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@cosme TOKYOが目指すもの(2) - コンテンツの発信基地へ

前回は、@cosmeTOKYOを立ち上げる際に意識していたこと、「探しやすい」場所から「出会いやすい」場所へ、そして「店舗はネットの世界へのゲートウェイ」というお話をさせていただきました。その際、店舗でコンテンツを作っていく場所にすることに触れたので、店頭でコンテンツをどう発信していくのか、について今回はお話していきたいと思います。

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3階イベントスペースでブランドがコンテンツをつくる

@cosme TOKYOの3階には「イベントスペース」を設けています。パンデミックに突入する前、この場所を設計していた当初は、3階で毎日のように各ブランドがイベントを開催することを想定していました。

私たちは日頃、化粧品ブランドの方々とお話をしている時に、商品を作ろうと思ったきっかけやブランドの想いを直接お聞きする機会が多くあります。その度に、そのブランドや商品のファンになってしまうのですが(笑)、いつも「このお話を直接ユーザーに届けたらよいのに」と思うんです。そのブランドや商品に対する熱意と想いをダイレクトに届ける、これが一番伝わりやすい。

おそらく昔は広告としての枠、広告スペースやCMの尺など制限があったため、いかに伝わりやすくするのかから始まってキャッチーなコピーやクリエイティブに時間やコストが割かれていました。もちろんこれはいまでも大事ですが、濃いファンを作っていくのは、コピーではなく体験であり、本物の熱意です。これをユーザーに直接伝えてあげたいと思ったんです。

ではどうしたらいいのか。ユーザーとブランドがダイレクトにつながる場所を作ればいいんです。なので、イベントを毎日開催できる場所を作ることにしました。これは商品の販売やお客さまの課題解決を前提とした美容部員との繋がり方とは方向性が違います。ブランドや商品への想いをダイレクトに伝えるだけでよいのです。

大事なのは、それをその場限りのクローズドにしてしまわないこと。動画に撮ってオープンなコンテンツにしてしまえばよいのです。出会いというのは、非常にインパクトのある瞬間です。それは第三者が見ていても面白いし感動する。とても影響力のあるコンテンツになるわけです。いま流行りの恋愛のリアリティドラマもそうです。それが本物であればあるほど盛り上がりますし、よいも悪いもハプニングも全部コンテンツであり、ポイントは広告ではないということです。広告を作ろうとするとコストがかかり、それなりのクオリティを求められますが、コンテンツであれば、リアルである方が大事ですから、極端な話、編集がない方がよいくらいです。ユーザーとブランドの会話・出会いが、自分にとって擬似体験できる一番のコンテンツなのです。

現在は、パンデミックでイベント開催が難しい状況になっていますが、ブランドにはこれから先、@cosme TOKYOという場所を使ってユーザーも参加できるようなコンテンツをつくってもらえたらと考えています。そういう本物の想いを伝えられる場所になればいいなと思っています。

美容部員も自身のコンテンツをつくる

ブランドだけでなく、美容部員の方にもどんどんコンテンツを作ってもらえたらと考えています。とくに今回のコロナ禍で、ユーザーの方と直接顔を合わせてカウンセリングすることが現実的に難しくなりました。その中で@cosme TOKYOでも美容部員のメンバーは多くの新しい取り組みをしています。

まず、「オンライン美容部員」というかたちで、美容部員が商品を紹介したり、カウンセリングのサポートをしたりと、いままで一対一が前提だった関係から、一対多のコミュニケーションにトライしています。多くのブランドでも、オンラインカウンセリングということで、美容部員とのオンラインでのダイクレクトなコミュニケーションやそのための機能をリリースしています。もちろんそれも大事なことですが、私たち店舗側の美容部員と求められている要件に違いがあります。たくさんあるブランド・商品の中から、ユーザーの方が気になっている商品が、いま使っている商品と比べてどうなのか、他の商品と比較してどういう違いがあるのか、ブランドを横断した商品の相談が主な目的です。その流れの中で、いま気になっているものや流行りのものを紹介していく。根っこはブランドを横断した商品紹介です。だからこそ、これもできる限りその内容をオープンにしていくことによって擬似体験ができるはずです。

また美容部員の方も得意不得意があるはずです。それもコンテンツとして出すことによって、ユーザーから自分に合う美容部員の方を選んでもらえると思います。第10回で紹介した「ソーシャルセラー」の方々にも、この場所でコンテンツを生成したり発信したりしてもらえるようにと考えています。自分ならではの説明をすることで、ユーザーからすれば、自分に合った美容部員を見つけるきっかけになります。もちろん美容部員にとっても、自分の説明を支持してくれるユーザーとの出会いにつながります。

