パーフェクト主催のフォーラムで語られたAIが美容ビジネスにもたらすイノベーション
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2024年9月にパーフェクトが主催した「グローバル ビューティー&ファッションAIフォーラム in Tokyo 2024」で紹介されたパーフェクトの最新ソリューションに加えて、ビューティ企業・ブランドとAI企業からの登壇者による5つのパネルディスカッションから、AIが美容業界にもたらす価値について考察する。
パーフェクトはAIサービスをシームレスに連携、「トップ美容部員のデジタルツイン」を生み出す
AR/AI 技術を活⽤したソリューションサービスで美容およびファッション業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)をサポートするパーフェクト株式会社は、2024年9月、「グローバル ビューティー&ファッションAIフォーラム in Tokyo 2024」を開催した。これは、急速な進化を遂げたAIテクノロジーが、企業のマーケティング戦略や消費者の購買行動に大きな影響を与える今、美容関連の企業やブランド、テック企業が集い、パネルディスカッション方式で、美容業界における最先端AIトレンドと、それがビジネスに何をもたらすのかを探ることを目的にしたイベントだ。
オープニングスピーチに登壇したPerfect Corp. 創業者兼CEOのアリス・チャン氏は、テクノロジーは人々の願いを叶えるための存在であり、パーフェクトは創業以来、ビューティ&ファッションラバーのために、彼らをペインポイントから解放し、その夢を実現するためのAIイノベーションを推進してきたとして、「消費者の生活をより美しく」という意味を込めた「Beautiful AI」というパーフェクトのスローガンの根本にある想いを明かす。そして、AIの新時代が始まろうとする現在、ブランド、リテーラー、消費者、それぞれの個別ニーズに本当にフィットするAIを、業界と歩みを揃え、ともに創出していくと宣言する。
続くキーノートでは、日本法人パーフェクト株式会社の代表取締役社⻑ 磯崎順信氏が、2024年5月にリリースされたBeautiful AIの最新のソリューションで、生成AIを活用した美容企業向けのAIアシスタントフレームワーク「PerfectGPT™」を紹介した。
美容・ファッションに特化し、ブランド特有のナレッジや個性をトレーニングさせたパーフェクト独自AIに、メイクアップのバーチャルトライオン、シェードファインダー、参考にしたいメイク画像をユーザーの顔上に再現するメイクアップトランスファーなどの機能を持つBeautyGPT™や、AI肌解析とそれにもとづく個々に合わせたアドバイスやケアの提案などをおこなうSkincareGPT™といった、パーフェクトが提供するAIサービスにシームレスにアクセスするPerfectGPT™を掛け合わせることで、ユーザーとダイレクトにコミュニケーションするバーチャルアシスタントが誕生する。つまり、自然なチャット会話とARメイクアップをしながらのチュートリアル、あるいは各自におすすめのスキンケアトリートメントや商品のレコメンドまでできるAI美容部員が、ユーザーの悩みの解決や適切な商品選びをサポートするのだ。
パーフェクトがその先に見据えているのは、深い商品知識とさまざまな分析技術をもち、ツールを使いこなしてパーソナライズした提案ができ、かつ、ブランド哲学を理解しブランドの顔となれるペルソナを備えた「理想的なデジタル美容部員の育成」だ。すなわち「トップ美容部員のデジタルツイン」を創出できると磯崎氏は説明する。たとえば、カジュアルで親しみやすい、落ち着いていて信頼感があるといった、言葉づかいなどを各ブランドにあわせたチューニングが可能なので、美容部員のトレーニングでの活用にも有用だとする。
セッションから学ぶ「拡張する創造性」「深く正確な顧客理解」「パーソナライズした顧客体験の深化」
