CHOOSEBASE SHIBUYA、メディア型OMOストアが生むビジネスサイドの熱狂
見出し画像

CHOOSEBASE SHIBUYA、メディア型OMOストアが生むビジネスサイドの熱狂

◆ 9/1よりリニューアルしました。詳細はこちら
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

大手百貨店そごう・西武が、2021年9月2日にメディア型OMOストア「CHOOSEBASE SHIBUYA」をオープンした。顧客だけでなく、テナントとして出品するブランドや自社にまでも「新たな体験」を提供する。日本のニューリテールといってもよいこの仕組みは、キーパーソンが周囲を巻きこみ「顧客体験」に振り切ったビジネス設計と、短期間での実現が話題ともなった。プロジェクトを担当した同社CHOOSEBASEディレクター伊藤謙太郎氏、システム設計・導入で協業した株式会社ROUTE06 代表取締役 遠藤崇史氏に、その背景を詳しく聞いた。

顧客の「選択肢を増やす」ことがOMOストアの狙い

そごう・西武が西武渋谷店パーキング館にオープンした「CHOOSEBASE SHIBUYA」は、リアル店舗とECを連動させた同社初となるOMO(Online Merges with Offline)ストアだ。OMOというコンセプトは中国アリババグループによって提唱されて久しく、その厳密な定義はブランドや小売それぞれだが、基本的にはオフラインでもオンラインでもスムーズな導線で購買でき、より顧客体験を高められる状態を指す。

そごう・西武は、その意味で、日本の大手百貨店としては他社に先駆け本格的なOMOスペースを立ち上げたといえよう。しかも、プロジェクトの始動から約2年半の短期間で、CHOOSEBASE SHIBUYAという新たなスペースと、その裏側にあるOMOプラットフォームを、パートナー企業の株式会社ROUTE06とともに完成させている。

CHOOSEBASE SHIBUYAでは、「FABRIC TOKYO」など常設ブランドのほか、半年ごとにテーマを設定し、各テーマにあったブランドや企業の商品をいわばキュレーションするかたちで紹介する。現在進行中のテーマはサステナブルへの思いをこめた「TIME LIMIT」だ。店頭には、それぞれの視点から持続可能性や環境への配慮を実践するブランドや企業の商品が多数取り揃えられている。店頭に置かれた商品は、ECサイト「CHOOSEBASE SHIBUYA ONLINE STORE」ですべて購入することができる。

画像1

暗闇坂からの入口入ってすぐ左にある
メディアテーマ(2021年10月現在)

TIME LIMITの特集コンテンツ
出典:CHOOSEBASE SHIBUYA
ONLINE STORE

店内には、このテーマにそって、訪れたユーザーの共感や理解を促すためのクリエイティブや記事&写真コンテンツへの誘導などの仕掛けがちりばめられており、CHOOSEBASE SHIBUYAそのものがメディア的な存在でもあるといえる。

画像3

韓国のクリーンビューティブランド「BEIGIC」。
QRコードからWebカタログが見られる

画像4

廃棄ガラスを再生するブランド
「Sghrスガハラ」の壁に設置されている
WebカタログへのQRコード

画像5

CHOOSEBASE内の記事に誘導し、
ここから購入し自宅で受け取ることも、
現地で決済しそのまま商品受取りも可能。
Webで決済し店頭受取もできる。

CHOOSEBASE SHIBUYAにおける顧客にとっての本質は、こうした感性に訴えるメディア的なアプローチに加え、店舗とECの境目を意識せずに行き来できるという、これまでのショッピングの概念を変える「豊かな顧客体験」だ。

一方で、ビジネスサイドであるそごう・西武と出店ブランドにとっては、ECと店頭に設置されたAI分析カメラや、店頭の商品とQRコードで連携するWebカタログ、キャッシュレス決済、バックエンドの配送・出店管理システムなどがすべて連動し、“ひとつの全体”として機能している。その意味で、顧客だけでなく、そごう・西武そして出店・出品するブランド側にも新たなビジネス体験とでも呼ぶべき世界が実現した。この点こそが、CHOOSEBASE SHIBUYAの最大の特徴である。

詳細な設計思想については後述するが、まず「そごう・西武が、なぜOMOストアの開設に至ったか」について触れておこう。CHOOSEBASE SHIBUYAプロジェクトを率いた伊藤謙太郎氏は「最も大きな理由のひとつは、商品を購入してくれるお客様の『選択肢』を増やすことだ」として、次のように説明する。

画像6

写真左より株式会社そごう・西武
CHOOSEBASE SHIBUYA ディレクター
伊藤謙太郎氏、株式会社ROUTE06
代表取締役 遠藤崇史氏

「購買体験という意味では、事前注文して店頭で受け取る、店頭で買ってそのまま持ち帰る、あるいは自宅に配送するなど、お客様の都合やニーズに対応できるさまざまな選択肢を提供したかった。また百貨店では、店頭にある商品が自社EC上では販売されていないことが日常茶飯事だ。お客様が店頭でチェックした後にECで調べて買おうとすると買えない。そのような、店頭とECの在庫連動の不備からはじまる、顧客と企業双方にとっての機会損失を克服したかった」(伊藤氏)

