「日常化したメンズスキンケア、市場の潜在力」【海外トレンド 2024年8月-9月】
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毎月1回、ビューティ業界にインパクトを与える海外ニュースを俯瞰し、注目すべきポイントと報道の裏側にある背景を解説。グローバルな視点からビジネスの潮流をひも解く。今回は、4.5%のCAGRで成長し2032年には20億ドル超に達すると予測される世界のメンズスキンケア市場に焦点をあて、大きな伸びが期待される理由を考察する。
大手からスタートアップまで、男性ニーズに寄り添い進化するメンズスキンケア
★注目ポイント
世界のメンズスキンケア市場は着実に拡大している。これまではひげや髪のケアなどグルーミングが中心だった男性のセルフケアだが、昨今はアフターシェービングローションだけではなく、朝晩の洗顔後にフェイシャルクリームなどを塗るのを日課とする男性が増えているためだ。世の中全体の健康志向と相まって、肌の手入れに対する意識が変わり、ケアの利点や方法を知りパーソナルケアの知識を高めつつある男性ユーザーが市場を押し上げている。
調査会社Straits Researchの調べによると、世界のメンズスキンケア製品市場は、2023年に13億5,600万ドル(約1,947億円)と評価された。2024年の14億2,000万ドル(約2,039億円)から2032年には20億1,500万ドル(約2,894億円)に達すると推定され、予測期間(2024年から2032年)の間に4.5%のCAGRで成長すると見込まれている。その背景には、より多くの男性がスキンケアの重要性と健康で若々しい外観を維持する必要性を意識するようになり、高品質なスキンケア製品に対する需要が高まっていることや、ソーシャルメディアの台頭に伴い、男性がスキンケアに関する知識を身につけるとともに、自分に合った製品やケアの情報が得やすくなったことなどがあげられる。
実際、ユーロモニターのレポートでは、2023年、男性の40%以上が何らかのクリームかモイスチャライザー、ローションを毎日使用していると回答している。これをみると、数年前までは、メイクアップはもとよりスキンケアも含めた意味で「化粧」と捉え、「女性がするもの」と考える男性も多かったが、ことスキンケアに関しては、毎日のひげ剃りの延長のルーティンとして、清潔感や整った身だしなみのために必要なセルフケアと受け止められてきていることが感じられる。
男性用スキンケアはもはやニッチな市場ではない状況で、さらに大きな伸びが期待される理由を「男らしさやセルフケアに対する意識の変化」「パーソナライゼーションの深化」「科学的エビデンスのある高機能な製品への関心」の3つの観点から考察する。
スキンケアは自分を高めるための手段であると気づいた男性たち
これまで長い間、スキンケア市場は女性向け製品に独占されてきたことから、スキンケアをルーティンにしている男性は、“男らしくない”あるいは“軽薄だ”とみる社会規範が根強かった。だが、こうした考え方は、多様性や包括性、人種や性別の平等性に価値が置かれる現代においては時代遅れになりつつある。大切なのは自身の心と体のウエルネスにあると気づいたアフターパンデミックの男性にとって、日々のスキンケアは、皮膚を清潔に保ち、皮膚炎などのトラブルを避け、あるいは治療し、健康で心地よい状態と見た目を保つための合理的な手段であり、適切なケアを怠ると、ニキビやシワ、ときには皮膚がんのリスクが高まることを多くの人が理解してきている。
ロレアル傘下のキールズのメンズラインやユニリーバの「Dove MEN+Care」のように、大手ブランドが男性のためのスキンケア製品を中価格帯で、化粧水から美容液、アイクリームまでフルラインを揃え、積極的に市場で展開していることも、一般消費者の間で男らしさの定義やセルフケアに対する意識を変えることに寄与している。