今回のフォーラムでは、AIの活用に積極的に取り組むビューティブランドや、最先端のサービスを提供するAI企業からのスピーカーを招き、AIが美容業界に与えうる恩恵や、今後AI活用含め現在進行形で進められているイノベーティブな取り組みの紹介など、ビューティにおけるAI活用の現状と近い未来の想像図を語り合う5つのセッションが開かれた。さまざまな立場の登壇者の話から浮かび上がってきた、AIとビューティの関係性にまつわる3つの大きなテーマ「拡張する創造性」「深く正確な顧客理解」「パーソナライズした顧客体験の深化」について解説する。
1. AIが拡げるブランドの創造性と権利の担保
テキストから高品質の画像を生成するAIモデル「Stable Diffusion」シリーズなどを、クリエイターや研究者が自由にダウンロードして自身のAI制作の基盤にできるオープンな形で提供するStability AI。同社APACセールス&パートナーシップ部門のトップである滝澤琢人氏は、生成AIとそれ以前のAIの違いを「これまでのAIは、車の自動運転に使用されるAIのように、進行方向や信号、障害物など主に環境を理解してそれに対処するAIだった。これに対し、生成AIは状況を理解したうえで表現する。つまり画像や動画、あるいは文章などAIが創作物をアウトプットすることで、双方向のコミュニケーションができるようになった」と説明する。
それが可能なのは、生成AIがコンセプトも同時に学習しているからだ。たとえば、“猫が空を飛んでいる”というプロンプトを画像として表現するためには、“猫”と“空”と“飛ぶ”という概念を理解しなければならない。完全なものを目指すことは難しいものの、画像生成AIにおいて、クリエイターが意図する表現を適切に制御する技術や、不適切な画像が誤って生成されないようにする技術が進展していると滝澤氏は話す。
AIが細やかなニュアンスを理解するレベルに達するには相当量のボリュームの教師データが必要だ。Stability AIはインターネット上で公開されているデータをもとに網羅的にAIをトレーニングしているが、ブランドがそこに自社が持つ独自データを追加学習させることで、画一性を避け、生成AIの表現にブランドの思い描くイメージを反映させ、独自性を出すことが可能だという。その意味で、今後、テキスト、音声、数値など複数の情報源から情報を収集するマルチモーダル化がさらに進むと、ブランドの世界観を表現する広告クリエイティブの制作などにも活用される場面が増えると予想される。
そのような高度に創造的な画像なり動画なりを作成できる段階になったとき、次にくるのは、ブランドの権利をどう担保するかという問題だ。ブランド側が理想とするクリーンな教師データにもとづくAIが生成したオリジナルの作品を自社の資産として所有するにはどうすればいいのか。
滝澤氏は「弊社のオープンなAIモデルを使っている方に対しては、モデルをベースにして、独自に持つクローズドなデータを載せることで、出力をコントロールしていくやり方を提案している。著作権を担保するためには、この人間の手が入り調整するプロセスが必要だからだ。ただAIが提示したものをそのまま使うのではなく、取捨選択をして何らかの評価をしてAIのアウトプットを管理していることを明確にできるよう社内プロセスを整備している企業が現れていると聞く」と答える。加えて、法的な整備はこれからの課題だが、進んでいくことになるだろうと示唆する。
2.より深く正確な顧客理解のためにデジタルデータをどう活かすか
質の高い顧客エンゲージメントのあるUX(ユーザー体験)を実現し成果につなげていくために、デジタルマーケティングツールをどのように使いこなせばよいのか。この問いに答えるのは、株式会社Sprocket マーケティング本部長 曾我博規氏と、花王グループの株式会社エキップ D2C推進部⻑兼コーポレート戦略本部システム部⻑ ⿃橋葉⼦氏だ。
Sprocketは顧客体験をよりよくするために必要なWeb接客とサイト改善、ユーザーの行動データ分析機能を備えたプラットフォームを提供し、コンサルティングや活用メソッドによるサポートをあわせて行う。一方、エキップは「RMK」「SUQQU」「athletia」ブランドを擁する化粧品メーカーだ。
鳥橋氏は「強いUX」であるためには、まずはユーザー起点、つまり顧客が求めていることを叶えるという意識をベースにした設計であることが一番重要で、ブランド側が顧客にこうあって欲しいと思う押し付けはダメだとして、「デパコスのファーストチョイス」と位置づけるRMKの事例を紹介する。
