吉野家HDによるオーストリッチオイル配合のスキンケア商品「SPEEDIA」の全容、オイル原料販売も
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株式会社吉野家ホールディングスが、オーストリッチ(ダチョウ)に関する事業の本格始動と同時に、オーストリッチ由来成分を配合したスキンケアブランド「SPEEDIA(スピーディア)」を発表した。食や美容分野での商品化だけではなくスキンケア商品の原料となるオイルの卸販売も行い、肉以外の羽や骨などもあますところなく活かし、普及を目指す。SPEEDIAの開発をリードした株式会社SPEEDIA スキンケア事業部 部長 練木寛子氏に話を聞いた。
第4の肉として研究を始めたオーストリッチの美容成分
創業125年の歴史をもつ株式会社吉野家ホールディングスが、牛・豚・鶏に次ぐ4番目の肉として、2017年から研究をスタートしたのがオーストリッチ(ダチョウ)だ。その理由は、将来的な人口増加や気候変動による食糧問題とともに、同社自身が経験してきた牛肉の輸入解禁、BSE(牛海綿状脳症)、為替変動などの外的要因リスクを低減することにある。
オーストリッチの肉は、美味であるだけでなく、抗疲労物質であるイミダゾールジペプチドを含み、タンパク質、鉄分、ビタミンがほかの肉に比べて豊富だという。また、飼料効率がよく、牛が成体になるまでに2年半を要するのに対し、オーストリッチは1年で約100キログラムの成体になる。
同社のオーストリッチ事業のはじまりは、9年前の2017年にさかのぼる。SPEEDIAの前身となる株式会社日本オーストリッチファームを茨城県石岡市に設立して国内産親鳥42羽・雛150羽から飼育を開始し、本格的な牧場経営とオーストリッチ研究に着手した。2020年に社名を株式会社SPEEDIAに変更し、飼育羽数は500羽を達成。これは国内最大級の規模だという。
このファームが抜きん出ている理由は、オーストリッチ飼育の難しさにある。株式会社SPEEDIA スキンケア事業部 部長 練木寛子氏は、その難しさについて次のように語る。「オーストリッチは身長2メートルほどになり、放牧するためには広大な土地を要する。2本足の動物としては世界最速で、長い脚で繰り出すキック力は強く、人間がキックされると骨が折れてしまうほどだ。卵を孵化させるのも難しく、我々も、畜産学の研究者や獣医師に指導を仰ぎながらやっている。2010年頃、日本でオーストリッチ牧場運営が一種のブームになった時期があったようが、飼育の難しさや商品を開発し販売するという一貫したルートが作れず、うまくいかなかった事例が多かった」(練木氏)
それゆえ、オーストリッチミートの希少性は日本国内でもまだ非常に高い。また、肉の栄養価について研究する過程で、オーストリッチの腹や背の脂から抽出されるオイルについて調べたところ、美容効果が高いことが少しずつわかってきた。
美容成分の浸透を高めるオーストリッチオイルの効能
オーストリッチオイルは、オイル特有のべたつきや匂いもなく、さらさらとしたテクスチャーで肌馴染みがよいのが特徴だ。また、オーストリッチオイルを肌に塗布した後に、脂溶性ビタミンC誘導体、タイプⅠコラーゲン、セラミド様物質、ナイアシンアミドなどの美容成分をなじませると、肌への浸透量がいずれも増加し、とくにナイアシンアミドは、浸透がオイル無しの状態の23倍になることがわかった。研究は肉やオイルに留まらず、羽根や骨などオーストリッチのすべての資源を有効に活用するという観点で進められており、羽からは、オーストリッチケラチンがとれるという。
同社は、2019年頃からオーストリッチ由来成分を配合したスキンケア商品の開発を開始し、完成したのが「SPEEDIA」だ。第一弾は、「グラマラスブースターオイル」、「グラマラスエイジングクリーム」「モイスチャーマスク」の3点で、いずれの商品もオーストリッチオイルが配合されている。また、吉野家グループ従業員の肌悩みの多くが手荒れであったことから、「ハンド&ボディ ケアミルク」も開発。オイルに加え、オーストリッチ由来の加水分解ケラチンが配合されており、現在、全国に1,200店ある吉野家の店舗で先行して従業員が使用しており、「爪や爪周りがしっとりする」と評判も上々だという。
SPEEDIAのスキンケア商品は、2021年頃から、「吉野家」の名前を出さずに実験的に自社ECサイトでのみ販売されていた。購入者からは、「肌の奥まで浸透している感じがする」「肌がふっくらもっちりする」と評価が高く、クチコミで徐々に広まったことに手応えを感じ、2024年8月に本格的に販路を拡大していくために、吉野家の名前とともに正式に発表された。
SPEEDIAは、自社EC以外に、日本調剤オンラインストアやヨドバシ.comでも販売を開始し、今後は定期的にポップアップストアを開催するほか、テレビショッピングでの展開も予定している。また、オーストリッチオイルや加水分解ケラチンについては、化粧品原料として美容企業やOEM企業に販売していきたい考えだ。
「当社には、約2万人の従業員がおり、グループ会社の『はなまるうどん』など女性従業員も多い。SPEEDIAは、肌悩みにアプローチできる存在でありたいと考えており、当社従業員の声をいかしながら商品開発を続けていきたい」(練木氏)
オーストリッチの可能性を広め、市場を作っていく
同社は、サステナビリティという言葉が普及する前の1970年代頃から、牛一頭を余すことなく活用するための研究を重ね、油脂をリサイクルするなど食の可能性を最大限に活用して、無駄なものをゼロにする取組みにもいち早く取り組んできた。その方針にも、オーストリッチは理想的な家畜といえよう。
国内外をみてもオーストリッチ由来の化粧品原料は事例がほとんどなく、今後は、同社が明らかにした美容や健康面における効果について学会などでも発表していく予定だという。
「オーストリッチ由来の成分は未知の可能性を秘めている。京都府立大学の研究では、オーストリッチの卵を利用して、免疫に関わる抗体を大量に生産する方法も開発されており、医療分野での活用も期待されている。オーストリッチの認知自体がこれからなので、こうした情報を正しく広めていきたい。人が健康で美しく、イキイキと生きていくことを大切にするウェルビーイングの追究は人間本来のもので、10年後、20年後も変わらないだろう。こうした意識がさらに浸透していくなかで、今後オーストリッチが注目されるようになったときに、SPEEDIAが一番の存在になるのを目指したいと考えている」(練木氏)
Text: 小野梨奈(Lina Ono)
Top image & photo: 株式会社吉野家ホールディングス