものだけでヘアケアをする試みに挑戦。その過程をYouTubeで報告していったところ、髪に本人も驚くほどの良い変化があっただけでなく、動画を見た多くの人たちから彼女の自作のヘアケア剤のレシピを聞かれるようになり、製品化して販売することを決めた。2015年にクラウドファンディングのインディゴーゴーでキャンペーンを行い、目標額を上回る9365ドル(約100万円)の資金を集めた。

アボカドを使ったディープコンディショナーと、それにセラムなどをセットにしたものなど数点の商品構成で、ユニークなのは、エルティガニが自分のために作っていた頃と同じく手作りで、新鮮さを保つため冷凍された状態で配送される点。そのため販路も自社サイトからの直接販売のみである。

生産能力に限界があるせいか、2018年2月現在、在庫切れのため2〜3週間の発送待ちとなっている。今後は手作りにこだわらず、スケールアップを検討するという

ミレニアルの上の世代へもオルタナティブを「Beautycounter」

既存の美容業界のあり方を否定し、原材料にこだわった製品を消費者にダイレクトに販売するブランドは、ミレニアルより上の世代に向けても現れている。Beautycounterは、40代後半から60代前半を念頭に置いたブランドで、1,500以上の化学物質を有害または安全性に疑問があるとして使用せず、それらの物質を「never list(不使用リスト)」として公開。創業者のグレッグ・レンフルーは過去に複数の会社を立ち上げた経験のある起業家だが、Beautycounterでは「妻であり、母である」立場から、安心して使える化粧品を作りたいとして創業したという。

スキンケアからメイクアップ、ボディケア、ベビー向けまでフルに商品展開。特徴的なのはその販売方法で、ECサイトだけでなく“コンサルタント”と呼ぶセールスパーソンを通じた対面販売を行っている。コンサルタントは「ソーシャル」と呼ばれる小規模なパーティ兼販売会を自宅で開いたり、ローカルなイベントに出店したりして、そこで顧客との会話を通じて商品を売っていく仕組みだ。

画像:BeautycounterコンサルタントのAllisonさん。ニューヨーク郊外のコミュニティイベントにて(著者撮影)

このような販売手法はスキンケア製品のEVERやRoday+Fieldsといったブランドも採用している。ネットの時代に昔ながらの人と人とのコミュニケーションを重視している点は興味深いが、これらのブランドのセールスパーソンは対面販売にくわえて、Webサイト経由の販売も可能になっている。Beautycounterの場合、顧客がWebサイトにアクセスする際コンサルタントのコードを入れることで、顧客の購入とコンサルタントをひもづけ、コミッションを支払う仕組みとなっている。彼らは従来の草の根的手法とネットを融合させることで、21世紀の中高年層を取り込もうとしているのだ。

ヘアカラー市場のすき間を埋める「Madison Reed」

白髪が気になる年齢層を意識したヘアケア市場にも新しいタイプのブランドが生まれている。Madison Reedが打ち出しているのは、ヘアカラーを利用したことのある女性なら誰しもうなずく課題への解決策だ。一般にヘアカラーをしたあと根元が伸びて地毛の色が目立ってきた際は、ヘアサロンに行くか自宅で染め直すかだが、前者は割高かつ時間がかかる一方、後者は低価格で短時間ながら、手間でもあり、染めムラや肌への悪影響のおそれもある。Madison Reedは、安価で施術が短時間ですむヘアカラーのサロンへの供給と、質の良い自宅用カラー製品の両方を提供している。

Madison Reedの製品には、髪全体用カラーや根元用の一時的カラー(2週間用と1日用)、髪色に合わせたグロスなど、カラーリングに関するきめ細かなオプションと色展開がある。価格は全体用のカラーが24.95ドル(約2800円)とセルフ型ヘアカラーとしてはやや高めだが、定期購入することで20%オフになる。また、原材料は“6フリー”をうたい、アンモニアやパラベン、「環境ホルモン」と言われるフタル酸エステルなどを6つの有害な化学物質を含まない。利用者の声にも刺激がないことを評価するものが多々みられる。

販売チャネルは主に自社ECサイトだが、セフォラでも取り扱われている。オフィシャルサイトではユーザーが10項目ほどの質問に答えることで自分に合ったヘアカラーがわかるサービスがあるほか、購入後はプロのカラリストにメールやチャットで使い方など相談ができる。またサロンは現在ニューヨークとサンフランシスコにあり、根元の通常カラーは60ドル(約6,600円)、一時的カラーは35ドル(約3,900円)など、米国都市部のサロンとしてはリーズナブルな設定だ。今後サロンを全米で25店舗オープンさせるべく、2017年10月には2,500万ドル(約28億円)の追加出資を受けている。

Madison Reedの創業者はベンチャーキャピタリストのエイミー・エレットで、さまざまな分野でCEOなどの要職を務めてきた人物。だがこのプロジェクトは彼女にとって「パーソナル」だと語っている。Madison Reedという社名は彼女の娘の名前に由来するというエピソードがそれを物語る。

ユーザー視点で美容業界をじわじわと変革

今回取り上げたスタートアップは、設立者が学生であったり、ベンチャーキャピタリストであったりとバックグラウンドはさまざまだが、共通するのはすべてコスメ業界外の人物による起業ということだ。つまり、ユーザー側の視点から「こんなものがあったらいいな」と思ったものを自分の手で創りだし、資金を集めて経営を軌道にのせている。

この背景には、素人でもサプライヤーとつながったり、資金提供者を説得するための支持者層をソーシャルメディアで構築したりなどがネットの力で容易になったことが背景にある。ましてやビジネス運営力に長けたシリアルアントレプレナーが立ち上げた企業であれば、成長はさらに急速だ。従来の商品や商慣習に疑問を抱く業界の部外者による市場変革は、今後もダイナミックに進んでいく。

Text: 福田ミホ(Miho Fukuda)
Top Image: Thought Catalog via Unsplash

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