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花王ブローネ ルミエストのAR髪色シミュレーション×マス広告がもたらしたインパクト

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AR髪色シミュレーションを導入し、顧客の満足度向上、店舗の負担軽減、プラスチック使用の低減、好調な売上と多方面へのベネフィットを実現した花王 ブローネ Lumiést(ルミエスト)。髪色シミュレーションをテレビCMでも訴求しユーザーが動いたことが好結果につながった。花王ブローネの他商品への展開や、今後の可能性などヘアカラーショッピングの未来を示唆する事例として紹介する。

白髪染めエントリー層に向けた新製品「ブローネ Lumiést(ルミエスト)」

「白髪用のヘアカラー剤では、明るい髪色は楽しめなくなる」という35歳〜49歳の白髪染めエントリー層の悩みを解決するというコンセプトで、花王のブローネブランドに新たに投入されたのが、明るい髪色にこだわったクリームタイプの白髪染め「花王 ブローネ Lumiést(以下、ルミエスト)」だ。

そのプロモーションでは、AR髪色シミュレーションを用いた新たな髪色選びを提案。地上波テレビCMではモデルの神山まりあさんがAR髪色シミュレーションを体験する姿を映し出したほか、ドラッグストアなどの店頭に「毛束プッシュイン(商品の前に設置される毛束サンプル)」を設置せず、ARで髪色選びを提案するなど、国内ヘアカラー商材で初となる数々の試みが仕掛けられている。その狙いについて花王株式会社 ヘアケア事業部 ブランドマネジャー 米田聡美氏と、同事業部 本谷はるか氏(※所属は取材時点のもの)に話を聞いた。

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花王株式会社 ヘアケア事業部
ブランドマネジャー 米田聡美氏

花王がAR髪色シミュレーションを採用した理由とは

髪色シミュレーションは、スマートフォンでWebサイトにアクセスし、カメラを起動するだけで、リアルタイム動画として、髪の毛の一本一本までアッシュなどの微妙なカラーが反映され、自分に似合うかどうかのトライオンを、すぐに楽しむことができる。アプリのダウンロードは不要だ。この技術を提供しているのが、バーチャルメイクアプリ「YouCam メイク」で知られるPerfect Corp.(以下Perfect)である。

Perfectは2019年2月に「最先端のAIおよびAR技術を活かしたビューティ体験をより多くのお客様へ届けることを目的として、花王およびカネボウ化粧品の複数ブランドと一括契約を締結した」と発表し、花王はバーチャルメイクアップや肌診断などPerfectの技術を導入しているが、本格的なヘアカラー製品における髪色シミュレーションはルミエストの発売を機に2020年秋に導入を開始した。

今回、ルミエストで髪色シミュレーションを主軸としたマーケティングプランを採用したのは、「店頭の毛束見本よりも、パッケージ裏の色チャートを参考にしている」という人が多いことが独自の調査結果によって判明したからだった。ユーザーの声として「(サンプルは)自分の髪質と違うので、同じように染まるとは思っていない」「結局、染まる前の髪色によって、色の入り方が変わるから」といった理由があり、店頭に置かれた毛束見本はあまり参考にならないと思われていたこともわかった。

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毛束見本の例
(ブローネの既存製品である
泡カラーのもの)

また、店舗側からすれば毛束プッシュインの設置・管理は、スタッフに大きな作業負担である実情もあった。商品ラインアップが変わるたびに差し替え作業が必要となるだけでなく、色番の入れ替えなどで一部の毛束が抜け落ちれば、都度メーカーに発注して差し替えなければならない。

加えて、毛束プッシュインをなくせば、ルミエストだけでも年間何トンものプラスチックの使用を減らせる。環境保護の視点からも、毛束プッシュインの廃止が望ましいことは明らかだった。

これらの理由からルミエストでは毛束プッシュインを廃止し、顧客視点でのカラーの選び方として、新たに髪色シミュレーションを提案することが決まった。2019年末のことである。

ルミエストが実現するアッシュやブラウン系の微妙な色みは、ARの透過技術によって表現が可能だが、色味の調合には花王の研究者も加わり、時間をかけてその再現性にこだわったという。

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ルミエストのカラーバリエーション
出典:花王 ブローネ ルミエスト

新たなコミュニケーションツールとしてのAR髪色シミュレーション

導入にあたっては、長年の慣習として、他社も含めヘアカラーコーナーに当たり前のように並ぶ毛束プッシュインを廃止することに対し、一部の小売店からは「本当に設置しなくていいのか」という懸念の声も聞かれた。

しかし、毛束プッシュインの代わりに店頭に設置する紙製のPOPをはじめ、地上波テレビCMやインフォマーシャルといったマス広告のほか、動画広告、バナー広告、タイアップ記事などのあらゆるWebメディアにおいても、髪色シミュレーションを主軸としたプロモーションを行うことを丁寧に説明したことで、小売店からの理解を得られた。

