受賞プロジェクトは、パーソナライズと高い社会性がキーワード「Japan Beauty and Fashion Tech Awards 2023」
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株式会社アイスタイルが主催し、2023年のビューティとファッションの領域で最も「人を幸せにするイノベーション」を体現した企業およびプロジェクトを表彰する「Japan Beauty and Fashion Tech Awards 2023」の大賞、準大賞、特別賞の各受賞企業が発表された。2023年12月14日に行われた授賞式にあわせて、同時開催された主催者、審査委員、受賞者によるトークセッションの模様をレポートする。
大賞「サティス製薬」、準大賞「資生堂インタラクティブビューティー」、その評価理由
2019年初開催の「Japan BeautyTech Awards」からつながり、4回目となる「Japan Beauty and Fashion Tech Awards 2023」(以下、アワード)が開催され、授賞式では大賞、準大賞と、特別賞の増設および受賞企業が発表された。同アワードは、美容・ファッション・ヘルスケアなどの関連領域または業界をまたがり、「人を幸せにするイノベーション」としての可能性をもつ「商品・サービス」「技術」「活動・取り組み」を表彰するものだ。
今回のアワードには44件の応募があり、各方面で活躍する5人の審査委員によって、「革新性」「事業性」「技術性」そして「社会性」を4つの柱とした審査評価基準に沿って選定が行われた。
受賞企業は以下の通りだ。
大賞
株式会社サティス製薬
「ふるさと元気プロジェクト」
●審査委員の評価ポイント
農業や漁業を営む日本各地の生産者を巡って地域の自然素材を発掘し、それを使用した化粧品原料を開発する「ふるさと元気プロジェクト」。13年にわたり蓄積されたそのデータベースには、サティス製薬が定めた7つの選定基準をクリアした100の独自原料が記載されている。美容産業が地域を支える可能性を示す社会的な意義とともに、実際に効果をもたらす高機能な製品の開発・製造にもつながり、OEM企業としての同社、ブランド、地域の生産者、そして、消費者のいずれもがハッピーな「四方良し」のプロジェクトといえる。
準大賞
資生堂インタラクティブビューティー株式会社
「Beauty DNA Program」
●審査委員の評価ポイント
「Beauty DNA Program」は、皮膚科学とAI技術を融合させた独自のアルゴリズムによる遺伝子検査と、専門知識を持った美容部員によるスキンケアから生活習慣までカバーする幅広いカウンセリングを組み合わせ、ユーザーの“なりたい自分”の実現をサポートする伴走型サービスだ。DNA検査という高度な解析技術を手の届く価格で提供していること、および顧客へのアドバイスを高度化するツールを美容部員に与えていることに大きな意義がある。
特別賞
株式会社陽と人(ひとびと)
「明日 わたしは柿の木にのぼる」
●審査委員の評価ポイント
福島県国見町で「あんぽ柿」を製造する際に廃棄されていた柿の皮を主原料に使用し、石油系界面活性剤や鉱物油、防腐剤は無添加のシンプルな処方としたデリケートゾーンケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」。渋柿の皮という目立たない地域資源を価値に転換していること、一個人の熱量で地域密着のサステナブルな事業を立ち上げた実績を評価し、日本全国の同様の取組みのロールモデルとして授賞したい。
特別賞
Rem3dy Health(レメディ・ヘルス)
「ナリッシュ3D」
●審査委員の評価ポイント
3Dプリンティング技術と特許技術のヴィーガンカプセル化製法を用い、各ユーザーにパーソナライズして選ばれる最大7つの有効成分を層状に固めたサプリメント・グミ「ナリッシュ3D」をサブスクリプション方式で提供。英国発のブランドで、サントリーホールディングスと提携し日本市場にも参入した。革新的な製造技術により、パーソナライズなのに比較的低コストでサプリという画期的なモデルを実現。継続が簡単で楽しいウエルネス体験を提案している。
受賞者と審査委員のセッションで語られた「事業はいかに人に寄り添えるのか」
アワード授賞式のあとは、第2部として主催者や審査委員と受賞企業による3つのスペシャルトークセッションが開催された。
それに先駆け、同アワードの「人を幸せにするイノベーション」に賛同し、授賞式の会場を提供した株式会社ヤプリのマーケティング本部マーケティング部 神田静麻氏から同社のサービスについての説明が行われた。アプリ開発・運用・分析をノーコードで提供するアプリプラットフォーム「ヤプリ」は、美容業界を含む幅広い産業分野において650社以上の導入実績を持つ。スピード感と使いやすさ、機能性を兼ね備え、顧客接点や社内外の情報共有ツールとしてなど重要な役割を果たすアプリで企業のDX推進をサポートしている。
カテゴリーの垣根を超えた生活者ニーズがイノベーションを促進