「初めて百貨店で商品を買われるお客様は、店頭でカウンセリングを受けることにハードルを感じている。そこで販売員も気軽に話しかけやすいフレンドリーな接客を心がけており、実際、SNSのクチコミもお客様アンケートでも接客への評価が高いという分析結果が出ている。この接客という我々の強みと店舗を訪れる一歩が踏み出せないお客様のペインポイントを掛け合わせた施策として、たとえば、ECでのみリピート購入しているお客様に、“店舗では今お使いの商品の使い方を説明していますよ”とか“限定品がありますよ”という、そっと背中を押すようなアプローチをデジタルで行うことで、ECだけではなかなか感じられないブランドの世界観とか販売員との楽しい会話というリアルな体験に誘導している」(鳥橋氏)
では逆に「残念なUX」にならないためにやってはいけないことの例として、曾我氏は、顧客ロイヤリティを測るNPS(ネットプロモータースコア)の誤った使い方の例を示す。
「満足度を測るアンケートをとってNPSで高いスコアが出た人はどんなタイプなのかを分析し、そこから逆算してそのタイプが喜ぶような施策をしようとした。すると、AIの計算ではNPSと商品単価に強い相関関係が出たので、ハイグレードな商品を買うことが顧客の満足につながると考え、サイトを見るたびに高額な商品がおすすめされるというようなデザインにしてしまったら、まったくうまくいかなかった。本当の因果関係はブランドが好きで満足しているから高額商品にも手を伸ばしてくれていたということだと思うが、なぜNPSが高いのか、お客様のそこに至るまでの心理の変化、ジャーニーをちゃんと見ていなかったのが失敗の理由だ。データだけで相関があると思い込んでしまった。データ分析をうのみにしてはいけないということだ」(曾我氏)
AIによる顧客行動分析で得られた数値は、あくまで正しい顧客理解のための1つの指標として活かされるものであり、データがすべてではない。総合的な観点から顧客にとって価値のある体験は何かを考えていくことが必要だと曾我氏は説く。鳥橋氏もまた、数値として見えているデータだけでは不十分で、現場での実感など見えていないデータがたくさんあることを忘れてはいけないとする。
一方、メディア、EC、店舗にまたがる@cosmeの膨大なデータをフル活用し、ビューティブランド向けのより包括的なマーケティング支援サービス=データドリブンソリューションを2025年をめどにローンチすると話すのは、株式会社アイスタイル データビジネス開発推進本部⻑ 押野卓也氏だ。さらにアイスタイルでは、このソリューションのための統合データ基盤の整備と同時に、生成AIを活用し、自然言語によるチャット機能を備え他社商品と比較ができるクチコミ分析ツールのプロトタイプの開発を進めてきたことを押野氏は明かす。
押野氏は、このデータビジネスの基本構造はさまざまなデータと人のアクションの組み合わせだと説明する。「誰が何をどこで買ったかというのはもとより、ページの閲覧やライブ配信への参加、購入はしなかったがクチコミをしたとか、いろいろなユーザー行動を掛け合わせることで、“誰がどこで何を、なぜそうしたのか”まで、定性定量的に可視化できるのではと考えた。しかも、プラットフォーマーである我々はブランドを横断してデータの分析ができる」(押野氏)
これはつまり、あるユーザーが複数のカテゴリーでどのブランドの何を使っているのか、スキンケアはプレステージの商品で固めているが、実はメイクではプチプラ商品を使っているなどが知れることを意味する。ブランド側にとっては、これまでできなかった、自社ブランドを定期購入している顧客がベースメイクに関しては競合ブランドの〇〇という商品を使っていることなどがわかるわけで、マーケティングや商品開発の大きなヒントになることが期待される。
また、広告を打ったあと、広告代理店からPVやコンバージョンなどの結果報告があるが、どこでタッチポイントがあって本当に購入したのかどうかを判断するのは現状では難しい。だが、クチコミ分析によって広告効果を確認することができると押野氏はいう。たとえば、ある商品を買ったきっかけが大谷翔平氏だったというクチコミの内容や量から、大谷翔平氏を起用したCMの効果を検証できるとする。「ブランドの垣根を超えて、一意のユーザーの方々の美容に関するアクションの実態を明らかにすることは、美容業界にとって価値のあることだと思ってこの事業を企画した」(押野氏)
