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韓国美容業界で異色を放つスタートアップ、モーションバンクとメディテラピー

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新興ブランドの躍進やホームビューティ機器メーカーの大型上場など市場全体の好況が続く韓国では、有力なビューティスタートアップに対して投資や注目が集まっている。なかでも活発な事業展開を進める2つの企業、アモーレパシフィックやロレアルとの協業を通じて美容業界進出に拍車をかけるモーションバンクと、足裏に貼るヒーリングパッチなど国内ヒット商品をベースに海外市場開拓に注力するスキンケアブランドのメディテラピーの事例を紹介する。


半導体部品メーカーから美容分野に進出したモーションバンク

韓国では製薬会社やヘルスケアデバイスを開発するハードウェア企業が美容関連市場に進出するケースが増えているが、現代表のチョン・ヨンギョ氏らが2013年5月に設立したモーションバンク(MotionBank)も、異業種から美容業界に参入を進める企業のひとつだ。

出典:モーションバンク公式サイト

同社はもともと半導体やLCD(液晶ディスプレイ)の検査装置に使われるモータードライバー、コントローラーなどの各種部品を製造するメーカーで、サムスン系列の一次請け企業などを主なクライアントとして製品を納めていた。ただ周期的に繰り返される半導体産業の好況/不況の波によって経営状態が安定せず、その突破口として見出したのが、ビューティ関連機器への技術応用および製品展開だった。

モーションバンクが過去に関与した美容関連製品として有名なのは、韓国化粧品メーカー大手アモーレパシフィックと共同開発した「フォーミュラリティ・トナー・パッド・メーカー(Formularity - Instant Active Toner Blending Device)」や「コスメチップ(COSMECHIP)」などがある。

フォーミュラリティ・トナー・パッド・メーカーは、ユーザーの肌の悩みに合わせたアンプルを格納したホームケアデバイスで、ユーザーにパーソナライズした化粧水をオンデマンドで製造するオーダーメイド型スキンケアソリューションだ。これらは、半導体、LCDの大型検査装置用のモータードライバー、コントローラーなどを小型化し、オーダーメイド型ビューティ機器として応用したという

「フォーミュラリティ・トナー・パッド・メーカー」
出典:アモーレパシフィック公式サイト

パーソナライズを実現するIoT機器としての利点とともに、生成された化粧水はコットンに吸収させたうえでユーザーの肌に適した温度で提供されるため、顔の各部位に合わせたスキンケアができる点や、使用するごとに必要な量だけ化粧水を作成でき、新鮮かつ衛生的という点が同ソリューションの特徴となっている。

一方、コスメチップは有効成分が含まれたアクティブチップ(カートリッジ)と水をセットするだけで、ユーザー個々にカスタマイズしたスキンケア製品を自動で作成するデバイスだ。アモーレパシフィックが開発したマイクロ流体デバイス技術が採用されており、少量の水と有効成分を均一にブレンドすることができる。またアクティブチップは無水処方されており長期間にわたる保管が可能となっている。

CES2023におけるコスメチップの解説動画

これらフォーミュラリティ・トナー・パッド・メーカーとコスメチップは、2021年、2023年にそれぞれ米ラスベガスで開催のCESでイノベーションアワードを受賞している。またモーションバンクは、2023年9月に韓国国内で公募が開始されたロレアルのスタートアップ育成プログラム「Big Bang」では「スマート紫外線遮断量測定技術」を公開し優勝している

ロレアルBig Bangプログラムで表彰されるチョン氏(左から3番目)
出典:ロレアルプレスリリース

この技術は、肌にあたる紫外線量を測定し、利用者にケア用品の適正量を知らせるソリューションだ。紫外線を効果的に防ぐためには、一度塗った日焼け止めクリームなどを発汗や時間の経過によって、適切に塗り直しをすることが必要だが、ユーザーが外出先でその適切量を知るのは難しい。

同ソリューションは携帯可能なスマート機器として小型化されており、約3秒で紫外線量およびケア用品の適正使用量を表示する仕組みが採用されている。ロレアルではモーションバンクの技術について「科学的根拠にもとづき日焼け止めの正しい使用習慣を提示し、健康な肌の維持に役立つ」と評価。モーションバンクは韓国初のBig Bangプログラムにおける優勝チームとなった。

