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コスマックスなど韓国OEM大手3社、過去最高収益の背景にみる、4つのキーワード

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“韓国OEMビッグ3”と呼ばれるコスマックス韓国コルマーコスメカコリアの2023年の業績は軒並み好調で、それぞれ最高収益を記録した。韓国OEMの躍進の背景には、「インバウンド効果(韓国国内クライアントの受託増)」「海外法人や子会社の好調」「AI活用」「R&Dの強さ」の4つのキーワードがうかびあがる。各社それぞれの実績と事業・技術開発の最新状況をレポートする。


アジア地域での躍進で歴代最高収益を記録したコスマックス

2023年は韓国の大手OEM企業にとって華々しい1年となったが、なかでもめざましい躍進をみせたのがコスマックスだ。同社は2023年度に連結売上1兆7,775億ウォン(約1,955億円)、連結営業利益1,157億ウォン(約127億円)を記録した。これは前年比でそれぞれ11.1%、117.9%増の成長であり、同社としても歴代最大となる。

社内イベントで2024年の事業目標を発表する持ち株会社コスマックスBTIのイ・ビョンマン代表理事
出典:コスマックス公式サイト

コスマックスの関係者は、グループ全体における好調の理由として「日本市場向けに輸出するクライアントからの受託」「内需の好調」「海外法人の収益性改善」「リオープニング効果」などを挙げた。リオープニングとは経済再開を意味し、コロナ禍明けの経済回復効果と捉えられている。

各国・地域の法人別でみてみると、まずコスマックス韓国法人は、コロナ禍後の訪韓外国人によるインバウンドの増加、インディーズブランド(=新興ブランド)からの受注拡大、クライアント企業の輸出増加などの要因により、売上が前年比24%増となる1兆575億ウォン(約1,163億円)を記録した。営業利益は前年比103%増の868億ウォン(約95億円)だ。韓国法人単体で売上1兆ウォンの大台を突破し、営業利益に関しては2倍以上増加したことになる。

一方、中国法人は内需回復の鈍化と消費市場の萎縮が要因となり、売上は前年比2%減の5,475億ウォン(約602億円)、純利益は29%減の236億ウォン(約26億円)にとどまった。また、米国法人は、売上は前年比15%減の1,399億ウォン(約154億円)だったが、純損失が前年比39%縮小した500億ウォン(約55億円)となっている。

中国や米国では苦戦が続いているが、東南アジア地域では大きな躍進がみられた。インドネシア法人の売上は前年比27%増の585億ウォン(約64億円)、純利益は269%増の56億ウォン(約6億円)。タイ法人の売上は前年比32%増の255億ウォン(約28億円)、純損失は38.4%減の24億ウォン(約3億円)となった。持株会社であり健康機能食品をグローバル展開するコスマックスBTIの売上は前年比2%増の6,286億ウォン(約691億円)、営業利益は前年比497%増の202億ウォン(約22億円)を達成している。

2024年1月付けの報道によれば、コスマックスのクライアント数は合計1,300社あまりとされており、2023年には119社のインディーズブランドを新規顧客として獲得したと推定している。

韓国コルマーは新興ブランドからの受託増、傘下のパッケージ企業も好調

コスマックスと双璧をなす国内最大手韓国コルマーも、売上前年比16%増の2兆1,554億ウォン(約2,371億円)、営業利益前年比86%増の1,366億ウォン(約150億円)と大躍進を遂げた。同社の売上が2兆ウォン台を突破するのは創業以来初となる。

出典:韓国コルマー 公式サイト

韓国コルマーの好調要因としては、韓国国内受注拡大の影響が大きかったとされる。とくに中国政府の団体観光許可の影響は大きく、インバウンド需要を見越したインディーズブランドからの受託が急増したという。

連結子会社の好調も韓国コルマーの躍進を後押しした。なかでも国内化粧品パッケージメーカー最大手YONWOOの存在が大きいとされる。韓国コルマーは2022年に2,864億ウォン(約315億円)を投じてYONWOOの株式55%を取得。2023年10月には完全子会社化している。YONWOOはコスメ用のポンプやチューブ容器に強みを持ち、アモーレパシフィックやLG生活健康といった韓国大手のみならず、海外グローバルブランドもメインクライアントに抱えている。買収によるバリューチェーンの完成を通じた経営効率化などシナジー効果が期待されていたが、2023年の業績として早くも結果が示されたようだ。

また中国法人の無錫コルマーの黒字転換や、PB製品の生産受託などでトップクライアントであるセフォラの好調を背景とした米国法人の売上拡大も、韓国コルマーの過去最高実績を下支えする形となった

コスメカコリアは工場への投資とクライアント開拓、中国事業も高付加価値戦略で好調

一方、韓国大手OEM企業の一角であるコスメカコリアも、売上前年比17.9%増の4,707億ウォン(約518億円)、営業利益前年比374.2%増の492億ウォン(約54億円)を達成し、創業以来最高の実績とした。韓国メディアによれば、2023年には韓国、米国、中国法人ともに、インディーズブランドを含むクライアント拡大にともなう売上成長があった。また、中国では自社処方の高付加価値製品の生産で収益性が改善され、とくに中国法人コスメカチャイナがターンアラウンドを達成したことが寄与したという。

出典:コスメカコリア 公式サイト

コスメカコリアは生産能力を高めるため、2019年から韓国、中国、米国の3カ国6カ所の生産工場に対する投資を強化している。コロナ禍を経てその投資が功を奏し、国内外のインディーズブランドをはじめとするクライアントの開拓と増加につながっているようだ。同社は今後、グローバル市場の顧客に向けて、研究開発から、生産、パッケージング、米国輸出までをトータルサポートするソリューションを提案し営業を強化していくとしている

