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韓国の「第三世代」インフルエンサーブランドTWO SLASH FOUR、第一・第二世代との違いは?

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韓国では2000年代後半から3CEをはじめとした影響力の強いファッション・美容系インフルエンサーによるブランドが数多く登場した。その後もインフルエンサーブランドの台頭は続き、現在は韓国のメディアなどから「第三世代」とも呼ばれるブランドが登場している。第一世代、第二世代と比較して何が新しいのか、これまでの背景を俯瞰しながらひも解く。


2010年代後半の第一世代はファッションブランドからの派生

韓国のインフルエンサーブランドの第一世代としてもっとも有名なブランドのひとつが、ファッション通販サイト「スタイルナンダ」から生まれ、最近日本にも再上陸を果たした「3CE」だろう。運営元のナンダは2009年に化粧品事業を開始、2017年に売上総額1,500億ウォン(約165億円)超えを達成。翌2018年に約6,000億ウォン(約660億円)でロレアルグループの傘下入りを果たした。

出典:スタイルナンダ公式サイト

このナンダと比較される、いわゆる第一世代インフルエンサーブランド企業のひとつに、imvely氏ら立ち上げたBUGAN FNC(現BUGUN Cosmetics)がある。ナンダ同様に、ファッションアイテムや「VELY VELY」など自社有力ブランドの化粧品販売で急成長した同社は、2018年に約1,700億ウォン(約187億円)を売り上げた。

出典:VELY VELYの公式サイト

ナンダの競合だった同社は、2019年に自社ブランドから販売していた食品にカビが生えていたという顧客の書き込みに対する対応ミスで炎上し、売上が激減したという経緯がある。その後に体制を一新、BUGAN Cosmeticsに社名変更して再出発を果たし、老舗インフルエンサーブランドとして現在も確固としたポジションを築いている。コロナ禍を乗り越え、韓国国内ではロイヤリティが高い30~40代女性を中心とした顧客層に支えられており、昨今では海外進出にも積極的だ。

2023年9月には、ベトナムのビューティーECプラットフォーム「Reviewty」の国内進出支援プログラムに選出されたとともに、現地のトップビューティインフルエンサーのメイリー(Mai Ly)氏とのコラボレーションでベトナム市場での定着に成功。またインフルエンサーマーケティングのみに依存しない体制づくりを進め、「バクチオール スーパー バイオーム リフティング アンプル」という新商品を開発し、ベトナムでヒットさせている。

VELY VELYのバクチオール・スーパー・バイオム・リフティング・アンプル
出典:SSG.COM

imvely氏の夫でBUGAN Cosmeticsの現代表を務めるパク・チュンソン氏は、世界的にみても、インフルエンサーブランドやマーケティングのトレンドはこれからさらに強まると分析しており、日本でのシェア獲得を積極的に進めつつ、ロシアや中東へ進出する計画を明かしている。

機能で勝負の第二世代インフルエンサーブランド

韓国の第一世代美容系インフルエンサーブランドは、2000年代後半頃に登場し2010年代後半に最盛期を迎えている。一方、第二世代とは、2010年代後半頃から登場したブランド群を指す。後述するが、比較的早期に戦略的なM&Aで経営体制やグローバル市場開拓を強化しているのが共通した要素といえそうだ。

第二世代として最も有名なのは、イ・ユビン氏が2017年にローンチした「TIRTIR」だ。同ブランドのクッションファンデは日本はもとより、米アマゾンでもカテゴリー1位を獲得するなど大ヒット商品となっており、日本でも高い認知度を誇っている。

出典:TIRTIRの公式サイト

TIRTIRは2022年に年間売上高1,237億ウォン(約136億円)を記録し、ローンチ以来、初めて1,000億ウォンの大台を突破した。2023年にも順調な成長を遂げ、年間売上高1,719億ウォン(約189億円)という実績を残している。

2024年は上半期の実績が非公式ながら公開されており、海外売上だけで約1,370億ウォン(約150億円)程度とされている。国内の売上と合算すれば前年実績を上回ることが確実で、年間目標として掲げている3,000億ウォン(約330億円)も視野に入った状況だ。第一世代と比較しても、TIRTIRの成長水準は高いレベルで推移していると評される。

TIRTIRのファウンダーであるイ・ユビン氏は、2024年8月に保有株式をすべて売却し、経営職から退いている。売却先はスキンケアブランド「朝鮮美女(Beauty of Joseon)」を運営するGoodai Globalだ。

朝鮮美女自体が米国に販路を確保している有力な新興ブランドだが、Goodai Globalは今後、朝鮮美女で培ったマーケティング手法をTIRTIRにも適用し、米国のオン/オフライン販路の開拓にさらに注力し、同時に東南アジアや欧州進出にも拍車をかける計画を掲げている。

TIRTIRはローンチ以降、韓国以外では主に日本に注力してマーケティングを展開してきた。2024年8月時点でも売上の80%以上は日本で発生している。Goodai Globalの傘下に入ったことで、米国をはじめ、そのほかの地域との売上比率がどのように変化していくか注目したいところだ。

