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毎月1回、ビューティ業界にインパクトを与える海外ニュースを俯瞰し、注目すべきポイントと報道の裏側にある背景を解説。グローバルな視点からビジネスの潮流をひも解く。今回は、米国と英国を中心に次々とオープンするビューティブランドのポップアップストアと、ポップアップの聖地との異名を持つまでになった聖水洞エリアなど、韓国・ソウルでのポップアップの活況をレポートする。

凝った演出で顧客体験をブーストするポップアップ、大手からカルトなブランドまで続々開設

★注目ポイント

消費者の興味が実店舗とリアルな顧客体験に回帰している世界的な状況に伴い、美容業界では、イベントとしてのインパクトをはじめ、高い注目度や話題性が期待できるポップアップストアの価値に改めて熱い視線が寄せられている。ブランドカラーを前面に押し出しつつ、手の込んだ演出や新味のあるアトラクションで、来場者を巻き込む設計にしているのも大きな特徴だ。

期間限定で開催されるポップアップストアは、通常の店舗よりも、テーマを絞ったユニークな企画が立てやすく、内装や演出、パッケージデザインなどの自由度も高いため、ブランドの世界観や商品コンセプトを強いインパクトとともに表現できる利点がある。消費者に対しても、「今だけ」「ここでだけ」という特別感のあるショッピング体験や、ソーシャルメディアでの“映え”が期待できる場の提供が可能であり、ビューティブランドにとって重要なマーケティングツールになっている。

2023年冬のホリデーシーズンに際してGlossy+ Researchが行った調査によれば、美容・ファッションブランドのマーケターの34%が「（今後）ポップアップを活用する予定」と回答したという。また同調査では、ギフトカタログ、ショップやECでのブランド体験、購入した商品や体験のレビュー動画投稿に次いで、ポップアップは消費者からのレスポンスが4番目に高かった。

また、米国の金融持株会社Capital Oneの2023年6月のリサーチでは、ポップアップストアは最大800億ドル（11兆7,656億円）の年間収益を生むとされ、市場価値は2025年までに950億ドル（13兆9,716億円）を超えると予測している。さらに、ポップアップを開設した小売業者の80%が「施策は成功した」と考え、58%が「別のポップアップをオープンする予定」と回答した。

2024年に入ってから、米国や英国を中心に、大手ブランドやカルトな人気の新興ブランドらが凝ったコンセプトやゴージャスな演出のポップアップストアを立ち上げる事例が相次いでおり、ポップアップ施策は加熱する傾向にある。

⚫︎Chanel

シャネルは、俳優のマーゴット・ロビー氏がアンバサダーを務める「Rouge Allure Velvet Nuit Blanche」リップスティックコレクションのローンチに伴い、2024年3月9日、英スコットランド・エジンバラ市内のタウンハウスにてポップアップストアを開設、3月30日までオープンしている。

Rouge Allure Velvet Nuit Blancheは夜のさまざまな時刻を表した8つのシェードで構成されている。ポップアップはそれにちなんで「夜のお出かけ」をテーマとし、ロビー氏が主演するキャンペーンムービーが上映されるシネマゾーンを設けたほか、インタラクティブな展示や商品のお試しができるスペースを用意した。

シャネルでは、ブランド創設者のガブリエル・シャネルが後援者で恋人だったウェストミンスター公爵とともにスコットランドで多くの時間を過ごし、「強いつながり」を持つ土地であることが、今回エジンバラをポップアップの場所に選んだ理由としている。

⚫︎Dove

ダヴは、新製品のプレミアム洗顔バー「Plant Milk Cleansing Bar」のプロモーションのため、米ニューヨークの街角の小さなイタリアンレストランバーを同年2月22日から2日間借り切ってポップアップイベントを開催した。

会場では、4種類のPlant Milk Cleansing Barそれぞれの香りにインスパイアされたオリジナルのカクテルとノンアルカクテルが提供された。たとえば、ココナッツミルク＆シュガーライチバーをイメージしたダイキリ風のドリンク「Dreamy & Steamy」や、オーツミルク&ベリーブリュレプラントミルクバーに触発された定番カクテル・ネグローニのウィスキーバージョン「Shower Cap」などだ。

