
マレーシアの新興コスメが、グローバルで脚光を浴びる理由
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人口3,100万人、マレー系、中華系、インド系を主とした多民族国家のマレーシア。前回の「日本は出遅れ気味か。成長著しいハラルコスメ市場の勝機はどこに?」に続き、今回は、異なる人種と宗教、価値観をもつ人々が共存するこの国だからこそ生まれた、美容スタートアップたちのマレーシアコスメを紹介しつつ、ムスリム女性たちに支持されるコスメとは、を考える。
現在マレーシアのコスメ業界では、世界の潮流と同様に人気の女性ユーチューバーが企画・発案したブランドや、女性起業家によるブランドが次々と生み出されている。彼女たちに共通するのは、ブランド・アイデンティティに核となるものを持っていること。そして、マレー系あるいはムスリムの女性のためだけではなく、民族や国境を越え世界の女性たちに受け入れられる製品を希求しているところだ。(下記の写真は、いわば自家製コスメとして出発し、草分け的存在とされるBreena Beauty)
いくつかのブランドはハラル認証は申請中などの表示を掲げ、取得完了していなくても発売している。また、ハラルにこだわるのではなく、オーガニックなどのようにエシカルな切り口をもとに、自分たちのコスメに対する情熱やこだわりに共感する人に届けようとしている。こうした新興ブランドは、基本的にワールドワイドに展開していくことを前提としており、オンラインによる販売が中心だ。マレーシアの主要新聞ニューストレーツタイムズでもマレーシアのコスメブランドの台頭を伝えており、2018年1月時点のインスタグラムフォロワー数の多いマレーシアブランドは以下の通りである。
Top 15 local cosmetics
brands on Instagram
※New Straits Times記事 “ Rise of local cosmetic brands” より引用
※このランキングには入っていないが、後述するDuck Cosmeticsは1月時点でフォロワー6.6万人。Orkid Cosmeticsは4,000人
1- Zawara(@zawara) Followers: 316,000
2- Sugarbelle Cosmetic (@sugarbellecosmetic) Followers: 123,000
3- SimplySiti(@officialsimplysiti) Followers: 117,000
4- Fame Cosmetics (@fame.cosmetics) Followers: 78,500
5- Breena Beauty (@breenabeauty) Followers: 43,900
6- DIDA For Women (@didaforwomen) Followers: 34,800
7- Velvet Vanity (@shopvelvetvanity) Followers: 30,800
8- OhMostWanted Cosmeceuticals (@ohmostwantedlook) Followers: 29,500
9- Zhuco Cosmetics (@zhucocosmetics) Followers: 22,700
10- Stage Cosmetics (@stagecosmetics) Followers: 19,700
11- Nita Cosmetics (@nita.cosmetics) Followers: 18,300
12- Can Can’s Beauty (@cancansbeauty) Followers: 16,300
13- Chique Cosmetics (@chiquecosmetic) Followers: 15,200
14- So.Lek (@so.lek) Followers: 11,300
15- Ruby dan Roses (@rubydanroses) Followers: 6,195
いま、マレーシアで急成長中の3ブランド
マレーシアの新興コスメのうち、女性起業家による確固たるブランドポリシーが支持され成長を続けている3つのブランドをみていきたい。
DUCK COSMETICS(ダック コスメティックス)
ブラントの創始者ヴィヴィ・ユソフ(Vivy Yusof)はもともとファッションブロガーとして有名で、23歳の2010年に夫とFashiovaletというECサイトを立ち上げて、ASEAN圏から選び抜いた500近いアイテムを取り揃え、シンガポールやインドネシアへと進出。そして2017年、スカーフや文房具などライフスタイル関連アイテムを展開しているオリジナルブランドDuckから、満を持して化粧品を出した。
上の写真はファウンダーのヴィヴィ・ユソフ。彼女の功績は海外でも広く認められ、世界最大の起業家コミュニティEndeavorにてマレーシアを代表するアントレプレナーに選出されている。
