「これならネイルできる!」新しい層を掘り起こす新興ネイルサービス8社
◆ English version: Nailing It: Eight Japanese companies offer innovative nail services for new customer bases
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10〜60代女性のサロン利用率が10%程度と言われているネイル市場。一方でユーザー自らが行うセルフネイルの割合は25%弱と、4人に1人は自宅でネイルを行っており、ネイルそのものへの関心が低いわけではない。こうしたセルフネイル派に潜在需要があると注目し、アプリや3Dプリンター、ARなどのテクノロジーを活かしたホームケアや、サロン向けサービスが生み出されるなど、ネイル市場に新風が吹き込まれている。8社の新興サービスを見ていく。
スタートアップが生み出す各種サービスは、これまでネイルサロンに通っていた顧客を奪うというよりも、実は併存するものだ。女性は就職、妊娠、出産などライフステージが変わるごとに、「ネイルサロンに通いたくても通えない」タイミングも出てくる。しかし彼女たちは、できることなら爪をきれいにしたいとは思っているのだ。各社のサービスは、このような“眠っていたネイル潜在層”を刺激し、多様化するライフスタイルに合う優れたユーザー体験を生み出そうと試みている。
<セルフネイル派や潜在層にアプローチするBtoCモデル>
Prinail(プリネイル):
画期的な時間短縮と高解像度の家庭用デジタルプリンター
PriNail本体(著者撮影)
2018年12月1日に小泉成器から発売された「PriNail(プリネイル)」は、家庭用デジタルネイルプリンターだ。本体価格は、5万5,000円前後(税抜・店頭販売想定価格)。使い方はシンプルで、市販のマニュキュア等でベースカラーを塗り、その上から専用のプリコートを乗せて、無料アプリに収録された300種類以上のデザインの中から好みの柄を選ぶ。あとはアプリと連携する専用機械に爪を入れるだけで、わずか10秒ほどでプリントが終了する。プリントが終わったら市販のトップコートを塗って完成となる。1200dpiという高解像度や、原材料に水性顔料を使用していることから、肌についてもすぐに拭き取れる手軽さも特徴だ。また予め収録されたデザイン以外にも自分で撮った写真や繊細なイラストなど、これまで人の手では描くのが難しかったデザインも再現できる。そのため、漫画やアニメのキャラクターなどのモチーフをネイルの柄にする、いわゆる「痛ネイル」需要の掘り起こしも期待されている。
実際、すでに「痛ネイル」好きなユーザーから反響を呼んでいる。同社広報の平野史憲氏によると、「当初はネイルと相性のいいインスタグラムでの投稿キャンペーンを行っていた」が、発売前の11月12日に開催した発表会後、ネットのニュース記事を作家・エッセイストの紫原明子氏がツイート。それを見たバンギャル(※編集部注:ヴィジュアル系やV系とよばれる音楽が好きな女性、バンドギャルのこと)やアニメ好きな人など、痛ネイル需要のあった人たちによって自然発生的に拡散していった(結果的に紫原氏の投稿は6,000以上のリツイートがされた)。その後、チャンネル登録者数40万人以上の人気ユーチューバー・こうじょうちょー氏も自ら商品を購入し動画で紹介するなど(下記動画)、予想外のバズマーケティングが訴求を後押しした。
平野氏によると、当初メインターゲットはネイル初心者や忙しくてネイルが出来なくなってしまったママ層だったが、初動の様子から「より幅広いネイル潜在層の掘り起こしに成功しているのではないか」と手応えを感じているようだ。想定は個人向けのマシンだったが、顧客サービスとしてマンガ喫茶に置かれていたり、自動車のディーラーや結婚式場で顧客サービスとして導入され始めているという。
同サービスの売りである「10秒」というスピードは、他社の同タイプの製品の1/6ほど。圧倒的な速さと汎用性を売りに、初年度は半年で1万台、以降は年間で3万台の販売数を見込む。
5万5,000円という価格は一般ユーザーにとっては初期投資が大きいことから、接触機会をどう作るかが今後の売れ行きを握るカギとなりそうだ。また、フットネイルへの要望も高く、サービス内容の拡充についても検討していくという。
