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ユニリーバ傘下入りのTATCHA、日本風米国ブランドが浮き彫りにする和の作法

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京都の舞妓の肌の手入れ法に想を得た米国スキンケアブランドTATCHA(タチャ)は、日本古来の自然素材を配合し、日本式の丁寧なケアを推奨して、カルトな人気を博する。レンジも豊富なその製品の実際の使用感のレビューとともに、ブランドコンセプトの裏側を探る。

舞妓のイラストをあしらったあぶらとり紙や、かんざしを思わせるボトルキャップのシルクプロテインクリームなど、「日本らしさ」を満載したコンセプトのTATCHAは、創業者の米国人女性ヴィクトリア・ツァイ(Victoria Tsai)氏が、旅行で京都を訪れた際に舞妓の美容習慣に感銘を受けてつくられたというスキンケアブランドだ。ブランドネームは「立花(たてはな。初期のいけばなのスタイル)」と「茶花(ちゃばな。茶席でいける花)」からとられているようだ。

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出典:TATCHA公式サイト

2009年のローンチ以来、北米市場で展開され、美容インフルエンサーからも好評価を受けており、中〜高価格帯商品としてセフォラなどの棚でも良い場所に並べられている。2018年に発表されたプライマーThe Silk Canvasは、発売と同時に各地で売り切れが続出し、一時期は幻の存在になったほどで、カルトなブームも起こしている。そして、この6月にはユニリーバに5億ドル(約540億円)で買収され傘下入りした。今後はよりグローバルな市場を視野に入れていくものと思われる。

「Japanese Beauty Products」と表記されてはいるが、米国人による米国ブランドだ。ただし、絹や米、緑茶など、日本と縁の深い食材や美容成分が取り入れられている。キー成分の「Hadasei-3 complex」は、米・緑茶・海藻といった「日本のスーパーフード」からなる抗酸化成分である。

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出典:TATCHA公式サイト

しかし、家紋のようなロゴマーク、ちょっと読みにくいブランドネームにはじまり、製品を置く「お盆」や桐箱のギフトボックス、化粧刷毛のような洗顔ブラシ、手鏡、限定品だったようだがオリジナル扇子など、周辺アイテムの演出は、日本人からするとある種の違和感が漂うのは確かだ。外国人がみた日本、いわゆるゲイシャ&フジヤマのような典型的な匂いがするのである。

また、クレンジングがワンステップであること、保湿化粧水がなく、角質ケアパウダーなど「ピーリング」に重点を置く点は、発想からいえば、むしろ欧米のスキンケアステップそのものといえる。その意味で、TATCHAは、ヘルシーな日本食やエキゾチックな「芸者」といった、欧米が持つ日本のイメージを巧みに取り入れて、差別化に成功したといえるだろう。

スターターセットをトライアル&商品レビュー

では、実際の使用感はどのようなものなのか、お試しサイズの小ボトルの4アイテムで構成される、ノーマルからオイリー肌向けのスターターセットを試してみた。

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※ トライアルに使用したセットは2019年8月に米国で購入したもの。9月現在オンラインストアで販売されている同タイプのスターターセットは、Luminous Dewy Skin Mistの代わりに、The Essenceが組み込まれている。

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◆Pure One Step Camellia Cleansing Oil
椿油をメインに、Hadasei-3 complexを配合したワンステップタイプのクレンジングオイル。美容液のようなディスペンサー容器は4品中最も高級感を感じる。さらっとして伸びはよいが、クレンジング力はいまひとつ。欧米女性の薄づきファンデーションのベースに合わせていると考えたい。

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◆The Rich Polish: Classic
アミノ酸ベースのパウダー洗顔料。パパイン酵素と米胚芽の微粒子スクラブがさくっと泡立ち、摩擦なく滑らかな肌に洗い上げる。TATCHAのシグネチャーアイテムに位置づけられており、洗浄力別に4種が存在する。湿気が入りにくく、パウダーがもれにくいように工夫されているパッケージはよく配慮されている。