人々に変化をつくりだすことができるコスメが持つ無限の可能性を感じ、ライフスタイル提案アイテムのひとつとしての化粧品をプロデュースしたかったと話すヴィヴィ。その言葉どおり、ムスリム女性の生活に合わせたスキンケアの開発をモットーに、原材料はイギリス産、製造は中国の工場で行う。
代表的な商品は、メイク落とし、洗顔、角質ケアがこれ一つでできるクレンジングアイテムの Nofilter make-up remover(写真下)。イスラム教では一日5回の礼拝前に水で顔や手足を清める際、メイクも落とす。この習慣からムスリム女性の洗顔料の使用頻度は高い。1本三役のクレンジングはまさに暮らしに寄り添う優れものとして歓迎されている。
ポンプから出るきめ細かな泡でメイクをしっかり落とし、洗い上がりもつっぱらず使用感にも配慮。ホワイトニング、保湿、リフレッシングの3つの効果から選べる。ハラル認証取得済みで、クルーエルティフリー(動物実験をしていない)かつパラベンフリー。クアラルンプール中心地の大型モールPavillion内にマレーシアでは初のブティック(写真下)を構えている。
白を基調にブランドカラーである紫をアクセントとにしたブティック。このブランドでは、愛用者を親しみをこめて”dUCkies”と呼ぶ。
DIDA(ディダ)
出典:DIDA
ファッションデザイナー、ファッションアイコンとしても有名なトゥンク・ジャミダ(Tengku Chanela Jamidah) とディディ・ナシル(Didie Nasir)の二人(写真下)により生み出されたメイクアップ・ブランド。企業哲学である”「by women for women(女性による、女性のための)」には、さまざまなライフスタイルや異なるバックグラウンドを持つすべての女性に使ってほしいとの願いがこめられている。
2人は「美しさとは単に化粧品を使えば叶うものではありません。私たちのコスメを通じて女性たちに自信や自尊心を育んでほしいのです。そのために、高品質でありながら、手の届く価格の製品をお届けします」と自身のブランドについて語る。
出典:DIDA
商品ラインナップの中でも、とくに現代の忙しい女性のために考えられたことを感じさせるのは、タッチアップ不要のロングラスティング口紅である Velvet Matte Lip Crème(写真下)。ディディがNY土産として買ってきたマットタイプのリップカラーを気に入っていたトゥンクは、DIDAを立ち上げるにあたり、欧米のマットリップブームに先がけて、この口紅をDIDA最初のアイテムとし、今ではブランドの看板商品となっている。
2人ともファッションデザイナーというバックグラウンドがあるためか、マレーシアらしい美的感覚にこだわりがある。イギリスやシンガポールに進出している3姉妹によるファッションブランドMIMPIKITAとコラボレーションした限定パッケージ(写真下)なども展開した。商品はハラルではないがクルーエルティフリーだ。
ORKID COSMETICS(オーキッド コスメティックス)
起業家ライーサ・シャー(Raeesa Sya・写真下) が立ち上げたメイクアップ・ブランド。ブランドフィロソフィーは「Halal, Stylish, and Confident(ハラル、スタイリッシュ、自信に満ちている)」で、ミレニアル世代がターゲット。ハラル認証はもちろん、ウドゥフレンドリー(ウドゥとは小浄の意味で、イスラム教で礼拝の前に身体の一部を水で洗い清める行為)を意識しており、原料もビーガン(動物由来素材をすべて排した完全植物性)でクルーエルティフリーとしている。
出典:RAEESA SYA
ラエーサは成功した起業家としてウーマンアワードなども受賞しており、マレーシアの美容とウェルネス関連サービスの予約サイトBfabのCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)を務めるなど、テック業界でも一目おかれる存在だ。
ミレリアル世代に人気の高いマットな仕上りのリキッドタイプリップカラーが主力商品で、学生にも買える価格設定としている。またユーザーへのリーチにおいても、若い世代が集まるDJ音楽イベントのスポンサーをしたり、インスタ映えのするロケーションを選んでポップアップストアを出店するなど、ターゲット層にあわせた戦略をとり、商品を配送する際はThank you カードとともにブランドロゴのステッカーを同梱し(写真下)、親近感を高めたアプローチをとっている。
これら3つのブランドに共通するポリシーの明確さは、これから世界でますます大きな存在感を占めていくだろう。約16億人ともいわれるムスリムだけでなく、ビーガンでクルーエルフリーな倫理的コスメを求める、何百万人もの若い世代の非ムスリム市場にもリーチできる。ハラル認証や、それに準ずるイスラム圏生まれのコスメは、はもはやムスリムだけの「安心マーク」ではない。世界中の健康やウェルネスを意識した人々にも確実に浸透し始めている。
イスラム圏に進出する日本の美容企業は、現地ブランド、美容スタートアップたちの動きを見ながら、日本製コスメの高品質、安心、安全をさらにどう確立、アピールしていくのかが今後必要になる。
Text: 飯島光代(Mitsuyo Iijima)