YourNail:
アプリでデザインするネイルシール。ファン同士のコニュニティも
育児や職場環境により、“ネイルを一度諦めたママ層”を中心にウケているのが、オーダーメイドネイルサービス「YourNail」だ。同製品は、スマートフォンアプリに内蔵されたデザインパーツや画像を、アプリ上で組み合わせるだけで自分好みのネイルシールを作れるというもの。デザインから1週間程度で、ネイルシールが送られてくる。料金は1種類2回分で740円という低価格帯。2018年9月には1,180円で2種類4回分のネイルシールが毎月届く
定額サブスクリプションサービス「YourNail定期便」がスタートした。
YourNailを開発する「uni'que(ユニック)」の代表取締役CEO ・若宮和男氏によると、シチュエーションによって貼ったり剥がしたりが容易にできるという手軽さは、職場環境などによってこれまでネイルを敬遠していた層にも好意的に受け入れられているという。
広告は一度Instagramで行った限りでほとんど利用していないが、2017年8月末のサービス開始から1年超で約5万ダウンロード(iOS、Android合計)と順調に推移している。スマホ一つでオリジナルの絵柄にカスタマイズできる利便性は、自分の個性をカジュアルに表現したい現代女性の欲求にぴたりとマッチしたようだ。
しかし同サービスがもたらした最大の功績は、手軽に自分らしいネイルが手に入る“その先”にある。YourNailには、アプリ上でユーザーがデザインしたネイルシールを投稿&シェアできる機能がついており、ユーザー同士で交流できる。他のユーザーが投稿したデザインは購入できることから、多くのユーザーに支持される人気ユーザーも誕生し始めているという。
自身がデザインしたネイルが購入されると、50ポイントが付与される仕組みとなっており、そのポイントを使いまたネイルシールを購入できる。つまり「YourNail経済圏」により、サービスを使い続けたくなるモチベーションが生まれるというわけだ。誰でも直感的に操作できるUIにこだわっていることから、資格がなくてもデザインしやすく、人気ユーザーの多くはネイリスト経験のない一般的な主婦だという。
若宮氏は自社サービスが主婦層から支持される理由について、「YourNailでのコミュニケーションを通して、“自己価値確認欲求”が満たされることがユーザーを惹きつける理由ではないか」と分析する。実際、ユーザーに多いのは30代の主婦で、子育てによって諦めていたネイルを始めるきっかけになっていると同時に、他者との接点や自己表現の場として利用し、そこに楽しみを見出しているのだという。一見するとオーダーネイルシールの無料アプリだが、その本質は「コミュニティプラットフォーム」にある。
「現時点ではダウンロード数や売り上げではなく、デザインの投稿数を増やすことに注力している」と若宮氏はいう。同氏は創業前、NTTドコモやDeNAに在籍し、新規事業立ち上げを数多く経験してきた。それらの経験から、現在はスタートアップならではの戦い方で投資のタイミングを見極めている段階だ。“ネイルは他者とつながるツール”と捉えたユーザー参加型の仕組みは、潜在需要の開拓に大きく貢献しているといえそうだ。
ミチネイル:
30万フォロワーの熱狂から誕生。プロのネイリストがつくるネイルチップ
普通の主婦が人気ユーザーになれる「YourNail」に対し、ネイリストの資格がありながらもそれを生かしきれていなかった女性達が活躍しているのが、2013年8月にスタートした「ミチネイル」だ。
自宅サロンを開いている現役のネイリストはもちろん、子育て中の主婦や、普段はサロンスタッフとして働くプロのネイリストがネイルチップを作成し、自社のECサイトと、提携する「@cosmeストア」で販売。ネイルチップは一つひとつ手づくりで、品質が一定に保たれるよう一括管理されている。もともとFacebookページの反響の大きさ(フォロワー数は30万人以上)からサービス化に至っただけあって、デザインの可愛らしさと豊富さは群を抜く。
料金は、1セット2,000円前後のものが多いが、1,600円(送料・税込)で毎月1セット届く「ミチネイル定期便」というサブスクリプションサービスも好評だという。