その結果、当初目標としていた、店舗においてルミエスト全10色を1段展開してもらうことが実現したのだ。本谷氏は「通常であれば、商品の魅力訴求に終始しがちだが、今回は髪色を選ぶ時点からヘアカラーを楽しんでもらうために、すべてのクリエイティブに髪色シミュレーションを入れることにこだわり、まずはバーチャルで試してみようという訴求に絞ったのが奏功したのではないか」と振り返る。

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花王株式会社 ヘアケア事業部
本谷はるか氏
(※所属は取材時のもの)

では、各プロモーション施策において、髪色シミュレーションに対する顧客の反応はどうだったのか。

まず、9月28日の発売開始と同時に、髪色シミュレーションを体験できるブランドサイトを開設。10月2日からはデジタル施策を開始したが、ブランドサイト訪問者数に対し、髪色シミュレーションを体験する人は約2割だった。

ところが10月19日からの5日間、日本テレビの情報番組『ヒルナンデス』で森三中の村上知子さんが髪色シミュレーションを実演するインフォマーシャルを放映し、その後、11月1日からの2週間で放映した神山まりあさんの地上波テレビCMにより、ブランドサイトの訪問者数に対する髪色シミュレーション体験者数は約6割になり急増した。

さらに、地上波テレビCMが流れた11月1日週は「YouCamメイク」コスメシミュレーションを利用する世界中の全アカウントのなかで、ルミエストの髪色シミュレーションが最も体験回数が多く、国内では初めて1週間で100万回超えを達成したという。ちなみに日本国内で同時期に10万回を超えたブランドは2つだったということからもこの数字の大きさがわかる。

今回の髪色シミュレーションの体験回数を訪問者数で割ると、一人当たり少なくとも22回以上は体験した計算となる。いかにユーザーが髪色シミュレーションを楽しんで使ったかを表しているといえるだろう。また、ルミエストの1日あたりのWebサイト訪問者数は、花王の全ブランドと比較して、計測開始以来最多となり1位を記録した。

ルミエスト発売後の売上推移をみてもブローネの既存製品である「ブローネ 泡カラー」に上乗せする形となった。狙いとしたエントリー層の獲得にも成功しており、購入者のうち約4分の1が半年間ヘアカラー剤を購入していなかった、カテゴリー新規購入者だったという結果も得られている。毛束プッシュインを廃止してもヘアカラー商品は売れるということを証明してみせたかたちになった。

ヘアカラー商品を取り巻くショッピングの未来

これだけ髪色シミュレーションが受け入れられた背景には、当然のことながらコロナ禍の影響も少なからずあっただろう。花王の調査結果によると、コロナ禍では、自宅でヘアカラーを行う“おうち染め”ユーザーが増加し、特に美容室とおうち染めを併用する人が増加している現状がみえてきた。こうしたニーズを受け、地上波テレビCMのメッセージングを「おうちで体験、新しい私。」へとブラッシュアップしたところ、「髪色を明るくすることで、気持ちも明るくなりそう」といった好意的な感想が数多く得られたという。

また、髪色シミュレーションの結果を分析してみると、これまで店舗ではそれほど売れ筋ではないと思われていたベリーピンクと呼ばれる「0P」や、シフォンブラウンとしてブラウンのなかでももっとも明るい「0B」といった色を試している人が多いことが浮き彫りとなった。こうしたデータは、今後の新しい髪色開発において貴重な情報になると同時に、小売店に並ぶ商品の見直し、あるいは将来的にはパーソナライズのようなサービス拡充の可能性にもつながりそうだ。。

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出典:花王 ブローネ ルミエスト

ルミエストのAR髪色シミュレーションツールを提供し、開発を支援したPerfectの日本法人、パーフェクト株式会社 代表取締役社長 磯崎順信氏は、一連のプロモーション展開について次のように評する。

「ARバーチャルトライオンをテレビCMでも訴求したという例は、知る限り世界でも初めてではないか。今回は、まさに我々が目指している“フィジカル(リアル店舗)でのショッピングをよくするためのデジタル施策”を体現していただいたと感じている。テレビを通じて実際の操作や見え方をコミュニケートしてもらったことで、ARシミュレーションが消費者にとって一気に身近なものになった」

さらに磯崎氏は、これからは店頭にさまざまな仕掛けを施すことでユーザーのスマートフォンをコントロールするシェア争いが加速する時代に入っていくとして、今後も、無理やりECに誘導するデジタル施策ではなく、オンライン/オフラインを問わず、どこででも便利にショッピングを楽しめるツールの提供を続けていきたいと話す。

こうした背景もあり、ルミエストだけでなく、花王のヘアカラーの他商品にも同様の取組みを進めていきたいと本谷氏はいう。

「髪色選びをおうちで楽しんでいただく文化をもっと当たり前にしていきたい。今後は、ルミエスト以外の他アイテムへも髪色シミュレーションの活用を拡大していくとともに、取引のある流通パートナーからの理解も得ながら、花王のヘアカラーすべての商品における毛束プッシュインの撤廃に挑戦していきたい」(本谷氏)

髪色シミュレーションの精度向上や、その人に似合う髪色の提案など、さらなるコンテンツの追加も進めていく予定だ。

Text: 野本纏花(Madoka Nomoto)
Top image & 画像: 花王株式会社

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