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コティなどAIスピーカー活用事例と、マーケティングツールとしての未来を考える

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Amazon EchoやGoogle Homeが一般家庭で用いられるようになってきた。いまだ黎明期であるAIスピーカーだが、美容業界からみると、マーケティングツールとしてのポテンシャルは非常に高い。コティ、セフォラ、エスティ ローダーなどの取り組み、そして資生堂のOptuneのようなIoTソリューションと連動するといった未来を考えてみる。

AmazonのAlexa搭載デバイスが累計1億台以上販売される一方、対抗するGoogleのGoogle Homeも2018年にはAmazonに迫るシェアを獲得するなど、AIアシスタント搭載スピーカー(以下AIスピーカー)の普及が進んでいる。米国では成人人口(2億5,300万人)の約26%に相当する6,640万人がAIスピーカーを所有し、音楽再生やニュース、天気、交通情報のチェックなどで日常的に利用している。

日本での普及率はまだ6%程度だが、その分伸びしろがあるとも考えられる。5年後には検索の半分が音声経由になる、あるいは3年後には音声アシスタントユーザーの出費の18%が音声経由になるという予測もあり、コンシューマー向け事業を行う企業は、中長期のビジョンにAIスピーカー活用を組み込むことを迫られている。

ではAIスピーカーという急成長分野は、美容業界にとってどのような意味を持ちうるのだろうか。AIスピーカーの現状を整理するとともに、そのポテンシャルを探っていきたい。

AIスピーカーは何に使われている?

AIスピーカーはAmazonが先陣を切り、2014年11月にAI「Alexa」を搭載したAmazon Echoが発売された。その後Google Assistant搭載のGoogle Home、AppleのAI・Siri搭載のHomePod、LINEのClovaなどが追随したが、グローバルな市場シェアではAmazon EchoとGoogle Homeが圧倒的である。以下、AIスピーカーの機能等についてAmazon EchoまたはGoogle Homeを中心に見ていきたい。

Amazon Echo via Shutterstock

Amazon EchoもGoogle Homeも機能はほぼ同等で、ユーザーの音声による指示を聞き取り、音楽の再生やニュース記事の読み上げ、カレンダーの管理や対応するスマート家電の操作などができる。

Amazon Echoでは「スキル」、Google Homeでは「アクション」と呼ぶアプリのようなものが追加可能であり、サードパーティを含めたデベロッパーが開発している。たとえばSpotifyやApple Musicのような音楽系アプリ、Washington PostやCNNといったニュース系アプリがよく知られているが、ほかにもワークアウトや瞑想のためのアプリ、ゲームやクイズのアプリなど多岐にわたる。Bloombergによれば、Amazon Alexaのスキルは2019年3月時点で8万件以上あり、急速に増え続けている。

AIスピーカーのインターフェースは音声だけとは限らず、Amazon Echo ShowとAmazon Echo Spotにはタッチスクリーンとカメラが、Google Home Hubにはタッチスクリーンが搭載されている。つまりAIスピーカー上での動画閲覧やビデオ通話が可能になっているため、たとえば料理中に手がふさがっていても音声でレシピ動画を開く、といった使い方ができる。美容関係ではメイクアップチュートリアルの提供も可能であり、あとに述べるが、実際コティがAmazon Echo Show向けのスキルを立ち上げている。

Amazon Echo Spot via Shutterstock

ただし、よく使われている機能は音楽再生やニュース、天気チェック、アラーム、タイマー設定といったライトなものが中心となっているようだ。こうした機能は、音声による操作も含めてスマートフォンでも可能であり、AIスピーカーの存在に対して懐疑的な声もある。

だが、家庭で使ってみると、スマートフォンをいちいちバッグや充電場所に取りに行くより、定位置にあるAIスピーカーに話しかけるほうが簡単である。AIスピーカーは部屋の端から話しかけても認識するように作られているので、ふと思い立ったときにその場で音声コマンドを発すれば応えてくれる。

またスマートフォンと違って、すべて音声操作で完結するように設計されており、ハンズフリーで使えるので、メイクや料理など何らかの作業をしているときにもストレスなく利用できる。こうした独自の価値があることから、AIスピーカー市場における2018年から2023年までの年平均成長率は約31%とも予想されている。

