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資生堂やニューロープの化粧品需要予測AI、過剰在庫や機会損失の低減に貢献
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資生堂やニューロープの化粧品需要予測AI、過剰在庫や機会損失の低減に貢献

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地球環境への負荷を減らすサステナブルな経営を実現しつつ、企業やブランドの成長を維持し続けるためには、多様化する消費者ニーズや変化が激しい市場動向を正確に読み取り需要予測ができるかが、これまでになく重要となっている。AI Cloudプラットフォーム「DataRobot」上で化粧品分野の新製品の需要予測モデルを開発する資生堂ジャパンと導入支援を行っている日鉄ソリューションズ、そして、化粧品の需要トレンド分析AIを開発するIT企業、ニューロープにそれぞれ話を聞いた。

これまで難しかった新製品の需要予測を可能にした資生堂

化粧品×需要予測AIの活用で顕著な成功が報告されているのが資生堂の事例だ。膨大なSKUを扱う資生堂では、これまでも需要予測技術を、原材料の発注、工場における生産計画、配送・物流計画などサプライチェーンマネジメントに活用してきた。

資生堂ジャパン株式会社 プレステージ事業本部
事業管理部 S&OPグループマネージャー 山口雄大氏

プロフィール/2007年入社。化粧品専門店の営業を担当した後、10年以上にわたり、様々なブランドの需要予測を担当。需要予測システムの設計や需要予測AIの開発をリード。需要予測AIの取り組みがロジスティクス大賞2021(JILS)で「AIデマンドマネジメント賞」を受賞
画像提供:資生堂ジャパン

2018年頃からは、機械学習に必要となるデータの準備からモデル構築、デプロイ、予測の実行、そしてモデル監視と最適化までを自動化するAI Cloudプラットフォーム「DataRobot」を採用し、既存品ではなく発売前の新製品にフォーカスした新たなAI需要予測モデルの開発も進めてきた。同プロジェクトを提案・リードし、10年以上にわたり資生堂の数多くのブランドの需要予測を担当してきた資生堂ジャパン株式会社 プレステージ事業管理部 Sales & Operations Planningグループマネージャー 山口雄大氏は以下のように語る。

「DataRobot」上で既存品と大きく異なる新製品需要予測モデルを構築

「需要予測は既存品と新製品で方法が大きく異なる。資生堂は2014年にブルーヨンダー社の統計予測モデルのパッケージを導入し、既存品の需要予測では一定の成果を上げてきた。一方で新製品に関しては、化粧品業界のみならず、さまざまな業種においても需要予測が困難で、かつ効果的な手法が確立されていない状況だった。DataRobot側からも、新製品の需要予測にAIを活用した事例がほぼないと聞いていた。ただ、ここは成功した時の事業へのインパクトが大きいこと、また個人的にAIがどこまで需要予測に使えるかにも興味を抱き、プロジェクトを社内提案することになった」(山口氏)

新製品需要予測の構造例
画像提供:資生堂ジャパン

資生堂が新たな需要予測モデルの開発を進める理由は、過剰在庫と機会損失の両方の低減にある。山口氏は「そもそも一般論として新製品の計画精度は高くなりにくい。データは公表していないが、資生堂の場合も、これまでは既存品に比べ新製品の需要予測の精度は高いとはいえず、過剰在庫や欠品、すなわち機会損失のリスク傾向が強かった。とくに過剰在庫については、昨今、地球環境への配慮の観点から削減が強く求められてきている。サステナビリティと顧客視点の価値向上を同時に実現する手段として、AIを使った予測モデルの開発にはさらに力を入れていく」とする。

資生堂の新たな需要予測モデルは、システムインテグレーターである日鉄ソリューションズ(以下、NSSOL)との協力体制のもと開発・ブラッシュアップが続けられている。NSSOLは、資生堂が蓄積してきたサプライチェーン、営業、マーケティング、ファイナンスなどの各領域データに加え、買う場所やブランドシェア率など膨大な市場データを効率的にAIに学習させていくプロセスを助言する立場だ。

