2025年を占う中国美容市場トレンド「Douyinひとり勝ち」「日韓ブランドの再注目」など
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グローバルメディアでは中国経済の減速がたびたび伝えられている。2024年のダブルイレブンでも不調や低迷を指摘する報道が目立った。中国の化粧品市場の現状はどうなっているのか最新データから読み解く。
スキンケア市場は「超」高価格と低価格が伸びる二極構造
中国国家統計局によると、化粧品類の小売総額は、2022年は前年比4.5%減の3,936億元(約8兆4,348億円)だったが、2023年は5.1%増の4,142億元(約8兆8,763億円)と回復した。ただし、市場の構造には変化がみられる。
米ニールセンIQ(NIQ)中国法人のレポートによると、中国でニーズの高いスキンケア製品の価格帯別の販売額は、350元(約7,500円)〜700元(約1万5,000円)の高価格帯が12.2%減少し、200元(約4,300円)〜350元の中価格帯も4.7%減少。一方で700元以上の超高価格帯が8.3%増加し、200元以下の低価格帯が12.5%増加した。つまり、ラグジュアリーな製品を指向する高所得者層と、より安価な製品を求める層の格差が広がりつつあることがうかがわれる。
また、近年シェアが急拡大している中国国産ブランドの販売額は8.8%増加し、シェアは前年の61.6%から64.3%に拡大。一方、海外ブランドの販売額は3.3%減少し、シェアは38.7%から35.7%に縮小した。
ブランドの規模別にみると、中国の小規模ブランドの販売額が13.3%増と大幅に伸びたが、中国の大規模ブランドは4%減。海外ブランドについては、大中規模ブランドが2.5%減で、小規模ブランドは29.1%減だった。シェアは中国の小規模ブランドが49.7%と約半分を占め、海外の大中規模ブランドが35%で続き、中国の大中規模ブランドが14.6%、海外の小規模ブランドが0.7%だった。全体的に中国ブランドの伸長が著しく、そのあおりで海外ブランドが苦戦しているといえる。
チャネルにも変化がみられる。スーパーの販売額が11%減少し、近年好調だった化粧品専門店も7.4%減少。総合ECも2.2%減少した。一方、百貨店が3.8%増加し、ソーシャルセリングの「Douyin(抖音)」が56.6%増加した。
各チャネルのシェアは総合ECが最も大きいものの、45.8%から41.4%に縮小。化粧品専門店は15.7%から13.5%に縮小し、スーパーは7.8%から6.4%に縮小。百貨店も11.8%から11.4%に縮小した。一方でDouyinだけが18.9%から27.3%とシェアを拡大している。
4年ほど前までは続々と新しい店舗が誕生した化粧品専門店だが、コロナ禍で多くの店舗が閉店した。中国メディアの報道では、ユーザーは店舗に来てサンプルを入手するものの、購入につながらないことが課題との指摘もある。中国のユーザーは、現物を店舗で確認して、購入そのもはオンラインというパターンが多いという。
これらを総合すると、2023年は、スキンケアにおいては超高価格帯と低価格が伸びていること、総合的に中国ブランドのシェアは64%超に達し、なかでも小規模や新興ブランドの勢いがあること、オンラインではDouyinの伸びが圧倒的で、リアル店舗についてはグローバルでの傾向とは逆に、パンデミック以降も客足が戻らないという中国のトレンドが浮かび上がる。
カラーメイクではDouyinがアリババを抜き、MAOGEPINGは上場申請
2024年に入っても化粧品市場自体は回復基調で、同年5月の化粧品小売総額は前年同月比18.7%増の406億元(約8,700億円)。1月から5月までの累計も、5.4%増の1,763億元(約3兆7,781億円)だった(国家統計局)。
ECデータ分析会社Nint(任拓)によると、2024年上半期のカテゴリー別の販売額は、スキンケアが9%増、カラーメイクが15%増で、フレグランスが3%減と減速したものの、ほかは堅調だった。ただし、ここでも振るわないのが、海外ブランドだ。スキンケアの上半期の販売額は、中国ブランドが前年比19%増だったのに対し、海外ブランドは4%減だった。
チャネルについては、2024年もDouyinの勢いがとまらない。EC向けコンサル会社DATA INSIDER(解数諮詢)のレポートによると、DouyinのGMV(流通取引総額)は、スキンケアが前年同期比41.3%増の689億6,400万元(約1兆4,779億円)で、カラーメイクが55.7%増の249億1,000万元(約5,338億円)だった。
他方、アリババグループ(阿里巴巴)の「Tmall(天猫)」と「タオバオ(淘宝)」は、スキンケアが12.2%減の714億元4,500万元(約1兆5,311億円)で、カラーメイクが5.8%減の285億1,600万元(約6,111億円)と、このカテゴリーについては、ついにDouyinがアリババグループを追い抜いた。Douyinの存在感の大きさを象徴している。
美容専門調査会社の青眼情報の調査では、化粧品関連の上場企業36社の上半期の売上高の合計は、13.3%増の445億4,300万元(約9,546億円)。セクターごとでは、OEM/ODMが2.1%減の16億1,400万元(約346億円)で、小売サービスが8.3%減の31億2,700万元(約670億円)だった。小売サービスが大きく減少したのは、中国の大手化粧品ネット小売サービス業者Lily & Beauty(丽人丽妆)などが2桁の売上減少だったことが影響したという。同社の提携ブランドはアモーレパシフィックやLGグループ、ヘンケル、コティなど、海外グローバルブランドが中心であることが不振の一因とみられる。