自宅で付け替えできるネイルチップは、気軽に外出ができないセルフネイル派に人気が高いが、一方でサイズが合いづらいという課題もある。同社ではこれまでショートサイズとノーマルサイズの2種類を用意することで対応してきたが、2019年中には3Dプリンターを使ってより個々にフィットする、パーソナライズ型のネイルチップを生成するサービスを本格展開する予定だ。
シールよりも立体的なデザインを作りやすいチップに、“サイズのオーダーメイド”というメリットが加わることで、20〜30代のネイル潜在層にどこまでアプローチできるかが今後の焦点となりそうだ。
<ネイリストの働き方が変わるマッチングモデル>
Nailie(ネイリー):
主婦の仕事復帰を後押し。個人とネイリストをつなぐマッチングアプリ
ネイリストの活躍の場を変えたのは、前述のミチネイルだけではない。個人ネイリストとユーザーをつなぐマッチングアプリ「Nailie(ネイリー)」は、個人のネイリストが、自身でデザインしたネイル画像を投稿できるアプリを開発。ユーザーはアプリ上で公開されたデザインを閲覧し、気に入ったネイリストがいれば、ワンタッチで予約しその場でクレジットカード決済までできる。
ネイリスト側はサロンだけに捉われない様々な働き方が可能になるので、資格保有者でありながらもこれまで働けなかった主婦層の仕事復帰や、副業の後押しにつながる。また、ユーザーとしてもネイリスト個人とつながり直接予約ができるため、より自分のセンスにマッチしたネイル施術が可能となる。
今後はネイリーに登録しているネイリストが利用できるシェアサロン「Nailie Studio(ネイリースタジオ)」を展開予定だという。これにより、サロンを持っていないネイリストやフリーランスにも活躍の場が広がる。
2018年8月に全国リリースされてからすでにユーザー数は7万人と、堅調にその数を伸ばしているNailie。個人と個人がつながるSNS時代にフィットした同サービスは、シェアネイルサロンの始動によってますます注目のサービスとなりそうだ。
<サロン向けネイルプリンターで圧倒的な時間短縮>
NAILSTAND TSUME.CO(ネイルスタンドツメコ):
レンタルネイルプリンターが、サロンの客単価・生産性を向上
ネイルプリンターの登場によって、ネイルサロンに勤めるネイリストにも様々な変化の波が訪れている。なかでも、5本指同時アートが20秒という圧倒的な速さにより顧客への施術時間の短縮を叶えたのが、2015年12月に誕生したネイルプリンター「NAILSTAND TSUME.CO(ネイルスタンドツメコ)」だ。
初期費用15万円(税抜)+毎月のランニングコスト1万円(税抜)というレンタル制をとるネイルプリンターは、インクひとつでアートが可能なため、カラージェルの在庫を抱える必要がない。約3年の歳月をかけて開発されたという専用溶剤は数百名のモニター試験を経て、日本人が納得するクオリティーに仕上げた。現在はより品質の高いジェルを開発中だ。
研修を受ければ誰でも施術ができるため、ネイルサロンだけでなく美容院の空き時間などでも活用でき、客単価や生産性アップが見込める。「プチプラ・スピーディ・かわいい!」 がスローガンというだけあって、シンプルからカジュアル、トレンドまでデザインも豊富(約700デザイン)。毎月新作も追加されているという。
INAIL(アイネイル):
事業者向けのネイルプリンター。e-ラーニングの導入で教育体制の強化も
ネイルプリンターサービスとしては後発となる、2018年5月スタートの「INAIL(アイネイル)」は、事業者向けに特化したサービスだ。4,800dpiという高水準のプリント精度、競合他社の1/3程度の材料原価、教育体制の充実度で差別化を図っている。月額の基本料金は1万1,200円〜1万5,200円。自社開発の消耗品や新作ネイルアート配信は、別途費用がかかる。
製造業出身というファウンダーはヘアサロン・ネイルサロンの経営者でもあったことから、サロンが抱える課題に直面してきた。自身の経験からアナログな工程は、テクノロジーで代替することでスタッフの生産性や消費者の利便性を向上できると同サービスの開発に乗り出したという。既存のネイル市場にこのサービスをリプレイスするというよりは、よりカジュアルにサービスを享受できる環境づくりによってマーケットの裾野を拡げる考えだ。
今後は、eラーニングやVtuberなどでいつでもどこでも教育が受けられる体制構築を検討しており、オンラインを活用することで人件費をおさえながら提携先を増やしていくことが同社の成長につながるカギになるとする。また、より短時間でサービス提供できるデバイスおよびソフトウェア開発、消耗品開発も予定している。
