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資生堂が買収のドランクエレファント、攻めのコンセプトを実体験レビュー

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900億円超という大型買収で資生堂の傘下に入ったドランクエレファント(Drunk Elephant)。高価格帯製品でありながら、欧米を中心に爆発的な人気が拡がった理由は、肌トラブルの原因成分を徹底排除し結果を出す、そのクリーンでありながら攻めのフォーミュラにある。実際に製品を使用してみたトライアルレポートとあわせて、資生堂との提携による同ブランドの今後の展開を予測する。

2019年10月8日、それまでエスティ ローダーやユニリーバによる買収が噂されていた米スキンケアブランドのドランクエレファントを、資生堂が買収したことが発表され、大きな話題となった。

米オンラインメディアのGlossyは、M&Aではほかのグローバル化粧品メーカーと比較すると遅れをとっている資生堂とドランクエレファントが組むことは「双方にとって益のある順当な選択」としている。

その理由は大きく2つだ。資生堂は、スキンケア分野に製品開発のコアがあり、なかでもプレステージブランドの主力プレイヤーとして長年の実績と経験を持っていることがひとつ。そして、もうひとつが中国やASEANなど、ホームグランドのアジアでのシェアの拡大を目指す資生堂にとって、クリーンビューティとして欧米でカルトな名声を築いているドランクエレファントは、クリーンコンセプトに注目が集まりはじめたアジア市場において、魅力的かつ有力な足がかりになるという見方だ。

はたして、ドランクエレファントとはどのようなブランドなのか。実際の製品レビューとともに、そのブランド哲学について紹介していこう。

悪影響が疑われる成分を徹底排除しソーシャルで認知拡散

ドランクエレファントは、2012年に誕生したスキンケアブランド。当時4人の子どもをもつ主婦だった創業者のティファニー・マスターソン氏が、長年悩まされたニキビ、赤み、敏感肌を改善するために作りだした。

自らの肌トラブルの原因であったという6つの成分、エッセンシャルオイル、アルコール、シリコン、紫外線吸収剤、香料/色素、ラウリル硫酸ナトリウム(界面活性剤)を「Suspicious 6(サスピシャス6=疑わしい6つの成分)」と呼び、これらを徹底的に排除。安全性と生体適合性(生体組織と親和性があり異物反応や拒絶反応などを生じない性質)、pHバランスを重視して処方されている。製品の多くにpHを表示しているのが特徴的だ。

いまやナチュラル・オーガニックコスメに限らず、一般的な化粧品にも広く使われているエッセンシャルオイルだが、生体適合性の面では肌にとってリスクになりうる、という考え方に立っているようだ。これらSuspicious 6がすべての人にとって避けるべき成分であるかどうかについては議論が分かれているが、創業者が自分の肌のためにいいと信じる成分だけを選んで作ったコスメ、というストーリーには少なからず説得力がある。

製品に同梱されている「Must Read to Proceed!(必ず読んで!)」と記されたリーフレットにも創業者からのメッセージが添えられており、効果を実感できたらSNSでシェアしてほしいと、ハッシュタグが指定されている。事実、ドランクエレファントはソーシャルメディアを通じて、いわゆるミレニアル世代やZ世代を中心に大反響となった。製品を使って効果を実感したユーザーが、自身の「すっぴん」を投稿するというムーブメントが起こり、自社ECとセフォラ専売品でありながら、誕生以来7年間で急成長を遂げ、2019年の売上高は100億円を超える見込みとなっている。

トライアルキットを実際に検証してみる

今回は8品のミニサイズからなる、初めて同製品を使う人向けのスターターキット「The Littles」(通常価格130ドル・約14,000円)を試用した。全体的にみずみずしく、肌なじみの良いテクスチャーは、シリコンフリーであること、「生体適合性」を謳う処方であることを勘案した結果かもしれない。

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すべてのアイテムを使う場合は、最初のステップのクレンザーのあと、朝は保湿美容液、日中用美容液、オイル、クリーム、アイケア、UVと、米国発のスキンケアとしてはステップが多めである。ただし、美容液とオイルはクリームに混ぜても使えるので、個人の好みに合わせた調節が可能だ。