このように、@cosme TOKYOはブランドや美容部員が、新たなユーザーやパートナーと出会える場所です。そのきっかけとなる「コンテンツづくりがしやすい場所」として位置づけて、さまざまな工夫やサポートを進めています。

YouTuberが店舗でコンテンツをつくる

@cosme TOKYOでは、私たちアイスタイルが主体となって実践する取り組みだけでなく、外部のさまざまなパートナーの方に“使ってもらう”ことも推進しています。実際、YouTuberの方々が閉店後の@cosme TOKYOの中で撮影をしてコンテンツをアップしてくれています。

いままで化粧品に関するYouTubeといえば、商品を使ってその使用感などを紹介していくのが主流でした。最近ではいろんなパターンが出てきてると思いますが、その中に、お店で買ってみる、というコンテンツも増えてきています。実際に@cosme TOKYOを貸切にして、夜、美容部員と一緒に買い物ツアーをしてがっつり商品を購入をするという動画が増えています。

YouTuberのエミリン氏は、2021年の春から6回に渡って@cosme TOKYOにおける爆買動画を投稿しており、合計880万回も再生されています。

正直これはコロナで店舗が閉まっているときだからこそスタートできた企画かもしれません。ですが、これこそ店頭をどんどんコンテンツしていく、という意味でうまく発展した一例だと思います。動画コンテンツを作っている人にとっては、撮影ができる場所があることはプラスでしょうし、我々にとってはお店の認知拡大にもつながります。

個別のお店のYouTubeチャンネルを作ったとしても、継続してコンテンツを作り続けるのもなかなか難しいですし、どうしても販売告知的な内容になってしまいがちです。そうすると視聴者数もフォローも伸び悩むパターンが多いと聞きます。店舗をコンテンツ化することには慣れていないというのが実情ではないでしょうか。であれば、それをコンテンツにしてくれる人に任せてしまった方がいい。そして、作ってもらったコンテンツをまとめるチャンネルを作り、コンテンツを切り抜きして紹介していくことで、お店のチャンネルになっていくんだと思います。グループ会社である istyle meでは、YouTuberを中心としたインフルエンサーマーケティング事業も行っていて、ブランドとYouTuberが組みやすい環境を整えています。

私たちが初めての店舗である@cosme STOREをスタートさせた2007年頃は、ユーザーが店頭で写真を撮ることさえ怒られてしまうような時代でした。おそらくいまでもその流れは少なからずあるはずです。だからこそ、その場でコンテンツを作ることを前提にした店舗はいままでなかったんだと思います。もちろん言うは易しで、実際には、店頭側のオペレーションやお店に購入に来てくれているお客さまに対するサービスレベルなど、いろいろな要素を考慮しながらお店づくりに関わってくれている多くの人の理解と努力があってやっと形になってきています。それこそがco-store戦略の前提でもありますし、いまでも現在進行形でさまざまな体験を創出しながら、店頭のコンテンツ化に取り組んでいます。その一つひとつがいままでになかった新しい店舗、進化し続ける店舗になってくれたらと思っています。

次の回は@cosme TOKYOの第3回として、ECとの連携や、ブランドを横断する「顧客台帳」の仕組みについて解説します。

次回予告:@cosme TOKYOが目指すもの(3) - リアル店舗がハブになる


<著者プロフィール>

吉松徹郎
株式会社アイスタイル 代表取締役社長 兼 CEO


東京理科大学基礎工学部卒業後、アクセンチュア株式会社入社。1999年7月に有限会社アイスタイル(現:株式会社アイスタイル)を設立し、代表取締役社長に就任。同年12月、コスメ・美容の総合サイト「@cosme」をオープン。2012年、東証一部上場。現在は「Beautyの世界をアップデートしながら、多くの人を幸せにしよう」をミッションとして事業を拡大、アジアを中心にグローバルにビジネスを展開。また、公益社団法人 経済同友会東京オリンピック・パラリンピック 2020 委員会副委員長、公益社団法人 経済同友会幹事を務めるほか、公益社団法人アイスタイル芸術スポーツ振興財団を設立し、理事長として現代アートの制作・展示への助成支援やスポーツイベント開催活動への助成支援を行うなど、活動の幅を広げている。「第6回ニュービジネスプランコンテスト」優秀賞(1999年)、ICS「第14回 ポーター賞」(2014年)、「EY Entrepreneur Of The Year Japan 2018」 Growth部門 特別賞(2018年)など、受賞歴多数。