<2019年注目のAI、AR、VR技術によるシミュレーション>
Nail Color 3D Live Simulator:
ARでシミュレーション。ECにつなげシームレスな購入体験を提供
出典:Glossy
2019年はネイルプリンターだけではない、新たなB向けサービスも注目を集めそうだ。その一つが、TEC POWER CORPORATIONによるAI、AR、VRの技術を駆使したネイルカラー・シミュレーション・アプリ「Nail Color 3D Live Simulator(仮)」(リリース時期未定)。手をかざすだけで静止画ではなくライブ画像でカラーシミュレーションができる。
AI、AR、VR機能を利用しているため、指を動かしてもシミュレーションされたネイルカラーは爪に追随して動作。限りなく現実に近い状態で、ユーザーは仕上がりイメージを確認できる。
シミュレーション結果から、気に入ったネイルカラーを選べばそのままECサイトに遷移する。また、シミュレーションされたカラー等に関しては、ビッグデータとしてクラウドに蓄積されるため、ブランドのシステム担当者は、リアルタイムに、アプリシミュレーションのデータを解析することができる。解析に関してもAIテクノロジーを採用予定だ。
まだまだ美容業界にARアプリは浸透していない印象だが、遊び心を試しやすいネイルとは相性も良さそうだ。
<自動販売機で新たな接点を生み出すBtoCモデル>
Incoco To Go:
自販機でネイルシート。地方在住者やビジネスパーソンのすきま時間を狙う
出典:PRTimes
今年リリースするサービスの中でも変わった販売形態で話題となりそうなのが、「Incoco To Go」だ。セルフネイラーのあいだではすでに知られた存在である貼るだけマニキュアの「Incoco」が、2019年2月28日(予定)より自動販売機で購入可能となる。
高機能POSを搭載した最先端自動販売機の大画面タッチパネルを操作すると、モバイルショッピングを楽しむ感覚でシートタイプのマニキュアを購入できる。「ネイルも“身だしなみ”としての文化を根付かせたい」という同社のビジョンを実現化していくために、対面接客を苦手とする女性や、都市部から離れて暮らす地方在住者、また多忙なビジネスパーソンのすきま時間など、潜在層への接触機会を増やす狙いだ。
販売員が不要という管理面でのメリットがある一方、オフラインでの販売となるため、オペレーションのわかりづらさなどの問題も懸念される。それについては、購入方法などの情報をモニター映像から発信しユーザーをリードするなど、様子を見ながらアップデートを重ねるという。まずは首都圏10箇所からスタートし、徐々に台数を増やす予定だ。新たな顧客を獲得できるか注目したい。
小さなスペースに広がる可能性。市場動向に合わせ業界も変化
国内のネイル市場は、セルフネイルも含め約2,000億円。成長マーケットとされながらも微増に留まってきた。だが、アプリやAI、ARなどの最新テクノロジーによって、徐々に潜在顧客を引きつけはじめている。その根底にあるのはネイルがメイクよりも、しきたりや常識に縛られない、より“自由度の高い自己表現のツール”だからだ。その自由度の高さや効率化をテクノロジーで実現することで、裾野は広がるのではと期待されている。
価値観が多様化しているいま、潜在層が魅力的だと思えるデザインやツール、新しいサービス形態が増えていることが現在のところ奏功しているようだ。業界側が、市場動向に合わせて変化してきた現れといえる。
PriNailの紹介でも触れたように、これまでサロンではオーダーしにくかった「痛ネイル」や、ペットの写真を活かしたオリジナルネイルを作るなど、新たなニーズにさらに応えられる可能性がある。また、爪という小さなスペースではあるが、映画やドラマのプロモーションとして活用するなど、企業の広告枠といった新ビジネスの可能性も拡がるのではないか。
ホームケアが拡大するにつれ、サロンに通うという“可処分時間”も改めて見直されるかもしれない。美容院関連では経営スタイルまで変革するサービスも登場しており、ネイルサロン関連も、2019年は話題のサービスがさらにリリースされることだろう。
Text:佐々木彩子 (Ayako Sasaki)