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Maison KOSÉハラカドが "サードプレイス”として提供するビューティの新しい楽しみ方

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コーセーが2024年8月に東急プラザ原宿「ハラカド」にオープンした「Maison KOSÉハラカド」は、そのときどきで関心が変化するデジタルネイティブの若年層の消費行動に対応した店内の自由な利用法、多彩な体験コンテンツで、美容の新しい顧客体験を提供する。これまでの“化粧品小売店”という枠組みにとらわれない店舗を構築した経緯やねらいを、コーセープロビジョン株式会社 代表取締役社長 命尾泰造氏に聞いた。


顧客が自由に使える"場所"を提供する「Maison KOSÉハラカド」

「Maison KOSÉハラカドは自由にどんどん使ってもらいたい場だ。従来の化粧品購入者の型にはまらないお客さまも受け入れ、ブランドのファンではなかった、化粧品の潜在的なお客さまも気軽に立ち寄れる場所でありたい。そうしたお客さまによる、私たちがまだ想定できていないような店舗の新しい使い方も歓迎したい」と語るのが、コーセープロビジョン株式会社 代表取締役社長 命尾泰造氏だ。

原宿・神宮前エリアに「自らの価値観を発信するあらゆる人のための創造施設」として企画設計された東急プラザ原宿「ハラカド」にオープンしたMaison KOSÉハラカドは、命尾氏がいうとおり、ただ商品を購入するための場所ではなく、自由に時間を過ごし、美を楽しむ“サードプレイス”としてさまざまなコーナーが設けられている。

Maison KOSÉハラカドでは、LINE上でカウンセリングの事前予約や当日のウェイティング予約が可能だ。また、KOSÉ IDとのひも付けにより、商品のモバイルオーダーや、スタイリストによるシャンプー&ブローサービス「BLOW BAR(ブロー バー)」などの予約・事前決済も可能となる。

広々とした店内でまず目に入るのは「GIFT FACTORY(ギフトファクトリー)」だ。ギフトに特化したコーナーで、贈る相手の名前から連想されるイラストをAIが描く「メッセージカード作成サービス」や、一部商品の刻印サービスを提供し、ラッピングのスペシャリストが、さまざまな包装紙やリボンなどを使い、目の前でラッピングを行う過程を視覚的に楽しむことができる。

GIFT FACTORY

「COSME BUVETTE(コスメ ブヴェット)」は、コーセーのスキンケア、メイクアップ商品のテスターをドレッサーとともに時間貸しするサービスだ。ドレッサーは、ソファーと鏡がセットになった半個室タイプで、一人で利用しても、複数人で利用してもいい。車椅子やベビーカーを利用する人も使いやすい、バリアフリータイプのドレッサーもある。そのほかにも店内にはビューティにとどまらずにさまざまなクリエーターの作品を陳列・紹介する「SELECT STAND(セレクトスタンド)」などがある。

COSME BUVETTE利用のイメージ
(編集部撮影)

モバイルオーダーにも対応しており「EXPRESS COUNTER(エクスプレス カウンター)」では、来店客はモバイルオーダーで注文・決済した商品を、接客やレジ対応を挟まず、すぐに受け取れる。さらには、カウンターも通さずにロッカーでの受取りも可能だ。ラッピングを依頼したギフトやモバイルオーダーで注文・決済した商品を、店舗の営業時間外であっても受け取れる「COSME LOCKER(コスメロッカー)」が設置されている。Maison KOSÉハラカドで購入した商品の一時預かりもこのCOSME LOCKERで可能にしている。

COSME LOCKER

顧客の自由な体験を支えるビューティコンサルタント(以下BC)が働きやすい店舗設計としたこともMaison KOSÉハラカドの特徴だ。効率的な接客動線を確保し、顧客の座高に合わせてすぐに高さ調節が可能なスツールを採用し、BCが屈んだり背伸びすることでかかる身体的負荷を低減する。また、レジ対応やラッピング、各ビューティアトラクションの管理業務に専属のスタッフをつけて、BCの対応業務をシングルタスク化。さらに今後はバックオフィス業務をデジタル化し、情報検索や在庫管理を効率化することで、BCが接客に注力できる環境を整えていく予定だ。これら一連のシステム開発、業務オペレーション設計などはアビームコンサルティングが支援した。

BCの働きやすさを重視したカウンターとスツール
(編集部撮影)

体験設計の起点となったコスメデコルテでの改革

Maison KOSÉハラカドは、2023年4月にコーセー社内でコンセプト立案がスタートしたが、命尾氏のなかでこのアイディアが生まれたのは、コロナ流行前の2018年のことだ。きっかけは、当時命尾氏がコスメデコルテ事業部に在籍していて感じた顧客の購買行動の変化だった。