日中用美容液に配合されたビタミンC、また、夜用美容液がピーリング効果の高いアシッド類を多く含むため、UVケアは必須。このスターターキットには入っていないが、AHA/BHAを27%と高配合した人気のピーリング美容液「T.L.C.Sukari Babyfacial」、商品名の通りレチノール配合の「A-Passioni Retinol Cream」など、かなり攻めた成分を含む製品が目立つ。

北米市場では従来からピーリング、リサーフェシングのアプローチが多いが、これはニキビやシワ、色素沈着の悩みが多い人種向けスキンケアならではの特性と考えられる。創業者のマスターソン氏も深刻なニキビと「敏感肌」に悩んでいたとのことだが、角層バリア機能の保護がメインの日本の敏感肌スキンケアからは考えにくいアプローチだ。

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♦︎Beste™ No. 9 Jelly Cleanserクレンジング/洗顔料
軽い泡立ちのジェル状で、メイクや肌の汚れ、大気汚染物質までをこれ1品で落とせる。ラウリル硫酸ナトリウムの代わりに、ヤシ油系のマイルドな界面活性剤を採用。バリア機能を損なうことなく汚れを落とせる。ヴァージンマルラオイル、カンタロープエキスなど抗酸化成分も配合。一般的なファンデーションや、チーク程度のポイントメイクは問題なく落とすことができた。メイク汚れとなじませるのにやや時間がかかるが、洗い上がりのつっぱり感もなく快適。

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♦T.L.C. Framboos™ Glycolic Night Serum 夜用美容液
5種のAHA/BHAをバランスよく配合し、夜の間に不要な角質をやわらげて透明感となめらかさをもたらす。ラズベリー、サボテン、マロニエエキスなどの成分が酸による刺激を抑えて肌を鎮静させる。ピリピリ感はわずかに感じられたが、厚みのあるジェルベースのおかげか、成分から受ける印象より作用感はマイルド。睡眠不足が続く時期に起きやすいキメの乱れが軽減された。

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♦Virgin Marula Luxury Facial Oil 美容オイル
コールドプレス製法のヴァージンマルラオイルが主成分。ビタミンEやポリフェノール、オメガ6、オメガ9を豊富に含む。ダメージを受けた肌や、乾燥、小じわの気になる肌にツヤを与える。天然の抗菌性をもつため、ニキビ肌にもOK。ややコクのあるオイルだが、肌の上に残らず肌がしなやかに整う。ちなみにブランド名の「ドランクエレファント」は、マルラオイルを飲むと象が酔っぱらうという言い伝えにちなんでおり、ブランドにとってのマルラオイルの存在の意義がよくわかるエピソードだ。

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♦C-Tango™ Multivitamin Eye Cream アイクリーム
5種の異なるビタミンCと8種のペプチドが、目もとを明るく整えハリをもたらす。抗酸化成分としてSOD、キュウリエキス、目もとの血液循環を高めるヘスペリジンやハリを高めるコエンザイムQ10なども配合。消費者テストで各項目87~100%の満足度を誇る。軽いクリームで肌なじみがよく、メイクの上からも使える。冷蔵庫で冷やしておくと目もとのクールダウンに効果的、とわざわざ説明書に記載されている。

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♦C-Firma™ Day Serum 日中用美容液
日中の肌を酸化ストレスから守り、透明感とハリを高める。L-アスコルビン酸、フェルラ酸、ビタミンEからなる抗酸化成分を高配合。有効成分は洗顔をしても持続し、72時間肌にとどまるとされる。成分のフレッシュさを保つため、日中はSPF30以上の日焼け止めが必須。また長期保存や買い置きも勧めていない。この処方はロレアル系列のドクターズコスメ「スキンシューティカルズ」の主力製品CE Ferulicを模倣したとして訴訟を起こされているが、今のところ問題なく販売されており、ユーザーからの評価も高い。また、以前にもレビューしたAmazonのスキンケアPB「BELEI」の美容液にも同様の成分が配合されている。