なかでも、Dove MEN+Careは2015年以来、一貫して「ケアは男を強くする」を基本メッセージとしており、キャンペーンやブログ記事を通して新時代の“男らしさ”のあり方を啓発し続けている。「ケア(care)」という言葉のもつ「気づかう」「世話する」という意味を掛けて、「他者への思いやりを示すことが男性の真の強さの証となる」と訴えているのだ。近年では、Dove MEN+Care UKが、「人に寄り添うことは、自分に寄り添うことから始まる(Being there for others starts with being there for yourself.)」とのキャプションを掲げて、セルフケア(自分のケア)の意味を考えることをメインテーマに、かつてライバルだったイングランドやスコットランドの元ラグビー各国代表選手4人が互いの経験を話し、思いをシェアするミニドキュメンタリー風の動画を公開している。
同時にソーシャルメディアで活躍するインフルエンサーが人々の意識の変化に与える影響も大きい。人気の美容系インフルエンサーには男性も多く、InstagramやTikTokには、彼ら自身のスキンケアルーティンや肌の悩みに応えるより良い商品を紹介する投稿で溢れている。視聴者の男性は、オンライン上で周囲の目を気にすることなくメンズスキンケアについて探索でき、男性がビューティやウエルネスに関心を持つのは自然なことであるとの認識を深めていく。
ハリウッドスターなどのセレブも同様に、意識改革を促す役割を果たす。理想の、あるいは憧れの男性像を体現する彼らは、一種のロールモデルとして現代に生きる男性があるべき姿を提示する。
⚫︎ BEAU DOMAINE
2022年、当時58歳だった俳優のブラッド・ピット氏はユニセックスのプレミアムスキンケアブランド「BEAU DOMAINE(ボードメーヌ)」を立ち上げた。ピット氏が仏ボルドーに所有するワイナリーでも協力関係にある著名なワイン醸造家のペラン一家と共同で設立したブランドだ。強力な抗酸化物質を含むブドウを主原料に、ブドウのフェノール化合物の専門家と遺伝学者の2名のサイエンティストの協力を得て開発した、酸化と皮膚の老化メカニズムに対抗する2つの特許取得済み有効成分「GSM10」と「PROGR3」を製品に配合している。
ピット氏は同ブランドの公式サイトにおいて、ペラン氏らが構想から20年をかけ開発したスキンケア製品の試作品を渡されて、実際に使用してみた結果、明らかな違いが感じられるその効果に感動したことから一緒にブランドを興すに至ったと明かしており、いわば「お墨付き」を与えている。そして、クレンジング、セラム、クリームの3アイテムによるケアは「ピットのルーティン」として紹介されている。ピット氏はまた、『VOGUE US』とのインタビューで30年前に友人のメイクアップアーティストに叩き込まれて以来「肌のケアを徹底している」と話し、ハリと輝きがあり年齢を感じさせない同氏の肌は優れたスキンケアメソッドの賜物であることをアピールしている。
一人ひとりの目的や肌悩みに応えるパーソナライゼーションで男性ユーザーと製品をマッチング
メンズスキンケア市場の成長要因のひとつとしては、ビューティ業界の潮流でもあるパーソナライゼーションを推進する動きも見逃せない。あまたある化粧品のなかから、より自分に合った、自分の課題を解決してくれるスキンケア製品を見つけたいという消費者の思いに応えるため、自撮りによる肌解析や、肌状態や悩みをたずねる問診をもとにした製品レコメンドなど、AIを活用しデジタルで提供するパーソナライズ施策はここ数年で実装が拡大した。スマホなどモバイルからも簡単にアクセスできるこうしたサービスは、化粧品カウンターなど実店舗に行くことにためらいを感じる男性ユーザーや、スキンケア製品に不慣れな男性ユーザーが、自分の要望やコンディションにマッチする製品を見つけやすくし、美容の知識を高めることにも大きく貢献した。
⚫︎ Apostle
男性向けに12色のシェードのモイスチャライザーを提供する米ブランド「Apostle(アポストル)」は、化粧品業界でのビジネス経験をもつ2人の男性が2023年に創業した。スキンケアとファンデーションの2つの機能をあわせもち、セルフケアにかかる時間と手間を短縮。人体に有害な疑いのある成分を排除し、ジャマイカのブルーマウンテンの天然水をはじめとする自然由来成分を使用したクリーンな処方で肌を改善に導くとともに、ひげ剃り後の赤みや傷跡を目立たなくするカバー力を持つとうたう。シェード選びは、公式サイトのモデルの画像から自分の肌色に一番近いと思うものを選んでいくシンプルな2ステップで、即座に適した色味の製品がレコメンドされる。26ドル(約3,700円)と気軽に試せる価格とし、スキンケア初心者のユーザーへの浸透を目指す。