そのほか、たくさんの花々で飾られた空間にはバスタイムを連想させるシャワーヘッドやミニ噴水が装飾としてあしらわれ、リラックスしたムードを演出。ゲストは無料のハンドマッサージや、商品がフューチャーされたフォトブースでの撮影を楽しみ、プレゼントのグッデイバッグを受け取った。

⚫︎YSL Beauty

同年2月9日、YSL Beautyはバレンタインデーをテーマに、同ブランドのベストセラーリップグロス「Candy Graze」に捧げた1日限りのポップアップイベント「Candy Shopee」をニューヨークで開催した。

ハート型の風船や容器いっぱいに詰め込まれた甘いキャンディ、そして、Candy Grazeを模したオブジェで彩られた店内には、メイクアップステーションでのタッチアップができるほか、リップグロスが景品のクレーンゲームやフォトブース、購入した商品に名入れができる印字ステーションが設けられた。入場無料で予約の必要もないオープンなイベントで、会場の外に駐車したバンでは入館を待つ行列に並んだ人々にキャンディを配った。

⚫︎e.l.f. Cosmetics

e.l.f. Cosmeticsも同年2月、ニューヨークにスキーリゾートの山荘をイメージした内装のポップアップ「Aprés Ski(n)」をオープン。寒い季節の肌に必要なスキンケアの必需品としてe.l.f SKINのコレクションを紹介した。来店者はホットチョコレートを手に商品説明を受けたり、スキー場の風景写真をバックに撮影をしたり、製品サンプルを詰め合わせたギフトバッグを受け取った。

⚫︎Sol de Janeiro

ロクシタン傘下のブラジリアンビューティをうたうSol de Janeiroは同年1月、英国での「Delica Drench Body Butter」の発売を記念し、英ラグジュアリービューティセレクトショップSpace NKと共同で「Love All Your Layers Tour」キャンペーンをスタート。その第一弾として、ロンドン西部の大規模ショッピングモール内にポップアップストアを立ち上げた。

同店ではDelica Drench Body Butterのお試しのほか、肌の水分補給レベルを判定するテストや賞品が当たるミニゲームなどを用意。また、来場者が次に来る人に向けて特設のタッチパネルにポジティブなメッセージを残し、ハッピーなコミュニケーションをつなげていく「pay-it-forward」スクリーンも設けられた。このポッアップイベントはその後、エジンバラとリバプールでも開催された。

一方、Sol de Janeiroはニューヨークでも「 Cheirosa 59 Perfume Mist」のローンチを機にポップアップを開設。英国同様のアトラクションに加え、瞑想ルームや無料のハンドマッサージなどを提供した。

⚫︎Garnier

ガルニエUKは、マーベルの最新ヒーロー「マダム・ウェブ」とコラボし、新しい処方の「Hair Food」の発売を祝う3日間のポップアップを同年2月にロンドンの大型ショッピングモールで開設した。

「最高に健康的な髪のために、シャワールーティンをスーパーチャージする」ことをテーマに掲げ、会場には“ネオンシャワー”を浴びながらHair Foodシリーズのベストセラー製品の香りを体験する6つのシャワーブースを用意。来場者はブース内でHair Foodに関するさまざまなクイズに回答し、正解するとニューヨーク旅行が当たる抽選に応募ができる。あわせて、著名ヘアアーティストによるヘアスタイリングのライブショーや、予約制の個別スタイリングセッション、商品がもらえるマダム・ウェブのゲームコーナーといった体験も提供された。

⚫︎ Jolie

ウイルスフィルター付きのシャワーヘッドで知られるビューティ＆ウエルネスブランドのJolie は、ニューヨーク・ソーホー地区の路上に、ポップアップストア「Jolie Love Shack」として屋台風の小屋をバレンタインデーまでの2週間設置した。このコンパクトなポップアップには、ほのかに香るドライフラワーの花束が吊るされた外装で、Jolieのシャワーヘッドが並ぶ展示用シャワールームが付属している。また、その場でシャワーヘッドを購入するとドライフラワーの花束に加えて、温かなヘルシードリンクとローズウォータークリーム入りドーナツがプレゼントされた。