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♦B-Hydra™ Intensive Hydration Serum 保湿美容液
肌のバリア機能を高めるプロビタミンB5とパイナップル由来のセラミドからなる独自の保湿成分と高分子ヒアルロン酸が集中的に水分を与え、レンズマメ、リンゴ、スイカの皮というユニークな抗酸化成分の複合体が、肌本来の保水機能を向上させる。肌なじみがよく、スルスルと吸収されて肌表面に残らない。

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♦Protini™ Polypeptide Cream 保湿クリーム
「プロテインクリーム」という触れ込みのクリーム。9種のアミノ酸ペプチドがハリと弾力を与え、アセチルグルタミン酸が肌のダメージを修復しつつメラニンの生成も抑える。ほかの美容液やオイルと混ぜても使える。抗酸化・鎮静効果のヒメスイレン幹細胞エキス、ダイズ種子発酵エキスなども配合。クセのないみずみずしい感触で、朝のメイク前に使っても重さを残さない。

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♦Umbra Tinte™ Physical Daily Defense SPF 30 ティントUV
シリコンや紫外線吸収剤を使用しない、ケミカルフリーのUVケア。光老化を防ぐアスタキサンチンを豊富に含んだ海藻エキスや、ラズベリーシードオイル、ヴァージンマルラオイルなどの抗酸化成分、抗炎症効果のあるアロエベラエキス、グレープ果実エキスなどを配合。色ムラを抑える程度の軽いティント効果があり、自然なツヤのある仕上がり。さっぱりと使えるテクスチャーも快適。

中国・アジア圏での展開が濃厚

ドランクエレファントを買収した資生堂は、グローバル市場で人体や自然環境に悪影響を与えない製品を求める志向が高まっていることに着目しており、今回の大型買収もその流れに沿うものであると考えられる。

これまで見てきた通り、ドランクエレファントはそのコンセプトや製品において、極めて欧米的なブランドである。スキンケアのアプローチはもちろん、ハイポテンシーな攻めの処方、決して安くはない価格帯でありながら、ポップな色使いの“可愛い”パッケージやウイットのある商品名がついている、というユニークなバランスは、日本国内のブランドにはまず見つからない。スキンケアを「お作法」のように真面目に捉える日本の消費者にとって、中〜高価格帯のスキンケアは「楽しさ」よりも「効果感」「高級感」を求めるものだからだ。

たとえばコーセーが、傘下に収めたTARTE社とともに昨年リブランディングを行った「Awake」は、若年層向けにかなり思い切った方向転換を行ったが、百貨店・直営店を中心とした中価格帯戦略と、「映える」カラフルなパッケージのバランスには、いまだ最適解が見つかっていないように思える。

ここ数年、ベアミネラル、ローラメルシエなど日本でもおなじみの外資ブランドが相次いで資生堂傘下となった。これらは資生堂の処方技術が製品に活かされる形となっており、ベアミネラルはスキンケア、NARSやローラメルシエはベースメイクと、それぞれの得意分野でシェアを広げている。しかし、このような資生堂との関係性は日本市場でも販売されているブランドに限っての話だ。

ドランクエレファントは、スキンケアカテゴリーが急伸している中国・アジア圏での成長が期待されている。今のところ資生堂は日本での展開は視野に入れていないのではないか。創業者のマスターソン氏も「自由にやらせてくれるパートナーを求めた」と述べていることからも、当面はこれまで成功を収めてきた今の路線を大きく変えることはないと考えられる。

海外シェアを高めたい資生堂は、今後も新進ブランドの買収を進めてゆくだろう。「日本のトップブランド」としてインバウンドからも高い評価を受ける一方で、日本国外の市場に向けてはポートフォリオの充実を図り、傘下におさめたブランドのアジア市場開拓をサポートする役割を、資生堂が担おうとしているとも推察できる。

Text: 弓気田みずほ(Mizuho Yugeta)