CHOOSEBASE SHIBUYAは、出店するブランドからみるとRaaS業態を採用している。ブランド側は商品を指定された場所に送るだけでよく、CHOOSEBASE SHIBUYA側が商品をすべて管理し、リアルとEC双方で展示・販売を一括で行う。ブランド側の作業は、販売商品のシステム登録と後日配送の場合の商品配送のみだ。現時点では別途の販売手数料はかからない。実店舗への出店実績が少ないブランドでも簡単に出店できる仕組みが構築されている。

「ブランドがリアル店舗に出店しようとすると、スペースや物件をおさえるためのイニシャルコスト、人件費、固定費など多くのハードルがある。CHOOSEBASE SHIBUYAでは、このOMOプラットフォームの仕組みでそうした負担を軽減し、エンドユーザーだけでなく、百貨店にとってもう一方の顧客であるブランドや企業の体験を高めることも目的のひとつとしている。また、今後デジタライゼーションが進むなかで、D2Cブランドの増加が象徴するような、“誰もが簡単にブランドを立ち上げられる時代”が加速すると考えている。こうした新たなプレイヤーをリアル×デジタルの力でエンパワメントできる環境づくりも強く意識している」(伊藤氏)

システム構築で協業したデジタルプロダクト開発企業のROUTE06では、店頭とECの在庫を一体とするため株式会社ロジクラの在庫管理ソフト「ロジクラ」を導入し、基盤となるOMOプラットフォームを構築。リアル店舗にはAWL株式会社の「AWL BOX」というAI分析カメラを採用し、どんな人が来店して何を買ったか、ECと同じようにコンバージョンデータまで分析できる。ちなみに、AI分析カメラではエッジコンピューティング技術により、デバイス側でデータが処理されるため個人情報はサーバー側は持たないなど、セキュリティ上の配慮がされている。

このプラットフォーム上に集積されるのは、オンラインだけでなくオフラインでの顧客行動の詳細なデータだ。店舗でもオンラインでもさまざまな体験設計がされているCHOOSEBASE SHIBUYAで今後分析されるデータは、OMOストアとして「どのように体験すれば顧客はハッピーか」「その結果、売れるのか」への仮説検証がすすんでいくことになるだろう。

画像7

ストア側で必要な仕組みが左側、
ECサイトの仕組みが右側で両方が
シームレスに連動する設計
提供: ROUTE06

OMOについては、日本では効率化やCRM活用視点で導入を進めようとするケースも散見されるが、ROUTE06の遠藤崇史氏はその逆のアプローチ、徹底的に顧客視点にこだわることの重要性を指摘する。

「日本ではOMOに対して『オンライン上で顧客を誘導する』という視点でアプローチする傾向が強い。たとえば、自分たちの推したい商品を上手く紹介したり、会員登録をしたりなど、どちらかというと販売側の事情を優先するためにOMOを活用しているイメージだ。我々が“OMO的”な考えを実践するうえで何より重要視したのは顧客の体験であり、選択肢を増やす、新たな機会をつくりだすという体験価値だ。国内では一般的に理解されている活用方法とは優先順位を逆にしたことが、CHOOSEBASE SHIBUYAの最大の特徴だと思う」(遠藤氏)

この思想が、実際のCRM構築にもしっかり根づいている。前述したように店舗とオンラインをまたがった豊富な顧客行動データが取得できるにもかかわらず、顧客体験を最優先する原則を徹底させていく方針だと伊藤氏はいう。

「『CHOOSEBASE SHIBUYA』の在り方として、顧客に選択肢を押しつけるということはしたくない。渋谷という土地柄だと、新規のお客様も頻繁に入ってくる。そこで無理に会員登録をすすめられたり、DMがひっきりなしに飛んでくるとなると、顧客にとっても、ブランドにとっても、現場で働くスタッフにとっても素敵な体験にはならない。将来的に『押しつけがましくないCRM』の構築を目指しつつも、あくまでユーザー体験の向上に徹底的に寄せたOMOストアを実現していきたい」(伊藤氏)

なぜ、そごう・西武がここまでの思い切ったプロジェクトを手がけたのか。CHOOSEBASE SHIBUYAの立ち上げ以前は、DXやOMO型店舗への意欲が決して強かったわけではない。前職でSI(システムインテグレーション)企業のエンジニアとしてテクノロジーやデジタルに関わり、そごう・西武が取引先でもあった伊藤氏は、リアル×デジタルの可能性を強く信じ、その熱意がトップをも動かした結果だ。伊藤氏は、どう説明したら経営陣をはじめ社内で関わる人たちにわかってもらえるかに心をくだいたという。

