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パーフェクトがWannaby買収で美容からファッション全身のバーチャルトライオンを提供へ

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2024年12月、Perfect Corp.(以下、パーフェクト)はfarfetch(以下、ファーフェッチ)傘下のファッションテック企業Wannabyを買収することを発表した。今回の買収により、パーフェクトではAR/AI技術を駆使したバーチャル試着サービスにおいて、ラグジュアリーファッション分野での新たな展開を推し進める狙いがある。買収に至る経緯に加え、今後、Wannabyをどのように活用していくのか、また、2025年の事業戦略について、日本法人パーフェクト株式会社 代表取締役社⻑ 磯崎順信氏に聞いた。


買収でサービスを補完し、目指すのは頭から爪先までトータルなデジタル体験


パーフェクトは2024年12月24日、靴やバッグ、アクセサリーなどのファッションアイテムのバーチャル試着技術に特化し30以上のラグジュアリーブランドにサービスを提供してきた実績をもつWannabyの買収に合意したと発表した。同社は現在、ラグジュアリーファッションECプラットフォームを展開するファーフェッチが所有している。あわせてパーフェクトは、この買収によりWannabyの最先端テクノロジーを自社のビューティテックソリューションと融合させ、美容およびファッション業界においてさらなる革新的なデジタル体験を提供することを目指すとしている。

世界的にはバーチャル試着技術を提供するテック企業は数多く存在するが、磯崎氏はパーフェクトでは以前から、Wannabyに注目していたと明かす。

「リトアニア発のスタートアップWannabyには、2022年に同社がファーフェッチの傘下に入る前から関心を持っていた。その理由は、まず我々の所有する技術レベルと比べても遜色のない非常に高い技術クオリティであることがひとつ。そして、ラグジュアリーファッションブランドをクライアントに持つそのポートフォリオも評価している。現在、我々はビューティ分野に加え、アイウェアやアクセサリーなどファッション分野のバーチャル試着サービスも提供しているが、腕時計など一部かぶる部分があるものの、我々がまだカバーしていない靴やバッグを得意とするWannabyが加わることで、全体的な補完ができると考えている」(磯崎氏)

つまり、パーフェクトが目標とする“頭から爪先まで”、ビューティとファッションをトータルでみられる完成度の高いバーチャル試着の実現にWannabyが寄与することが期待されているという。また、Wannabyにとっても、ファーフェッチのもとでは実現しきれなかったビジネススケーラビリティのチャンスになるとみられている。このパーフェクトのM&Aのニュースを受けたアナリストも、「ラグジュアリーファッションセグメントへの戦略的拡大」「Wannabyの既存顧客基盤へのアクセス」「買収後もファーフェッチとの継続的なパートナーシップ」「デジタルソリューションポートフォリオの強化」の4点を高く評価し、市場はほぼ100%ポジティブな反応をみせている。

グローバルで大きなシナジーをもたらす戦略的買収という意味では、パーフェクトにとって初のメジャーなM&Aとなる今回の事例だが、今後も積極的な買収や投資を展開していくのだろうか。

「我々の事業展開に良い影響を与えることが明らかな、“メイクセンス”な買収であれば考えていく。パーフェクトの立場としては、ニュートラルかつオープンに市場をみていくということだ」(磯崎氏)

パーフェクト株式会社 代表取締役社⻑ 磯崎順信氏
プロフィール/高校卒業後、単身渡米し8年間を過ごす。米国に拠点を置くIT企業の日本法人のマネージメントを数社経験し、2015年にPerfect Corp.の日本法人の立ち上げから現職として参画

日本初上陸のWannabyを起点に新規顧客へのアプローチ

同時に日本市場でのWannabyの活用について、磯崎氏は「我々のグループ入りをしたことでWannabyにとっては日本への初進出でもあり、新しい顧客の獲得につながる」とする。すなわち、Wannabyの既存クライアントには日本のファッション企業・ブランドが含まれておらず、いわばゼロからの出発であるため、これまでパーフェクトのサービスを導入していない企業・ブランドに対し新サービスとしてアプローチができるというのだ。あわせて、パーフェクトの既存のファッション分野の顧客にクロスセルした展開も進めていくとする。