好調だったセクターは、売上8.7%増の110億4,500万元(約2,367億円)の原料サプライヤーや、19.4%増の287億5,700万元(約6,163億円)を記録した化粧品メーカーだ。なかでも中国のブランドでは「PROYA(珀莱雅)」やCHICMAX COSMETIC(上海上美化粧品)が運営する「KANS(韓束)」が急成長している。
それらに続く存在として注目なのが、2024年10月に香港証券取引所に上場を申請した「MAOGEPING(毛戈平)」だ。現地メディアによると、メイクアップアーティストである毛戈平氏が2000年にローンチしたMAOGEPINGは、スキンケア製品とカラーメイク製品のいずれも展開しているが、アイテム数はカラーメイクの割合が大きい。多くの映画、ドラマ、舞台のメイクアップを担当して知名度を高めた毛氏の、自身のセレブとしてのステータスを活かしたオンラインマーケティングの成功により、2020年から2021年までの間に売上高が77.98%増加し、収益も69.34%増加、業界内のダークホース的な存在となった。さらに、2022年には16億8,000万元(約360億円)の売上高を達成し、総利益率は3年連続で80%を超えたという。
総利益率の高さについては、リップグロス300元(約6,400円)、ファンデーション180〜410元(約3,800〜8,700円)と高価格帯の設定であることが理由のひとつとみられる。同じく中国の伝統的な図柄をあしらったパッケージのカラーメイクで人気の「花西子Florasis(フローラシス)」が、口紅129〜219元(約2,700〜4,700円)、リキッドファンデーション229.9元(約4,900円)という価格設定だ。また、一部のユーザーからはMAOGEPINGの製品の品質は価格に見合うほど高くないという指摘もある。
だが、毛氏の知名度やメイクテクニックの確かさもあり、2024年上半期の売上高は、前年同期比41%増の19億7,100万元(約422億円)、純利益は41%増の4億9,300万元(約105億円)だった。Douyinでも存在感を示しており、同年10月のカラーメイクカテゴリーの売上ランキングは2位。GMVは前年同月比169.7%増の1億4,100万元(約30億円)だった。
同社は2024年3月に上海証券取引所での上場プロセスを中止した経緯があり、今回の香港でのIPOが完遂すると大きな飛躍につながることが期待されている。
2024年の化粧品市場トレンド、日韓ブランドへの再注目も
このようにパンデミック後、復調路線だった中国の化粧品業界だが、2024年6月以降の数字だけを見ると前年割れが続いている。国家統計局によると、化粧品類の小売総額は、6月が14.6%減、7月が6.1%減、8月が6.1%減、9月が4.5%減と前年割れが続いている。9月までの累計でも1%の減少だった。
全品目を合わせた社会消費品小売総額は、6月以降も増加し、9月までの累計でも3.3%増加はしているが、じわじわと進む物価高や不況を感じ取り、不要不急の商品を買い控える消費者マインドも働いているはずだ。8月、9月の減少に関しては、今回は11月11日を中心に行われるインターネット上の一大セールイベント「ダブルイレブン(双11)」のプレセールスが10月から始まり、実質1カ月間あったことから、セールを前にした消費者が割引になるのを待ったとの見方もできる。
海外ブランドにとってはその厳しさはさらに増している。P&Gの2024年7〜9月期決算は、美容部門の売上高が前年同期比5%減。これは中国での不調が原因で、SK-IIは2%減だったという。ロレアルの2024年7〜9月期決算は、連結では好調だったが、中国を含む北アジア地域のみがマイナス成長で、売上高は6.5%減少した。資生堂も中国での不振が発表されたばかりだ。
その一方で現地メディアの報道によると、2024年のダブルイレブンでは、日韓ブランドへの回帰の兆しがみられたという。Tmallの売上ランキングでは「クレ・ド・ポー ボーテ」が10位にランクインし、「SHISEIDO」が17位に入った。またDouyinでも、予約販売のあった10月8日〜20日の売上ランキングではクレ・ド・ポー ボーテが9位で、SHISEIDOが8位だった。
2025年の中国美容市場は、クリーンビューティ要素が必須か
上海市奉賢区の美容・健康産業特区「The Oriental Beauty Valley(オリエンタルビューティバレー=東方美谷)」が発表した「2025 The Oriental Beauty Valley 世界美容業界動向予測ブルーブック」では2025年の美容業界について、「安全性」と「専門性」が皮膚科学レベルの高機能スキンケア製品でのキーワードになると指摘。クリーンビューティと持続可能性が美容業界において必須となる傾向がますます強まるとも示唆している。つまり、化粧品企業やブランドが、成分の安全性や透明性の担保、環境や社会的責任を果たしているかがより重視されるようになるというのだ。
また、中国版Instagram「RED(小紅書)」では、50歳以上の投稿者が2022年から2023年の間に2倍以上増え、シルバーKOL(キー・オピニオン・リーダー)やそれを専門とするMCN(マルチチャンネルネットワーク)も登場していることから、シルバー世代のメイクやスキンケアのニーズが美容ブランドの製品開発や新たな市場を開拓する原動力になるとしている。全般的に中国では厳しい状況に立たされている海外ブランドが、こうした分野に進出していけるのかも注目される。
Text: チーム・ロボティア(Team Roboteer)
Top image: MAOGEPING公式サイト