3. 研究開発とテクノロジーの融合が生むパーソナライズな顧客体験
市場にさまざまな製品やサービスが溢れ、何が自分に合うのか、何を選べばいいのかわからないという消費者が増えているなか、今回のフォーラムのスキンケアテックがテーマのセッション3では、化粧品選びの新機軸を提案しパーソナライズの質を深めた顧客体験を提供する女性創業者のスタートアップ2社も登壇した。
その1つが、肌のフローラ(常在菌)検査を通じて各ユーザーに適した既存のスキンケアアイテムをレコメンドするサービスを立ち上げた株式会社UBLOME(ユーブローム)だ。2021年の起業当時は東京理科大学の現役大学生だった同社代表取締役社長の柴田未央氏は、アトピー性皮膚炎だった弟が肌の調子が悪いことで自信を喪失する姿を目の当たりにしたことがきっかけで、肌に関わる事業を始めたいと考えたという。
「マイクロバイオームを構成している菌を育てデータを蓄積するとともに、市販の化粧品データも集め、皮膚常在菌の検査キットを購入したユーザーの肌の状態を見て、どのような菌を増やすと良いのかを見極めて、一人ひとりに合う製品をマッチングする」(柴田氏)個人向けサービスのほか、化粧品メーカーからの受託で、新製品に対するマイクロバイオームの影響を分析したり、評価のための実証実験を行うなどが事業の柱となっている。
株式会社Kireii 代表取締役の堀井麻友美氏も、妹や身近な友人が化粧品や食品に含まれる特定の成分へのアレルギーを発症したことから、さまざまな化粧品ブランドの商品を成分から検索できるコンシューマー向けのWebサービスを開発したと話す。ある成分を含む、あるいは含まない商品を検索することができるほか、好き、もしくは苦手な成分や商品を登録し、さらには、成分や価格帯などの項目について、それぞれ重要度も設定することで、ユーザーはパーソナライズされた商品レコメンドを受けることができる。
「Kireiiの一番コアな部分は、アレルギーの原因となる成分を避けたいというニーズに対応することだが、好き(自分に合う)成分を起点にパーソナライズされた化粧品を探したいという方にも対応している。また、成分そのものにあまり詳しくない方でも、使ったことのある化粧品について好き(もしくは苦手)を登録することで、最適な化粧品を見つけられるよう工夫されている。これにより、誰でも簡単に自分に合う化粧品と出会えるプラットフォームを目指している」(堀井氏)
このセッションでは、花王株式会社スキンケア研究所の菊池祥氏も登壇し、同社が開発した「皮脂RNAモニタリング」技術について説明。生まれたときからその情報が固定されているDNAとは異なり、環境やライフスタイルによって変化するRNAの特質を活かし、各自のRNAをもとにパーソナライズした提案や、業界全体でRNAをスキンケアやヘルスケアの指標にしていく構想などが検討されていることを明かした。
一方、美容医療市場に着目したセッション4に登場したのは、美容クリニックや施術に関する体験者のリアルなクチコミに加えて、クリニックやドクターごとの強みや専門性といった、美容医療を受けたいユーザーが必要とする情報を伝えて、クリニック選びから予約までをおこなえるアプリ「トリビュー」を開発、2017年から提供してきた株式会社トリビューだ。代表取締役の⽑迪氏は、コロナ禍をきっかけにオンライン会議などのコミュニケーションが定着し、自分自身の顔を客観的に見る機会が増えたことに加え、医療機器のテクノロジーの進化や試しやすい価格帯の薬剤の流通などを背景に、美容医療を検討する人が急速に増加し、美容医療の市場規模は急成長していると話す。
「競争環境が激しくなっているが、価格が下がりサービスの質が上がるので、それはユーザーにとってむしろ良いことだ。クリニックもトータルで施術をする総合性をうたうより、アンチエイジングに特化するなどのブランディングをする動きが出ている。その意味で、ユーザーは自分の悩みや目的に合った施術や医師と出会いやすくなってきている。美容医療が身近な選択肢になるなか、これまで以上にリアルな情報にもとづくマッチングが求められていると感じる」(毛氏)
Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image: 著者撮影