「2020年初頭にはプレステージの領域の新製品の需要予測モデルが完成し、実用を開始した。たとえば、クレド・ポー ボーテの2020年秋冬の新製品に関しては、SCMとマーケティング部門で合意した計画よりも多く売れるとの予測がAIによって導きだされた。大筋の計画に変更はなかったものの、より売れる可能性を考慮して原材料を先に確保していたため、従来よりも早く増産対応が可能になるという成果が確認できた」(山口氏)

資生堂では2020年の成果を踏まえて、翌年もプレステージ領域の予測モデルに投資を続けていくことを決定。また、ドラッグストアやスーパーなどを中心に販売されているプレミアムブランドに対応した予測モデルの開発も開始した。2021年にはプレステージブランドにおける、この予測モデル運用で過剰在庫・欠品解消の両側面でさらなる実効性が確認されており、今年2022年からはプレミアムブランド領域でも同モデルを採用する段階に入っている。

需要予測モデルで成果をあげることに成功した理由はどこにあるのか。山口氏はまず、データの整理の重要性を強調する。

「AIで需要予測モデルを開発する際、需要の背景にある因果関係をしっかりと想像したうえでデータとして表現する段階が最も難しかった。ただし、資生堂のなかにはさまざまな組織や専門家がおり、データを数字や定型データとして客観的な形ですでに整備ができていた。あわせて、推進するための環境が整っていたため成果につなげることができたと考えている。今後も社内で蓄積したデータを活用する整備を続けていく」(山口氏)

また、ディープラーニングなど機械学習は、膨大な量のデータを自動で計算し、人間が気づかなかった物事の関係性や予測値を出力することに優れたテクノロジーだ。一方で、その解にいたる演算プロセスが複雑なため、結論までの過程を人間側が理解することが難しいという課題がある。いわゆる“ブラックボックス問題”だ。だが、資生堂が採用したAI Cloudプラットフォーム DataRobot は、このAIの思考プロセスを人間が理解しやすい形で明示できる特徴があると、日鉄ソリューションズ株式会社 DX&イノベーションセンター データテクノロジ&コンサルティング部 エキスパート 籔さやか氏は言う。

日鉄ソリューションズ株式会社 DX&イノベーションセンター
データテクノロジ&コンサルティング部 エキスパート 籔さやか氏

プロフィール/2008年新日鉄ソリューションズ(現:日鉄ソリューションズ)入社。研究開発部門でデータ分析プロジェクトの実行支援および推進ノウハウの整理/蓄積やデータサイエンティスト育成に従事。現在はデータ活用コンサルタントとして、幅広い業種のAI・データ分析案件に参画し、データ活用企画支援/PoC立上げ/業務活用定着支援の実行およびチームリーダを担当している
画像提供:日鉄ソリューションズ

最終的な因果関係の解釈・分析は人間側の仕事、それをAIツールがサポート

とはいえDataRobotのプラットフォームにおいても、データすべての因果関係をはっきりと明示してくれるわけではない。しかし「AIの演算プロセスがどの特徴を重要視しているかなど、人間側が解釈・分析する際にサポートするツールが充実している。予測モデルをアジャイル的に強化していく際、使い勝手が良いのがDataRobotの特徴だ」と籔氏は説明する。

DataRobotのインターフェース
画像提供:DataRobot

あわせて山口氏は、需要予測モデルへの投資を継続したことも成功要因のひとつだとする。

「当初は実験的なプロジェクトだった。どの企業も結果を出せていない領域であり、我々も1年目でははっきりとした成果を示せなかった。その時点で、経営陣による投資継続の判断がなければ、実用化までこぎつけることは難しかっただろう」(山口氏)

「一般的には、AIにデータを入れるとすぐに何かしらの答えがでるというイメージがあるかもしれないが、決してそうではない。データの特性、量、質、そこにまつわる状況を精査してひな型となるモデルをつくり、そこから評価・改善するプロセスを繰り返さなければならない。そのため何より重要になるのは、改善をするチームを継続的に維持できるかどうかだ」(籔氏)

優れたAIモデルを生み出すためには、データの整理と最適なツールの選択、また継続的な投資以外にも、もうひとつ重要なことがある。それは、現場とデータの両方を理解し橋渡しをするブリッジ人材の存在だ。