2018年春にコスメデコルテのメイクアップ商品をリニューアル、30色展開のアイシャドウ「アイグロウジェム」を発売したが、ある特定の色だけが飛び抜けて売れる現象が起こるようになった。「従来はカウンターを訪れたお客さまに対し、BCが肌質や用途などのカウンセリングを行なったうえで、最適な色を選び勧めていたので、カラー別の売れ方の偏りが大きくなるようなことはあまりなかった。また、リキッドファンデーション『ゼン ウェア』についても、従来は店頭でBCが顧客の肌の色味から最適なものを勧めるので、基準色に近い色が最も売れていたが、コスメデコルテのECでは明るい色がよく売れるようになっていた」(命尾氏)。

これはなぜなのか。消費者の変化を感じた命尾氏がコーセー社内でメンバーに聞いてみたところ、返ってきた答えは当時の命尾氏にとっては意外なものだった。「店頭で肌の色に合ったファンデーションを選んでもらうと、自分で思っているよりも暗い色味が合うと薦められる。『もっと明るい肌色にトーンアップしたい』と思い、ECでは好きな色味を買っているのではないかとのことだった」(命尾氏)

その人の肌になじむ、あるいは似合うとして薦められた色よりも、そのときどきで自分自身が欲しい色を求めるようになっていたというわけだ。こうした、試したい商品に対し即時的なアクセスを求めるニーズの高まりが、Maison KOSÉハラカドで展開する「スマホでオーダーし、ロッカーで受け取る」「好きな商品を好きなだけ自由に試せる」という顧客体験設計に反映されているという。

コーセープロビジョン株式会社 代表取締役社長 命尾泰造氏
プロフィール/1994年4月 中央大学 経済学部 経済学科卒。同年4月 株式会社コーセー入社。営業職を経験後、2017年4月 株式会社コーセー セレクティブブランド事業部(現DECORTÉ事業部)販売企画課 課長に就任。美容教育企画、コスメデコルテの事業戦略立案に従事。2023年1月より現職

一方で、当時命尾氏が担当していたブランド、コスメデコルテでは、接客の見直しを行った。新しい接客では、顧客を化粧品への興味関心や使用経験にもとづいて4つの象限に分類し、それぞれに適した接客時間と情報量を提供することを目指した。たとえば、化粧品への興味関心が高く使用経験が豊富な顧客には実際に商品を手に取って試してもらうことを重視し、使用経験が少ない顧客にはまずはBCが商品の特徴をその顧客にとって分かりやすい言葉で説明するなどだ。

これが顧客のニーズに応える結果となり、カウンターの混雑緩和につながった。さらに、BC間で4つの象限に関連した共通言語が増えることで、相談や教育などのコミュニケーションが円滑になり、働きやすい環境への改善効果を生み、それがさらに顧客と向き合うことにつながった。この経験も、Maison KOSÉハラカドの顧客・BC双方の体験設計のベースになったと命尾氏は話す。

また、顧客の購買行動をつぶさに分析していくなかで、「リキッド消費」と呼ばれる、短期的で流動的な興味を持つ顧客層の存在が浮き彫りになった。命尾氏はこのリキッド消費を「ブランドのファンになるわけではなく、そのときどきに話題のものを試し、瞬間的な関心度で体験を重視する新しい消費者行動」と説明する。こうしたリキッド消費の顧客ニーズにも、Maison KOSÉハラカドでは柔軟に応えていくことを目指している。

EX重視で実現するCX、コーセー全体でリテールテック活用へ

2024年11月現在、コーセーでは、Maison KOSÉ銀座とMaison KOSÉハラカドの2つの直営店を展開している。「Maison KOSÉ銀座は、ショールームとしての役割が強い。今後は立地にふさわしいよりラグジュアリーな店舗としてリニューアルを計画しており、グローバルフラグシップとしての役割を強めていきたい」と命尾氏は説明する。一方で、Maison KOSÉハラカドはリテールDX(デジタルトランスフォーメーション)の実践を目指す小売の場との位置付けだという。「得られたリテールテックのさまざまなノウハウは、全国で化粧品専門店さまが運営されている業態の『コスメテリア』への展開も検討していきたい」(命尾氏)

Maison KOSÉハラカドの店舗づくりにはまた、EX(エンプロイーエクスペリエンス)を起点としてCX(カスタマーエクスペリエンス)を実現するという目標も掲げられている。命尾氏は、「従業員が働きやすい環境こそが、最終的には顧客の満足度向上につながる」と強調する。

「Maison KOSÉハラカドで化粧品販売に関わる人々にとって魅力的で、選ばれる職場づくりを目指し、またそれを顧客満足につなげていくことで、業界をリードしていきたい。顧客体験は、単なるギミック的な体験だけではなく、顧客がMaison KOSÉハラカドを自由に利用し、そこから生まれる化学反応やBCとのコミュニケーションが体験となるイメージだ。BCは役割分担を明確化し、シングルタスクで最高のパフォーマンスを発揮できる体制を構築することで、これからの時代の理想的な接客を目指す」(命尾氏)

Text: 大塚愛(Megumi Otsuka)
Top image & photo:株式会社コーセー