ビューティ企業による活用事例

AIスピーカーの広がりに合わせ、美容業界でもいくつかの企業がAmazon EchoやGoogle Homeをマーケティングツールとして利用しはじめている。活用の形態を大きく分けると、ブランドを冠した独自アプリ(スキル/アクション)を提供するパターンと、AIスピーカーの既存の仕組みを利用して広告や販促を行うパターンのふたつがあるようだ。前者は主に話題性を重視したブランディングの取り組み、後者はより地道に認知や興味を喚起するための取り組みといえそうだ。

まずブランドを冠したアプリの具体例から見ていこう。もっとも意欲的な取り組みは、前述したコティの「Let's Get Ready」である。これはAmazon Echo Show上でユーザーの肌や目の色に合わせたメイクアップを提案し、それを実現するためのチュートリアル動画を提供するサービスだ。ユーザーのFacebook上のカレンダーと連携し、登録されているイベントに合わせたメイクアップを提案したり、必要なアイテムをAlexa上のショッピングリストに追加したりもできる。

Sephoraもタッチスクリーン付きのGoogle Home Hub上でビューティチュートリアルを提供している。YouTube上に大量出稿された動画広告では、音声で再生・一時停止しながら自分のペースで閲覧できることをアピールしている。

エスティ ローダーはGoogle Homeを含むGoogle Assistantデバイス上で「Liv at Estee Lauder」と呼ばれるアプリを提供している。これはスキンケアに関するユーザーの質問に答えるアシスタント機能で、ユーザーの要望に合わせてエスティ ローダーの商品をおすすめしたり、その使い方を説明したり、オンラインショップでサンプル提供するためのコードを発行するなどができる。

資生堂も日本国内向けに、Amazon Echo上での美容アドバイスのスキルを提供している。ユーザーの問いかけに応じて、その日の気象情報に合わせて「紫外線」「乾燥」など注意すべきことに関するアドバイスを流したり、肌悩みに合わせたカバー方法を解説したりという音声サービスになっている。

気になるのは業界最大手のロレアルの動向だが、2019年3月時点ではあまり大きな動きはなく、雑誌『COSMOPOLITAN』や『Harper's Bazaar』などを擁するHearstがAmazon Alexa上に開設した「My Beauty Chat」のスポンサーとなった程度のようだ。

AIスピーカー上の媒体を活用

上記のように独自アプリを開発するためにはそれなりのリソースが必要となるため、市場全体が未成熟な現段階でそこまで踏み込める企業は多くはないだろう。だがAIスピーカーを活用する方法は独自アプリ開発だけではない。サードパーティが開発した販促用アプリ/サービスを利用したり、AIスピーカーの媒体価値の高い部分にコンテンツや広告を提供したりといった方法がありうる。

まずAmazon Echoには「フラッシュニュース」(Flash Briefing)というスキルがあり、ユーザーが「Alexa、今日のニュースは?」と聞いたとき、登録された情報源からのニュースが再生される。この情報源は報道機関とは限らず、毎日興味深い言葉を紹介する「Word of the Day」やポジティブな感情を後押しする「Everyday Positivity」も人気フラッシュニュースとなっている。ニュースは多くのEchoユーザーが日々利用するコンテンツで、特殊な音声コマンドを覚えなくとも使えるため、媒体としてみたときに価値が高いといえるだろう。

ただしAmazonは基本的にAlexa上での広告を制限しているので、単純な広告の羅列のような内容はフラッシュニュースとして不適切になる。だが、たとえば企業がWebやスマホアプリ向けに日々更新しているコンテンツがすでにあり、それが音声化可能であれば、フラッシュニュースに変換することで顧客との接点を広げることができるだろう。

広告といえば、Amazon EchoにもGoogle Homeにも、公式に広告を掲載するスキームはできていない。Google Homeで実験的に『美女と野獣』の広告を掲載したことがあったが、不評に終わった。