日鉄ソリューションズ株式会社 流通・サービスソリューション事業本部 
DXビジネス・イノベーションセンター 所長 呉正大氏

プロフィール/2006年新日鉄ソリューションズ(現:日鉄ソリューションズ)入社。BI、DWHなどデータ利活用システム構築を担当後、AI・データ分析を用いた業務改革やDX推進組織立上げのコンサルティングリーダを歴任。2022年流通・サービス事業本部 DXビジネス・イノベーションセンター所長に就任。AI関連プロジェクトのリード、新規ソリューション企画、DX推進人材育成等を担う
画像提供:日鉄ソリューションズ

さまざまな企業の実情を知る日鉄ソリューションズ株式会社 流通・サービスソリューション事業本部 DXビジネス・イノベーションセンター 所長 呉正大氏は「DXが待ったなしの状況で、現場を知り、かつデータを活用できるブリッジ人材は、どの企業も増やしたいと考えている。自社のビジネスをよく理解した人材がDXに取り組むほうが、スピード感を高め、他社への依存度を下げられるからだ」と指摘する。

しかし、資生堂のように人材に投資を続けられる企業は決して多くはないのが実情だ。「ほとんどの企業では、現場のエース格の人材は現場から移動させがたく、ブリッジ人材を育成したくてもすぐには難しいというのが現状だ。そうしたなかでDXのスピード感を高めていくには、私たちのようなベンダーを使うのも選択肢のひとつだ。テクニカルな部分はもちろん、(ベンダーが持つ)他社との共創経験や業界をミックスした知見をうまく活用することも成功のカギになるだろう」と語る。

パンデミックや昨今の国際情勢に象徴されるように、社会の先行きがますます不透明になるなかで、いくつもの変数やシナリオを想定して需要の在り方をシミュレーションしていくことの重要性は高まると山口氏はいう。新たに開発した需要予測モデルについては、予測の精度向上のみならず、予測値を様々なステークホルダーに活用してもらえるよう、オペレーションを整備していくことを目指している。たとえば、従来からの生産計画立案や原材料調達だけでなく、マーケティング計画の再考やファイナンスの見通しの精緻化といったことを次なる目標に掲げる。

「現時点で確認された最大のメリットは、リスクの定量的評価ができるようになったことだ。そしてこれから重要になるのは、その予測値を使って人間がどのような判断をくだせるようになるか、また、その判断後にオペレーションをいかにスムーズに実行できるかだ。AIで高い精度を出すのは通過点でしかない。顧客へのサービスレベルの向上や地球環境への負荷低減につなげるため、社内プロセスづくりや機能継承に力を注いでいく」(山口氏)

SNSやユーザー属性を時系列で蓄積するニューロープ

資生堂の事例は特筆すべきものだが、すべてのブランドや業界関連企業が自前の需要予測モデルを開発することは現実的に簡単ではない。こうした潜在的な需要を満たすために、トレンドデータや分析レポートを提供する企業向け向けサービスも登場している。ニューロープによるトレンド分析サービス「#CBK forecast(カブキフォーキャスト) for cosmetics」もそのひとつだ。株式会社ニューロープ 代表取締役CEO 酒井聡氏は次のように話す。

ファッションと化粧品双方の時系列データから新たな相関関係の発見も

「もともと弊社では、ファッションAIを使ったトレンド分析をサービスとして提供してきた。ただここ数年、隣接領域である化粧品業界の関係者からも、在庫問題の解消のためにトレンド分析ツールが欲しいという声が増えた。ファッショントレンドを分析するため、長期間にわたって時系列でSNSやECサイトのデータを収集してトレンド推移を追い続けてきたこともあり、それらデータを化粧品のトレンド予測にも活かせるのではないかということで本格的な開発を開始した」(酒井氏)