そして、磯崎氏は「エンドユーザーにとっては、我々が提供している髪型や髪色、メイクアップのバーチャル試着に加えて、服やバッグ、靴などを合わせた全身のトータルコーディネイトをデジタルで確認できるということは、とても魅力的な体験となるはずだ」と話す。美容ブランドにとっては、ユーザーのファッションアイテムとマッチしたメイクという新たな提案も可能になりそうだ。

「高価格帯のラグジュアリーアイテムは、やはり多くの方が最終的には実店舗で現品を見てから購入するものだと思っている。ただし、服にしろ靴にしろ、リアルな場で試着できる点数には現実的に限りがある。バーチャルで気になる商品を簡単かつ楽しく20点、30点と試着して、本当に欲しいものや自分に似合うものをある程度絞ってから実店舗を訪れるという、いわば下調べ的な活用法をしていただけるのではないか。それは、我々のサービスを導入していただいたブランドの売上の向上にもつながることになる」(磯崎氏)

2025年注力するのは生成AI活用バーチャルAI美容部員の普及と顧客の裾野の拡大

2025年、パーフェクトではWannabyのM&Aを起爆剤にラグジュアリーファッション分野でのバーチャル試着サービスの拡充と同時に、「Viva Technology 2024」で発表した生成AIを活用した美容AIアシスタントフレームワーク「PerfectGPT™」関連の事業に注力していくと磯崎氏は話す。

これは、個別のブランドごとに特有のナレッジや個性、プロダクト情報などをトレーニングさせたパーフェクト独自AIに、自然言語によるユーザーとのダイレクトなコミュニケーション=チャットを掛け合わせることで、パーソナライズされたアドバイスや顧客の求める結果に適合する提案ができる「バーチャルAI美容部員」を誕生させることができるサービスだ。

このAI美容部員はメイクアップのバーチャルトライオン、シェードファインダー、参考にしたいメイク画像をユーザーの顔上に再現するメイクアップトランスファーなどの機能や、AI肌解析とそれにもとづく個々に合わせたアドバイスやケアの提案など、パーフェクトが提供するAIサービスをリアルタイムで使いこなし、各ブランドのEC店舗を訪れた顧客の質問や要望にこたえたり、おすすめ商品を紹介するなど、実店舗のスタッフと同じように接客することで顧客のショッピングをサポートする。

こうした一人ひとりのユーザーのパーソナルアシスタントとしてバーチャルAI美容部員が顧客のECにおけるショッピングジャーニーに寄り添い、バーチャル試着や肌解析などのツールにもとづいた顧客が納得できる信頼性の高い買い物体験の提供により、EC体験そのものが大きく変化し向上することが期待される。オンラインでバーチャルAI美容部員と会話しながらのショッピングを「ひとつのインターフェイス上でシームレスに楽しめる世界を2026年までには提供できるように進めていきたい」と磯崎氏は話す。

出典:Perfect Corp.プレスリリース

さらに磯崎氏は2024年から継続している方向性として、パーフェクトの顧客の裾野を広げていく試みを挙げる。現在までのところ、パーフェクトを導入する企業・ブランドは、主に大手法人企業で占められているとして、「いわば限られたところで展開している我々のテクノロジーを、いわゆるTier3〜4の小さなスケールの企業などにもっと幅広く利用していただくことを目指している」(磯崎氏)という。

「たとえば、美容室や美容クリニック、個人事業主の美容サロン、あるいは小規模なインフルエンサーブランドなどにも活用してもらえるよう、B to B to Cのすべての段階で大きな負荷なく利用ができるように進めている。技術的な改善・改良や、現場で必要とされる機能だけに絞る軽量化をすることで、リーズナブルなコストでの展開ができると思う」(磯崎氏)

そのためには、パーフェクトのテクノロジーやサービスが持つバリューを、これまで接点の少なかった小規模事業者に認知・理解してもらうことが欠かせないと磯崎氏は考えている。「2025年は、より消費者に近い視点とマインドセットを持つ事業主の方々に向けた、現場でのユースケースに重点をおいたマーケティングを積極的に推進していく」(磯崎氏)

Text: そごうあやこ(Ayako Sogo)
Top image: Wannaby公式サイト