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韓国LIVEXが美容室シェアサロン事業で成長中、業界課題解決へ教育事業なども展開

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韓国の美容スタートアップLIVEX(ライブエックス)は、シェアサロン事業をはじめとし、美容師のための教育プラットフォーム事業やマーケティング支援事業を展開し、業界内の構造的課題や美容師の待遇改善に取り組んでいる。2024年6月に約60億ウォン(約6億6,000万円)のシリーズAラウンド投資の誘致に成功した同社は、今後オン/オフライン双方で事業展開を加速させていく見通しだ。韓国美容室業界のアップデートを図るLIVEXについて紹介する。


韓国美容室業界の構造的な課題に挑むLIVEX

現代表であるソン・ジョンウン氏が、韓国の美容サロン業界が抱える課題を解決しようと2021年3月に設立したLIVEX。同年7月に、必要な設備や決済システムが完備した美容室を美容師が自身の顧客の予約に応じて使用するシェアサロンタイプの「WENEED(ウィニード)」を韓国第二の都市・釜山でオープンした。以降、店舗数を拡大するとともに、教育プラットフォーム事業やマーケティング支援事業などを次々と立ち上げ、レッドオーシャン化し競争が激しい美容室業界や、待遇・労働環境など美容師が抱える課題の解決に取り組んでいる。

出典:WENEED公式サイト


ソン氏がシェアサロン事業を立ち上げた当時、韓国国内の美容室業界には構造的な課題が山積していた。「私たちが必要とする」という意味のWENEEDというサービス名には、それらの課題を解決し「美容師と顧客が望むシステムを創造し提供する」との思いが込められている。

大手銀行KB金融グループのシンクタンクであるKB経営研究所が2020年に発表したレポート「美容室現況および市場条件分析」によれば、韓国には2020年9月時点で約11万店舗の美容室が存在した。これは人口1万人あたりに換算すると21.3店舗となり、韓国内コンビニ店舗数(2020年末時点で4万5,037店舗)の2倍以上の数となる。

このように店舗が乱立し過当競争が起きた韓国の美容室業界では、美容師の待遇や労働条件も大きな課題となっていた。韓国省庁・統計庁が2019年に公表したデータによれば、運営が確認された10万5,020店舗のうち、年間売上が5,000万ウォン(約550万円)に満たない店舗の数は7万3,196店舗と集計され、ほぼ7割を占める

韓国の美容室に所属する美容師の報酬は、業界の慣例で、その美容師が担当した顧客売上の約30%程度に設定されている。より多くの収益を求めて独立や起業する人材も少なくないが、激しい競争が起きている市場で美容室を運営することは容易ではない。また、フランチャイズに登録して起業する美容師の場合も、売上の多くを手数料など経費として徴収されてしまうため、独立以前に思い描いていたような収益を確保するハードルは非常に高いとされる。

収益が上がらないことは、新たに美容師になろうとする人材が少ないことを意味し、人手不足も深刻で、廃業に追い込まれる美容室も多い。2015年から2020年にかけて美容室の廃業率は平均5〜6%台を推移し、毎年約5,500店舗が廃業していた。ソン代表の妻が美容師として独立しフランチャイズ店舗を経営していたため、業界の実情や構造的課題について当事者さながらに問題意識を抱えていたという。

LIVEXのソン・ジョンウン代表
出典:NBN NEWS

韓国のオンラインビジネスメディア『BIZ.HANKOOK』のインタビューでソン氏は、妻は社長として美容室を運営しながら、売上の確保と技術のアップデートのために自身の顧客対応もする必要があり、ほとんど休みがなかったことや、多くの美容室で同様の事態が起こり廃業に追い込まれるなどの実態を明かし、こうした問題を解決したかったと説明。あわせて、問題解決のためには、美容師の収益確保と福祉改善が優先課題だと考え、そうすれば先行きの見通しもたたないまま独立する美容師を減らせると同時に、廃業も減らせると判断したとしている。

LIVEXが設立された2021年当時は、BTS人気がグローバル規模で広がるなどK-POPが改めて世界を席巻し始めた時期でもある。構造的な課題さえ解決すれば、韓流カルチャーやファッション面の追い風で国内美容師や業界の市場価値が高まるとソン氏は予測していた。一方で顧客は、美容室が人手不足で担当美容師がたびたび離席して自分の施術に集中してくれない既存のシステムに不満を抱いていた。ネガティブな現状や顧客の不満を改善することで、ポジティブな商機を掴むことはできないかという思いから生まれたのが「シェアサロン」という発想だった。