経営陣からプロジェクト始動の許可をとりつけたのち、どのようなOMO化が同社にとってベストかを、DXのエキスパートである遠藤氏らと一から議論。仕様から固めるのではなく、当初から「メディア型ストア」の構想もあったため、社内や社外のクリエイターなどとのコミュニケーションも含め、アジャイル的な開発手法でプラットフォームを構築。ここでできることは何かを社内にも丁寧に説明して回った結果、周囲の目が変わり最終的には関わる全員が「顧客体験」にフォーカスしプロジェクトを進めることができた。

「CHOOSEBASE SHIBUYAでは、リアル店舗で買ってくださるお客様のコンバージョンデータがECと同じように取得できているが、そこで見えてくるもののひとつは、やはり『リアルの力』はすごいということ。普通にECサイトのみで買う場合と、店頭で直接商品をチェックして後からECサイトで買う場合と、店頭でそのまま買う場合などのCVR(コンバージョン率)を比較すると、店頭で買う場合のCVRが最も高いというデータが出揃ってきている。今後、その購入者が店頭でどういう動きをしているかなどのデータが蓄積していけば、ほかにもさまざまな気づきや知見を得ることができるはずだ」(遠藤氏)

また、CHOOSEBASE SHIBUYAでは広告・デジタルマーケティングとしての出稿を一切行っていない。顧客体験に徹底的に寄せた結果、店舗を訪れた顧客がポジティブな情報をSNSで発信し、興味を持った新たなユーザーがまた訪れるという循環が生まれている。OMOプラットフォームではこうしたSNSデータも集積し分析できるようになっている。

複数領域を経験してきたキーパーソンたちの巻き込み力

OMOプラットフォームとしての仕掛けだけでなく、CHOOSEBASE SHIBUYAが信頼されるメディア的な存在であることから、今後、店舗や連動するWebカタログを通じての広告ビジネスの可能性も広がりそうだ。

渋谷という立地で、メディア的なテーマ性を持つ店舗、シームレスな顧客体験を実現する裏の仕組みを実現できたのは、伊藤氏が技術に詳しいだけでなく、それ以前には広告代理店やデジタルマーケティング企業にエンジニアとして在席していた経験も大きかったといえる。また、ROUTE06の遠藤氏も日本政策投資銀行を経て米国シリコンバレーでVCを経験、自らも子ども服のEC事業を手がけ、ストライプデパートメント取締役も経験し、ECだけでなくファイナンス、ビジネス、複数の領域に精通し、大企業とスタートアップの双方の文化にも触れている。

DXとは単に既存のビジネスをデジタルに置き換えるだけではなく、ビジネスの新しいあり方を発見し進化させ、顧客と企業の両方にベネフィットをもたらすものだ。その意味で、技術と顧客視点、ビジネス設計を俯瞰できるさまざまなスキルと経験が重要であることを、このプロジェクトが示している。複数領域を経験したキーパーソン2人の熱意と説得力が周囲を巻きこみ、「ビジネスサイドの熱狂」をも生みだしたといえる。

画像8

キャッシュレス決済を行うレジ

その熱狂は、技術に裏打ちされた一貫した「顧客体験の素晴らしさ」を全員が感じられたことから生まれたものではないか。顧客のためになると思えば常識的なセオリーであっても採用しないというブレのない方針、そして感性に訴えるアーティスティックな部分とテクノロジーを融合させた新鮮さ、将来的に取得できるデータの希少性など、今後の展開など含め、リテラシーにかかわらず誰もが納得できるビジネス設計と説得力のあるコミュニケーションが展開されてきたことが、伊藤氏、遠藤氏双方の話から伝わってくる。

「百貨店などリアルが強い業界は、どうしてもリアル視点でデジタルを利用しようとしてしまい、その力を十分に発揮できない。一方で、デジタルに偏重しデータだけを重視しすぎると、リアルが持つ購買体験の優位性を損なってしまうことがある。リアルとデジタルにはそれぞれ長所があるが、その掛け合わせを最大化することがOMOを実践するうえで重要だと考えている」(伊藤氏)

今後、CHOOSEBASE SHIBUYAでは、技術面ではRFID導入の検証をすすめていく予定だ。このことにより、在庫管理がより効率的になるほか、店頭でのセルフレジ設置などが実現するだろう。CHOOSEBASE SHIBUYAでのデータや販売実績をみつつ、この仕組みを横展開する可能性もありそうだ。実際、伊藤氏も遠藤氏もこのOMOプラットフォームについては他社への展開も見据えているといい、実際に問合せもきているとする。

「リアルが強い小売業界で、デジタルをかけあわせることは伸びしろしかないとも考えていた。Web上での戦いが過当競争気味になっている昨今、デジタル思考でリアルをアップデートするという切り口から、市場への新たなアプローチを模索し続けたい」(伊藤氏)

Text: 河鐘基(Jonggi HA)、BeautyTech.jp編集部
Top image & Photo: BeautyTech.jp編集部撮影

ありがとうございます!メルマガで隔週で更新情報配信中。ぜひご登録を!
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディア。最新記事から過去1ヶ月分は無料でお読みいただけます。それ以降の記事は「バックナンバー読み放題プラン」をご利用ください。詳しくはこちらから→ https://goo.gl/7cDpmf