最初のセッションは、審査委員長のA.T.カーニー日本法人会長、CIC Japan会長 梅澤高明氏がモデレーターを務め、アワード主催者の株式会社アイスタイル 代表取締役会長CEO 吉松徹郎氏と、審査委員の1人であるWWDJAPAN編集長 村上要氏が登壇。「2023年のイノベーション総括と2024年に向けて」をテーマに語った。
吉松氏は冒頭、2023年9月にオープンした関西旗艦店「@cosme OSAKA」の活況に触れ「今年は生活者が“本物”と“リアル感”を求めた年だった」と振り返る。村上氏もまた、脱コロナを受けて現実世界の“リアルな感動”の価値が上がり、たくさんのイノベーションがあるなかでも、「(確かな存在感と温かみという意味で)“血の通っている感がある”製品やサービスが選ばれている」と話す。「こうしたイノベーションは開発側の(これを作りたいと思う)内発性やパッションによって生み出されるもので、結局、人々はそういうものに心が動くし興味が湧く」として、今回の受賞各社にも共通する点だと指摘する。
加えて村上氏は、「数年前まではテックは効率化のために導入され、テックドリブンでイノベーションが進んだが、テックの果たす役割が人の生活の当たり前になりつつある今、生活者ニーズがイノベーションの原動力になっている」とする。対して梅澤氏は、「ブランドが顧客の美や幸せを実現するためのソリューション空間が、広がってきているのでは」と問う。つまりビューティ、ファッション、食などと言ったカテゴリーの境界が融合し、ブランドがさまざまな商品やサービスを組み合わせて顧客に価値を提供する姿勢が強まるというのだ。
村上氏も「化粧品もファッションも健康も、全部ひとつのウェルビーイングとして捉える。そうした考え方に応えるテックが出てくると思う」と同意する。吉松氏は、「生活者が主人公になることで、個々の人々が願っていることを受けとめるツールやサービスが今後は増えるだろう」として、ビューティブランドやファッションブランドが、食やサロン運営、日用品など、異業種分野に進出する例が増加していることをあげ、カテゴリーにとどまらない生活者目線の事業設計はブランドの世界観をより広げていくことにつながると示唆した。
製品を軸にユーザーに寄り添うコミュニケーションでパーソナライズ
続いてのセッションでは、審査委員の国立大学法人 一橋大学大学院 ソーシャル・データサイエンス研究科 評議員・教授 七丈直弘氏をモデレーターに、資生堂インタラクティブビューティー株式会社 オムニエクスペリエンス推進部 グループマネージャー 吉川拓伸氏と、Rem3dy Health Japan 株式会社 アドバイザー 古川真希氏が、「美容×ウエルネス、パーソナライゼーションにおける体験設計」をテーマに、各社のパーソナライズを要としたユーザー体験のあり方を語った。
吉川氏は「DNAを知り、行動を変えれば、未来は変わる」をスローガンに、一人ひとりの生まれ持った肌の特徴を理解するDNA検査をあくまでスタート地点とし、各自の肌環境に根ざしつつ良い方向に導くために生活習慣を変えることで、「お客さまのなりたい肌」に近づくのがBeauty DNA Programの基本的なコンセプトだと説明する。
すなわち、「エビデンスとしての検査の正確さはもちろん重要な大前提だ。しかし、たとえばシミができやすいなど、ときにはマイナスの部分も明らかになるので、ただ単にこのような結果でしたというDNA検査だけで終わってはダメで、むしろ、その結果を受けてどう対処していくのかという、その後のプロセスを大切にした」とする。「検査結果に落ち込んだときは寄り添ったり、こういうケアをすればいいと改善方法をアドバイスするなど、変化の過程に伴走し励ましてくれる“ヒト”の介在が必要だと考え、美容のプロによるパーソナルセッションを体験に組み込んだ」と話す。
実はそこには吉川氏の研究者としての過去の反省もあったという。「自分はエンジニアで、DNA解析にもとづき将来の肌状態を予測する加齢シミュレーションなど、より正確で精度の高い技術ソリューションを作るところに目がいっていた。ところが、テスト開発した加齢シミュレーションを社内で試してもらったところ、“知りたくなかった”“二度と見たくない”などとても不評で…。ただ現実を突きつけられてもうれしくないという、人の気持ちを考えてテクノロジーに活かすべきだと痛感した」と吉川氏は明かす。
ユーザーに寄り添ったパーソナライズという点では、7つの栄養素をテーラーメイドするサプリメント・グミのナリッシュ3Dも同じだ。「3Dプリンターで生産する食品で、固さの度合いなど食感の好みや風味などはユーザーのフィードバックに応じて何度も変えてきた。多国籍展開に応じ、各国の市場のトレンドや『美味しさ』に関するフィードバックをグミレシピに反映してきたが、これはマス生産ではない3Dプリンターによる開発体制が活かされたもの」と古川氏はアジャイルなプロセスを強調する。