ニューロープのトレンド分析ツールの特徴
画像提供:ニューロープ

ニューロープは、SNSから年齢や性別などのユーザー属性(顔認識により推定)をはじめ、ブランド名、インフルエンサーが発信する情報、ハッシュタグ、ECのランキング情報などを時系列で蓄積し続けている。同サービスを利用すると、専用ダッシュボードからデータを閲覧し、相互に紐づけてトレンド動向を探ることができる。収録されているデータセットは約1,000万レコードだ。データを分析・解析するリソースがないクライアントに対しては、独自にレポートを提供するサービスも運用している。

ニューロープが提供するレポート例
このレポートでは、Instagramにおける #コスメ , #メイク , #スキンケア のいずれかのハッシュタグを含む投稿に付与されたハッシュタグを集計している。「スコア」は、該当のハッシュタグが出現した度合い。Instagram上で取り上げられているショップやブランド、テイスト、ライフスタイル関連ハッシュタグの変遷を、商品企画のヒントにするなどさまざまな用途への活用を想定している
画像提供:ニューロープ

「活用の仕方によって、特定商品の推移だけでなく、特定期間の市場のムード、ユーザー属性ごとのライフスタイルの変化などもつぶさに追えることもあり、ブランドだけでなく、小売店や卸関連企業のクライアントにも活用いただいている。消費者はファッションとコスメを厳密に区分しておらず、スタイルやトレンドなどを総合的に判断して購買にいたっている。両カテゴリーの時系列データが揃っているので、その相関関係からも新たな気づきを得ることができる」(酒井氏)

株式会社ニューロープ 代表取締役CEO 酒井聡氏
プロフィール/ファッションAIをEC、小売、メーカー、メディア等に提供するスタートアップ、ニューロープ代表。リコメンド、トレンド分析などに取り組む。東洋経済誌「すごいベンチャー100」。九州大学芸術工学部でアートとサイエンスを学んだ後、2009年より㈱マイナビでマーケ、広告、編集、営業支援等を担当。2012年より㈱ランチェスターでアプリの企画、デザイン、PM、運用に携わり、2014年に起業。
中小企業診断士、デザイナー
画像提供:ニューロープ

トレンド感覚を定量化・可視化することで議論・意志決定のサポート

資生堂の需要予測モデルのメリットは「リスクの定量的評価」だが、ニューロープのトレンド分析は、「トレンド感覚の定量化」といえよう。従来、ファッション業界では各シーズンのコレクションをまとめたレポートや、ブランドディレクターが収集した画像、昨年の自社売上実績といったイメージボードや限られた情報などをベースにして売れ筋を議論・予測してきた。ただアパレル生産の特徴として、まったく同一のアイテムはほぼ存在しないため、「再現性のあるデータが溜めにくいという点で難しい」(酒井氏)という特徴があったという。ニューロープは画像解析の技術を用いて、色や素材、襟の形、シルエットなどアイテムを要素分解し、特徴単位で定量的にデータを蓄積することで、シーズンやブランドなどをまたいだトレンドの汎用化を実現している。

「データの溜めにくさという意味では、化粧水ひとつとってもさまざまなブランド、成分処方、パッケージ、感触など同じものはなく、トレンドも変化が早いなど、ファッション業界とも共通点がある。また、人間のプロフェッショナルのトレンド予測は感覚として合っていたとしても、売上や在庫がどのくらい増減するかまでは正確に予測できない。トレンド感覚を定量化することで、細部まで生産戦略を議論できるようになることには大きな意義がある」(酒井氏)

資生堂とニューロープの事例に共通するのは、AIを使った需要予測モデルもしくはトレンド分析を活用するためには、データの蓄積においてもそのブラッシュアップにおいても、空白のない「継続性」が何より大事であるということだ。同時に、データとデータの相関関係を見出すなどは経験を積んだ人間が持つ“勘”も非常に重要になる。

トレンドや人気カラー、時代の空気感など、人間が曖昧に捉えている事象を数字など客観的に処理可能なデータとして置き換え学習させていくことで、AIはより洗練されていく。その意味で、どのAIモデルや関連ツールを採用するかの選択もさることながら、上がってきた予測前・予測結果に人間がどのような“解釈”を加えて、どう実行していくかが、ビジネスの成否を分けることになるだろう。

Text:河鐘基(Jonggi HA)
Top image: VectorMine via Shutterstock

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