技術を生かしたものづくりが得意なモーションバンクが今後フォーカスするのは、成長性が高いとされるホームビューティ機器市場だ。チョン氏はロレアルグループとの協業をきっかけに、OEM/ODM事業者として国内外でポジションを築いていきたいと展望を語っている

海外展開に注力するメディテラピーは足裏パッドで国内シェアを獲得

同じく、韓国国内で今後を有望視されているビューティスタートアップのひとつに、メディテラピー(Meditherapy)がある。

同社はサムスン電子出身のイ・スンジン氏と韓国大手企業の現代製鉄出身のイ・スンハン氏が、2017年に共同で設立した企業だ。大学の同期だったふたりは、美容関連商品を扱うスタートアップを起業することで意気投合。約200万円の資本金で同社を立ち上げた。

出典:メディテラピー公式サイト

ふたりが起業に際して注目したのは、2017年当時、働く女性の間で人気を集めていた「足裏パッチ」だった。当時、韓国国内で販売されている関連製品のほとんどはライオンの「休足時間」などの日本製だった。脚の疲労を解消する製品として広く支持されていることと、市場分析を通じて足裏パッチのニーズや成長性に確信を持った創業者二人は、関連商品を15年以上製造していた韓国OEM企業を訪問。当時の日本製品にはなかったクーリング(冷却)効果などを取り入れた処方設計を提案し、スタートアップとしてはハードルが高かった特許共同出願を実現するとともに、そのOEM企業と独占供給契約を締結する。

メディテラピーは生産・供給体制を確保したのち、ユーカリオイル、ヨモギエキスなど天然成分を配合した最初の製品「ダーマ・リラックス・ヒーリング・パッチ」(以下、ヒーリングパッチ)をローンチする。同製品は主にSNS上のマーケティングやクチコミで認知度が広がり、2018年110億ウォン(約12億円)、2019年160億ウォン(約17億円)以上の売上のヒット商品となった。

メディテラピーのヒーリングパッチシリーズ
出典:メディテラピー公式サイト

ヒーリングパッチが人気を博した主な理由は、日本製アイテムと比較してリーズナブルであったことと、2019年に政治的理由から韓国国内で起きた日本製品の不買運動も追い風となった。市場シェアを占有していた日本製商品が相対的に売れなくなり、その代替品としてメディテラピー製品の販売が急増し、2020年6月末時点で同社ヒーリングパッチの累積販売量は1,900万枚、累積売上高は320億ウォン(約35億円)を突破した。

その後、メディテラピーは約2万件におよぶヒーリングパッチに関する顧客レビューを分析し、製品ラインナップを強化していく。2024年8月末時点で、クーリング機能の代わりに温熱効果を加えた「ステイ・ウォーム・リラックス・パッチ」などヒーリングパッチ商品を筆頭に、セラム、アンプル、クリーム、アイクリーム、フェイスマスクなどスキンケアアイテムも展開。イ・ハンスン氏は、顧客の声に耳を傾けていち早く新製品をローンチするのがメディテラピー最大の競争力であるとメディア取材に対して自社の強みを語っている

メディテラピーはコロナ禍が収束した2023年に、台湾、香港、日本、米国など海外市場にも進出を開始した。同年には約670億ウォン(約73億円)の売上を実現したが、そのうち20%が海外市場で発生しているという。なお2024年の第1四半期には海外売上の割合が30%まで上昇しており、今後グローバル市場で成長する可能性が高いKビューティスタートアップとして韓国では認知されてきている。

メディテラピーは2024年4月に初となるファンドからの資金調達も実施している。調達額は約260億ウォン(約28億円)で、投資に際しては、健全なキャッシュフローや海外進出への展望、化粧品の浸透力を高めるホームビューティデバイスの開発・販売開始といった目論見が評価され、設立からわずか7年で時価総額1,000億円以上のユニコーン予備軍の仲間入りをはたした。

メディテラピー関係者は、調達で得た資金をベースに海外進出のスピードと各領域へのコミットを深め、グローバルブランドとしてポジショニングしていくことが今後の目標と語っている

Text: 河 鐘基(Jonggi HA)
Top: メディテラピー公式サイト