また、サプリメントという性質上、何らかの効果が感じられるまでにはある程度継続して利用する必要がある。「テーラーメイドなサプリメントを提供することで、“私のためにここまでやってくれている”とユーザーの気持ちを上げて、飽きずに楽しく続けてもらうことを考えている。日本で一般的なグミとはちょっと違い、食感はまるで羊羹とか和菓子のような感じで、その辺りも面白いと感じてもらえるのではないか。日本人は甘味と酸味のバランスを好むので、英国よりも甘さ控えめにして酸味は強めにしている」(古川氏)
授賞式には、英国からRem3dy Health Limited創業者兼CEOのメリッサ・スノーヴァー(Melissa Snover)氏もオンラインで参加、日本市場への進出が同社にとって大きなステップであると語った。「サプリを買ったものの飲まないままになることも少なくないと思う。ナリッシュ3Dなら、朝、コーヒーと一緒に食すなど、暮らしに溶け込みやすく摂りやすい。忙しくとも生活の質を向上させたいユーザーをエンパワメントする存在として広めていきたい」と古川氏は意気込みを示す。
製品に関わるすべての人をつなぎ、埋もれていた価値に光をあてる
最後のセッションでは、株式会社KESIKI 代表取締役CDO、株式会社ウッドユウライクカンパニー 代表取締役、多摩美術大学 TCL特任教授、旭川市最高デザイン責任者の石川俊祐氏をモデレーターに、株式会社サティス製薬 代表取締役 山崎智士氏と、株式会社陽と人 コミュニティマネージャー 真鍋麻美氏が登壇して、「地方発信の“ソーシャルコスメ”の流れ」をテーマに、ソーシャルインパクトとすべてのステークホルダーの満足度を追求するビジネスのあり方について語った。
「ふるさと元気プロジェクトの“ふるさと”とは、地方と日本の両方の意味を持つ。日本各地で生産されている優れた天然素材を発掘し、化粧品原料として採用し製品開発を行う。そして、製品を通して、生産者のこだわりや地域に対する関心を消費者の方々に持ってもらうことで、地域振興に役立てる狙いがある」と話すのは山崎氏だ。加えて山崎氏は、原料素材の選定にあたっては、その素材の生育(採取)にとって最も適した土地を選ぶことや、最も優れた生産技術者によって作られた素材を選ぶなど、同プロジェクトの理念として自社で定めた7か条にのっとり厳選しているとする。
「一人でも多くの方に正しい綺麗をお届けしたいという思いで私たちは事業を行っているが、世の中にはモノが溢れていながら、(美容・ウエルネス分野には)いまだ解決できていない課題がある。それを解決に導く原料・素材を私たちは探している。なぜなら、ハードルの高い課題に挑戦するためには、ハイスペックな素材が必要だからだ」と山崎氏は説明し、どこの地域のどの畑のどの生産者の手によるものかという部分まで精査し、“Top of the Tops”の素材のみを採用していると明かす。
一方で地方には、その土地の人も価値に気づいていない“眠れる資源”も少なくない。福島の特産品で干し柿の一種あんぽ柿を作る過程で、渋柿の主成分で高分子ポリフェノールである柿タンニンを豊富に含んでいながら、廃棄される柿の皮に着目した株式会社陽と人が、生産農家にアプローチしたところ、「こんなものが何の役に立つのか」と不思議がられたと真鍋氏は話す。「製品化したのち、悩みが解決したというユーザーの喜びの声を伝えて、生産者の方も価値を改めて知り喜んでくれた」と、製品を通して地方と日本全国のユーザーにつながりが生まれたことの意義を示す。
同社が自社ブランドとしてデリケートゾーンケア製品を開発したのは、月経、妊娠、出産、更年期、閉経などに関わるデリケートゾーンは、女性が自分の心と体に目をむける原点と考えているからだ。デリケートゾーンケアにより女性特有の悩みに寄り添い、女性をエンパワメントすることで社会に還元すると同社はうたう。その製造にあたっても、製品づくりに関係する人が誰も無理しない、誰も傷つかないことを重視し、「“たくさん売れたからもっと生産拡大を”ではない、効率性とは真逆」のポリシーをとっていると真鍋氏は話す。
「優れた化粧品原料となる素材を探して世界を巡ったが、足元の日本に良いものがたくさんあった」と山崎氏が話すように、上質な天然素材のポテンシャルが高い日本だが、事業継承が難しいという困難にも直面している。林業に詳しい石川氏は「単純に例えるなら、1本の材木は1本の大根よりも安い。事業性の面で厳しい」と現状を指摘する。山崎氏もある地域の山村で非常にハイレベルな素材と出会ったが、生産者が高齢で引退したあと引き継ぎ手がおらず、原料化ができなかった経験があるという。地方の素材を有効活用し価値を生産者に還元することで地域の活性化を推進することが、今、強く求められている理由のひとつといえる。
また、海外に日本の原料を輸出する道をたずねられた山崎氏は、「世界の課題にも解決策を届けたい気持ちはある」としながらも、日本とは異なる肌質や生活習慣などから、現地のニーズや課題を正しく捉える技術がまだ不足しているとして、ハードルをひとつずつクリアしていくことが今後必要との見解を示した。
Text: そごうあやこ(Ayako Sogo)
Top image & photo: 中山実華(Mika Nakayama)