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◆Luminous Dewy Skin Mist
植物オイルと保湿成分を20%配合したミスト。Hadasei-3に加え、沖縄の紅藻、ヒアルロン酸も含まれる。キメ細かいミストでベタつきがなく、日中の保湿ケアとしてはちょうどいいバランス。いわゆる「化粧水」というよりは、あくまでメイクの上からの保湿ミストととらえた方がよさそうだ。

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◆The Water Cream
みずみずしいジェルクリーム。こってりめのクリームを好む欧米からみると、日本人の重いクリーム嫌いから生まれたテクスチャーが新鮮に映るようだ。気持ちよい使い心地だが、しっとり感を求める向きにはやや心もとない。エイジングケア成分Hadasei-3、ノバラ、ヒオウギなどの植物エキスに加え、目に見えない粒子の23金が肌にツヤを与える。

総体的にはバランスが良いフォーミュラで、製品としての機能面は一定のクオリティに達していると感じた。

また、オンラインショップ・サイトには、各ユーザーにあったTATCHA製品を見つけるための「リチュアルファインダー」が用意されている。肌悩み、肌タイプ、現在使用しているアイテムなどを聞きこむ形式はごくベーシックなものだが、たとえば、Luminous Dewy Skin Mistをすでに持っているなら、あわせて、The Water CreamやAgeless Revitalizing Eye Creamを使うとよいなど、組み合わせ方をレコメンドするのが特徴だ。ミセラーウォーターで洗顔したあとは、クリームのみで保湿というシンプルなケアで済ませる欧米人は少なくない。何品も重ね使いをするような「日本式」スキンケアプロセスに慣れない人にとっては便利なものだろう。

海外からの高評価で日本の良さを再発見

TATCHAは日本的な天然素材とともに、ステップを踏んだケア方法で支持された。そこに相通じるのが、近年のインバウンド需要により、SK-Ⅱやアルビオンなど日本発のロングセラー化粧品が再評価されている現状だ。独自の丁寧なカウンセリングを求めて、外国人観光客がカウンターに行列を作る様子もみられる。

カネボウが70年代から欧州をはじめ海外で展開している「SENSAI」は、日本のスキンケアプロセスを茶の湯のような「リチュアル=作法」として長年提唱し続けてきた。販売は老舗百貨店が中心のスーパープレステージブランドで、日本の美に対する繊細な思想や感性が美意識の高いラグジュアリー層には受け入れられており、この9月に伊勢丹新宿店に逆上陸となった。

このような海外からの評価を得て、改めて日本の綿密なまでの「お手入れ」の素晴らしさ、その裏にある特殊性、複雑さ、そして、日本だけで通用するガラパゴス感が浮き彫りになったともいえる。フォーシーズンズ京都のスパでは、TATCHAの製品を使ったフェイシャルトリートメントを行っている。海外からの宿泊客がメインの同ホテルで採用されているのも、外から見た「日本らしさ」が求められたゆえだろう。

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出典:Four Seasons Hotel Kyoto 

欧米からみれば、日本はまだなんとなく「オリエンタル」な国で、芸者やサムライの文化を色濃く受け継いでいるイメージがあるようだ。日本を訪れる外国人観光客も、日本古来の文化を確認しに来ているようにみえる。

redflowerfreshANNAYAKEなど、これまでも海外発の和テイストなコスメブランドが日本上陸を試みてきたが、やはりというか、日本人のツボには入りにくかった。ユニリーバの後押しもあるTATCHAはどう打って出るのだろう。「リチュアル」の国の日本人ユーザーにとっては、ハリウッド映画で描かれる日本をファンタジーの異世界に感じるのと同じ感覚を楽しむブランドとして、手に取るものかもしれない。

Text: 弓気田みずほ(Mizuho Yugeta)
Top image: Masaaki Komori via Unsplash