自社教育プラットフォームを活用しシェアサロンを活性化

2024年現在、LIVEXが自社運営するシェアサロンWENEEDは、釜山とソウルに20店舗ある。WENEEDは施術用の道具や予約・決済システムなど、美容師が営業するために必要な設備やソフトウェアを提供する。契約した美容師は顧客の予約時間に合わせて出勤・接客し、売上のうち30%をWENEED側に支払う。

既存のシェアサロンの場合、施術設備やシステムを提供し売上の10~30%を利用料として徴収するモデルが一般的で、WENEEDが特別な事業モデルというわけではないが、ソン氏はWENEEDの特徴についてYouTubeのインタビュー動画のなかで次のように解説している。

「広々と開放的でありつつ、接客に集中しやすいプライベートな空間を提供しているのがWENEEDの特徴だ。これまで顧客は担当美容師が複数人を受け持ち離席することがひんぱんなため、美容師から放置されていると感じることが多かった。その不満を解決するため、ほかのシェアサロンブランドと比べても、より美容師と1対1でパーソナライズされた施術を受けられる環境づくりを我々は意識している」(ソン氏)

出典:BstarTV

また、LIVEX傘下にある教育事業「BOB ACADEMY」との連携もWENEEDの特徴だ。

出典:BOB ACADEMY 公式サイト

BOB ACADEMYは、オン/オフラインで各種コンテンツを提供している美容師のための教育プラットフォームだ。コンテンツ内容は、基本的な施術テクニックを解説するものに加え、マーケティング、ブランディング、リーダーシップに関する講義や、顧客にアピールする写真の撮影法まで多岐にわたる。

LIVEXは、WENEEDと契約した美容師のノウハウをBOB ACADEMYで公開するとともに、BOB ACADEMYに参加して教育を受けた美容師のなかから有望な人材を見つけ出しWENEEDにスカウトする採用チャネルとしても機能しており、美容師人材の不足を補うとともに、質の高い人材の発掘にも貢献するとしている。

プレミアムサロン運営や顧客管理システムなどLIVEXが展開する多様な事業

LIVEXはWENEEDやBOB ACADEMYのほかにも、プレミアムサロンブランドの「SALON.A」、オンライン学習サービスの「HAIR CAMP」顧客管理ツールの「Glamify」などのサービスを展開している。

SALON.Aは、経歴15年以上のトップ美容師たちによる施術を提供するビューティサロンブランドだ。LIVEX の事業ポートフォリオのなかでは、WENEEDのコンセプトをより洗練させたプレミアムブランドの位置付けだ。

出典:SALON.A 公式サイト

同サービスの人気は上々で、たとえば、ソウル・教大駅前店は2024年4月に過去最高売上を達成している。月間売上は1億ウォン(約1,100万円)を突破。前年同月比では230%の増加だ。年間売上が5,000万ウォンに満たない大半の美容室の2倍以上をSALON.Aでは単月で売り上げていることになる。

HAIR CAMPは、日本の美容師向けオンライン学習サービスHAIR CAMPの韓国版だ。LIVEXの公式サイトには、「日本1位の教育プラットフォーム『HAIR CAMP JAPAN』との提携により、両国の交流を通じて良質な美容教育コンテンツを輸出・輸入している」と記載されている。

また、GlamifyはLIVEXが自社開発したAI顧客管理システムで、顧客データを収集・管理・分析するためのCRM管理者ページを提供する。

LIVEXが開発したAI顧客管理システム「Glamify」
出典:Google Play

同システムはNAVERやカカオトークなどの外部ポータルやSNSサービスと連動しており、顧客の施術周期に合わせて予約案内メッセージを送る機能や、施術内容別のケア方法を定期的に通知する機能などが備わっている。

LIVEXの売上は、2021年6億38万ウォン(約6,600万円)、2022年34億6,000万ウォン(約3億8,000万円)、2023年95億2,000万ウォン(約10億4,700万円)と、サロン事業にとって大きな打撃となったコロナ禍を乗り越え成長。営業利益も2021年のマイナス2億5,936万ウォン(マイナス約2,850万円)から、2022年1億9,083万ウォン(約2,100万円)、2023年7億1,373万ウォン(約7,850万円)と順調に推移している。

美容サロン業界において堅調な成長を続けるLIVEXに対し、投資家たちの注目も集まりはじめている。2024年6月には約60億ウォン(約6億6,000万円)の資金調達(シリーズAラウンド)に成功。創業1年半で営業利益の黒字化を達成したこと、多角的なビジネスを展開していることなど、潜在力と高い成長性を市場から評価された結果だと分析されている

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image: WENEED公式サイト