TIRTIR以外にも堅調な成長を続けている第二世代インフルエンサーブランドは少なくない。2018年にパク・アイン氏がローンチした「ODEAR」もそのひとつだ。

出典:ODEARの公式サイト

ODEARは現在、クレンジング、トナー、アンプル&セラム、マスクパック、サンケアクリームといったスキンケアラインとフレグランスなどの製品を展開しており、運営企業であるLA NETTETEの2023年の売上高は約118億ウォン(約13億円)とされる。自社および外部ECプラットフォームに加え、新羅グループやロッテグループなどの免税店、セレクトショップ、大手百貨店のポップアップストアが主な販売チャネルだ。最近では、スキンケアクリーム「エンダーミック5MGFクリーム」が人気商品となっており、テレビショッピングを通じて毎回完売するという実績を残しており、伸びしろは大きいとみられる。

2017年11月にローンチの「BY ECOM」、2019年にローンチの「dasique」も代表的な第二世代インフルエンサーブランドとされており。ファウンダーはともに、インフルエンサーおよびパワーブロガーとして有名なヨン・ジョンミ氏だ。

スキンケアブランドBY ECOMは、設立から1年で約100億ウォン(約11億円)の売上を達成。大学中退後に若くして成功を手にした起業家であるヨン氏は、当時の韓国社会で大きな話題となった。2022年の売上はコロナ禍の影響もあり半分以下まで落ち込んだが、現在でもコラーゲンマスクやBBクリームなど主力商品が根強い人気を誇っている。

出典:BY ECOMの公式サイト

一方、メイクアップブランドであるdasiqueは、設立から3年目となる2022年に242億ウォン(約27億円)の売上を記録した。2023年の実績は未公開ながら2022年の数字を大きく上回ったことが確実視されている。

出典:dasique公式サイト

dasiqueは2023年11月に、韓国大手医薬品メーカー廣東製薬の子会社ファンドであるKDインベストメントに株式の75%を売却した。ファウンダーであるヨン氏らは、残りの25%を保有し経営に引き続き参画している。

詳細な売上比率などは公開されていないが、dasiqueの主要な市場はTIRTIRと同様に日本といわれ、2024年初旬には日本でフレグランスを販売する計画も発表しており、今後もシェア拡大を目指すものとみられる。

マルチな才能の第三世代インフルエンサーによるブランド

2024年時点で、韓国国内では将来性が高い第三世代と呼ばれるインフルエンサーブランドも登場している。その筆頭は、SNS全体で300万人以上のフォロワーを持つビューティインフルエンサーRISABAE(本名はLee Sa Bae)氏が立ち上げた「TWO SLASH FOUR」だ。2023年4月に正式にローンチされた同ブランドは現在、リップをはじめとした各種カラーメイクアップやメイクブラシなどの商品を展開している。製品にはQRコードが組み込まれて、チュートリアルがすぐに見られるようになっている。

出典:TWO SLASH FOURの公式サイト

プロのメイクアップアーティストとして活躍していたRISABAE氏は、韓国のライブ配信プラットフォームで人気を集めたのち、YouTubeに活躍の場を移して美容チュートリアルやファッション関連のコンテンツを投稿し数百万人のフォロワーを得ている。なかでも彼女の影響力をさらに広めたのが、韓国ドラマ『ホテルデルーナ』でIU氏が演じたキャラクターのメイクチュートリアルだ。また、彼女はシンガーとして音楽活動も行っており、その幅広い活動からインスピレーションを得てTWO SLASH FOURが生まれたという。

当初はアモーレパシフィックのインキュベーションプログラム「Lean StartUp」から誕生し、その後独立したブランドとしてスピンオフした。

TWO SLASH FOURは、設立から間もないため売上実績などは公開されていないが、消費者からは熱い支持も受けている。2023年9月は、ニュアンスカラーが人気の主力リップ製品「グレイズリップチェンジャー」の売上が1日で1億ウォン(約1,100万円)を記録。またトーンアップパウダーやハイライターをコンパクトサイズにまとめたキット「ストロービングフェイスキューブ」は、入手が困難なほどの人気アイテムとなっている。そのほかにも新商品を出すたびにソールドアウトが続出している状況だ。

資金調達も順調に行われており、2024年7月にはアモーレパシフィックグループ、We Venturesなど韓国の有力VCなどからシリーズAラウンドの調達(調達額は非公開)を行い、海外進出のための成長資金にするという。大手メーカーが支援する、もっとも勢いのあるインフルエンサーのブランドであるTWO SLASH FOURは、今後の大きな成長が期待されている。

第一世代はファッションから派生したブランド、第二世代は確かな機能性、第三世代はそうした基盤のうえに、インフルエンサー自身が多才で自由なクリエイティビティを発揮しているようにもみえる。それがZ世代をはじめとした若い世代の支持を集めている理由だろう。自身の知名度をもとに化粧品ブランドを立ち上げるインフルエンサーが多いなかで、RISABAE氏のように戦略的に大手企業のサポートを受け、資金調達で成長できる組織へと進化していくことはひとつのモデルケースともなりそうだ。

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image: Sorbis via Shutterstock