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米国ミレニアルズを魅了 「ウェルネス=パーソナライズ」を実現した美容ビジネス

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前回に続き、「Glossy+」による米国の美容マーケティングに関するフォーラムのレポートを紹介する。第2回はパーソナライゼーションをキーワードに成功を収めた二つのブランド「Heyday」と「Function of Beauty」。これらのブランドから読み解く消費者の求めるウェルネスについてお伝えする。

実店舗とEコマースのシナジーで成長中のフェイシャルサロン

いま米国のスパ産業全体が好調だ。その中でも急成長を遂げているのがミレニアル世代向けフェイシャルスパを展開するニューヨークベースの「Heyday」。2015年の創立以来ニューヨーク・マンハッタンに5店舗、さらに2018年7月にL.A.に新しく出店を計画するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。「フェイシャルスパを日常のお手入れに」をモットーにした同社は、男性用のひげそりプランも人気。すべてのジェンダーを顧客ターゲットにしており、モノトーンのインテリアで統一された店内は、従来のサロンのようなフェミニンな印象は与えない。

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出典:Heyday

Heydayの創始者兼CBOのマイケル・ポラック(Michael Pollak)氏は「フェイシャルサロンは有名店だと高価で、小さな無名店は低品質であることが多い。中間層のサロンがないというニューヨーカーの悩みに目をつけた」と起業理由を話す。プランは、30分65USドル(約7,200円)、50分95USドル(約10,500円)、75分140USドル(約15,600円)。消費者が漠然と抱えている「フェイシャルスパはどこも高価」という不安を払拭し、通い続けやすい料金設定になっている。

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Heydayのマイケル・ポラック氏(右)と
Glossyのエマ・サンドラー氏(左)

同社の一番の強みは、施術時に顧客それぞれにパーソナライズされたスキンケア用品が使用され、それらがオンラインでも購入が可能である点だ。そのため、セラピストから受けたアドバイスを元に、自宅でも同じケアができる。また、予約はウェブ上でおこない、会員登録の時点でクレジットカード情報を入力するので、施術時の支払いが不要なスマートさも人気だという。

Heydayの、オンラインとオフラインエクスペリエンスの両軸で顧客を取り込むビジネスモデルは、オンライン上で眼鏡のカスタムから購入までをワンストップで提供し、店舗は在庫を持たないショールームとして機能させたことで急成長した「Warby Parker」と似ており、近年このように実店舗とオンラインの相乗効果で利益を拡大するスタートアップが目立つ。ただ、Heydayは店舗で提供するオフラインでの体験を起点にしていることから、オンラインベースのWarby Parkerを始め他のスタートアップとはアプローチが異なる。

ポラック氏によると、顧客の40%は最低でも月に一回以上来店するとのことで、リピーターの多さも際立つ。またそういったヘビーユーザーは自分用にパーソナライズされた同社の製品をライン使いする傾向があることから、「今後はオンラインでも肌の分析情報などを提供し、さらにパーソナライズされたアドバイスを送ることで、一層顧客の定着率を上げていきたい」と抱負を語った。

昨今美容業界に限らず、あらゆる業界で実店舗の重要性が再認識されているが、Heydayがここまで成功した理由として、手頃な価格でミレニアル世代の「初めてのフェイシャルスパ」というポジションに食い込んだことがあげられる。そしてパーソナライズケア用品で各顧客にあった施術を提供し、毎日のケアでも同社の製品を使えるようにオンラインで商品の購入を可能にした点も強みと言えるだろう。

パーソナライズシャンプーを定期購買につなげ成功した「Function of Beauty 」

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Function of Beauty のザヒール・ドッサCEO氏(右)

続いて紹介するのはパーソナライズドシャンプーで一躍人気となった「Function of Beauty」。日本でも2018年5月に初となるパーソナライズドシャンプーのメデュラ(Medulla)が発売され話題となったが、米国では今、サロンでの一対一のカウンセリングも提供するProseや、ラグジュアリー路線の定期購買サービスを展開するShtrandsなど同様のパーソナライズドヘアケアサービスが次々と誕生し、しのぎを削っている状態だ。その中でも先駆けとしてスタートし、他社より頭一つ抜きんでた存在である同社がそのヒットの理由を明かした。

「One Size Fits All」という概念が昔のものとなり、自分らしさを大切にする価値観が尊重される一方で、ファンデーションやシャンプーなどは市場に多くの商品が溢れ、消費者は自分に合うものを探すのに疲れている状態だ。これが、パーソナライズブームを牽引する一因だという。特にシャンプーなどのヘアケア用品は「ユーザーが求めているのは珍しい香りなどではなく、自分にぴったりのもの」だとFunction of BeautyのCEOであるザヒール・ドッサ(Zahir Dossa)氏は断言する。

同社の提供する購入プロセスは至ってシンプルで、Webサイト上で、効能(しっとりや抜け毛防止)や髪色、そして香りなど、いくつかの質問に答えるだけ。その結果を元に作られる製品のパターンは、独自アルゴリズムにより120億通りにも上る。またパッケージラベルもカスタムできるのでギフトとしての人気も高いのだとか。さらにパラベンフリー、クルエルティフリーなど原材料や生産方法もクリーンビューティーを実践している層にミートするものだ。ニューヨーク・SOHOにある同社のラボでは、パーソナライズドシャンプー作りを体験することができ、こちらも人気スポットとなっている。

Function of Beauty のニューヨークSOHOにあるラボ

商品価格は、シャンプー+コンディショナー(各236ml)で36USドル(約4,000円)。1本あたり2,000円と決して安い商品ではないが、売れ行きは好調だ。2017年にGGVCapitalや著名ベンチャーキャピタルのYコンビネーターなどからシリーズAで合計950万ドル(約10億5,000万円)の調達したことも、同社の人気と将来性の高さを示している。

また、同社の成長を押し上げた理由の一つに定期購買者の多さがある。

一度気に入ったら同じ商品を繰り返し購入する性質のある消費財と、デジタルに長け、Eコマース利用率の高いミレニアル世代は実に相性が良かったとドッサ氏は語る。同社製品の返品率は1%未満だといい、米国のマーケティング会社invespが報告する同国のEコマースにおける返品率が30%であることを考えると驚きの低さだ。

本稿で紹介した2つのブランドはウェルネスについて、「つまり自分にあったスキンケアを取り入れることだ」と力を込める。今回のフォーラムで多くのブランドが課題として挙げていた「消費者のウェルネス意識の高まりにコミットするか」は、今後日本の美容関連企業も考えていくべき視点だろう。

Text & photos: 橋本沙織(Saori Hashimoto)