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中国CHICMAX、主力スキンケアブランドKANSの「次」と全方位ポートフォリオの成長戦略

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中国新興ブランドとして2023年に前年比売上高53.3%増を記録した「KANS」や「One leaf」などのブランドを擁する中国のCHICMAX COSMETIC(上海上美化粧品)。パンデミック後も回復が遅れている中国の化粧品市場で、R&D、マーケティング、ESGのバランスのとれた企業として急成長する同社の好調の要因について考察する。


2002年創業でアンチエイジングから乳幼児向けまで幅広いユーザーを獲得

2024年7月、米ファッション&ビューティ誌『WWD』が発表した「THE 2023 BEAUTY TOP 100」では、ランクイン企業の数で米国が33社でトップ、続くフランスが12社、日本が8位の資生堂をはじめ11社で3位、そして、同じく11社がランクインし同率3位となったのが中国だ。中国のトップは36位のPROYA(珀莱雅)だが、注目は61位のCHICMAX COSMETIC(上海上美化粧品)だ。同社は、2023年の売上高が前年比53.3%増の41億9,000万元(約880億円)と大きく成長、伸び率では4位にランキングされている。

CHICMAXは2002年、CEOの呂義雄氏が25歳のときに創業した。翌2003年にはスキンケアブランド「KANS(韓束)」をローンチ。アジア人女性の肌に合った製品づくりのための研究開発に力を入れているとし、一貫して「科学によるアンチエイジング」をうたっている。

長年、KANSブランドのみで展開してきたが、2014年にスキンケアブランド「One leaf(一葉子)」をローンチした。18〜35歳の女性をターゲットに天然素材を使用したクリーンビューティにこだわり、同社の沿革によると、2016年には中国のフェイスマスク市場でシェア1位を獲得したという。さらに2015年には、ベビー・キッズ向けブランド「Baby Elephant(紅色小象)」を立ち上げ、乳幼児から小学生のための安全性追求を重視した製品を提供。2022年には、俳優のチャン・ツィイー氏らが立ち上げに関わるベビー向けスキンケアブランド「NEW PAGE(一頁)」をローンチした。このように、ここ10年で傘下のブランドを増やし、異なるユーザー層をカバーして顧客の幅を広げる戦略をとっている。

また、2022年にCHICMAXは香港証券取引所に上場。2024年10月8日時点での時価総額は90億香港ドル(約1,732億円)を超える。

CHICMAXはほかにも、ラグジュアリースキンケアブランド「TAZU」、ミドルレンジのスキンケアブランド「ARMIYO(安敏優)」、マタニティ・ベビー用スキンケアブランド「asnami(安弥児)」などを展開しているが、いずれも売上規模はまだ小さく、中国市場における主力ブランドはKANS、One leaf、Baby Elephantの3つだ。

KANSの製品開発力とデジタルマーケティングが成長に貢献

なかでも、同社の急成長に最も貢献しているブランドがKANSだ。2023年の同ブランドの売上高は前年比143.8%増の30億9,000万元(約649億円)で、総売上高の73.7%を占める。同社の中間報告によれば、2024年上半期も同184.7%増の29億3,000万元(約616億円)とさらに好調な数字を出している。

KANSが中国の消費者からの支持を集め、売上を伸ばしている理由には、まず、機能性を追求した製品開発力にある。創業から20年以上にわたって研究開発に注力し技術を蓄積、2023年にはKANSのR&Dチームが23の主要なアンチエイジング遺伝子の発現を促進する環状ペプチド成分「CYCLOHEXAPEPTIDE-9」を開発し、翌2024年4月には同成分で特許取得を発表した。

中国メディアの報道によると、CHICMAXでは2021年からこの研究に着手。オープンイノベーションモデルを取り入れ、上海交通大学と共同で研究を進めてきたという。皮膚の仕組みの解明に計算生物学(computational biology:生物学の問題の解決やデータ解析に計算機科学、応用数学、統計学の手法を応用する研究分野)の視点からアプローチすることで、細胞の成長と分化を調節して表皮の老化を改善するとともに、細胞エネルギー代謝を調節して炎症性老化を改善する効果が確認されたCYCLOHEXAPEPTIDE-9の開発は、アンチエイジング分野での大きなブレークスルーであるとされる

こうした研究開発成果によりKANSは、化粧品の知識を身につけ、配合成分の機能性をチェックする傾向を強める中国の消費者からの評価を高めている。看板商品である、赤いパッケージが特徴の「紅蛮腰」シリーズは、Tmallのクチコミでは「塗るとベタつかず、とくに中高年の肌の引き締めに最適」「小じわの発生が軽減し、肌がより若く健康的にみえるようになった」など、効果を実感しているユーザーコメントが並んでいる。