⚫︎ Bulldog Skincare for Men
竹製の柄の剃刀やサトウキビ由来のバイオプラスチックを使用したチューブなど、常にサステナビリティを考えた製品づくりで知られる「Bulldog Skincare for Men」は、シェービング関連のアイテムからスタートし、現在では洗顔から肌タイプや目的別の保湿ケアやスクラブ、セラムなど商品ラインナップを拡大させている。
2021年、男性用化粧品ブランドとしては比較的早い段階で、米国の公式サイトにAI/ARテック企業Revieveと提携して開発したAI肌分析ツールを導入した。AIに男性の肌を分析させるにあたっては、顔に生えている毛を認識させるなど、主に女性を想定しているそれまでの肌分析とは異なる調整が必要だったという。ユーザーがスマホからアクセスし、プロフィールを書き込んだアカウントを作成して自撮りの顔画像を送信すると、120以上の肌の指標を分析して各自の肌タイプを割り出して表示するとともに、パーソナライズされたおすすめの製品リストが提示される仕組みだ。男性の多くにとって店舗で美容アドバイザーと対話することはハードルが高く、また、自分の肌タイプがわからないという人も少なくないことから、Bulldogでは、スキンケアの利点やどのような製品があるかを知ってもらうきっかけになることを期待して肌分析を取り入れたとしている。
科学的に効果が実証されている高機能な製品への高い関心
このようにスキンケアを習慣化しはじめた男性は、自身が求める理想の肌を目指して、各自の目的に合う、より高機能な製品を志向するようになっている。女性の肌に比べて、男性の肌は厚みがあり油分が多い傾向にあり、そのため、毛穴の詰まりやニキビは若い世代を中心に男性の肌悩みの上位にあげられる。また、年齢を重ねても若々しく健康であること希求する「長寿(longevity)」がビューティ業界のトレンドになっている昨今だが、メンズスキンケアにおいても、シワやシミなどエイジング対策への関心の高さは例外ではない。皮膚科学に基づいて特定の悩みを解決するための厳選された成分を配合したダーマコスメやドクターズコスメが、男性ユーザーから注目を集めている。
⚫︎ ATWATER
キールズの社長を長年務め、男性のスキンケアについて熟知している創業者が、数十年にわたり積み重ねた美容の知識と個人的な情熱を注ぎ込んで誕生したメンズスキンケアブランドの「ATWATER(アトウォーター)」。石けん、クレンザー、スクラブ、モイスチャライザーなど、一見シンプルな製品群は、科学的に肌を改善することが実証された成分が詰まっており、皮膚の複数のレベルで作用する。ベストセラーは敏感肌を含む全ての肌タイプ向きで軽い付け心地の「Heavy Armor Facial Moisturizer」や、目の周りのシワやクマを改善しエイジングサインの予防にも役立つ「Eye Armor Eye Moisturizer」だ。公式サイト上の肌診断テスト(Skin Quiz)で問診に応えると、どの製品を使ってどのようなケアをすべきか、一人ひとりにパーソナライズした日々のルーティンを組み立ててくれるサービスもある。
⚫︎ Augustinus Bader
世界的に認められた生物医学研究者で医師でもあり、幹細胞生物学と再生医療の専門家のアウグスティヌス・バーダー教授の名を冠したプレミアムスキンケアブランド「Augustinus Bader(アウグスティヌス・バーダー)」。バーダー教授は手術や皮膚移植を必要とせずに重度の皮膚外傷を治癒する創傷ジェルを開発するなど優れた研究成果を持ち、さらに、30年以上にわたる創傷治癒と再生の研究をもとに、Augustinus Baderのスキンケア製品に配合される特許成分「TFC8」を開発した。TFC8は、細胞修復を通じて、肌の健康とくにエイジングサインの軽減に効果を発揮し、あわせて肌を強化し、外的ストレスから肌を守るために相乗的に作用するとされる。最初の製品である保湿クリームは現在でも最も人気のあるアイテムで、性別を問わず数多くのセレブが愛用していることでも知られる。
Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image: Bulldog Skincare for Men公式サイト