AI開発とR&Dの強さで今後も好調が続くとの見方

これら3社のケースを比較すると、業績好調の要因には共通点がみえてくる。最も大きな要因はインバウンド需要によるクライアント数、製品受託数の増加だ。

2023年に韓国を訪問した外国人観光客の数は約1,103万人で、2022年比で245%増となっている。ちなみに外国人観光客を国別にみると、日本からの訪韓客が約232万人で最多だ。

日本を含む韓国を訪れる海外観光客は、K-POPなどをはじめ、韓国カルチャーに興味・関心が高い層であると考えられる。韓国コスメに対しても関心が高く、国内で発生する需要を満たすため韓国の各ブランドが発注数や取引数を増やした結果、韓国OEM企業の業績好調につながったと分析できる。

コロナ禍以前の2019年には約1,750万人が訪韓していたことをかんがみると回復水準としてはまだ63%程度だ。外国人観光客数の回復やさらなる増加を想定するならば、インバウンド需要を追い風とした業績好調はこれからもしばらく続くことが予想される。

日本市場と韓国OEMの関係性をみてみると、ここ数年、不況や中国国内ブランド台頭によってレッドオーシャン化した中国市場という選択肢を脇に置き、韓国カルチャーが好意的に受け入れられている日本市場に進出する、あるいは輸出を強化する韓国ブランドが増加傾向にある。韓国OEMの立場からすれば、日本国内のクライアント数が大きく増加せずとも、地理的・制度的に親和性の高い日本市場に向かう韓国ブランドが増えることによって、メリットを享受できている。

そして今後、韓国OEM企業のさらなる成長を実現する原動力として注目されているのが、最先端テクノロジーやR&Dだ。コスマックスのマイクロバイオーム研究は以前も取り上げたが、ここで韓国OEMのR&Dに関する最新情報をいくつか紹介する。

韓国OEM大手が共通して取り組む技術のひとつが人工知能(AI)だ。

コスマックスは、2023年に「3WAAU」というプラットフォームを正式にローンチした。これは消費者のオンラインアンケート結果をAIで総合的に分析して、個人にパーソナライズした商品を直接製造・販売するプラットフォームである。肌の状態や適切な成分などを考慮してカスタマイズできる商品数は、ヘアケア製品1万種、スキンケア製品3,500種におよぶ。同プラットフォームは好評で、今後はメイクアップなどにも領域を拡大していくとしている。

出典:コスマックス「3WAAU」公式サイト

コスマックスでは2020年から独自の研究所を開設し、AI関連研究を進めており、化粧品製造だけでなく、化粧品の塗り心地など顧客の使用感を測定・改善する領域でもAIを積極的に活用しているという

正式なサービスとしての発表はまだないものの、韓国コルマーもパーソナライズコスメのトレンドを取り入れるためにAIを活用したソリューションやプラットフォームに投資を進めている。また、AIを活用したビューティトレンド予測技術も並行して開発中とする。

こういったテクノロジー開発と並行して韓国コルマーやコスマックスが力を入れているのが、グローバルでも注目されるマイクロバイオーム領域のR&Dだ。

韓国コルマーは2024年2月、紫外線露出による皮膚老化を抑制するマイクロバイオームを世界で初めて発見したと発表している。

研究内容の主旨は、マイクロバイオームの一種、ラクトバチルス由来成分「KOLBM20」が年齢とともに減少し、皮膚老化の原因になっていることを突き止めた点にある。KOLBM20はKolmar Biome 20の略語で、発見した韓国コルマーが命名した。KOLBM20は20代の肌に最も多く現れ、年を取るにつれて徐々に減少するとされる。

出典:韓国コルマープレスリリース

KOLBM20は肌の弾力を維持するコラーゲンを紫外線から保護する働きがある。皮膚が紫外線に露出するとコラーゲンを溶かす「皮膚弾力遺伝子(MMP-1)」が発現するが、KOLBM20はこの遺伝子の発現を減らし老化を抑制するという。

研究の詳細は「韓国人20代女性皮膚由来乳酸菌溶解液を用いたヒト皮膚線維芽細胞におけるUVB誘発MMP-1発現抑制作用について」(英題:Suppression of UVB-Induced MMP-1 Expression in Human Skin Fibroblasts Using Lysate of Lactobacillus iners Derived from Korean Women’s Skin in Their Twenties)という論文にまとめられ公開されている。韓国コルマーによれば、紫外線による光老化とマイクロバイオームとの相関関係を分析したのは韓国コルマーが世界初だという。

2024年2月には、コスマックスがバイオ素材開発研究組織「コスマックスBio Foundry」(以下、コスマックスBF)を立ち上げたという発表もあった。コスマックスBFは、コスマックスグループ企業3社と国内外の大学および研究機関の研究者100人あまりで構成された、バイオ技術研究に特化した専門組織だ。

コスマックスは2011年にマイクロバイオームの研究を開始し、2019年には世界で初めて皮膚マイクロバイオーム化粧品の商用化に成功したとされる。その後も革新的な研究成果や技術を相次いで発表してきているが、同領域に対する知見やノウハウが各グループ企業に分散していたこともあり、リソースの集中と圧倒的な成果実現のためコスマックスBFを設立することにしたと説明している。

インバウンド需要による新規顧客拡大に成功した韓国OEMが、これから盤石な経営状況を背景にさらなる研究開発を推進するだろう。世界を牽引するコスメカルチャーの醸成、各国の経済トレンド(市場動向)を見抜いた戦略、好調を背景にしたR&Dやテクノロジーへの投資という3つの力を源泉に、韓国大手OEM企業の成長は今後も続くと予想される。

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image: コスマックス公式サイト

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