KINSが独自原料でBtoB事業を強化。マイクロバイオーム創薬を見据えた取組みも
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページ|メルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o
2018年に創業し、サプリメントのサブスクサービス「KINS BOX」からスタートした株式会社KINSは、創業以来の研究成果として、独自のポストバイオティクス原料「Bellp(ベルプ)」を開発した。消費者向け菌ケアブランド「KINS」に加え、原料の卸販売事業を強化し、「菌ケアを当たり前の世の中に」するミッションの実現を目指す。マイクロバイオーム創薬も視野に入れた同社の成長戦略と現在地について、株式会社KINS 代表取締役社長 下川穣氏に話を聞いた。
菌の取得、研究、臨床のサイクルを持つ独自のビジネスモデル
2018年に創業したKINSは、現在、菌ケアブランド「KINS」の製品をDtoCで販売する「コンシューマーヘルスケア事業」、菌バンクや創薬シーズの臨床研究を行う「メディカル事業(KINSラボ)」、東京に動物病院2院とシンガポールで皮膚科1院を運営する「クリニック事業」の3つの柱で事業を展開している。
「KINS」は、皮膚・腸内・口腔内などマイクロバイオームが関わる部位を対象として20以上のプロダクツを展開しており、累計販売数は90万個を突破。累計ユーザー数は13万3,000人で、20代〜60代まで幅広い年代の人が利用し、リピート率は9割に迫る勢いだという(2024年9月現在)。
「我々は、直接つながることができるKINSのユーザーとクリニックの患者へ提供しているサービスを通じて、健康な人と疾患がある人の常在菌のデータを収取しており、約2万検体のヒト皮膚常在菌を解析する独自の菌バンクプラットフォームをもっている。さらに、疾患・症状への効果が期待される皮膚および腸内の複数の独自菌を分離・研究するラボを有しており、それらを活用して自社クリニックで臨床研究を行う体制もある。これらのビジネスモデルは、競合他社と差別化できる強みといえる」と、株式会社KINS 代表取締役社長 下川穣氏は語る。
KINSラボで開発された独自原料「Bellp(ベルプ)」
現在KINSでは、化粧品・健康食品の独自原料や医薬品レベルの効能・作用が見込まれるマイクロバイオーム創薬の開発に力を入れている。その第一弾となる独自原料が、2024年8月に発表された、ヒト由来菌を扱う研究施設と共同開発した独自のプロバイオティクス由来保湿成分「Bellp(ベルプ)」だ。Bellpを構成するのは、下川氏の説明によれば、ビフィドバクテリウム/エンテロコッカス(デュランス/フェカリス/ファエシウム)/乳酸桿菌/乳酸球菌/ペディオコッカス/ダイズ種子発酵液、そして、乳酸桿菌/豆乳発酵液だという。
一般的に、皮膚常在菌のケアには、3つの成分アプローチがあると考えられている。1つめが、適正な量を取り入れたときに有用な効果をもたらす生きた微生物「プロバイオティクス」、2つめが、菌のエサとなって有益な常在菌の成長や活動を促す物質となる「プレバイオティクス」、そして3つめが、常在菌が皮脂や汗をエサとして分解したときの代謝物として産生される「ポストバイオティクス」で、Bellpはこれにあたる。
Bellpは、ヒトの出産間近にだけ膣内で増える産道由来乳酸菌を含む24種の菌を国産有機豆乳培地に加え、独自の技術で共棲発酵させて生成するポストバイオティクス発酵液として、乳酸やアミノ酸、ビタミン、ポリフェノール、ポリアミン、短鎖脂肪酸といった468種の成分を含み、以前の原料に比べて、よりエイジングケアにアプローチできるという。2024年8月にリニューアルしたKINSのスタープロダクト「ブースター」にはBellpが10%配合された。Bellpは今後もKINS製品に基幹成分として配合されると同時に、化粧品原料として卸販売していく予定だという。
注目の次世代成分ポリアミン乳酸菌の商業化も
すでに実用化されているBellpの次に商業化をめざす原料開発として力を入れているのが「ポリアミン乳酸菌」だ。KINSは、2024年7月に約5億円の資金調達を実施しており、その目的の1つとして、ポリアミン乳酸菌の商業化を掲げている。
ポリアミンは、ウイルスからヒトに至るまで、ほぼすべての生物が細胞内に持つ物質で、核酸(DNA)、リン脂質(細胞膜)、ATP(生物のエネルギー物質)などと結合してさまざまな細胞機能を調整し、健康増進効果があることがわかっている。ポリアミンの生合成能力は、加齢とともに低下することが知られており、体内のポリアミン濃度を一定以上のレベルに保つためには、食物や腸内細菌から摂取するポリアミン量を増加させる必要があると考えられている。
「ポリアミンは、幹細胞、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)に続く次世代成分として海外では注目されており、日本でもこれから注目が高まることが予想される。KINSは代謝産物としてポリアミンを産生・排出する乳酸菌を入手しており、これらの菌をプロバイオティクスとして有効利用することでアンチエイジングなどの健康効果をもたらす自社プロダクトの開発や、菌自体の原料としての販売準備を進めている」(下川氏)
日本での認証を見据えた「マイクロバイオーム創薬」開発の取組み
KINSがシーズ研究の先に目指すのが、医薬品レベルの効能・作用が見込まれるマイクロバイオーム創薬の開発だ。米国や豪州では、2022年11月に、ヒトの便由来の腸内細菌叢が医薬品として承認されており、日本でも承認に向けた取組みが進められている。
KINSは現在、製薬会社と共同で、慢性疾患の解決につながるマイクロバイオーム創薬研究を進めており、創薬研究に軸足を置きつつ、予防領域の健康食品開発も同時に進めているという。「現在、動物病院でデータを収集している段階で、ペット向けの腸内細菌叢移植の導入も検討している」と下川氏は語る。
海外でも、KINSのようにウエルネス領域から病気の診断、創薬に取り組むマイクロバイオーム関連スタートアップが増えつつある。
2015年創業の台湾のスタートアップBened Biomedicalは、腸内と神経の関係性と、神経に良い影響を与えるプロバイオティクスの菌株を開発・提供している。同社は製品のカスタム処方、ライセンス供与を行い、販売代理店のサポートを行うことで40カ国以上で事業を展開している。
2016年創業の米国スタートアップViomeは、口腔扁平上皮がんや口腔咽頭がんなどの口腔がんを、唾液サンプルをAIで解析して検出する診断技術をもち、がんスクリーニング技術でFDAのブレークスルーデバイス指定を受けている。同時に、口内環境を改善するためのプロダクトとして、サプリメントや歯磨き粉、トローチなども開発し販売している。
同じく米国で2013年創業のAOBiomeは、アンモニウム酸化細菌(AOB)を用いた治療法の開発に注力する企業で、アトピー性皮膚炎(湿疹)や、それに伴うかゆみの治療に効果のあるB244を開発。日本では、2024年1月にマルホ株式会社が、独占的ライセンス契約の締結を発表している。
Text: 小野梨奈(Lina Ono)
Top image & photo: 株式会社KINS