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変わっていく視点、変えていく視点 第1回前編 <TAKT PROJECT> 提案が次の世界を作っていく 【川島蓉子連載・NNを考える会】

ニューノーマルの会でご一緒している ifs未来研究所 所長 川島蓉子さんによる、イノベーティブな仕事をされている各界の方々にお話をうかがい、これからのビジネスに必要とされる「視点」を探る連載がスタートします。第1回目は、先鋭的なクリエイティビティと、大企業のビジネスデザインの双方の視点をお持ちのTAKT PROJECT株式会社 代表 𠮷泉聡さんです。前編は「提案」における感覚の大事さについて、川島さんが引き出したのは私たちが明日からでも実行できることでした。

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新型コロナウィルスによって、世の中のさまざまなことが大きく変わることは間違いありません。ただその多くは、コロナによって変わるというより、以前から兆しとして見えていたものが、半強制的に変わらざるを得なくなった。変わる流れが加速したと言っても過言ではないのです。旧来型の枠組みや価値観が、時代の流れの中で変化を求められている――私、川島蓉子はそうとらえています。

「変わっていく視点、変えていく視点」と題したこの連載は、さまざまな分野において、既成概念にとらわれず、変化を興している人を取り上げていきます。ビジネスに向かう多くのヒントが、そこにちりばめられていると思うから――読んでくださった方々のお役に立てば幸いです。

TAKT PROJECT 𠮷泉聡さんの「提案」とは

初回は、プロダクトから空間まで、幅広いデザインを手がけるTAKT PROJECT(以下、タクト)を率いる吉泉聡さんです。同氏は、大学で機械工学を学んだ後、もともと興味を抱いていたデザインを学ぶために桑沢デザイン研究所へ。そこでnendoの佐藤オオキさんとの出会いがあって就職しました。nendo と言えば、日本で有数のデザインオフィスのひとつです。そこに籍を置いて経験を積み、独立する人が少なくないのですが、吉泉さんはその道を選びませんでした。楽器メーカーであるヤマハにデザイナーとして転職。大企業における工業デザイナーの役割を担ったのです。

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TAKT PROJECT株式会社
代表/ President 𠮷泉 聡氏

そうやって先鋭的なクリエイティブワークと、大企業におけるデザインワークの双方を体験した吉泉さんは、その後、仲間3人と一緒にタクトを立ち上げました。そう聞いて、クリエイターとしての目線と、組織員としての目線の双方を体験したキャリアは、企業とデザインの関係づくりに役立つに違いない。その賢明さを素晴らしいと感じました。

仕事の進め方を聞いてユニークと思ったのは、「いつの時代も、提案が次の世界を作っていくのだと思います。豊かな社会とは、そんな魅力ある提案にあふれた社会では」という考えにもとづいた提案プロジェクト。業務の3割くらいは、クライアント仕事ではなく、自分たちの新しい価値観や視点を探る提案プロジェクトに割いているといいます。

具体的にどんな提案をしているのでしょうか。たとえば、透明なアクリルの中に、精密機械の部品を散りばめた「COMPOSITION」と名づけられたプロダクトもそのひとつ。もともと「木という素材から家具ができあがるように、素材から家電を作ることはできないか」という疑問から作ったそうです。通常の照明器具は、細密な部品がブラックボックスの中に隠されていますが、これは“見せる”ことを視野に入れ、電子部品を極細の導線でつないで樹脂に入れているのです。そのままでも十分魅力的なのですが、点灯すると発光体に――中にちりばめられた電子部品が光の中に浮かび上がり、心が動く美しさです。家具が木の材質を活かしているように、家電も部品の材質を活かしたデザインの可能性は十分あると感じました。

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 「COMPOSITION 」
普段は家電の内部にあり見えない電子部品を、
透明なアクリルに封入した作品。
写真:林 雅之

また「大量生産品は均質でなければならないのか」という疑問からスタートしたプロジェクトにも惹かれました。作ったのは「Dye It Yourself」というテーブルです。吸水機能がある特殊なプラスチックを材料に、紅花や藍といった天然の染料で手描きすることで、ひとつひとつが異なる色柄――水彩画のような表情をたたえたテーブルが固有の魅力を放っています。そしてこれ、真っ白な天面に自分で絵を描いて染めることもできるそう。自分で描いたテーブルというのもおもしろいと、空想が広がっていきます。

「“自分らしさを与える余白”をデザインしてみたのです。人は、自分だけのものを欲したり、作るプロセスにかかわったものに愛着を感じるのではという発想をかたちにしました」と吉泉さん。

大量生産・大量消費を前提としたモノ作りでは、均質なクォリティが求められます。が、使い手の視点から見ると、均質でなくても良質さが維持されていれば、個性があった方が魅力的ということもあるのではないでしょうか。またコロナ禍によって、家の中のものを見直し、DIY的なものも含め、住まいを心地良くしたいというニーズは増えています。「Dye It Yourself」が提案している、パーソナライズされた価値や、手作りすることの価値を求める動きなど、時代の流れに沿うものと納得でした。

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 「Dye It Yourself 」
多孔質プラスチックと呼ばれる、吸水機能を
持つ特殊なプラスチックでテーブルを制作。
写真:林 雅之

そして、ここで感じたことは2つあります。ひとつは、実験的な提案プロジェクトというと、企画書をまとめて終わるケースが大半なのに、これらの提案は理論で終わらず、感覚まで踏み込んでいること。頭で理解するより、見て触れて使って、「きれい」「欲しい」「ワクワクする」といった感覚を表現する。これは大事と思ったのです。

 もうひとつは、疑問に対して、実際に“やっている”こと。常日頃から抱いている「?」に対し、考えて解を出して実行するところまでが含まれている。それが身につけば、課題を見出そうとする意識が強まるし、それに対して答えを出そうとする力も鍛えられる――有効だしおもしろいと感じたのです。

一方で、こういったやり方の利点は、デザイナーでなくても取り入れられるのではと思いました。吉泉さんとレベルが違うものの、「家電にこんなたくさんの機能が詰まっているのはなぜ?」「百貨店の婦人服売り場にはスイーツが売っていないはどうしてだろう。あれば嬉しいのに」という疑問から、家電メーカーやデパートと仕事したことがあります。デザイナーではないので、心を動かすような成果まで行き着けなかったのですが、「変だ」と感じたことに対し、やって反応をみるプロセスを踏んだことで、得られた成果は大きかった。そして、他人事として批判するに終わらず、“自分事=わたくし事”の視点を持つのは大事と思いました。“べき論”でなく“やってみる論”は、人をポジティブにすると感じたのです。

そうは言っても、企業にいると上司が簡単にOKしてくれないという事情もわかります。が、もっと小さなレベルでできることがあるのでは? 毎日の暮らしの中で、気になることってたくさんあります。たとえば、女性向けの商品はピンクが多いのはなぜなのか、リモコンの姿かたちってカッコよくないし触感がペコペコするけど、もっと良くならないかなど――自分の周辺にあるものを使い手の視点で見てみると、意外と課題は見つかるものです。自分で感じ、考え、「○○すべき」で終わらず、とりあえず言ってみる、やってみることが肝要と思うのです。

後編は、吉泉さんがクライアントとの仕事をどのように進めているのか、タクトらしさについて聞いていきます。

Text: 川島蓉子(Yoko Kawashima)
Top image:  作品名  glow⇄grow  
LEDの光で固まる特殊な樹脂を使ったインスタレーション作品。氷柱や鍾乳洞のように光で樹脂が成長する。世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク2019」における、初の海外大型個展。(写真:太田拓実)


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