主力商品の「紅蛮腰」シリーズ
出典:KANS 公式Weiboアカウント

CHICMAXの成長のもうひとつの要因は、デジタルマーケティングの成功だ。同社は早くからKOL(キー・オピニオン・リーダー)を起用したマーケティングを行っており、オンラインチャネルが総売上高の85.6%を占めている。なかでも最近はTikTokの本家中国版「Douyin(抖音)」でのインパクトが大きい。とくに、Douyin上で配信される1話が数十秒から10分程度のKANSオリジナルの「ミニドラマ」コンテンツがバズり、GMV(流通取引総額)が急伸した。

前述のCHICMAXの2024年中間報告によると、同年上半期のDouyinでのGMVは34億4,000万元(約723億円)で、美容企業では1位となっている。前年1年間の33億4,000万元(約702億円)を半年で上回る勢いだ。

Douyinで配信されているKANSのミニドラマ。劇中に商品使用シーンが出てくる
出典:KANS 公式Douyinアカウント

企業としての社会的責任をふまえESGにも注力

主力ブランドKANSの好調に加えて、CHICMAXに対する消費者からの信頼が厚い理由は、同社がESG(環境・社会・ガバナンス)に力を入れているその姿勢にもある。同社では毎年、ESGレポート(環境、社会及管治報告)を発行し、自社の取り組みを紹介している。

2023年版のレポートによれば、なかでも環境負荷の軽減は重要項目に数えられ、自社工場には4万平方メートル超の太陽光発電パネルを設置し、約400万キロワットの電力を発電して生産活動に利用している。また、工業用水のリサイクルも行っているとする。

製品についても、パッケージデザインを簡素化し、エンボス加工を利用することでインクの使用量を削減。さらに、One leafでは新商品の95%、NEW PAGEでは全ての商品のパッケージに、FSC(森林管理協議会)認証を受けた紙を使用している。

One leafは中国版Instagram「RED(小紅書)」などのSNSで、CHICMAXの環境保全の取り組みを紹介した動画や、リフィル商品を紹介する画像を投稿し、持続可能なビューティのあり方を提示している。

「RED」に投稿された、環境保全に向けた取り組みを紹介するOne leafの動画
出典:One leaf 公式RED(小紅書)アカウント

従業員の働き方についても改革を推進し、とくに女性社員が働きやすい環境を整えている。CHICMAX資料によると、従業員に女性が占める割合は71%で、管理職の40%が女性だという。給与以外の手当も手厚く、社員には結婚祝い金として1万元(約21万円)を支給するほか、1人目の子どもを出産すると1万元、2人目は2万元(約42万円)、3人目は3万元(約63万円)を支給している。また、Baby Elephantでは基金を設立し貧困家庭の支援を行っている。環境対策だけでなく、ジェンダーや出自に関わらず誰もが活躍できる社会を目指す企業姿勢を明確にしていることが、消費者の企業やブランドに対する信頼感を醸成しているといえよう。

プレミアム価格帯からプチプラまで全方位のポートフォリオをめざす

成長基調にあるCHICMAXだが、課題はKANSへの依存度が高いことだとみられており、CEOの呂氏もそれを自覚しているようだ。2024年7月に上海で開催された「中国化粧品総会」に登壇した呂氏は、向こう10年間に「大衆向けスキンケア」「パーソナルケア」「マタニティ・ベビー用品」「医療美容」「メイク」「高級スキンケア+美容家電」の6分野に注力する計画を発表。マルチブランドで成功することが企業の持続可能な成長を支えるという考え方を示した。

なかでも、注視しているのがヘアケア含むパーソナルケアで、呂氏は「パーソナルケアにチャンスが訪れた」として、市場が熟してきていると示唆した。実際、同社は2021年にヘアケアブランド「KYOCA(极方)」をローンチしているほか、2023年には上海二零三二化粧品が展開するヘアケアブランド「2032」に出資。さらに2024年5月には、One leafからボディソープやヘアケア用品を発売すると発表。ヘアケアカテゴリーを充実させることで、パーソナルケアを強化する布石を打っている。

これまでCHICMAXが手がけてきたブランドをみても、今後注力するという6分野からも、幅広いターゲット層へのリーチというテーマは変わらなさそうだ。医療美容や美容家電を含むプレミアム価格帯、中間価格帯、いわゆるプチプラを揃え、ポートフォリオを充実させていくなかで、どのようにKANSに続く主柱となるブランドを育てていくのか、その方法論にも注目していきたい。

Text: チーム・ロボティア(Team Roboteer)
Top image: CHICMAX公式サイト