だが、ポッドキャストなどに個別に広告掲載を依頼することは可能だ。現在AIスピーカーがひとつの追い風となってポッドキャストが復権しつつあり、「YouTubeやInstagramの音声版」として一種のインフルエンサーマーケティングの場とみる捉え方もある。

また、Amazon Echo、Google Home共通のサードパーティアプリのなかに、企業のサンプルを登録者に送る「Send Me a Sample」がある。これはユーザーが「サンプルを送って」と言うだけで、その時点でキャンペーン中のサンプルが自宅に送られてくるサービスだ。先ごろBenefit Cosmeticsが利用し、1万個用意したサンプルを3日で配布しきったという。その後、睡眠グッズやスキンケアのブランドThis Works からもSend Me a Sample利用が発表されている。

This WorkのSleep plus Pillow Spray
出典:This Work

AIスピーカー+コスメが新たな価値を生む可能性

ここまで、AIスピーカーを主にマーケティングツールとして活用する方法をみてきたが、将来的にはより広い視点で捉えることもできるだろう。

一例を挙げるなら、Amazon Echo Showのような画面付きAIスピーカー上で、ユーザーの顔を画面に映しながらアイシャドウを入れる場所やファンデーションののせ方などを直接表示し、仕上がりをカメラで記録するとともに完成度を評価する、といった新しいサービスも技術的には可能なはずだ。

Amazon Echoには画面がなくカメラのみ搭載されたモデル「Echo Look」があり、ユーザーはセルフィーを撮ってスタイルチェックを受けることができるが、それの美容版のようなイメージである。いずれも「より美しくなりたい」というユーザーの願いと合致して新たな価値を創造するだけでなく、ひいては既存のコスメやファッションアイテムの販促にもつながる。

また、現在すでにAIスピーカーで利用可能でありながら、あまり使われていないのが、IoT家電ハブとしての機能だ。といってもTVや照明、ドアベルとの連携などは米国では普及しつつあり、利便性も高いので、今後、家電の買い替えなどを機に徐々に広がっていくと考えられる。

鏡など、従来は家電でなかったものがスマート技術によって多機能化し家電化する動きもある。資生堂のOptuneはスキンケア化粧品とそれを管理するマシン、肌状態を測定するアプリなどで構成されているが、こうした「化粧品ディスペンサー」とも呼ぶべきマシンも新ジャンルの美容家電だ。

資生堂 Optune (photo:小野梨奈)

ここからはやや空想の世界に入るが、仮にそんなスマート化粧品ディスペンサーを多品種の商品でも一度に利用可能に設定するならば、センサー搭載の特殊なトレイのような形態になるだろうか。そこに任意のスキンケア製品を置き、商品情報を登録しておくと、適切な頻度・量で使われるようにAIスピーカーがリマインドしてくれたり、スピーカーに搭載のカメラでスキンケア効果を確認できたりして、リピート可否の判断を助けてくれるかもしれない。さらにAmazonのDashボタンのように、リピート買いの注文まで簡単にできれば便利に違いない。

このようなサービスの実現は、技術的にはそれほど難しくないはずで、問題となるのは、いつ誰がどのようなビジネスモデルで構築するかということになるだろう。そしてこうした新たな美容家電を含めたスマート家電群を束ねるものとして、AIスピーカーの存在感はさらに高まっていくのかもしれない。

ポテンシャルを踏まえて注視すべき

AIスピーカーはまだまだ黎明期にあり、前出のBloombergでも指摘しているように、一気に普及を促す魅力的な「キラーアプリ」というようなものは確立されていない。そういった意味では、おそらくAmazonやGoogle自身も含め、誰もがAIスピーカーの活用法を模索している段階だ。

だがAIスピーカーは、音声というハンズフリーのインターフェースを備えていること、そしてスマート家電のハブとなりうることで、単なる顧客接点のひとつではない、新たな価値を生み出せる可能性がある。企業は早期にAIスピーカーを施策に取り入れて経験値を積むか、少なくとも幅広く活用事例やユーザーの動向について注視していくべきだろう。

Text: 福田ミホ(Miho Fukuda)
Top image: Google Home via Shutterstock

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